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俺の枷共(パーティー)は煩わしい  作者: 湯気狐
三章 〜ドMメイドとメイ活騒動〜
24/45

森の中の変質者

「ゼェ……ゼェ……さ、流石に俺でも息が荒くなっちまうか……」


 森の入り口に着いてからどれくらい時間が経過したんだろうか。


 休む暇も無しに襲撃を繰り返して来た鳥を一匹一匹対処している内に、空は夕焼け空になってしまっていた。


 周りにいた鳥達を全て仕留めるのは容易いことだったが、まさか群れが更なる群れを呼びつけてくるとは思わなかった。


 この森に生息している鳥達は粗方片付けたのではないか、と思わせられるくらいの大群だった。


 奇跡的に擦り傷一つ負うことなく済ませられたが、これから森に入るって時に身体は既に疲弊し切ってしまっている。これほどまでの疲労感を感じるのは何年振りだろうか。


「二千と八百十七羽……。一羽も残さずに仕留められただなんて、やはり私の目に狂いは無かったわ。ダーリンは正真正銘の強者ね」


 実に良い笑顔でニコニコしている外道に向けて、ここまでよく働いてくれた警棒をぶん投げる。


 思い切り額にぶち当たるも、ルティーナはケロッとしていた。


 たんこぶ一つすら膨らまないところを見ると、例の魔法防壁を予め張っていたんだろう。


「本当に一切手出しせずに傍観者になりやがって! お前のせいで一日が無駄になっちまっただろうが!」


「でもこの戦いでダーリンは大きくレベルアップしたと思うわ。新たな固有魔法の会得に繋がることを考えたら、前向きに考えられると思わない?」


「思わねぇよ! いつ誰が修行旅なんてしたいと言った!? 大概にしろよお前! そろそろ本気でしょっぴくぞ!」


「それはそれで面白そうね。どうやって私をしょっぴくつもりなのか見物だわ」


「前向きに善処するな!」


 まさかこの調子で今後も旅が続くのか? このままじゃいつまで経ってもサーヴァントになんて辿り着けるわけがない。メイ活の日にも間に合わず、無駄足踏むことだけは御免被る。


 仕方無い。極力危ない橋を渡りたくはなかったが、一日でも早く辿り着くためには手段を選んでいられない。


 倒れている鳥の群れの中から立ち上がり、馬車に戻って手綱を引く。


 鳥達も数時間で目を覚ますだろうし、さっさと先へ進まねば。善は急げ、だ。


「あら、今日はここで一旦打ち切りだと思っていたのだけれど」


「本来ならそうしているところだが、お前という不穏分子のことを考えて、一刻も早くサーヴァントに行くことを最優先事項にしたんだよ。お前がジッとしていられるなら話は変わるんだがな」


