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俺の枷共(パーティー)は煩わしい  作者: 湯気狐
三章 〜ドMメイドとメイ活騒動〜
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愚痴り屋という名の懺悔室

「違うんですよビャクトさん。私の手筈ではこうなることは予期していなかったんですよ」


「…………」


「否定はし切れませんよ? 私も一人の人間ですし、欲に意思が傾いて失敗することは度々あります。でも今回は前もって計画を立てて、私が描いていた未来予想図が現実のものとなる手筈だったんです」


「…………」


「手練れのメイドさんであったあの方と相対し、私の強固たる頑丈な身体をアピールする。そうすることで、ストレス発散用のサンドバックメイドという、目新しいメイドの価値観を示す。お客さん方も社会で働いているわけですし、溜まりに溜まった鬱憤を晴らしたいと思っている方が殆どでしょう。だからこそ、私というメイドは必要されていると踏んでいたんです」


「…………」


「それなのにですよ? 何なんですかあの方々は? 私に興味を示すどころか、この自慢の不死身な身体に畏怖(いふ)してしまい、一人残らず逃げ出してしまう始末。一体何処に恐れを抱く要素がありますか? いや、無いですよね? むしろ需要しかないと思うわけなんですよ私は」


「…………」


「にも関わらず、皆さんは逃げ出してしまった。私の話など聞く耳持たず、ただひたすらに化け物呼ばわりをして。そんな理不尽な扱いをされてしまっては流石の私も……私も……」


「…………」


「興奮してしまうじゃないですかぁー!! 皆さんったらテクニシャンなんですからもー!! この良さ分かりますビャクトさん!? そもそも聞いてます私の話? ねぇ聞いてますビャクトさん? ねぇったらねぇ〜?」


 ウザい。半端なくウザい。余分が無く、ウザいと言う以外に表現不可能な程にウザい。


 こっちは人手を見つけられなくて酷く落ち込んでいるというのに、この歩く爆音ラジカセは勝手に人の後ろからついて来て、勝手にペチャクチャと話し込んで来る。全く聞いている素振りを見せていないのにも関わらずだ。


 ここまでやって来た俺の労力は何だったんだ? 望んでもいない変質者に何故か懐かれて、思い出すだけでも恥ずかしい演技を大勢の前で披露して、挙げ句の果てにこの結果。モチベも何もあったものじゃない。


 気付いたらルティーナもどっか行っちゃってるし、どれだけ歩いてもクソメイドは纏わり付いてくるし、面倒事の連鎖も止まらないこと止まらないこと。


 誰かこんな俺に救いの手を差し伸べてくれる者はいないものか……。


 恐らくこの会場には、既に武芸メイドは存在しない。長時間見回りを続けて見つけられていないのがその根拠だ。


 つまり俺は、ここまで費やした時間を水の泡にしてしまったわけだ。


 無論、意図的にではない。主に俺の邪魔をして来たこいつが妨害してきたことによる結果である。


 できることなら溜まりに溜まったこの恨みを爆発させ、今後一生拭えないであろうトラウマを植え付けるという復讐に手を染めたいところだが、ドMという異端者であるシフォンにとって、その行為はご褒美以外の何物でもない。なんてタチの悪いクソメイドだろうか。


 兎にも角にも、目的を達することができなくなってしまった以上、この街に滞在するのは無意味。早々に立ち去り、ウンターガングで次なる人員確保イベントを探らなければならない。


