貴方の童貞は私のモノで、私の処女は貴方のモノ
「なるほど。貴方様――もといダーリンは元殺し屋だったのね。それも期待のホープと言われた生粋の殺し屋。だからあれだけの実力を持っていたと」
「そういうことだ。これで俺の話せることは全部話したぞ。ちゃんと満足したんだろうな?」
「えぇ勿論。貴方に対する疑問が全て解消されたわ。素直に話してくれてお礼を言うわダーリン」
「お前が脅してくるから話す以外に選択肢が無かったんだろうが。それとダーリンって何だよ。お前の男になった覚えはねぇよクソビッチ」
数十分という時間を掛けて、仕方無しに洗いざらい自分の過去を打ち明けた。主に、出生から殺し屋修行の期間の頃の全てを。
絶対に話さないと思っていたというのに、魔女の魔の手が俺の不可侵領域にまで手を伸ばして来たことで、何もかもがこいつに筒抜けになってしまった。
屈辱だ。たかが数日知り合ったばかりの奴に貶められるだなんて、俺のプライドはズタボロだ。
家族以外に俺の秘密を知る者はこれで“三人”となった。
一人はもう会うことはないから良しとして、問題はミルクとルティーナの二人だ。
ミルクは天然で口を滑らせる可能性があるし、こいつは秘密を守ると言っていたが確証がない。
俺の秘密を知られた以上は、ルティーナも俺の身元から離すわけにはいかなくなってしまった。
後で契約破棄しようと思っていたが、それは急遽取り止めだ。
大いに不愉快ではあるけれど、今後はこいつも連れの一人ということになる。
……また枷が増えてしまった。しかも勘の鋭い魔性の女という、女として史上最悪のカテゴリーに属する女狐が。
「とにもかくにも、納得したなら俺の話は終わりだ。今度こそお前の話をしてもらうぞ」
「えぇ、良いわよ。もう嘘も隠し事もするつもりはないし、好きなだけ聞いて頂戴」
急に潔くなられると逆に不気味に感じてしまう。
だがずっと待ち望んでいた機会だ。こいつにも洗いざらい吐かせてやる。
「まず、お前が何者なのかを説明しろ。ただの奴隷ってわけじゃないんだろ?」
「うーん、そうね……。何から話せばいいのか迷うけど、まずは手っ取り早く“これ”を見せた方が良さそうね」
ルティーナは俺の顔の真正面に自分の顔を寄せて来ると、髪を掻き分けて前髪で隠れていた右目を見せて来た。
「……魔眼?」
ルティーナの右目は、眼球が真っ赤だった。
瞳孔が縦に細長くて、それはまるで人ならざる魔獣のような悍ましい目をしている。
「本当は羽や角もあるのだけれど、それは“カモフラージュ”という魔法で普段は隠すようにしているの。ディアヴル族って聞いたことはあるかしら?」
「いや全然」
「それは珍しいわね。これでも歴史に名を残すような種族なのだけれど。もしかしてダーリンは世情に疎い人だったり?」
「悪かったな無知で」
この世界に来たばかりの俺が種族なんて知るわけないだろ。
でもまさか魔族という生き物まで本当に存在しているとは、ようやく異界らしい者と巡り合ったようだ。
「ディアヴル族は世界で最も魔力に長けた一族なの。その膨大な魔力の素質もあって、大概のディアヴル族は絶大なる魔法を使える人達ばかりだったわ」
「てことは、お前もやっぱそうなのか?」
「えぇ。それに私の場合は更に特殊で、身体そのものが魔力を無効化してしまう体質なの。つまりはこの首輪も、ご覧の通りよ」
首に嵌められている首輪を指で摘むと、ポロリと簡単に外してしまう。
奴隷オークションに出ていたくせに、そもそも奴隷として成立していなかったらしい。
「奴隷の首輪ねぇ……。ま、お前の首輪が首輪として仕事してないことは分かっていたがな」
「あら、そうなの?」
「当たり前だろ。お前はいくらなんでも自由過ぎたからな」
気付いたのは、こいつを初めて宿に連れて来て四人で会話していた時だ。
俺は何度かこいつに命令していたのに、一度たりとも首輪が作動していなかったのだ。
全部ルティーナ自身が自ら話をしていたし、それでバレないと思わない方がおかしいだろう。