「フフッ、できたら善処するわ。できたら、ね」


「その言い方で信用を得られると思ったか?」


 夜の森。異界に限らず、現代の視点からしてもかなり危険な時間帯だ。


 森に生息している魔物となると、大抵が夜行性に違いない。


 陰湿だったり、凶暴であったりと、昼間に見るような大人しい草食系の魔物とは比べ物にならない悪しき存在。


 果たしてこの旅でどんな魔物に出会うことになるのか、それはまだ定かではない。


 夕方で日がまだ上がっていたが、森の中に入ると空が草木に包まれた。


 沈もうとしている太陽の光は一切差し込んでこず、先へ進んで行くに連れて何も見えない暗闇の景色に様変わりしていく。


 少しでも周囲を明るくするために、馬車の席の側に掛けてあるランタンを手に取り、リュックの中からマッチ棒を取り出して火を付けた。


 次第に火は強さを増していき、馬車の周りを一通り見渡せるだけの明るさができた。


 だが、先々まで見えるようになったわけではなく、危険要素に満ちた夜の森であることは揺るぎない。


「緊張しているわねダーリン。リラックスにマッサージでもいかが?」


「間に合ってます」


「なら気を抜くために軽く柔軟を」


「結構です」


「フフッ、別のものをヌイた方が良かったかしら?」


「少し黙っててくれませんかね」


「吹かせるくらいの技術は備えているつもりよ」


「人の話聞けや」


 こちとらいつ如何なる時でも動けるように気を張っているというのに、防壁魔法をお持ちのクソビッチがベラベラと話し掛けてくる。


 隙あらば耳元に近付いて来ようとするし、気を張らなくても自分の身体を守れる奴は余裕で恨めしい。いっそ俺が不意打ちでも仕掛けてやろうか。


 先程まで吹いていた風の音が止み、無音の空間に包まれる。


 草木がガサつく音すら聞こえてこず、魔物の気配は全く感じられない。


 ひょっとしたら、俺が相対していた鳥の魔物は、この森に生息する魔物の大半だったのかもしれない。仮にそうだとしたらこちらとしては助かるのだが……。


「…………うわぁ」


 森道を抜けて広い場所に出る。


 大きな川が流れていて、一本だけの橋が見えた。


 ただ、その橋はどう見ても冒険にありがちな装飾だ。


 横に幅広くはあるのだが、材質が木製で出来ているのだ。


 大きな橋を作るのならコンクリートを使えという話なのだが、どうしてこの世にはこういう橋が未だに実在しているのか。これもまた、世に蔓延る謎の一つである。


「渡れんのかこれ? 見るからに不安なんだが」


「大丈夫なはずよ。見掛けに反して頑丈にできているはずだもの」


 ぴゅうと少し強い風が吹く。


 俺の不安を更に煽るかのように、橋がガタガタと音を鳴らして揺れていた。


「大して強くもない風で結構揺れてるんですけど」


「問題ないわ。あれは所謂パフォーマンスみたいなものよ」


 信憑性皆無の発言により、不安は膨張するばかり。


 馬車から降りて、そこら辺に落ちていた丸太を持ち出す。


 橋の前に立ち、強過ぎない力で丸太を放り投げてみた。


 丸太が橋に接触した瞬間、バキッという不吉な音が鳴る。


 橋の一部に穴が開いて、丸太は真っ逆さまに下の川へと水没した。


「そこそこ大きい丸太投げてアレなんですけど」


「どんな物にも必ず脆い部分がある。今ダーリンが丸太を投げた箇所は、橋の脆い一部分だったのよ。一発で見抜くだなんて、ダーリンの洞察力は底知れないわね」


「……お前ちょっと渡ってみろよ」


「えぇ、良いわよ」


 ルティーナはランタンを手に取って馬車から降りると、断ることも怯えることもなく橋の上を歩いていく。


 ある程度のところまで歩いたところで立ち止まるが、橋に穴が開くようなことはなく、何事もなくすんなりと歩けていた。


「ほら、だから言ったでしょう? 見掛けによらず頑丈なのよ」


「…………」


 最後の確認として、ルティーナが歩いていた後を追う形で、俺も橋の上を歩き始めた。


 バキッ


 不吉な音、再び。歩き出してから三歩目で橋を踏み抜いてしまい、寸前のところで両手を伸ばして落下を逃れた。


 そして、下半身が突き抜けて視点が低くなったことで気付いた。ルティーナの足裏が若干浮いていることに。


