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俺の枷共(パーティー)は煩わしい  作者: 湯気狐
三章 〜ドMメイドとメイ活騒動〜
32/45

ちゃっちぃ魔法の快進撃

「無茶と無謀は別の意味ですよ!?」


 いざドラゴン退治に繰り出そうとしたところ、血相変えたミルクに全力で後ろ首を引っ張られて引き止められた。


「私の話聞いてましたか!? いくらビャクト様に実力があったとしても、ドラゴン相手じゃ話がガラリと変わってしまうんです! 要は圧倒的に別格なんですよ!」


「ふーん」


「反応薄っ!?」


 ミルクごと逆に引っ張って前に進みつつ、武器屋にて拝借した剣を試しに振るってみる。


 重過ぎず、軽過ぎない剣だ。きっとそれなりの刀匠が打った剣に違いない。ドラゴンを相手にするには十分な出来栄えだ。


「意地張ってないで逃げましょうってば! 魔物の軍勢はルティーナさんがどうにかしてくれると約束してくれましたし、逃げ道はどうにかなるんですよ!?」


「そりゃ俺がドラゴンと戦うことを前提とした話だろ。ほら、そいつの目を見りゃ分かんだろ」


 俺がドラゴン退治を宣言すると、ルティーナは口元に手を当てて歪んだニヤけ顔を隠していた。


 どうやってかは知らないが、きっとこいつは俺がドラゴンと戦うところを見物するつもりなんだろう。


 だから今回はすんなり頼み事を引き受けてくれたのだ。俺とドラゴンの戦いに水を差させないために。


「ダーリンの言う通りよ。ミルクには悪いけど、ダーリンが戦わずに逃げ出すと言うのであれば、私は魔物の駆除から手を引くつもりよ」


「そんな殺生な!? ルティーナさんはビャクト様に死ねと言うんですか!?」


「そういうわけではないわ。それに、ダーリンが死ぬと確定したわけじゃないでしょう?」


「いえ、死にますね。ビャクト様もルティーナさんも分かっていません。ドラゴンは弱肉強食の世界の頂点に君臨するモンスターの一角なんです。それを一端の人間一人でどうにかなると思いますか?」


「若干口悪くなってんぞお前。それにドラゴンを過大評価し過ぎじゃね?」


「大袈裟に表現できてしまうのがドラゴンの脅威なんですよ。実際にドラゴン一匹に街が壊滅させられた事例がいくつもあるんです。そういった結果が歴史に残されているからこそ、私は今こうして必死になっているんです!」