 ……と、頭では分かっているのだが、今はそんなことどうでもいいと思い始めていたりする。


 一度ゆっくり休みたいと、心身の安らぎを求めているからだ。


 都合の良いことにこの会場の城内では、元祖メイドの方々が自己アピールのために奉仕活動を行なっているはず。


 雇うという概念は既に俺の中から抹消されてはいるが、無料で奉仕してくれるというのならば、誰でもいいからリラックスさせて欲しい。


 今はもうそれだけで良い。それ以上望むことは何も無いのだ。


 地べたに尻餅をついた状態から立ち上がり、虚ろな目で城を見上げる。


「ビャクトさん、もしや城内の方に行かれるつもりですか? あそこはノーマルメイドの会場ですから、ビャクトさんが求めているメイドさんはいびゃっ!?」


 無言と無表情のまま少し上に飛び上がり、無情にシフォンの頰に回し蹴りを放つ。


 多少加減を忘れて放ってしまったからか、やたら遠くまで吹っ飛んでいってしまった。


 無闇やたらに女に手を挙げるのは些か気が引けるが、奴の場合は例外だ。


 メイドという名の疫病神から逃げ去るように走り出して、場内へと続く門の前まで駆ける。


 その勢いに身を任せ、思い切り門を開いた。


「「「お帰りなさいませ、ご主人様」」」


「…………おぉ」


 門を潜り抜けた先には、前もって大勢のメイド達がスタンバッていた。


 左右に並んで阿吽の呼吸で頭を下げ、俺を主人の一人として出迎えてくれた。何だか少し偉くなった気分になる。


 本家メイドの立ち振る舞いに感服したまま棒立ちしていると、メイドの一人がメニュー表のようなものを持って近付いて来た。


「ご主人様。こちらは本日会場にいらっしゃるメイドをまとめたものでございます。指名したい方がいましたら、何なりとご希望を申し上げ下さいませ」


 そう言いながらメニュー表を手渡され、ペラリと一ページだけ捲ってみると、メイドの女の子の顔写真がズラリと載っていた。


「すいません、ここってキャバクラ経営しているアッチ系なお店でしたっけ……?」


「いえ、ここはメイ活会場の場でございますご主人様」


「いやでも……」


 よくよく周りを見てみると、豪華なソファに長テーブルを置いた席が数え切れないくらい設置されていた。


 空いている席はここからじゃ一つも見当たらず、各席にてメイドとご主人によるコミュニケーションが行われている。これをキャバクラの場と言わずして何と呼ぶ?


「こちらのご主人様、ドンピリ入りまーす!」


「こちらのご主人様、ドンがピリピリ入りまーす!」


「「「ありがとうございまーす!」」」


 現代でいう『ドンペリ』というワードが出た瞬間、メイド達の目の色が一人残らず変わり、ハイテンションでそのご主人様を祭り上げる。


 そのご主人様の席の近くには、あちらこちらに金貨が散らばっている。破産覚悟の額であることは否めない。


「すいません、ノリが既にぼったくりバーなんですが。あそこの席のおっさん涙目になってるんですが。『嫁に殺される……』とかボヤいてるんですが」


「いえ、ここはメイ活会場の場でございますご主人様」


「あ〜、なるほど。つまりメイ活とは、言葉巧みに幸薄そうな男を恐喝し、金を巻き上げるだけ巻き上げることで、メイドの立場でありながら下克上を果たす場であると。更には金儲けまでできて一石二鳥であると」


