集いし変態だらけのパーティー
「ドラゴンの様子はどうだ? まさか死んでたりしないよな?」
「生き絶えてはいないようですね。ドラゴンの生命力は魔物の中でも群を抜いていますから」
これだけの重傷を負わせたというのに、それでも生命を維持しているのか。打たれ強いなんてレベルじゃない。
相手を戦闘不能に追い込むことだけを考え過ぎていたせいで、無殺の誓いが脳裏から剥がれ落ちてしまっていた。それだけ命の危機を感じていたということだ。
何せ俺からしたら、空想上の化物が具現化した存在だったのだから。
「それにしても、さりげなく凄いことやってのけてしまいましたね私達。冒険者でもない一市民がドラゴンを討伐するだなんて前代未聞ですよ」
「世に知れ渡ったらビッグニュースになるのは間違い無いな。記者に取っちゃ喉から手が出るほど欲しいスクープだろうよ」
こちらとしては冗談じゃ済まない話なのだが。
新聞に『ドラゴンを討伐した者!』だなんてタイトルで載せられたりでもされたらどうなるか。
きっと世界各地からわらわらと人が集まって来て、質問攻めにされるのが目に見えてる。
殺し屋としての本性を暴かれる面倒事など言語道断。一刻も早くこの場を立ち去るのが吉だ。
「街全体を脅かす騒ぎにまでなってんだし、ギルド総本部の連中が駆け付けて来るのも時間の問題だな。俺達の身元がバレる前にさっさとズラかるぞ」
「え? なんでですか? ドラゴンを討伐したことを報告すれば、目玉が飛び出るような報酬が貰えると思いますけど、欲しくないんですか?」
「そりゃ欲しいに決まってんだろ。それこそ喉から手が出るほど欲しい物だ。でも俺は世間で目立つ存在になりたくないんだよ」
「それは何かしらの事情があるってことでしょうか?」
「まぁそんなところだ。それでも資金が欲しいってんなら、お前一人でドラゴンを討伐したことにしとけ。俺の存在は絶対伏せとけよ」
「いえいえ、この偉業を成し遂げられたのはビャクトさんがいてこそだったんですから、そんな手柄を横取りするようなことはできませんよ。それに、私に目立つ場が設けられるとしたら、その時は存分に痴態を曝け出したいところですから……ムフフッ……」
「あぁそう……。終始ブレないのなお前……」
こっちは左腕の痛みのせいで熱まで出て来てるというのに、シフォンは唾を付けることであっさり怪我を治癒していた。
嫌味のつもりじゃないんだろうが、個人的には実に気に食わない。
そういやルティーナの方はどうなったのだろうか。あいつのことだから魔物の軍勢如きに苦戦することはないのだろうが。
「取り敢えずルティーナ達と合流だな。まだ向こうの軍勢が片付いていない可能性もあるからな。終わってない場合は俺達も加勢に回るぞ」
「承知致しました。ここからだと真逆の方角で少し遠いでしょうし、ゴーレムに乗って移動しましょう」
シフォンが再びゴーレムを生成召喚したところで頭の上に乗り、ルティーナ達の元へと向かう。
そうして数分ほどで街の反対側までやって来ると、“その光景”を見て俺達は絶句した。
見渡す限りの焼け野原。夥しい数だった魔物の亡骸は一匹足りとも見当たらず、只々赤黒い地表だけが広がっている。
目を凝らすと、焼け野原の中心に二人の人影が見えた。
ルティーナとミルクだ。てことは、やっぱりあいつの仕業ということか。
ゴーレムから飛び降りて二人の元に駆け寄ると、足腰を縦横無尽にガクガクと震わせるミルクがゆっくりと近付いて来た。
「ビャ、ビャビャ、ビャクト様……」
「どんな動きしてんだお前。何があった……なんて質問は野暮か」
「お、おしっこが漏れそうでして……。どうか私をトイレまで運んで欲しいんです!」
「ビビってたわけじゃねぇんかぃ! 知るかそんなこと!」
「ひぃぃ……。ここまで我慢してきた私の努力は一体ぃ……」
尿意に悶える穀潰しは捨て置き、この辺一帯を焼け野原にした張本人の元に歩み寄る。
「どうにかしろとは言ったが、マジで徹底的にやりやがったなお前」
「話が通じるような相手じゃなかったもの。それに、生かしておくのはあまりにも危険だと思ったの。だから処分したまでよ」