「で、ディアヴル族だったか。お前以外の同族達は今何処で何してるんだよ」
「いいえ、私以外にディアヴル族はもう存在していないわ。大分昔に全員殺されてるのよ」
「は? な、なんでだよ!?」
「ディアヴル族という種族は、魔力が高いことだけが特徴じゃない。むしろ、もう一つのタチの悪い特徴こそがディアヴル族の本分であり、その名を世に知らしめていったのよ」
「……その特徴ってのは?」
「ディアヴル族は、誰もが強い野心を持っていたの。そしてそれを叶えるためなら、ディアヴル族は決して手段を選ばない。要は意固地な種族なの」
なるほど、それは納得できる。こいつがどんな野心を抱いているかは知らないが、こうして手段を選ばずに俺を襲って来ているんだし。
「大抵のディアヴル族は、世の人々を自分の支配下に置くことを考えていたわね。つまり、世界の支配者を目指していたってわけ。そのためディアヴル族は多くの町や村を襲撃していたわ」
「ということは、お前もその襲撃に加担していたのか?」
「いえ、私は世界の支配になんて興味無かったもの。それにディアヴル族が本格的に暴れていた頃、私はまだ子供だったわ。と言っても、ディアヴル族は子供の頃から自在に魔法を駆使できるのだけどね」
とんでもない子供がいたもんだ。世界の支配に興味が無いだけ、まだこいつはマシだと言えるけど。
「人が暮らす多くの場所を襲撃して回っていたディアヴル族は、やがて魔王と肩を並べるまでの凶悪な魔族として世間で認識されるようになったわ。でもそれがディアヴル族の運の尽きとなった」
「ふーん……。ギルドの総本部がディアヴル族退治専用の部隊でも編成していたとか?」
「総本部が動いたのはそうだけど、特殊部隊を編成していたというわけではないわ。というのも、あの魔王を倒したと言われている勇者を派遣したのよ。ディアヴル族を一人残らず駆逐してくれと、総本部が勇者に莫大な資金を提供して」
要は金で勇者を雇ったわけだ。
最善の策と言えるんだろうが、個人的に気に入らない。
勇者ってのは見返りを求めない器だと思っていたのに、ちゃっかり大金を頂戴しているところとか。
「そうして、ディアヴル族は派遣された勇者と戦うこととなった。三日三晩続いたその戦いの結末は、ディアヴル族による敗北。戦っていたディアヴル族は勿論のこと、戦いに加担していなかったディアヴル族まで勇者によって始末されたわ」
「加担していない奴らまで……?」
なんて野郎だ。戦う意思のない奴らの命まで奪うだなんて、どうかしているとしか思えない。きっとその中には女や子供もいたことだろう。
弱い者を淘汰して何が勇者だ。洒落になってないし、笑えない。一度その無情な顔を拝見してみたいものだ。
「でもなんでお前だけは生き残ってんだ? まさか偶然お前だけ皆の元から離れた場所にいたとか?」
「いいえ違うわ。私は戦うことを選ばず、逃げて身を潜めることを最優先したのよ。気配と姿を殺す魔法を駆使して、どうにかやり過ごすことができたわ。と言っても、守ることができたのは自分の命だけ。他の命やディアヴル族の里は全て滅んだわ」
「…………」
壮絶過ぎる過去を耳にして言葉を失った。
その過去の出来事もそうだが、どうしてこいつは平気な顔してそのような過去を話すことができるのか。疑問が更なる疑問を生み出してしまう。
「お前は今でも勇者を恨んでいたりするのか? その……家族も全員勇者に殺されたんだろ?」
「えぇ、そうね。父親、母親、兄弟に姉妹と大勢いたけど、一人残らず殺されていたわ。でもそれは当然よね。私の家族は全員戦いに出ていたんだもの」
「そりゃそうだが……。お前ドライ過ぎやしねぇか?」
「当たり前じゃない。私は家族に対して愛情なんて抱いていなかったもの。それは向こうも同じだったことよ」
「冷めてるっていうか、辛辣だなお前の家系……」
クソ親父を筆頭とした俺の家族も大概だが、一応俺は家族としてそれなりの扱いは受けていた。
まぁ、それも全て俺を一人前の殺し屋にするための手段の一つでしかなかったんだが。
