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俺の枷共(パーティー)は煩わしい  作者: 湯気狐
二章 〜奴隷ビッチと成金坊ちゃん〜
15/45

悪逆非道の変態無双

「勝者! シアン!」


 観客達の歓声が上がり、第一試合の勝敗が決した。


 踊り子のシアンは高らかに腕を掲げて、勝者の余韻に浸っている。


「……負けました」


 全身ズタボロになったミルクがとぼとぼ歩いて戻って来た。


 先日買ったばかりのシスター服がボロボロになってしまっていて、折り畳み式のブラシも滅茶苦茶にひん曲がってしまっていた。


「『てりゃあぁぁぁ!!』とか言ってる時点でもう負け確が濃厚だったよね。勝負が始まる前から既にもう負けてたよね。むしろ勝てるわけがなかったよね」


「…………」


 ずっと黙って試合を見ていたが、それはもう酷いものだった。


 試合と呼べるようなものではない、踊り子シアンによる一方的なリンチ。武器を使ってはいなかったものの、踊り子独特の動きでミルクを容易く翻弄し、四方八方から打撃の嵐をお見舞いする。それだけで試合は数分と掛からずに終わっていた。


 ミルクにしては頑張っていた方だとは思うが、やはり相手が悪過ぎた。もしかして、という可能性を多少抱いたこともあったが、結局は何の期待も持てないまま終わりを告げてしまった。


「……おかしくないですか? あの人って踊り子なんですよね? 本来踊り子という人は、踊りによって相手に何らかの催眠効果を与えるような、そういった幻惑魔法を使うイメージがあるじゃないですか。でもあの人、魔法なんて一切使って来なかったんですけど」


「うん、そうだね」


 愚痴の対象者はピノ一人。虚ろな目でピノを一心に見つめるミルクは、ピノの顔と目と鼻の先の距離になるまで近付いた。


「完全物理ですよ。踊り子なのに殴ってきたんですよあの人。動き方は完全に踊り子だったのに、攻撃手段は物理的暴力ですよ。腹を殴られ、頰を蹴られ、頭を地面に叩き付けられたんですよ私。流石にやり過ぎだとは思いませんか? ねぇ思いますよね?」


「思う思う、すんごい思う」


「止めてって言ったんですよ私は。もう勘弁して下さいって頭も下げようとしたんですよ私は。でもあの人はその前に私を殴ってきたんですよ。降参なんてさせまいと、私に隙を与えずにひたすらボコボコにしてきたんですよ。人としてズレてますよねあの人。どんなキチガイな感性の持ち主なのか疑問ですよ」


「疑問だね、何も分からないね」


「きっと育ち方や親の教育が良くなかったんですよ。どんな環境で育ったのかは知りませんが、ロクな人生送ってきてないことだけは確かですよ。だって踊り子なのに、あんなに性格悪いんですもん。踊り子の人って大体人の良いイメージがあるのに、あの人はその概念を壊しに掛かってきてました。あの人こそ真の狂人ですよ」