「いえ、ここは純粋と健全の象徴であるメイ活会場の場でございますご主人様」


「あくまでしらを切るか。ならあれは何なのでしょうか」


 会場内を見回したところで妙なものを発見し、それを指差して問い掛ける。


「こちらのご主人様、一時間Aコース入りまーす!」


「「「いってらっしゃいませー!」」」


 会場の隅っこの方に怪しげな入り口が設備されていて、やけに派手な電飾で飾り付けられている。


 一人の男とメイドが寄り添いながらその入り口の中へと消えて行く。どう見ても考えてもアレな店にしか見えない。


「純粋と健全の象徴とか言っておきながら、子供にはとても見せられない場所が見えるんですが。教育に悪いこと山の如しなんですが」


「あそこは遊園地の入り口となっております。娯楽の場を揃えることで、より深くメイド達と触れ合えるようにと試行錯誤致しました」


「遊園地は遊園地でも“大人の”遊園地ですよね。触れ合えるってコミュニケーション的な意味じゃなくて物理的な意味ですよね。健全もクソもないと思うのですが」


「チッ、いちいち面倒臭ぇなこいつ……」


「おいコラ本音漏れてんぞ。メイドが舌打ちしていいのかこの野郎」


「気のせいでございますご主人様」


 元祖メイドが何たる様だ。これじゃリンクスの裏の街と何も変わらんじゃないか。


 しかも表向きで公表されているから、リンクスよりもタチ悪いぞここ。


「見た所ご主人様はまだ未成年でございますね。でしたら、あちらの未成年の場へと赴きください」


 メイドが手を差し伸べる先には、何の変哲も無い扉があった。一応まともな場も設けてあるらしい。


「あの場所が本来メイ活のあるべき姿だと思うんですけど、ここって苦情とか受け付けて――」


「いってらっしゃいませご主人様」


「いってらっしゃいませじゃなくて、ちょっと上の奴にクレームを――」


「いってらっしゃいませご主人様」


「いやだから人の話を――」


「「「いってらっしゃいませご主人様」」」


「どいつもこいつも横暴か!」


 有無を言わさず跳ね除けてくるメイド集団。多勢に無勢とは卑怯な奴らめ。


 まぁいい。健全なメイドがいると分かった以上、ここにはもう用は無い。未成年は未成年で勝手に楽しませてもらうとしよう。


 今度こそ言葉通りのノーマルメイドに優しくしてもらうべく、俺は未成年エリアへと続く扉を開いた。


「……あり?」


 まず、率直な感想を述べよう。


 人が一人もいない。


 メイドの姿も見受けられない。


 そもそも席が設置されていない。


 あるのは木製の小屋が一軒のみ。


 恐ろしいまでに殺風景な空間。


 小屋の入り口付近に『懺悔室』と書かれた看板が。


「ありがとうございました女神様……」


 先客がいたようで、杖をついたお爺さんが小屋から出て来て退場していった。


 おかしいな。ここはメイドと触れ合える場だと聞いていたのに、今の所まともなご奉仕を受けた覚えがまるでない。何が悲しくて懺悔室なんて利用せにゃいかんのだ。


「……愚痴でも聞いてもらうか」


 見た感じ他にお客はいないようだし、懺悔室を開いているメイドも暇していることだろう。


 ここは一つ、俺の懺悔(グチ)に付き合ってもらうとしよう。恨むならそんな部屋を作った自分のアイデア力を恨むがいい。


「失礼しまーす」


 小屋のドアを開けると一席だけの椅子が置いてあり、その正面にシスター服を着たメイド(?)が座っていた。


 口から上が見えないように仕切りが設置されていて、相手の顔が見えないようになっている。こういう仕様なのだろうか。


「ようこそ参られました、この世を彷徨いし子羊よ。どうぞそこの席にお座りくださいませ」


「…………」


「……どうかなされましたか?」


「…………いえ」


 バレていないつもりなのだろうか。


 短い期間とはいえ、それなりに濃い付き合いをしていると俺は思っていたのだが、向こうは俺の声を聞いてもまるで気付いていないらしい。


「なんでテメェがここにいるんだ」と問い詰めてやりたいところだが、バレていないのならば丁度良い。少しこのまま様子を見よう。


 大人しく席に腰掛けると、俺が何かを聞こうとする前に向こうから口を開いて来た。


「私は女神メイド。過去の己の罪を告白する者を導き、身分を問わず平等に救いを与える者でございます。失礼ですが、貴方のお名前を伺っても宜しいでしょうか?」


「……Bさんでお願いします」


「Bさんでお願いします、というお名前なのですね。大変変わったお名前をお持ちのようで」


 そういう貴女は重度の馬鹿を超えた鶏頭な頭脳をお持ちのようで。


「いや違います。匿名希望でお願いしますという意味です」


「あっ、そういうことでしたか。それは大変失礼致しました。では改めまして、匿名希望様。貴方の罪を告白してください」


「……実を言うと、俺がここに来たのは罪を告白するためじゃないんです。一つ悩み事がありまして、それを是非女神メイド様に聞いて欲しいんですよ」


「なるほど、お悩み相談の方でしたか。本来ならそれは専門外なのですが、こう見えて私は神様に選ばれし女神メイド。貴方のお悩みを解消することも私の責務でございます」


 こう見えてっていうか、見えないんですけどね。バレバレだけど。


「ありがとうございます。それじゃ早速話しますけど、実は最近になって妙に懐いてくる連れができたんですが、今日はその連れについてお話したいんです」


「連れ……でございますか?」


「えぇ。そいつの特徴をザッとまとめあげると、ドン引きレベルなくらいに貧弱で、知能も乏しい馬鹿を超越した常識知らずで、私は女神であると浅はかな主張をしていて、不幸とトラブルを呼び込む疫病神みたいな奴なんです」