「私の家族は、私のことを武力の一つとしか思っていなかった。世界征服なんてつまらない幻想を抱いていて、実に滑稽で愚かしい連中だったわ。私は私で今も変わらぬ叶えたい野望があったから、生き残るために最善の手段を選んだってだけよ」
「同じディアヴル族である以上、そりゃお前にも目的があるんだろうな。で、世界征服なんて企んでいた連中達の中で育っていたお前は、一体どんな夢を持ってるってんだ?」
「…………フフフッ」
何を思ってか、すぐには言わずに不気味に笑って間を開ける。
そしてルティーナは、俺が本命として聞きたいと思っていた秘密の正体をついに暴露した。
「私の野望……。それはズバリ、処女を卒業することよ!」
空気が固まった気がした。
「……何て?」
「処女を卒業することよ!」
「…………はぁ」
こいつが何言ってるのか分からなくなってきた。
「えーと……何? お前の種族は世界征服を目論むような危険種なのに、そんな奴らの中でお前一人だけは……?」
「処女を卒業したいと思っていたわ」
おかしい……流れ的に思ってたことと全然違う。
変人であることは重々理解していたけど、まさかここまでイカれてる奴だったとは思わなんだ。
「やっぱお前ただのビッチだろ! 何が処女を卒業したいだっつの! だったら尚更、裏の世界の風俗店の
お世話になればいい話だろうが!」
「さっきも言ったけど、私の処女を捧げる相手は誰でも良いわけじゃないのよ。ダーリンのような“化け物”が相手じゃないと、この純潔は捧げられないわ」
ビッチ臭丸出しな恰好した奴が純潔とか言ってるんですけど。身の程を弁えて発言して欲しいんですけど。
「その化け物ってなんだよ? なんで化け物相手じゃないと駄目なんだ?」
「フフフッ、ついに聞いてしまったわねダーリン。良いわ、教えてあげる」
より一層発情度が増したかのように鼻息を荒くさせると、ルティーナは一度俺の元から離れて立ち上がり、月明りが差し込む窓の前へと移動する。
「魔物や魔族が人間を淘汰し、逆に人間はその逆境に抗う。それはまさに弱肉強食の世界。ディアヴル族として生を受けたこともあり、私は今まで何度もそういう光景を目にしてきたわ。そして、そんな中で生きていた私は、生き物の無様な姿を幾万という数も見て来たわ」
ルティーナはつまらなそうに鼻で笑い、明後日の方角を見ながら物思いに耽る。
「命が危機的状況に陥った時にする、命乞いという行動。人間も魔族も、自分が今まさに死に掛けているという際、決まってこう叫んでいたわ。『何でもしますのでどうか命だけは』と。なんて脆弱な奴らばかりなのと思ったわ。何せ、世界征服を目論むようなディアヴル族でさえ、最後にはそんな弱々しい戯言を吐き捨てていたんですもの」
「死ねば何もかもが終わりだからな。俺としても命乞いは御免だが、他に生き残る術がない以上は仕方ないことだったんじゃねぇか?」
「そうだとしても、せめて私と同じ魔族達には気高く死んでもらいたかったわ。最後に見せるのが弱みだなんて反吐が出る。そういう奴らばかりをこの目にしていたせいで、ディアヴル族が全滅した時から私は欲求不満になっていった。私の周りには惨めな弱者しか存在していないのか……ってね」
話の根本が見えてこない。その流れからどう処女云々に結び付くのか。
「それから私は自分の正体を隠しながら、一人で世界を彷徨い続けた。私が今まで見て来た惨めな奴らを遥かに超越する、絶対的な強者をこの目で拝むために。そしてついに私は、その人物との邂逅の日を迎えた」
語り出した時から平静を取り繕っていた顔がまた崩れて、口の端から涎を垂らしながらルティーナはすすり笑う。
「あれは確か、魔物が多く蔓延っていた無名の森だったかしら。偶然私は、四人の冒険者達が魔物と戦っている場に遭遇したの。戦況は冒険者達の劣勢。既に三人の冒険者がやられていて、残っていた男は一人でありながらも魔物を倒そうとしていたわ。でも魔物は冒険者達よりも一回りも二回りも巨大な化け物。それにその男の武器は何の変哲もない剣が一本だけ。勝敗は目に見えていたわ」