「フフッ、悪運が強いわねダーリン」


(はらわた)引き摺り出したろかクソ(あま)ァ!!」


 無殺の誓いを立てていなかったら、一目散にその寝首を掻っ切っているところだ。


 なんとか穴から這い上がって馬車の方へと引き返す。


 この分だと、この橋を渡るのは不可能だ。他の道を探すしかない。


「この橋以外に道はあるのか?」


「そこまでは知らないわ。他の橋か、道が繋がっている場所を探すしかないわね」


 橋の一つくらいまともに整備されていればこうはならなかったのに、また面倒なことになってしまった。


「取り敢えず、川に沿って移動しましょ」


「かなり怠いが、それしかないか……」


 再び馬車に乗って手綱を手に取り、滑って落ちないように細心の注意をしながら川を沿って移動する。


 それからしばらく進み続けてはみたものの、橋も道も何処にも見当たらない。大きな川が永遠と続いているだけだ。


「詰んでないかこれ。このままだと道から逸れ過ぎて迷子になり兼ねないぞ」


「そうね」


「『そうね』ってお前な……。他人事のように考えてんじゃねぇよ。魔法で道を作ったりとか、そういう機転を効かせられねぇのか」


「それくらいなら容易いことね」


「だったら最初から使えや!」


 そんな都合の良い魔法を使役できるというのに、さっきは俺が橋に落ちるように誘導していたってことなのか。つくづく抜け目ない奴だ。


「とっとと橋作れ。こんなところで足止めくらってる時間はないんだよ」


「何でも魔法に頼る考え方はあまり好ましくないわ。ダーリンならこの程度の逆境くらい、簡単に跳ね除けられるはずよ」


「道案内以外に何かしようと思わないのかお前は!? 俺の足枷になってる自覚が少しでもあると思っているんなら、多少なりとも力を貸してくれませんかねぇ?」


「……ごめんあそばせ」


「しゃらくせぇこいつ!」


 もういい分かった。この旅においては、二度とこいつをアテにしない。俺一人だけでどうにか凌ぎ切ってやる。


 とは言え、このまま橋探しをしていてもジリ貧だ。


 馬車はレンタルしたものだから置いていくことはできないし、やはり馬車ごと移動する手段を選ばないといけないわけだが……。うぅん、何も良い手が思い付かない。


 そこそこ大きな魔物が現れれば、威圧して調教してから乗り物として利用できるが、その肝心の魔物が一切出てくる様子がない。まさか鳥しかいない森だったりしないだろうに。


「あ〜……なんかでっかい奴とか出て来りゃいいのに……。なんて、こうしてフラグを立てていたらいきなり出てくる可能性も捨て切れな――」


 と、冗談半分で呟いていた時、それは突如姿を現した。


「うぉっ!? なんだなんだ!?」


 大きな地鳴り音が森の中で響き渡ったと思いきや、人型を形取り、白く発光した謎の物体が川の中から飛び出して来た。


 物体のあちらこちらには、何匹もの魚が牙を立てて噛み付いている。


 当然と言えば当然だが、川の中にもあんな魔物が生息していたらしい。


 ……って、そんなことはどうでもいい。まさか俺の願い通り、新手の魔物が襲撃しに来てくれたとか? だとしたら願ったり叶ったりだが……。


「あれはゴーレムね。それも、誰かに召喚された魔物みたいよ」


「ゴーレムって、石で生成されてる巨大な怪物みたいなやつだよな? それと召喚された魔物ってどういうことだ?」


「魔法のカテゴリーの一つとして、召喚魔法という術があるのよ。契約を交わした魔物に限り、自分の所有物として行使することができるの」


 それはまた強力そうな魔法だ。


 と言っても、俺とは無縁の魔法なのだろうが。


「でもなんであれが召喚された魔物だって分かるんだよお前。またいい加減なこと言ってるんじゃねぇだろうな?」


「召喚士によって召喚された魔物は、本来の魔物とは魔力の質が変わっているの。契約を交わした魔物は、体内にその契約者の魔力が混ざることになる。だから容易く見分けられるってわけよ」


「ふーん……。で、その召喚士ってのは何処にいるのか分かるのか?」


「分かってはいるけど、それを簡単に教えてはつまらないでしょう?」


「……ソウデスネ」


 自分の力で見つけろ……ね。


 上等だ、やってやろうじゃないか。辺り真っ暗で人探しするには絶望的な状況だけどな!