「なら余計に見て見ぬフリできないだろ。多大な被害が及びでもしたら、この街も壊滅させられるってことなんだろ?」


「それはそうですけど……。だからと言ってビャクト様一人が無茶する必要は無いと思います」


「あ〜……くどい!」


「ごぺっ!?」


 首の横に手刀を放ち、気持ちの良くない骨の音が鳴ると、ミルクは口の端から涎を垂らしながら気を失った。


「ピーチクパーチクうるさいっての。好きで無茶したいなんて思うわけねぇだろ」


「雑な扱い方ね。でも懸命な判断だと思うわ」


「こいつはお前が預かっとけよ。一人荷物がいたところで、大した支障にゃならないだろ?」


 倒れているミルクを持ち上げてルティーナに受け渡す。これである程度の枷は外れただろうか。


「それじゃ、私達は行くわ。この街を救う英雄となるか、はたまた犬死にして名も残らぬ故人となるか。フフッ、期待しながら見物させてもらうとするわ」


「このドS魔女め……」


 再びふわりと宙に浮き上がると、魔性のドS女はミルクを連れて魔物の群れの方へと向かって行った。


「……さてと」


 腰に二本の剣を差して、ルティーナ達とは真逆の方向に駆け出す。


 走る先にある家の屋根目掛けて籠手を構え、ワイヤー付きの特製針を発射する。


 小型ジェットエンジンを駆使してリールを巻き上げ、ロケットのように俺も空中へと飛び出した。


 先にあった別の家の屋根の上に着地して、そのまま屋根の上を駆け巡る。


 幸いこの街は家が多い為、屋根の上を移動するのに手間は掛からなかった。


 徐々に縮まっていくドラゴンとの距離。


 やがてドラゴンの視界に入っているであろう距離まで辿り着くと、ついに俺の存在を察知された。


 怪しく光る真っ赤な瞳がギョロリと動き、街の建物から狙いが俺に変わった。


 間近で相対するからこそ分かる、かつてない圧倒的存在感。只ならぬ戦慄に思わず身震いしてしまう。


「っ!!」


 俺の方を向いて大きな口が開かれた刹那、どっと汗が噴き出し、逃走本能が働いて思い切り左側に飛び出した。


 次の瞬間、黒い球体に留められた炎の塊を吐き出して来た。


 小さな太陽のような黒い炎は、俺が突っ立っていた場所に着弾すると大爆発を起こし、近くにある建物の数々も巻き込んで焦土と化し、跡形も無く破壊してしまった。


 たった一発だけのブレスでこの破壊力。そんじゃそこらの魔物とは比べ物にならない桁違いの火力の持ち主。


 ……これ無理なんじゃね?