垂らす涎の量が増して、次第にすすり笑う顔が濃くなっていく。
目の色が変わるように眼球を見開き、呼吸困難に陥っているような息遣いの荒さで捲くし立てる。
「だがしかし! そんな絶対的絶望な状況でありながらも、冒険者は決して諦めてはいなかった! 最後の最後まで己の可能性を信じ続け、そして最後には絶望的状況を覆し、満身創痍になりながらも屈強な魔物を倒してしまった! その瞬間をこの目で見た時、全身に稲妻が迸るような感覚で、ずっと私の中に眠っていたであろう本能が脳裏を走った! 身の毛がよだつ程に震え上がる高揚感! 背筋をぞくぞくとさせるどうしようもない躍動感! そう! その日を境に、性への欲求がついに爆発したのよ!!」
「…………へぇ」
力の無い掠れた声が漏れる。
要は、その男に恋心を抱いたってことなんだろうか。
初恋は突然やってくるとは聞いてはいるが、キッカケが思っていたよりも平凡というか……。
「誰にも覆すことのできない絶対的な武力を誇る化け物も良い。だけど私は、恐れを抱くことなく絶望に抗おうとする精神を持った者もまた、屈強であることを知ってしまった。そのきっかけがトリガーとなり、すぐに私はその冒険者に言い寄ったわ。今すぐ私の膜を突き破りなさい、とね」
「……で?」
「でも駄目だったわ。その頃の私はこうして右目を隠していなかったから、ディアヴル族であることを見抜かれて襲われてしまったの。ただ、私と戦うことでまたさっきの強さを見せ付けてくれるかもしれない。そう思った私は、容赦なく本気で冒険者と交戦したわ」
魔物と戦った後な上に、満身創痍だった冒険者のことだ。きっと完膚無きまでに叩き潰されたに違いない。
「しかし結果は私の圧勝。試しに『何か言い残したい言葉はあるかしら?』と聞いたところ、がっかりなことにその冒険者は、最後の最後で私に命乞いをしてしまった。だから私は、その“男”を殺したわ」
「殺っ……」
なんて嫌な死因だ。『私の前で格好良さを見せ付けられないなら死ね』と言われているようなものだ。
自己中、横暴、そんな言葉がこいつにお似合いだ。流石は意固地なディアヴル族。
「その時は駄目だったけど、私はそんな強さがあるということの可能性を知った。それから迷うことなく私は、最強の武力を携えた化け物や、揺ぎ無い屈強なる精神を持った化け物を探す旅に出た。全ては私の処女を強者へ捧げるために」
「でも今に至るってことは、結局はまだ見つかってないんだろ?」
「様々な手を使って強者探しをしていたのだけれど、結果はどれも半端者ばかり。基本的に強者は冒険者の方が多そうだと思ったから、つい数年前からは自ら奴隷となって冒険者に近寄ろうとしていたの」
「奴隷になって冒険者に近付くって……。なんでまた?」
「奴隷は金持ちの者ばかりが求めている人材ではないってことよ。今はもう昔の話だけれど、冒険者となるべく人員確保をするために奴隷を買う人も少なくなかったの。冒険者の中にもお金を持っている人はいたから、奴隷を買いに来る冒険者は意外と多くいたわ」
それって俺も含まれてるってことじゃないか。金持ちじゃなくてド貧乏だけど。
「奴隷の身分になった瞬間から、私はすぐに奴隷オークションに出されて競り落とされたわ。最も、最初の相手は冒険者じゃなくて、ただの性欲持て余した中年の貴族だったけど。それでも一応強者の可能性を確認するために、私は契約者の寝込みを襲って相手の強さを確かめてみたわ」
絶対侵入不可の設備だったとこいつは言っていたけれど、奴隷の首輪を無力化できるような奴なんだ。見張りもこの麻痺魔法を使ったりして無力化したり、部屋の守りに関しては魔力そのものを無効化していたに違いない。
「でも貴族の連中は決まってひ弱な者ばかり。その度に私はその“男”を殺していたわ」
「てことは、心臓発作ってのはお前の魔法によるものだったと?」
「いいえ、それは違うわ。私はそいつらを仮死状態にしていただけ。命までは奪っていないわ」