「それはまた物凄い特徴でございますね。匿名様もさぞかし苦労していることでしょう。心中ご察し致します」


 なんとまぁ薄っぺらい上っ面だけの同情だろうか。


 その対象者が自分自身であることにも気付かず、滑稽なことこの上ない。


「で、そいつがまた困った奴でして。そいつには親代わりのような上司がいたんですが、訳あって家から追い出されてしまったらしくて、追い縋る相手が俺しかいなかったみたいなんです」


「それは相当切羽詰まっていたのでしょうね。その後、匿名様はどうなされたのでしょうか?」


「所詮は赤の他人ですからね。安定した生活の保障を施してやる義理なんてありませんし、知ったことかと突き放そうとしましたよ。でもそうしたらそいつは駄々を捏ねるだけじゃ飽き足らず、羽虫のようなしつこい執念で俺に纏わり付いてきたんです。結果、俺はそいつと仕方無く同行することになりました」


「話を聞く限りでは、かなり鬱陶しい方なのですね。匿名様も気苦労が絶えないことでしょう」


「えぇ全く。タダ飯喰らいは許さないと言って無理矢理働かせていますが、絶対に一人で仕事をしようとしないんですよ。『私一人じゃ絶対無理です!』と自信満々に断言までして、胸を張って言う台詞じゃありませんよって話ですよ」


「そうでございますね。人はいずれ自立しなくてはいけない生き物です。誰かに甘えてばかりでは、万が一一人で事を成さなければいけなくなった時、何もできなくなってしまうのでしょうから」


 凄いや、どの口がそんなことをほざきやがるのか。どんだけ図太い神経してんだ。


「流石ッスね女神メイド様。やっぱ神様に選ばれているだけあって、言うことが明確に的を射抜いていますわぁ」


「私は常識的に物を申しているに過ぎません。決して誇れるようなことではありませんよ」


 そうですね、一般論を(あたか)も自分の論のように扱って弁舌しているだけですね。


 仮に誇っていたとしたら、それは驕りってやつなんでしょうね。


「偉い立場でありながらも謙遜するとは、人間ができていますね女神メイド様。いやぁ、感服致しますわ」


「いえいえ、それほどでも」


 女神らしくそれっぽい口調と声のトーンを維持していたが、ベタ褒めされることで徐々に装いの仮面が剥がれていく。


 ……頃合いか。


「私のことはいいとして、もしその方に出会う機会があれば、私からも諭しておいた方が宜しいのでしょうね。無粋とは思いますが、もし宜しければその方のお名前を教えて欲しいのですが」


「えぇ、良いですよ」


 こっちから言おうと思っていたが、手間が省けた。ならばお望み通り答えてやろう。


「そいつの名前はミルクと言います。名前通りの白髪野郎なんで、見た目的には分かりやすいと思いますよ」


「そうですか、ミルク様と――え?」


 女神メイドが一時停止。突然ピタリと言葉が止まり、僅かな沈黙の時間が流れる。


「どうしました女神メイド様?」


「あっ……いえ……な、なんでもありません」


「急に歯切れが悪くなりましたね。もしかして、ミルクと知り合いの方だったり?」


「あ、いや、その……し、知り合いといいますか……で、できればこの事に関しては触れないでくれると助かります……」


「分かりました。それじゃ最後に、是非とも女神メイド様のお考えを頂きたい話があるので、聞いてくれませんか?」


「は、はい……」


「ありがとうございます。それでその話の事なんですが、ここまで話をしているので既に察していると思いますけど、何を隠そうミルクの今後の処遇をどうしようかと決め兼ねているんです。そこで女神メイド様の意見を一つ聞きたいわけなんですが、どうですかねぇ?」