 馬車から降りて、そこそこ大きな丸太を再び持ち出す。


 向こうはまだこっちに気付いていないご様子。不意打ちを掛けるには絶好のタイミングと見た。


 狙いは後頭部。大きく足を開いて丸太を頭上に持ち上げ、溜まりに溜まっているストレスを物理的な力へと変換し、筋肉に注ぎ込む。


「ほっ!」


 大声を出さないように意識して、槍投げの要領を思い浮かべながら思い切り丸太を投擲した。


 ドリルのように回転しながら飛んで行く丸太は、吸い込まれるようにゴーレムの後頭部に炸裂した。


 しかし予想以上に硬度があったようで、丸太は貫通するどころか突き刺さることもなく、奈落の川の中へと落下してしまった。


 寂れたカラクリ人形のようにゴーレムの首が動く。


 機械人形のような顔が見えたと思いきや、俺の姿を捉えた瞬間に目が怪しい光を煌めかせた。


 ノロノロした亀のような動きで俺の方へと歩み寄って来る。


 でかい図体な上に石でできているからか、移動速度が非常に乏しい。あの程度であれば恐るに足らん。


 全力で跳躍すれば届く距離まで近付いて来たところで、妙な構えで右手を近付けて来る。まるで何かを摘んでいるかのような……。


「……ん?」


 反撃してくるかと思いきや、そういうわけではなかった。


 俺が思っていた通り、ゴーレムのサイズには見合わない物を手渡ししてきた。


 それは、何かが記入された一枚の紙だった。


 内容は――こうだ。




『棒を刺すならお尻の辺りに深めでお願いします』




 この場合、どう返せばいいのでしょうか。


「……おい、術者がいるなら出て来い」


 取り敢えず敵意は感じられないので、召喚士ご本人を呼び出ししてみる。


 すると、ゴーレムの口がパッカリと開かれると、中に召喚士らしき人物が見え、俺の呼び掛けに応じて四つん這いで這い出て来た。


「ハァ……ハァ……どうもです……」


 高揚して赤くなった頬。だらだらと溢れ出す唾液。ギンギンに血走った眼球。その人物は紛れも無く、変態であった。


 しかも相手は俺と同い年くらいであろう女の子。フリルのついた純白のエプロンが際立つメイド服を着ていて、黒髪のシンプルなショートボブという在り来たりな髪型で、白いナプキンを頭に被り、掃除用の長いブラシを握っている。


 本物のメイドだ。何処からどう見ても正真正銘のメイドさんだ。


 しかしそれ以上に彼女が変質者であることを、その風貌が物語っていた。


 俺は何も見なかったことにして、白い目をしたまま馬車の方へと引き返す。


「あぁっ!? 待ってくださいビャクトさん! どうか! どうか今の一撃をもう一杯だけ!」


 会話の一つも交わしていないはずなのに、どうして彼女は俺の名前を知っているのか。これだから変質者ってやつは得体が知れなくて怖いんだ。


「俺の本能がお前と関わってはいけないと語り掛けてきてるんで。用件は失せたから()ね」


「はうっ!?」


 辛辣な物言いで返してみると、変質者は自分の胸を押さえながら仰向けに倒れた。


 荒い息遣いが更に激しくなり、ニマニマと気色悪い笑みを浮かべている。


「一方的に襲撃を仕掛け、挙げ句の果てには謝りもせずに冷酷な言動で突き放す……。良いっ! 止めど無き躍動感が私を何処までも高ぶらせてくれます! 背筋がゾクゾクして堪りません! えぇ堪りませんとも!」


 人間って堕ちるところまで堕ちるとあんな風になってしまうのか。人生を踏み外した人間の末路って恐ろしい……。


 一人悶える変質者を捨て置き、今度こそ馬車の方へ戻ろうと回れ右をする。


「ちょ、ちょちょちょちょっと待ってください! すいません取り乱しました! ここからは真面目にお話するので逃げないでください!」


 戻ろうとする寸前のところで、ゴーレムが腕を伸ばして来て道を遮られた。


「どけ変質者。変態と話すことなど何も無い」


「変質者ではありません。快楽を求めることに忠実な駄犬と言ってください」


「どっちも大して変わんねぇよ!」


「いいえ、そんなことはありません。人の肩書きというのは、言い方一つで大きく揺れ動きます。変質者は世間では犯罪に触れるような行動を引き起こしている一方ですが、私の場合は決して法に触れるようなことをしていません。言うなれば、健全な変質者と言ったところでしょうか」


「結局は変質者なんじゃねぇか! 変質者に健全もクソもあるか!」


 変質者の語る理論は無茶苦茶だ。人によってはこの訳分からん話術で説得されていることだろう。


 そうして間違った知識が世に広まり、常識に捉われない変質者が量産されていくのかもしれない。それはまさに負の連鎖である。


「で、俺に用ってなんだ。言うなら早く言えや」


「用も何も、私が言いたいのは先程の奇襲についてですよ。いきなり棒を突き刺して来るだなんて、どれだけ素晴らしい神経をお持ち――じゃなくて、何が目的であのようなことをしてきたんですか?」


 正直なことを言うと、こうもあっさりと召喚士が出て来るとは思っていなかったから、この後のことを何も考えていなかった。


 悪意のある人間が相手なら、ある程度痛め付けて強制的にゴーレムを利用させてもらっていたが、相手はまさかの善悪に捉われない変質者。正直に話していいものだろうか……。


「あ〜……いや〜……逆にお前は川の中で何してたんだ? いきなり巨大な物体が出て来たもんだから、こちとら驚いて先制攻撃しちまったじゃねぇか」


「あっ、そういうことでしたか。それは申し訳ありません。私はですね、川の中で実験をしていたんです」


「はぁ……。何の?」


「アラシャークの群れの噛み付き具合がどれほどのものかという実験です。小、中、大、悶絶、絶頂の五段階に分けて評価しているんですが、今回は大したことなかったですね。ストレートに言ってしまうと小以下ですよ」


 アラシャーク……ゴーレムに噛み付いている魚のことだろうか?