 とはいえ、こうして見つかってしまった以上はもう後戻りはできない。


 やれるだけやって踠いて足掻いて、それで駄目だったら俺の人生は詰みだと割り切ることにしよう。


 まずは街の被害をこれ以上悪化させないためにも、街の外まで避難して奴を引き付けなければ。


「そのまま目ぇ付けとけよ!」


 他のものに気を取られることがないように、屋根の破片を手に取って投げ付けた。


 破片が狙い通りドラゴンの鼻先に当たり、ほんの少しだけ怯んだ様子を見せると、鋭い牙を立てて俺の方目掛けて滑空して来た。


 すぐさま籠手の装置を起動して逃走を図る。


 負けず劣らずの高速移動で街の外へと向かうが、でかい図体だけあって速度が段違いに早い。


 だからと言って追い付かれる心配は無い。逃げ足に関しては特に自信があるのだ。


 ようやく街の外まで飛び出したところで地面に着地し、高速移動していた勢いを極力殺さないように前へと駆け出す。


「この辺でいいか」


 大体街から距離を取ったところで後ろを振り向くと、口に例の炎を溜め込みながらすぐ近くまで接近して来ていた。


 半永久的に直進している状態から思い切り地面を蹴って、ドラゴンが向かって来ている方角へと飛び出す。


 唐突な急変的な動きに撹乱されたのか、ドラゴンは早まってブレスを発射する。


 俺を通り抜けてブレスは直進し、遠くの地面に着弾して爆発した。


 ドラゴンの背後を取れる場所まで移動し、奴の後ろ頭目掛けて特製針を発射。弾かれることなく狙い通りに突き刺さった。


 ジェットエンジンを起動し、同時に二本の剣を引き抜く。


 歯を食いしばりながら全身を縦に高速回転させ、剣を構えながらドラゴンの背中を沿うように斬り進む。


 鱗が削れて血肉まで刃が届き、飛び散る鮮血が身体に付着する。


 それでも尚、ドラゴンの頭上に届きに至るまで、回転を止める事はない。


 ドラゴンの頭上まで登り詰め、悲鳴のような蛮声(ばんせい)が辺りに響く。


 冷静さを欠いて身体をジタバタさせるが、生憎俺の居場所は頭の上。振り落とされるようなことは万が一にもない。


 一度頭の上に着地したところで再び頭上に飛び上がり、右脚を伸ばしながら縦に高速回転する。


 そのまま回転力を利用して、かかと落としを脳天に叩き込んだ。


「っ゛……!」


 手応えを感じると共に、反動でピキピキと足の骨が軋む。予想外の痛みに声が出そうになった。


 ドラゴンは怯みはしたものの、頭上で佇んでいる俺を見て眼光を鋭くさせると、翼を大きく横に広げてググッと頭を引っ込めた。


 宙に浮かんだ状態のまま籠手を構え、少し遠くの大きめの岩を狙って特製針を発射し、着弾すると同時に装置を起動させる。


 少し遅れてドラゴンが真下からとてつもない速度で羽ばたいて来たが、紙一重で必殺級の頭突きを回避。岩場に着地し、すぐに次の襲撃に備える。


 まだ数手のやり取りしか交わしていないというのに、もう何時間も経過しているような感覚だ。


 一手一手が即死に繋がるというプレッシャーが、俺の気力をごっそりと削っているからだろうか。


 瞬きする時間すら危機感を感じるこの死地。体力よりも集中力が持つのかが心配だ。


 警戒しているのか、ドラゴンが空中で羽ばたいたまま下に降りて来ない。


 こっちの動きを様子見しているのか。さっきは取り乱していたが、今は周りが見えているようだ。


 相手の動きが止まって若干心の余裕ができる――否や、大口を開けて大きく息を吸い込み始めた。


 ある程度息を吸い込んだところで口を閉じると、カエルのように頬袋が膨らみ、黒い火が口の端から漏れた。


 さっきまでのブレスじゃない。あれはまた別の――


「嘘だろおい!?」


 ドラゴンが上を見上げてピタリと止まる。


 その数秒後、流星群のような黒いメテオの嵐を吐き出して来た。


 さながらそれは拡散弾。しかも一発でも当たれば致命傷に至るという、チート級の隠し球だ。


 回避するのはまず不可能。応戦の手は(これ)に絞られた。


「一か八か……っ!」


 メテオの一つが飛来して来た瞬間、脳裏に走馬灯が駆け巡る。


 こつんこつんと、聞こえるはずのない死の足音が近付いて来る気配がする。


 刹那、竦みそうになる足に鞭を入れ、震える腕の力を搾り尽くし、虚勢を張って掠れそうな雄叫びを上げた。