無殺主義の俺には到底無理な判断である。
「骨の一本すら残さないって、一体どんな魔法使ったんだよ。つーかお前、前に俺と戦った時の本気って嘘だろ。実は実力の半分も出してなかったな?」
「フフッ、そんな昔の話は忘れたわ」
「へ〜、それはそれは都合の良い脳味噌をお持ちなんですね〜」
「ダーリンが褒めてくれるなんて珍しいわね。とても嬉しいわ」
「皮肉だって分かって言ってんだろそれ!」
この余裕の態度には腹が立つが、二人が無事であることを確認できたことで緊張感が抜け落ちた。
後はこの場から離れるのみ……なのだが、こんな大規模の跡を残して去ってもいいものなのだろうか。
ならどうにかしろと言われても、俺にはどうすることもできないのだが。
「俺達の姿を見られていないといいんだがなぁ……。もし見つかってたら後が面倒だぞ」
「私達の方は人に見られないように移動していたから問題ないわ。魔物を駆逐した際も影からこっそり不意打ちしていたし、正体はバレていないはずよ」
影からこっそり地帯を焼け野原にするなど、魔物側からしたら堪ったものじゃないだろう。
ルティーナが人間側に付いている魔族で良かったと、この惨状を見て心から思う。
「私達の方も問題ないかと思います。とても人が近付けるような場所ではありませんでしたし、遠目から見てもビャクトさんであると特定はできないかと」
「俺やお前はともかくとして、ゴーレムから特定される可能性があるけどな。熱りが冷めるまでゴーレム召喚は控えとけよ」
「そうですね。それじゃ問題も解決したことですし、そろそろ行きましょうか。馬車がないから帰りは徒歩になりますが……」
今回のドラゴンとはまた別のドラゴンのせいで、レンタル馬車は跡形も無く破壊されてしまっている。
俺は徒歩でも問題ないが、一人だけ例外がいるから問題だ。
「あぁぁぁ……。もう無理限界です! 誰か紙を持っていたら是非貸して欲しいんですが!」
「あっ、私持ってますよ。ティッシュは旅の必需品ですからね」
「ありがとうございますメイドさん! それではちょっと失礼して……」
一人茂みの中へと消え入るミルク。
元女神が野ションするってどうなんだ……。
女神どころか女の威厳すら失われていく元女神に呆れていると、ルティーナがほくそ笑みながら後ろから寄って来た。
「一部始終を見させてもらったわ。どうやらダーリンでも単独で挑むのは無理だったみたいね」
「……シフォンから聞いたが、お前がシフォンを送り付けたんだってな。一人で戦わせに行かせると思いきやこっそり援軍を用意していたりと、何考えてんだお前」
「何度も言っているじゃない。私はただ、貴方の強者たる姿を見ていたいだけよ」
「それは分かってるっつーの。俺が聞きたいのはその理由だ。何の意味があって強者を追い求めてんだ」
「フフッ、それは乙女の秘密よ」
反吐が出る返事に本当に反吐を吐き捨てた。
ただ、ルティーナが援軍を送ってくれていなければ、俺は確実に死んでいたのもまた事実だ。
不本意ではあるが、正直にお礼を言わなければいけないだろう。
「…………一応礼は言っとく。ありがとな」
「っ!」
現代にいた頃でさえ滅多に言わない言葉を呟くように言うと、ルティーナはキョトンとした様子を一瞬見せ、すぐにまたいつものニヤつき顔に戻った。
「これは驚きね。ダーリンもちゃんと人にお礼が言える人だったなんて」
「子供扱いか! 馬鹿にしてんだろお前!」
「さて、どうかしらね」
やっぱ礼なんて言わなきゃよかった。我ながら性に合わない感情表現だ。
「生まれてこの方、まともにお礼を言われたことが無かったから新鮮ね」
「悪いことばっかやって来た証拠だろ。少しは自分の行いを見直したらどうだ」
「過去を振り返ったところで何かが変わるわけでもないのに、そんな無意味なことに時間を割くなんて勿体無いわ。私は前だけ見て生きるようにしているの」
「ならこれからの生き方を変えてみるという考え方は?」
「そもそも悪いことをしている自覚がないもの。むしろ私の行いは全て善行よ」
「……本気で言ってるならドン引くんだが」