「んん? いやいやそれは矛盾してるだろ。だってお前、さっきまで殺したって言ってただろうが」
「そうね。今まで確かめた奴らは一人残らず殺しているわ。“男”をね」
「…………」
こいつ……まさか……。
「な、なぁ。その“男”ってのはもしかしてなんだが……」
「フフフッ……ダーリンが思っている通りよ」
ルティーナは良い顔で笑うと、右手の人差し指と中指を立てて鋏の形を表現した。
「やっぱりかぃ! なんつー恐ろしいことをして回ってたんだお前!?」
「弱者が男を名乗る資格なんて無いもの。価値のないものをぶら下げているところは、見ているだけでも虫唾が走るの。だから私の手で切除してやったのよ」
「男の中にも弱者はいて当たり前なんだっつの! お前の勝手な都合で男の勲章を切り取るだなんて、やっぱお前は俺の敵だ! いや、全世界の男達の宿敵だ!」
「それは喜ばしいことね。私が男達と敵対することで、他に理由を必要とせずにその者の器を確かめることができるってことなのでしょう? と言っても、私の強者探しは今日で終了となったのだけど……」
「お、お前まさか……」
「……フフフフフッ」
よたよたと歩み寄って来て、また俺の上に跨って来る。
俺の頬に自分の頬が重なるように横になって覆い被さって来て、妖艶な笑みを浮かべながらペロリと舌舐めずりする。
「“男”を殺して殺して殺し続けて、稀に冒険者の奴隷になったことがあっても結局殺し、そんな日々を繰り返していたある日。私はまた、とある男に奴隷として身を買われた。何度も競り落とされてはオークションに戻って来ることで死神の名がついてしまい、すっかり周りから恐れられていたこの私が」
勝手に競り落としていたのは、独断で判断したあのクソパンツだけど。
今更ながらに、本当に余計なことをしてくれやがったものだ。
「訳あってその男は、大舞台で貴族の男と決闘をすることになっていた。願ってもいなかった私は決闘の場へと赴き、昨晩その姿を目撃することとなった。相手はA級危険種の魔物であるグリズリーボア。目立った武器も持っていなかったその男は、本来ならばボアによって八つ裂きにされるはずだった」
愛しそうに俺の頭を撫でて、今度は頬をペロリと舐め上げてくる。
舐められる度にぞくぞくっとなるこの悪寒が本当に慣れない。そもそも慣れようとすら思わない。
「しかしその男は、類稀なる身体能力を生かし、A級危険種の魔物と互角に渡り合った。でも対等じゃつまらない。そう思った私は、魔物の方へ密かに支援魔法を掛けた。物理攻撃力を底上げさせることができる魔法をね。貴方も当然気付いていたのでしょう?」
「当たり前だろ。あの時はマジで焦ったんだぞ……」
ボア自身が火力を底上げする魔法を使えるとは判断できず、残りの可能性は何かと考えると、答えはルティーナだとすぐに行き着いた。
元々奴隷の首輪は無効化されていて、魔法は自在に使い放題。だったら一番怪しいと思える人物はルティーナくらいしかいなかった。
ワロスが俺の妨害をしていた可能性もあるにはあったが、あいつは俺の戦いにずっと驚きながら目を見張っていたので、そもそも魔法を仕掛けるような余裕が無かったはず。
それに、ざわざわ俺の言うことを聞いて全裸マラソンするような奴だし、反則を犯すようなことはしない奴なんだろう。
最も、これは決闘の後に分かったことだけど。
「でも貴方は独力でその脅威すら撥ね退けた。圧倒的な怪力を誇っていたはずのボアを、何の補正も掛かっていない状態で真っ向から捻じ伏せた。あの巨体を投げ飛ばした時、私は確信したわ。あの者こそ、私がずっと探し求めていた強者だったんだ……と。それが貴方よ、ダーリン」
誘惑するようにとろんとした目で至近距離から見つめてくる。
……妙に身体が熱くなってきた。
「グリズリーボアと一騎打ちという絶望的状況に屈することなく、鋼の精神を持ちながら背を向けずに戦いを挑み、勝ち目がなかったはずの武力を更なる武力で圧倒した。つまり貴方は、私が求めていた二つの要素をどちらも持ち合わせた、唯一無二の素晴らしき強者なのよ。ダーリンのような人を私は今まで見たことがないわ」