 二刀を同時に振り下ろし、メテオを三等分に両断する。


 しかし斬り伏せた先から、更なるメテオが次々と降り注いで来た。


 暴れ馬のように全身を振り回し、降り掛かるメテオを我武者羅に斬り伏せる。


 メテオを処理する度に周りに炎が燃え移り、次第に動ける場所が縮小していく。


 刻一刻と追い詰められていることに気付きながらも、降り掛かる火の粉を駆除することしかできず、為す術もなく最悪の状況へと誘導されていく。


 やたら煩く喚いて聞こえる鼓動の音。


 痛みと共に唸りを上げる全身の筋肉。


 徐々に気力が磨り減っていき、やがて視界も霞んでいく。


 魔法などという利便性に特化した力がある世界なれど、ドラゴンという弱肉強食の支配者の前では無意味なものと化す。


 無論、それは俺のような魔法に恵まれない者に限るのだろうが。


 生身で戦っている割には粘れている方だろうか。我ながらここまでよく持ち堪えられたものだ。


「がっ……」


 目先のメテオに気を取られ過ぎたことで周りが見えておらず、落下したメテオの欠片が横から飛んで来て頭に直撃した。


 稲妻に打たれたような痛みにより、手元から剣が二本とも抜け落ちてしまった。


 未だ止まぬ隕石の嵐。無防備となった俺目掛けて、容赦無く降り注いで来る。


「“メタ……ルハンズッ”!!」


 悪足掻きの魔法を発動させる。意味を成さぬ手段であることを悟りながらも。


 そして、伸ばした左手の指先がメテオに触れた瞬間、“とある違和感”に気付き――


「っ!?」


 それは、俺の足元の地面より突如出現した。


 ドラゴンにも引けを取らない巨体であり、人型の形を象った見覚えのある石像。


 頭の上から見下ろすことで、それがゴーレムであると理解できた。


 それと、思わぬ助っ人が駆け付けに来たということも。


 盾となるようにゴーレムが立ちはだかり、降り注いで来ていたメテオをその巨体が受け止める。


 しかしこのゴーレムは、見掛け倒しの脆さを誇る。


 故に、メテオを一発くらえば粉々になる――と予測していたが、思い描いていた最悪の事態には至らなかった。


 不思議なことにどれだけメテオを浴びようとも、ゴーレムが砕け散る様子が見られないのだ。


 むしろ、メテオを浴びる度に生き生きとしていくように見えて、まさに“あいつ”の顔が連想される。


 ついにメテオが出し尽くされて、ゴーレムは最後まで立ち尽くしてみせた。


 以前とは比べ物にならない恐るべき耐久力だ。


 それに実際に手で触れてみて分かるが、まるで鋼鉄のような硬さになっている。


「……鋼鉄?」


「ビャクトさん」


「うぉっ!?」


 ゴーレムの頭の一部がハッチのように開かれると、シフォンがひょっこりと顔を出して来た。


「どうやら良いタイミングで助けに入れたようですね。お怪我の方はありませんか?」


「お陰様でな。でもなんでまたお前がこんなところに?」


「ほら、あの方ですよ。ビャクトさんのお連れのお方の……そう、ルティーナさん。何処からかふわりと現れたと思いきや、私に頼み事をしてきたんです」


「あいつが……?」


「はい。ビャクトさんがドラゴンと一騎打ちをするという話を聞きまして、そこで万が一ビャクトさんがピンチに陥った時は、ギリッギリのところで助太刀に入って欲しいと」


 俺にあんな化け物と死闘を繰り広げるように誘導したのがあいつなのに、こっそり助っ人を用意していたと?『ギリッギリのところで』というのが実にルティーナらしいが。


「仲間想いな方が身近にいて良かったですね。私が来なかったら確実に死んでいましたよ」


「あぁ……うん……」


 変態に命を救われてしまっただなんて、我ながら情けない話だ。一生の汚名を被ってしまったことは否めない。


「手間取らせたな。にしても、いつの間にこんな頑丈になったんだこのゴーレム? あの流星群を前にビクともしてなかったぞ」


「そう、それなんですよビャクトさん。実は私も疑問に思っていることがありまして、なんで今さっきの攻撃を凌げたのでしょうかね?」


「はぃ? そりゃお前、ゴーレムの質がレベルアップしてたんだろ?」


「私のゴーレムにそんな要素はありませんよ。本来ならばあの隕石を一撃受けただけで、跡形も無く粉微塵になっていたはずなんです。そしてその痛みに私は悶え、新たな痛覚の扉が開かれ――」