「フフッ、冗談よ。そうね、今のままだったらきっと私は地獄に落ちるのでしょうね。魔族らしいと言えば魔族らしい最後なのかもしれないけど」
「一気に発想がネガティヴになったな。前向きに生きるのか、後ろめたさを背負って生きるのか、そこんとこはっきりさせろよな」
「お待たせしました〜」
ようやく野ション女神が戻って来ると、ルティーナは身を翻して帰り道を歩き出した。
「与太話はここまでにしておきましょう。続きはまた今度にゆっくりと……ね」
「お前と与太話することこそ時間の無駄だっつの……」
捉え所のない彼女の背中を見つめながら、俺は今後のことについて物思いに耽りながら後を追った。
〜※〜
「ビャクトさん、新聞届いていましたよ」
「あざっすリィアさん」
玄関から戻って来たリィアさんから新聞を受け取り、ページを捲ってあらゆる記事に目を通す。
あのドラゴン騒動の日より二週間。案の定、世間は例の事件に注目を集めていた。
人間に成りすました魔王軍幹部の暴動。平和の象徴と呼ばれていた街で引き起こされたあの事件は、ギルド総本部の手によって犯行者の身柄を拘束することで収束した。
奴が今どんな処罰を受けているのかは分からないが、魔王軍幹部である以上は黙って見過ごされる可能性が極めて薄い。
恐らく死刑なのだろうが、真相は未だ世間に明かされてはいない。
とまぁ、あの魔族のことはどうでもいいとして、一番肝心な話というのが主に二つ。
ドラゴンが討伐されていた話と、魔物の大群が一瞬にして焦土と化した話だ。
魔物の大群の方に関しては一切調査が進んでおらず、奇跡的な天変地異が起こったのではないかという説が現状で一番推されている。
本来ならば、何者かによる大規模な魔法が疑われるのでは、と俺は思っていたのだが、地帯そのものを変えてしまうような魔法を扱える者は“人間”には存在しないと言われているらしい。
なら魔族が手を下した可能性はどうなのかと聞かれれば、その説も持ち上げられることはなかった。
何故なら、この世界における人間と魔族の関係は、あまり良好とは言い難い関係性で繋がっているらしい。
大雑把なことしか調べていないから詳しいことは分からないが、何でも大昔のこの世界の魔族は、魔物と同じく人間に災いを齎す存在であったらしい。
むしろ人間と同等の意志を持っている生き物であったがために、魔物よりも悪質な存在として認識されていたんだとか。
ただそれはあくまで大昔の話であって、現在は魔族も人間と同じように平穏な暮らしをしている。
しかし人間側には『魔族は危険な存在』という偏見が染み付いてしまっているため、未だ良好な関係を築くのは難しい話であるとのこと。
同族が共存している例外の街もあるらしいが、世間じゃそれが一般常識となっている。
そして魔族側も魔族側で、過去の出来事の影響で人間達から距離を置いて生活している。
つまり、人間と接することを避けている魔族達が、人間だけが住んでいる領域に足を運ぶわけがない。それ故に、魔族の仕業という可能性も無いと言われているわけだ。
そして俺が一番知り得たいと思っているドラゴンの件に関してだが、この情報に関しては未だにまとめられていないのか、まだ何の話も耳に入って来ていない。
だからこうして毎日新聞を読むようにしているわけだが、本日もいつも通りかもしれない。
「どうですかビャクト様。何か新しい情報は入って来ましたか?」
リビングのソファで寛ぎながら新聞に目を通していると、部屋の掃除でもしていたのか、水の入ったバケツを持ったミルクが二階から降りて来た。
「今のところはまだだ。そろそろ情報が開示されてもいい頃合いだとは思うんだがな」
ペラペラとページを捲るが、記事は何処もかしこも勇者の話が書いてあるばかり。どんだけ持て囃されているのやら。
「…………あっ」
「もしかしてありましたか?」
最後の最後のところに例のドラゴンの姿が写った写真が記載されていて、詳しい詳細も書き込まれて
まず、ドラゴンの正体について。
俺が見て気付いた通り、あのドラゴンの名はグラムブラムという魔物であり、勇者が討伐したとされていたドラゴンそのものであった。