「くっ……買い被り過ぎだ。お前には俺が余裕に見えていたんだろうが、内心じゃビビりまくってたし、ほぼ無傷だったとはいえギリギリの戦いだった。お……お前が言ってるような強者なんかじゃ……有り余る器なんだよ俺は」
「そんなことはないわ。そんなことよりも、大丈夫ダーリン? 何だか顔が赤くなってきてるわよ?」
「う、うるせぇ……。じろじろ人の顔見てんじゃねぇ……」
段々と体温が上昇してきた。それに視界も少し歪んでみえて、息も苦しくなってきた。
抗体を持っていたと思ってたのに、やっぱり薬の副作用がまだ発症してなかっただけだったようだ。
こんな間の悪い時になんつータイミングで……。
「フフッ……もしかして緊張しているの? さっきまで平常に見えていたのに、やっぱり今になって恥ずかしくなってきたのかしら?」
「だ……誰がお前みたいなクソビッチに……羞恥なんか抱くかよ……」
「強がっちゃって、可愛いわぁダーリン……。ますます虐めたくなっちゃう」
服やズボンの中に手を入れて這わせてきて、ベタベタとあちこちを触って来る。
「あぁ……愛しくて愛しくて溜まらないわ……。これが異性を欲するという真の欲動……。フワッとしていて、まるで水の中に溶け込んでいるかのように心地良いわ……。さぁ、身体を楽にしてダーリン。今すぐに気持ち良くさせてあげるわ……」
「ば……マ、マジで止めっ……」
妙な気分になってきているのを感じながら、ルティーナがちょろりと舌を出しながら接吻しようと口を近付けて来る。
バクンバクンと早鐘のように俺の心臓の鼓動が高鳴り、次第に意識が闇の中へと消え入っていく。
このまま抵抗せずにいたら……俺は楽になれるのだろうか……?
「目を閉じて……。そのままゆっくり……」
身体から力が抜け落ちて行き、俺はルティーナの言われるがままにそっと目を――
「ビャクト様~……」
閉じようとした時、その間抜けな声が俺の聴覚を本能的に刺激した。
「起きてますかビャクト様~? トイレに行きたいんですけど、廊下が真っ暗で怖くて……。どうしても付いて来てもらいたいんですが駄目でしょうか――って……」
しょぼんとした様子のミルクが部屋の中に入って来て、俺達の姿を目撃して固まる。
「なっ……なっ……!?」
ローブを脱いで下着姿になったルティーナが、俺の服を脱がそうとしながら口付けをしようとしている縮図。
ミルクの顔を真っ赤にさせるには、十分過ぎる光景だった。
「す……すすすすみませんでした! ま、まま、まさかお二人がそのような肉体関係を持つような仲にまで進展していただなんて! 私は何も見なかったことにしますので、お二人はどうぞお続きを!」
ミルクの顔を見た瞬間、消え入ろうとしていた意識が一気に覚醒する。
更に、全く動いていなかった身体が微かにピクリと動き、麻痺状態が解けたのだと刹那的に察した。
「っ!!」
「あら?」
上に跨っているルティーナを突き飛ばし、瞬時に身体を起こしてルティーナの両手首を掴み取る。
そのままうつ伏せになるようにベッドの上に押さえ付けて、下手なことができないように手首を限界まで捻り上げることで拘束した。
「フフッ、激しいのねダーリン……」
「ビャクト様!? だ、駄目ですよそんな乱暴にしては! そういうプレイだと言うのなら口出しはしませんけど、でもやっぱり初めての性行為というものは男の人が上に――」
「馬鹿言ってねぇでさっさとロープなり何なり持って来い!!」
「ロープ!? まさかルティーナさんを亀甲縛りにすることでSM的なプレイを……?」
「プレイから離れろムッツリ女神!! 早くしねぇとお前も縛りあげんぞ!!」
「ひぃぃ!? 三人で性行為をしようだなんてマニアック過ぎますよビャクト様!」
「ええから早よ持って来いや!!」
勘違いに勘違いを重ねるクソ女神。
その後も説得に時間が掛かり、気付けば発情の副作用がいつの間にか無くなっていた。