 どういうことだ? シフォンの言う通り、以前のゴーレムであればあっという間に駆除されていたはずだ。


 にも関わらず、ゴーレムはこうして傷一つ負わずに佇んでいる。何かしらの変化が起きていることは間違い無い。


 前との違いは恐らく硬度。前のゴーレムがどれだけ硬いゴーレムだったのかは知る余地もないが、このゴーレムは異常なまでに硬い。


 そしてこの硬さ、さっきから既視感を感じて仕方無い。


 砕けることもなく、溶けることもなく、強力な絶対防御の魔法。その詳細を初めて聞いたのはいつの話だったか。


 ひょっとしてひょっとすると、固有魔法には何かしらの“隠し要素”が含まれていたのかもしれない。


 何故なら、“この魔法”の詳細を聞いた時、“こんな能力”があるだなんて話をリィアさんは口にしていなかったから。


「あの辺に落ちていたはず……」


 下を見下ろしてメテオの残骸を確認してみる。


 すると、全てのメテオが着弾して粉々になっているはずが、ただ一つだけ割れていない綺麗なメテオが残っているのが見えた。


 間違い無い。あれはついさっき俺がこの手で僅かに触れたメテオだ。


 この確証を更に明確なものにするべく、今度は手持ちの剣の刀身を確かめてみる。


 ……やっぱりだ。あれだけ乱暴に扱っていたはずなのに、二本とも一切刃こぼれしていない。新品同様の立派な剣だ。


 急に頑丈になったゴーレム。


 一つだけ砕けていないメテオ。


 刃こぼれしていない二本の剣。


 この三つの謎が、確信へと導いてくれた。


 一度“メタルハンズ”を解いて、ゴーレムの頭を殴ってみる。


 いとも容易く亀裂が生じ、大きなヒビが入った。


「あの、さっきから何をしているんですかビャクトさん? こんな時に挙動不審な行動をされると――」


「シフォン、あいつを倒す算段がついた。お前にゃがっつり協力してもらうぞ」


「それは構いませんけど、何をどうするつもりですか?」


「簡単な話だ。俺が指示するから、お前はその通りにゴーレムを動かせ」


「本当に簡単な話ですね。分かりました、お任せください!」


 シフォンは再びゴーレムの頭の中に入っていくと、微動だに動いていなかったゴーレムが動き始めた。


「“メタルハンズ”!」


 魔法発動と同時にゴーレムの頭に触れて、簡単な準備を済ませる。


 さぁ、こっからが対等な喧嘩の始まりだ。


 俺達が話し込んでいた時間を無駄にすることなく、ドラゴンは次なる流星群ブレスを溜め続けていた。


 それに気付いた矢先、第二波のメテオが上空より降り注いで来た。


「左腕で頭部をガード! 右腕は――」


 接近して来るメテオを瞬時に見切り、落下場所を予測する。


「一時の方角に伸ばして掌広げろ! 隕石を掴み取れる!」


 指示通りにゴーレムが動き、俺が立っているゴーレムの頭の方に降り注いで来るメテオを防ぐ。


 直後、予測通りの位置にメテオが落下してきたことで、右手の中にすっぽりとメテオが収まった。


「そのままジッとしてろよ!」


 頭の上から右肩に飛び降りて右腕を伝って走り、掴み取っているメテオの上に乗る。


 メテオに手で触れてしゃがみ込み、特攻を仕掛けるためのセッティングを整えた。


「俺ごとあいつの元に投げろ!」


 ビクッとゴーレムが驚くような反応を示すが、それで動きが止まるようなことはなく、右腕を大きく後ろに振り被った。


 そして、ドラゴン目掛けて思い切りメテオを投げ放った。


 数多のメテオを掻い潜り抜けて、狙い通りにドラゴンの顔に直撃――すると思われた否や、ドラゴンはひょいっと首を傾けることでそれを回避した。


 不意を突いた奇襲のつもりだったが、この展開は想定内。だからこそ、こうして俺自身が無茶して飛び乗ったのだ。


 ドラゴンの顔を通り過ぎた直前、咄嗟にメテオから飛び降りて籠手を構え、ドラゴンの頭の上に特製針を発射し、狙い通りど真ん中に突き刺さった。


 ドラゴンよりも遥か上空まで浮き上がったところで、ジェットエンジンを起動。


 籠手を付けた左手を前に伸ばし、右腕にありったけの力を込める。


「るぁあ゛アアアッ!!」


 ワイヤーを限界まで伸ばしたことで生み出される最高速度。隙だらけの大きな頭目掛けて、渾身の一撃を叩き込んだ。


 十分な手応えと共に頭部がぼっこりと凹み、ドラゴンは断末魔のような雄叫びを上げる余裕も無いまま、頭から地へと落下した。


 ドラゴンの身体がクッションの役割を果たしてくれたお陰で、俺は傷一つないまま地面に着地。


 間を空けず、次の一手に行動を移す。


 ドラゴンの頭部から針を抜かないように固定して、ワイヤーを伸ばしながら縦横無尽にドラゴンの身体中を駆け巡る。


 そしてドラゴンがようやく地面から頭を引っこ抜いたところで、こちらも準備が整った。


 むくりと身体を起こそうとするドラゴン。


 しかしその巨体は満足に立ち上がることもできずに、全身に縛り付けられたワイヤーによって重心が崩れ、横転した。


 ジタバタしながら自慢の羽を広げようとするが、羽の上からもワイヤーを固定しているため、羽ばたいて上空に逃げることもできない。


 本来この程度のワイヤーならば、少し動かれるだけでぷちりと切られていることだろう。


 だからこそ、この手は効果の無いものだと思っていた。


 だが、それは違った。


 “メタルハンズ”という固有魔法を扱うことができる俺は、不可能を可能とする術をこの世界に来た瞬間から手に入れていた。


 ちゃっちぃ魔法だと思っていたこれは、応用性の高い魔法だったのだ。


 実際に触れた物(恐らく無機物に限る)を同じ硬度に変換する。これこそが“メタルハンズ”の真の有用性だったわけだ。


 石に触れれば絶対に割れない石に。


 剣に触れれば絶対に折れない剣に。


 ゴーレムに触れれば絶対に砕けないゴーレムに。


 この魔法を解かない限り、その鋼鉄化は永遠に引き継がれる。


 どんな魔法にも何かしらのデメリットがあるが、でもそれは逆のことを言い表すこともできたってわけだ。


 何はともあれ、これでお膳立ては整った。


 次が正真正銘、最後の一撃だ。


「シフォン!! 俺とコネクトしろ!!」


 シフォンのゴーレムは確か、感覚を共有させる魔法を扱うことで起動していると言っていた。


 だがあの魔法は、ゴーレムを動かすためだけの魔法だとは思えない。


 感覚を共有できるという点だけを見据えれば、自ずと他の有用性が見えてくる。


 例えば、感覚を共有することで相手の動きをトレースする。


 つまり、俺の動きをシフォンにコピーさせることができるはずだ。


 そしてそのシフォンの動きは、俺を通じてゴーレムに反映させることができる。


 そうなればドラゴンの一匹如き、取るに足らないトカゲと化すだろう。


「早くしろシフォン! とろとろすんな!」


 何か問題があるのか、シフォンからのコネクトが一向に届かない。


 ゴーレムがあわあわと落ち着かない様子で動いていて、躊躇しているように見える。


「早よしろやクソメイド! 時間無ぇって言ってんだろうが!」


 余裕も無いので強めに言うと、ようやく反応を示したようで、ゴーレムの頭の部分から白い糸がにょろにょろと出てくると、俺の方に向かって来て頭に接触した。


 コネクトの糸が繋がった瞬間、全身に稲妻が迸ったかのような感覚を感じ取り、頭の中に直接声が響いて来た。


(こちらシフォン、こちらシフォン。ビャクトさん、応答願います)


 感覚が共有されたことで、意思の疎通も可能になったらしい。思っていたよりも便利な魔法だ。


(あぁ、聞こえてる。そっちはどうだ?)