死んだはずのドラゴンがどうして生きていたのか、その要因は未だに分からずだ。
とはいえまだまだ調査不足なのだろうし、この件については気長に待つことにしよう。
次に、ドラゴンの所在について。
あの後もドラゴンは生き絶えることなく生命を維持していたようなのだが、ギルド総本部の満場一致によって完全に討伐された。世界の均衡を守る者達からしたら当然の処置か。
にしても気分が悪い。俺としては生かして調教して様子を見た方が戦力的に活かせるのではと思っていたが、これじゃまるで俺がドラゴンを殺すことに一役買ったみたいな流れになってしまっている。
危険な存在だったとはいえ、やはり殺すという決断はどうにも気に病む。
最後に、ドラゴンが衰弱した姿で発見されたことについて。
何かが打ち込まれた腹の打撃痕。
全身に刻まれた切り傷に、特に切り口の大きな背中の傷。
これらの痕跡から推測するに、ドラゴンは何者かの手によって討伐された。
目撃者は誰一人としておらず、唯一手掛かりとして残されていたものは、俺が武器屋から拝借していた二本の剣のみ。それだけでは当事者を突き止めるのは不可能だろう。
今現在も当事者探しを続けているとのことだが、目撃者がいない以上は特定など無理な話。最も心配していたことは事無きを得てくれたようだ。
「あ〜良かった。これで面倒事に巻き込まれずに済みそうだな」
「何はともあれ一件落着ですね。でも肝心の目的を果たせていないので、ビャクト様の気分が晴れたとは言い難いのでしょうが」
「今だけ忘れようとしてたのに水差すんじゃねぇよ……」
そもそも俺がサーヴァントに赴いた理由は人員探しだったはずなのに、最終的に報酬無しの高難易度クエストで死闘を繰り広げるというオチに。
つまり、結局時間を無駄にしてしまったと言わざるを得ないわけだ。
「ハァ……。またメイ活みたいな話が転がって来てくれれば楽なんだがなぁ……」
「今回は運が良かっただけですよ。また気長に探しましょう」
「気長っつってもなぁ……。町内クエストもやり尽くした感があるし、そろそろ本職に就きたいんだよ。安上がりの労働なんてこれ以上やってられっか」
「……ところでビャクト様。一つお尋ねしたいことがあるんですが」
「何だよ藪から棒に」
「実はこっちに帰って来てからずっと思ってたことなんですけど……」
そう言うとミルクは、テーブルを囲むように椅子に腰掛けている姦しい連中に視線を送った。
「頃合いね。これでどうかしら」
「階段革命だと!? おのれ小癪なぁ!」
「ん〜、これはキツいですね。戦力温存が仇となってしまうとは」
姦しい連中であるピノ、ルティーナ、そしてシフォンの三人は、トランプの大富豪に没頭していた。
その理由は、単純に暇だからである。
「いつの間にかシフォンさんが自然に集まるようになりましたけど、もう人数足りてますよね?」
「…………」
ドラゴン騒動の悩みが消え去り、また新たな悩み事が俺の中で繰り上げされた。
俺達がウンターガングに帰って来た日からだろうか。まるでずっと前からそこにいたかのように、ドMメイドがこの家に入り浸っているのだ。
初対面であるはずのピノやリィアさんともすぐに打ち解け、メンバーの中にいるのが当たり前といった空気が完成し尽くされてしまっている。
このままだと流れ的にシフォンが最後のパーティーメンバーの枠に収まってしまうことだろう。
だが、それを良しとしていないのが何を隠そう、このパーティーメンバーのリーダーである俺だ。
元変態怪盗であるセクハラ魔で、現在進行形で性癖を包み隠す事なく周囲を掻き乱す変質者、ピノ。
俺の強者たる器を見極めようとしていると同時に、隙あらば貞操を奪おうと目を光らせているビッチ、ルティーナ。
この二人がメンバーになってしまっている時点で、俺の今後の苦労は絶えないだろうと確信している。
更にそこに加わろうとしているのが、ありとあらゆる罵声と暴力を追い求めて、周りに迷惑を掛けることを厭わないドMメイド、シフォントリア。
ただでさえお荷物を抱えている状態であるが故に、俺からしたら論外の人選である。