「処遇……ですか。ち、ちなみにビャク――匿名様は今どのように考えられているのでしょうか?」


「そうですねぇ……。ぶっちゃけあいつがいると邪魔で邪魔で仕方ありませんし、しかし突き放そうにも向こうは絶対に縋り付いてくる。それを踏まえた上で考えると、世間にバレないように抹消するしかないかなぁ……」


「抹消とは……?」


「言葉通りの意味ですよ。抹消です。要は消すんです。明確な手段はまだ考えてませんけど、方法はいくらでもありますしね。いずれ時間を取って綿密に考えますよ」


「…………」


 再び沈黙し、女神様がガタガタと肩を震わせているのが見えた。


「どうしました女神メイド様? 何やら挙動不審なようですが」


「い、いえ、至って私は普通ですよ。そんなことより、私の意見を述べて欲しいとのことでしたね」


「そうですね。嘘偽りなく、本音で語ってください」


「……まずはそのミルク様――さんという方の気持ちになって考えてみてください。匿名様の言う通り、その方は足を引っ張ってばかりの足手まといなのかもしれません。ですが、彼女は彼女なりに日々努力を積み重ねている節があるのではないでしょうか?」


「あ〜、確かにそういうところもあるかもしれないですね。流石は女神メイド様、まるでミルク本人が喋っているように聞こえますなぁ!」


「ききき気のせいですよ。それよりそのミルクさんのことですが、彼女も好きで匿名様の足枷になっているわけではないと思うのです。いち早く匿名様の役に立てるよう、何かしらアクションを起こしているのではありませんか?」


「ならば逆に聞きますが、その例えとは?」


「例えば……その方が朝早くに散歩に出掛けたとします。するとその散歩中、偶然スカウトマンに出会って『君なら億万長者のメイドになれる素質があるとおじさん見込んだんだよねぇ』とメイドスカウトされ、本日開催されているメイ活の場にて資金を稼ぎます。そしてその資金を匿名様に献上し、ミルクさんはこう言うのです。『私もやればできる子なんです!』と」


「……で?」


「しかし現実はそう甘くなく、ノーマルメイドの基本的なお仕事は水商売。挙げ句の果てに身体を売る仕事が最後の決定打になっていたことを現場に来て初めて知り、ミルクさんは激しくその仕事を拒みます。するとスカウトマンさんの態度が急に一変して、『だったら隅っこで懺悔室でも開いてろや』と突き放され、ミルクさんは従うことしかできず、あまりお客の運びが宜しくない懺悔室を開くこととなりました……」


「……成果は?」


「……現時点で二百六十ゴールドです」


 少し遠出の電車賃にすらならない金額。更にここで一つ疑惑が浮かび上がる。


「ちなみにその馬鹿はどうやってここまで来たんでしょうかねぇ?」


「ボディーガード付きのレンタル馬車をレンタルしました。そのお金はビャクト様の貯金を少々……」


 レンタル馬車は二百六十ゴールドなどという矮小な金額じゃ借りられない。


 つまり、働いて元を取るどころか、赤字になってしまったわけだ。


「……この世を彷徨いし愚かで浅ましい子羊よ。今ここで己の行いを懺悔なさい」


「あ、あの、立場が逆転しているのですが――」


「黙りなさい子羊よ。いいからとっとと懺悔しやがってください」


「…………はい」


 ミルクは両手を握って祈りの姿勢になり、深く深く頭を下げた。


「私は……ビャクト様のお役に立とうとしたところ、逆にまた金銭的な意味でご迷惑をお掛けしてしまいました。でも故意では無かったんです。私なりに勇気を出して、ビャクト様のためを思っての行動だったんです。今回の件は私の勇気を尊重して頂くことで許しを請いたいと願います……」


「……主は言っています」


 俺は席を立ち上がり、唾を吐き捨てて出口の扉を開いた。


「今後一生一人で勝手に働いてろやクソ女神。アーメン」


「ままま待って下さいビャクト様ぁ!」


 安っぽい懺悔室から退場したところ、懺悔室の木の壁が破壊されて大きな穴が空き、そこから大いに取り乱したミルクが四つん這いになって這い出て来た。


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい! 悪気は無かったんです! 私ならやれると思えてしまったんです! でもまさかメイドがあんな仕事をさせられるとは思ってもいなかったんですよ!