 その実験の評価が何を指しているのか気にはなるが、聞かないでおこう。聞けば長話に持ち掛けられそうだ。


「もう一つ質問だ。なんで俺の名前を知っている? 俺のストーカーとかそういうオチだったらぶっ飛ばすぞ」


「知ってるも何も、ビャクトさんはウンターガングの有名人じゃないですか。今ぞ知らない人はいないと思いますよ。と言っても、ウンターガングの住民に限りますが」


「てことは、お前はウンターガングの出身なのか?」


「えぇ、そうです。私は何度かビャクトさんの姿を見たことがあるのですが、自分の妻を虐げるあの光景を思い出すと今でも……フフフフフッ……」


「キモいなお前」


 今更かもしれないが、何となくこの声を何処かで聞いたことがあることを思い出した。


 ギルドで周りから言葉責めを受けていた時、その中に一人だけ妙な発言をしている変態が混じっていたことがあった。その正体が恐らくこいつだったんだろう。


「ところでビャクトさん。何故こんな森の中にいるんですか? しかも夜中は魔物が活性化する時間帯です。まさかとは思いますが、ビャクトさんも未知なる快楽の探求を――」


「なわけあるか! 俺はサーヴァントって街に行こうとしてる途中でな。一刻も早く向かうために、夜中の危険性を考慮した上で移動してたんだよ」


「それは奇遇ですね。実は私もサーヴァントに向かう途中だったんです」


「お前も……?」


 つまり、単身で夜の森を移動していたってことか。


 見た目はただのメイドそのものだが、実は隠れた実力者なのかもしれない。


 これだけでかいゴーレムを召喚しているのが、その根拠と言えよう。


「その格好から察するに、メイドの方でメイ活に参加するってところか」


「その通りです。メイドを雇いたいという人の中には、只々メイドを虐げて弄んでやりたいという鬼畜で無情な人がいるはずですからね。そんな人に是非出会いたいがために参加する、というのが私の目的です」


「うわぁ……」


 思わずそんな声が漏れてしまうくらい、過去一番ドン引きした瞬間であった。


 人の価値観は人それぞれだから仕方無いのかもしれないが、こいつの場合は人生を棒に振るっているようにしか思えない。


 親が聞いたら号泣すること間違い無しだ。どんな育て方したらこんな風に成長してしまうのやら。


「ここで出会ったのも何かの縁です。ビャクトさんが宜しければですが、共にサーヴァントへ向かいませんか?」


「…………」


「露骨に嫌な顔……良いっ! 自然と乳首が立ってしまう程に!」


 やはり夜中に外を出歩くものじゃなかった。


 夜に活性化するのは魔物だけではなく、変質者という存在も該当していたことを忘れていた。俺としたことが盲点だった。


 それ以上は何も語らず、踵を返して馬車の方へと引き返す。


 ……と、思ったが、途中で足を止めて冷静になる。


 恐らく、さっきの橋以外に向こう岸へ渡る道はない。


 あるとしてもかなり遠くの場所なんだろうし、移動にそんな時間を割いている余裕はない。


 あいつは変質者ではあるが、巨大なゴーレムを召喚することのできる、言わば便利屋のような人物でもある。


 大いに気が引けるが、ここはあいつの提案に乗っておくべきなのかもしれない。


 ……嫌だなぁ。変質者は俺の身近な人物で間に合ってるというのに。


「…………お前、名前は?」


「シフォントリアと言います。長くて覚え辛いでしょうし、シフォンとお呼びください。または穀潰し、塵カス、ゴミ屑でも構いません。いえむしろそう呼んでくれた方がこちらとしては大いに望むところで――」


「うん、少し黙ろうか」


 油断すれば有無を言わさずに押し退けられそうだ。欲望や本能に逆らえなくなった者の末路は恐ろしいものだ。


「正直なことを言えば、俺は今向こう岸に渡れない状況下にあって困ってたところだ。お前のゴーレムは馬車一台持ち上げられる力はあるか?」


「それくらいのことでしたら造作もありません。では、ご同行させて頂くという形で宜しいのでしょうか?」


「……不本意だがな」


「不本意ですかそうですか。ならばその対応を常にキープしておいてください。そうすれば私は永劫にビャクトさんから蔑まれることになりますから。それは私にとっての極上のご褒美であり――」


「それはもういいっ!!」


 ルティーナという魔性の女に加え、成り行きで変質者が一名一時的にパーティーに加わることに。


 この出会いに後悔する日が訪れるのは、そう遠くない未来の話である。

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