俺以外が全員変態のパーティーなんて絶対に嫌だ。せめて真面目系の堅物キャラが一人は欲しい。
さもなくば、後悔するのは間違い無く俺一人だ。
良いタイミングだ。ここいらでハッキリさせておくべきなのかもしれない。シフォントリアという変態をパーティーメンバーに加えるわけにはいかないと。
意を決して立ち上がり、ワイワイと賑わっている変態の群れの元へと歩み寄った。
「お前ら、今後のことについて少し話がある」
「そんなことよりビャクトもやろ〜よ大富豪。何とかルティーナを都落ちさせてよ」
「さっきから全戦全勝なんですよルティーナさん。ビャクトさんこういう頭使うゲーム得意そうですし、目に物を見せてやって欲しいです」
「ダーリンの頭脳戦が見られるの? それはとても興味深いわね。というわけで、枠を一人分増やしても良いかしら?」
「「異議無し」」
「せめて『何?』くらいの返事を返せよ! 暇だからってずっと遊び呆けていられると思うなよ!」
初っ端から前途多難な空気が。
しかしここで挫けては駄目だ。自我を保って場を制すのだ野幌白兎よ。
「先に言っとくがなお前ら。流れ的にメンバーが集まったみたいな感じになってるつもりのようだが、俺はこのドMメイドをパーティーに入れるつもりはない」
「あそ。じゃ、面倒臭そうな話だからまた今度ってことで。次は負けんぞルティーナ〜!」
「…………」
ルティーナの手元からトランプの束を回収し、無言で近くの暖炉の中に投げ捨てた。
「うおぉい!? 空気読めよビャクト〜! そういう無慈悲な行いは友達無くすキッカケだぞ〜!」
「喧しいわ。真面目な話するっつってんだから、黙って耳を傾けろや」
「真面目な話も何も、シフォンをパーティーメンバーには入れないって話っしょ? そんな今更な話持ち出されても意味無いって。それに人を選ぶような余裕なんて本来無いわけだし、むしろ貴重な人員が見つかって胸を撫で下ろすところなんじゃないの?」
「……悔しいが否定できない」
ピノの言う通り、今ここでシフォンを突き放すという選択を選べば、またしばらく町内クエスト生活に勤しむことになる。それもまた極力避けたい話ではある。
「そもそもビャクトさん、どうしてシフォンさんじゃ駄目なんですか? ビャクトさんの魔法とシフォンさんの魔法は相性が良いとルティーナさんから聞いていますよ」
「……リィアさん。このメンバーを一通り見て気付くことはありませんか?」
「へ?」
リィアさんが今いるメンバーを見渡すと、首を横に傾けて頭の上に疑問符を浮かべた。どうやら分かっていないご様子なようで。
「分からないのならお教えしましょう。何を隠そう、このパーティーメンバーは明らかに変態だらけなんです」
「「「変態……?」」」
すると三人はお互いの顔を一瞥した後、同時に俺の顔を見て各々が苦笑する反応を示した。
「まぁ……ビャクトも一人の男だもんね。でも私はそういうのあんまり気にしないから。むしろビャクトのことは好きだしね」
「ダーリンも年頃なんでしょうし、そういうことばかり考えるのも無理はないでしょうね。でも安心して、こう見えても私は感受性が高い方なの」
「むしろ私としては喜ばしいことですね。性的本能のままに暴走を引き起こして、是非とも私を滅茶苦茶にして欲しいです。サンドバッグとして利用するも良し、肉◯◯◯として利用するも良しですよ」
「…………」
俺は俺以外の奴ら全員が変態だと思っていたのに、どうして俺一人だけが変態扱い受けているんだろうか。
「大丈夫よダーリン。ここに集まっている皆は、ダーリンという人間性を理解している人達ばかりだから。たとえ周りから変態として見られようとも、私達だけはダーリンの味方よ」
そう言いながら俺の肩に手を置いてくるルティーナは、自分の肩を震わせて笑いを堪えていた。
「どの口がほざきやがるアブノーマル共が! 自分のことは棚に上げて見て見ぬフリってか!? あ゛ァ!?」
「お言葉ですがビャクトさん。私は変態などという低俗な名称で呼ばれるような安い人間ではありません。変態という次元を突き破った特殊な性癖を携えし者。言うなれば、変態を超越したド変態と言ったところでしょうか」