「知ったことか。アーメン」


「そんな殺生な!?」


 立ち止まらずにさっさとこの城から出て行こうとしたところ、ミルクが足に両手を回して縋り付いてきた。


「失せろ雑菌。金食い虫にもう用はない」


「せめて人間扱いしてください! お金のことに関しては申し開きもないですけど、この借金は働いて絶対に返しますから! それと黙って遠出していたことも謝りますから! なのでどうかご勘弁を!」


 慣れ親しんだ土下座で頭を下げる元女神。


 あまりもの必死さが見るに耐えない。婚期逃したアラフォー女かこいつは。


「ったく……。そもそもスカウトされた時に怪しむべきだろうが。何が億万長者だ、そんな上手い話があるわけないだろ。そもそもよく一人で付いて行こうと思ったな?」


「『貴女のような絶世の美女ならば、女神のようなメイドになることも夢物語ではないですよ!』と後押しされまして、まんまと乗せられてしまいました……」


「レンタル馬車だけに乗せられたってか。上手くねぇんだよ」


「え? 何の話ですか?」


「…………」


「あいたっ!? なんで今叩かれたんですか私!?」


「お前は本当に空気が読めないクソ女神だな……。おら、とっととウンターガングに帰るぞ」


「は、はいぃ……」


 そういやルティーナも探さないといけないことを思い出して、半壊した懺悔室を後にする。


「……?」


 そのまま未成年エリアから出て行こうとしたところ、扉の奥の方から何やら騒がしい声が聞こえて来た。


「何かトラブルでもあったんでしょうか?」


「さぁな。大方また何処ぞの馬鹿が破産したんだろ」


 またあの不健全エリアを通ることに嫌気が差しながらも、特に何の警戒もせずに扉を開いた。


 刹那、扉の向こう側から刃物を持ったメイドが襲い掛かって来た。


「うぉっ!?」


 自慢の反射神経で横に飛んで避け、ギリギリのところを何とか回避。


「わぁぁぁ!?」


 しかしメイドはそのまま前に突き進み、今度はミルク目掛けて襲い掛かろうと刃物の刃先をミルクに向けた。


「次から次へと何だってんだ今日は!?」


 立ち往生せずに空かさずメイドの背後まで飛び込んでいき、そのままメイドの背中を両手で掴む。


 強制的にメイドの動きを止めて、ミルクの鼻の先まで迫っていたナイフの手がピタリと止まる。


「そらっ!」


 メイドの身体を勢い良く頭上へと持ち上げて、背中から思い切り地面に叩き付けた。


 微かに痙攣を起こすと手からナイフがすっぽ抜け、メイドはピクリとも動かなくなった。


「はわ、はわわわ……」


 突然の奇襲にミルクは腰を抜かして、顔面蒼白になりながら尻餅をついていた。


 間一髪だった。後少し俺が助けに入るのが遅かったら、あいつの鼻に風穴が空いていたことだろう。


「ついに乱心したかあいつら? 金に目が眩んだ人間ってのは悍ましいもんだな」


「そんな様子じゃありませんでしたけど!? お金より命を奪いに来てたじゃないですか!」


「冗談だっつの。どれどれ……」


 気を失ったメイドの様子を確認してみると、額のところに妙な紋章のような印が刻まれていた。


 襲い掛かって来ていた際に白眼剥いてたし、このメイドは明らかに正気ではなかった。


 となると、考えられる可能性は自然と一つに絞られる。


「恐らくだが、人を操る系の魔法使いがいるな。何の目的があってこんなことしてるのかは知らんが」


「と、とにかく早くここから脱出しましょう! ここで油を売っていたらまた襲われますよ!」


「そうだな。ルティーナは……まぁあいつなら自己防衛くらい楽勝だろうし、ひとまず逃げることに専念するか」


 そう言って今度こそ成人エリアへの扉を開くが、走ろうとしたところでミルクが動いていないことに気付く。


「……何してんだ」


「すいません、腰抜かして立てなくなってしまいまして……」


「そうか。短い付き合いだったな」


「後生ですから担いでくださいお願いします!」


 どこまで足を引っ張れば気が済むのやら……。

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