(共有……これが“フィーリングコネクト”の真骨頂……いやしかしこれは……)


 声質からして何やら恥ずかしがっている様子。ドMにも羞恥心とかあるんだな……。


(いいかシフォン。今から俺が一連の動作を行う。お前はそれを感覚で感じ取ってコピーして、ゴーレムの動きにそのまま反映させろ)


(動きを……? 何を狙っているんですか?)


(無論、このトカゲにとどめの一撃をくれてやるんだよ。その前にドラゴンのすぐ側まで移動しろ)


(承知致しました!)


 今度は言われた通りにすぐ動いて、ジタバタと踠き続けるドラゴンの目の前まで移動した。


(行くぞ!)


 一度深呼吸すると、左手を広げて前に突き出し、右の握り拳を少し後ろに引いて構えた。


 シフォンも後に続いて同じ動きをすることで、全身鋼鉄化しているゴーレムも同様の動きで拳を構える。


 肉体のリミッターを外す必要はない。一連の動作さえ伝えられれば、この技のデメリットで右腕に負担が掛かることはない。


 リスク無しの最強の一撃。耐えられるものなら耐えてみるがいい。


「“ゴーレム式・十牙拳(とおがけん)”!!」


 技の伝達を終えると同時に、ゴーレムによる“十牙拳”がドラゴンの腹部に炸裂する。


 鋼鉄の一撃が骨を砕き、馬鹿でかい巨体が宙に浮き上がる。


 ドラゴンが宙に浮き上がる寸前、ジェットエンジンを起動してドラゴンの後を追うように空へと旅立った。


「チェックメイトだ」


 二本の剣を抜き取り、ドラゴンの全身に縛り付いたワイヤーを辿りながら荒れ狂うように剣を振るう。


 爪、牙、足首、腕、羽――ありとあらゆる部位に太刀傷を刻み込み、獣のような喊声(かんせい)を吠え続けた。


 そしてワイヤーが頭部に辿り着く刹那、針を引っこ抜いて最後の一太刀を脳天に浴びせた。


 ドラゴンの全身に血飛沫が舞い、大口を開いて微かに身体がピクピクと動くと、完全に機能停止して再び地面に落下し、地響きを鳴らした。


 空中に投げ出されたままの俺も真下へ落下するが、咄嗟に“メタルハンズ”を解いてゴーレムの左腕目掛けて針を発射した。


 そして狙い通りに針は左腕に突き刺さり――俺の左腕が悲鳴を上げた。


「いっでぇぇぇ!?」


 あまりもの激痛に俺自身も悲鳴を上げて、受け身を取る姿勢を取れないまま左腕と衝突。


 ゴーレムの左腕は木っ端微塵に砕け散り、追い討ちを掛けるかのように俺の左腕が腫れ上がった。


 薄れそうになる意識を死に物狂いで保ち、何とか地面に着地はするものの、既に左腕が使い物にならない状態になっていた。


 そりゃそうだ。俺は今、シフォンとコネクト状態にあるんだ。


 それはつまり、ゴーレムが負ったダメージが俺にも反映されるということ。


 気付いていたはずなのに、最後の最後でやらかしてしまったようで……。


「大丈夫ですかビャクトさん?」


 ゴーレムが地中に帰っていくと、ゴーレムの中から飛び降りて来たシフォンが歩み寄って来る。


 そんなシフォンの左腕もまた、俺と同じように真っ赤に膨れ上がっていた。


 しかし苦痛に顔を歪めている俺とは相反して、何故かシフォンは余裕の澄まし顔だった。


「あれだけ頑張っていたのに災難でしたね。でも結果オーライですよ。ほら、見てください。ついにあの難敵を討伐しましたよ」


「……なんでお前平気なんだ」


「左腕のことですか? そりゃ勿論、痛みには慣れているからですよ。これも唾付けておけばすぐ治りますしね」


「……そッスか」


 今だけはその特異体質が妬ましいほどに羨ましいと思った。

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