「結局は変態ってことだろうが! よりタチの悪い変態ってことだろうが!」
「違うってビャクト、私はマジで変態じゃないんだって。私はただ、ありとあらゆる使用済みの下着の匂いを嗅いだりできれば良いと思ってるだけだよ」
「そういう奴を世間じゃ変態って言うんだよ! 現実から目を背けてんじゃねぇ!」
「失礼ねダーリン。一体私の何処に変態要素があるというの?」
「全部だよ! お前の場合は見た目も性格も全部だよ! この中でお前が一番際どいよ!」
「お、落ち着いてくださいビャクト様。ほら、唯一ノーマルである私を見て落ち着いてください」
「誰がノーマルだ! お前の場合はドが付いたドポンコツだろうが!」
「でも変態じゃないだけマシだとは思いませんか?」
「一番のトラブルメーカーのくせに夢見たこと言ってんじゃねぇ!」
「す、すいません……」
捲し立てることで擦り減っていく体力と精神力。
落ち着け俺、こいつらのペースに流されては駄目だ。
冷静さを欠いては解決するものも解決できなくなってしまう上に、乗せられるだけ乗せられて弄ばれるだけなのだから。
「まぁ冗談はここまでにしておいて……。確かに私達は一人残らず変態なのかもしれないけど、でもそれで何か問題があるの?」
急に開き直って来た。何なのこいつ。
「むしろ問題しかねぇだろ。変態ばかりのパーティーだなんて嫌でも非難の指差されるだろうし」
「なるほど。つまりビャクトさんは世間体を気にするお方なんですね」
「まぁ……そうだな」
周りの目をずっと気にしながら生きて来たような男なんだ。周りの声に敏感に反応するのは当然だ。
「んだよ、ちっせぇ男だなぁビャクト。仮に私達が変態パーティーで浮いた存在になろうと、そんなの言わせるだけ言わせておけばいいんだって。外出クエストを受ける権利さえ得られれば問題無いっしょ」
「まともな仕事を受けられるようになるのだから、今までの生活をずっと続けるよりはマシだと思うわよダーリン」
「ぐっ……」
正論だ。故に何も言い返せない。
でも諦めるつもりも無い。だったら否定の理由の方向性を変えるまでだ。
「そう……だな。お前らの言う通り、周りには好き勝手言わせておけばいいって話だ。ただ問題はそれだけじゃないんだよ」
「ふーん……。というと?」
「お前らとずっと付き合ってると疲れ方が尋常じゃなく擦り減っていく俺がいるんです。なので俺は残りの一人に癒し系女子を推薦します」
「「「…………」」」
何故か全員口を閉ざして俺を見つめて来る。少しでも俺の気持ちが通じたのか?
「あの……ビャクト様」
俺達の会話を黙って聞いていたミルクが話し掛けてくると、可哀想な奴を見る目で見つめて来た。
「こういうことを言うのは多少抵抗があるのですが、今ビャクト様が言っていることをなんて言うのか、知っていますか?」
「……なんだよ」
「それはその……我が儘……と言うのではないでしょうか……?」
「……………………」
ふとパーティーメンバーの方に視線を戻すと、一人残らず「やれやれだぜ……」みたいな反応で首を振っていた。
「おいちょっと待て。なんで俺が悪い奴みたいになってんの? なんで差されるの俺一人? 根本的に非があるのはどう考えてもお前らの方だろうが!」
「まぁ落ち着けビャク坊や。飴食べる?」
「何様だお前! 子供扱いしてんじゃねぇ!」
「さて、話もまとまったみたいだし、そろそろ大富豪の続きでもする?」
と言って裾の中からトランプの束を取り出すルティーナ。
「何もまとまってねぇよ! 認めん! 認めんぞ俺は!」
「それじゃこういうのはどうですか? 今からビャクトさんも参戦して、総合点で一位を取れば私は追放ということで」
「あ〜、それで良いかもね。どうするビャクト? これなら皆も納得できると思うけど」
「上等だ! それで白黒はっきりつけてやらぁ!」
「……ビャクト様ってこんなに単純なお方でしたでしょうか?」
その後、俺達は五十戦という数の大富豪合戦を勃発させた。
結果、俺の持ち点はゼロから動くことはなかった。