「危ないね、あまり関わり合いになりたくないね」


 どんだけ根に持ってんだこいつ。いつになく饒舌なんですけど……。


「くどいぞクソ女神。勝負に恨みっこは無しだ。お前よりもあいつの方が強かっただけの話だろ」


「…………うぅ」


 咽び泣く――と思いきや、子供のように大声上げて泣き叫び出した。ここまで本気で痛め付けられたのが初めての経験だったんだろう。


「暴力なんて嫌いです! もう二度と戦いとは関わり合いになりません! うわぁぁぁ……」


「よしよし、頑張りましたわねミルク様」


 ルティーナが母親代わりとなって、ミルクの身体をそっと抱き締めながら頭を撫でる。結局役立たずは役立たずだったってことだな。


「はっはっはっ! 早速貧困民の愚かしい姿が垣間見えたな! 何もできないまま敗北した聖職者にテラワロス!」


 すぐ近くの方から煽りを入れて来るワロス。たかが一勝しただけなのに、もう粋がっている。


「ピノ、お前の手でちょちょいと四連勝してこい。今回だけは“どんな手を使っても”構わん」


「ほほぅ……私の制限を無くすときましたか。なら本当に好き勝手“ヤらせて”もらうけど、良いんだね?」


「あぁ。丁度良い機会だから、この機に溜まりに溜まった欲求を解消してこい」


「よっしゃあ! 大将の許可頂戴したぜぇ!」


 モチベーションを最大値まで上げてやったところで、ピノは意気揚々とした面立ちで戦いの場へと飛び降りた。


 指の骨を鳴らし、首を左右に回し、ぐへぐへと気味悪く(すす)り笑う。その姿は正しく変態だ。


「私の肩書きは泥愛(でいあい)の狩猟者ピノで宜しく頼むわ」


「かしこまりました。それでは、第二回戦と参りたいと思います! 泥愛の狩猟者ピノvs踊り子シアン! 試合開始ぃ!!」


 決闘開始のゴングが鳴り響き、双方それぞれが構えの姿勢を取った。


「覚悟、貧困民。私の舞いに酔い痴れなさい」


 シアンは構えを取った姿勢から、ゆらりゆらりと緩い動きで回転しながらピノの元へ近付いていく。


 最初はああしてのろく踊っているが、奴はあの状態から急に速度を上げて攻撃してくる。初見だとかなり読み難い動きだ。


 ただ、こっちの手札はあのピノだ。現役勇者や俺をも翻弄した素早さを持つあいつだが、どんな風に戦うつもりなのか存分に見物させてもらおう。


「…………しゃっ!」


 十二分な距離までピノに近付いたところで、先に攻撃を仕掛けたのはシアン。軽いジャブのような突きを数発放った。


「おぉ早い早い。でも威力は大したこと無さそうだね」


 しかしピノは余裕でそれらを回避する。流石の反射神経と言ったところか。


「のんびりしていられるのも今のうちだけよ!」


 ピノの挑発に乗ったシアンは、先程ミルクと戦っていた時とは比にならない速度で打撃を繰り出し始めた。


 柔らかい身体を利用した変則的な動きの殴打に、ピノは反撃しようとせずにひたすら回避し続ける。


「……ぐふふっ」


「っ!?」


 真顔だったピノの表情が再び変態顔に変化したところで、シアンは邪気のようなものを感じ取って後ろに飛び退いた。


「ちょっと貴女! さっきから人の胸をじろじろ見ないでくれない!? これは決闘なんだから、真面目に戦ってよ!」


「そっちが激しい動きをするからいけないんだよ。たわわなお乳をぶるんぶるんと揺らしちゃってまぁ、実に揉み応えがありそうですなぁ……」


 涎を垂らしながら気色悪い笑みを浮かべる変態。


 シアンは鳥肌を立たせて身震いし、青ざめた表情になりながら自分の身体を抱き締めた。


「ピノさんを相手取ることって、むしろ損することしかありませんよね。今は味方であることがありがたいですよ」


「そうだな……。俺もあいつとだけは二度とやり合いたくないわ」


 不憫に思える踊り子だが、これはあくまで決闘だ。決して同情したりはしない。それに、あいつにどんな手を使っても構わないと命令したのは俺なのだから。


「今のやり取りで踊り子ちゃんの動きはもう読めたよ。さぁ、存分に堪能させてもらいましょうかね」


「くっ……! この変態貧困民め!」


 躍起になったシアンは、女でありながら男らしく立ち向かっていく。


 舞いを交えた乱舞を再び駆使して、ピノを殴り倒そうと猛攻を仕掛ける。


 もみっ


「っ~~~!!」


 シアンの裏拳がピノの顔面に入ると思われた直後、一瞬だけピノの姿が霞んで見えて、ほぼ同時にシアンがまた後ろに飛び退いていた。


 少し顔を赤くさせて、自分の右胸に手を当てている。まさかあの攻防戦の中でセクハラに遭ったのか?


「ほれどうした? もっともっと掛かって来んしゃい」


「絶対殴り飛ばすから!!」


 舌をベロベロ出して煽りを見せるピノに、シアンの堪忍袋の尾が切れた。


 今度は憤怒の意味で顔を真っ赤にしたシアンが、さっきまでの舞いを取り入れていた殴打を取り止めにして、ただ純粋にピノに殴りに掛かった。


 しかしその判断は愚策中の愚策。シアンはピノの掌の上で転がされてしまっていることに、全く気付けていなかった。


 もみっ


「んっ……!」


 さわっ


「あっ……!」


 もみもみっ


「んんっ……!」


 動きが単調になってしまったことにより、ピノのセクハラの手が加速する。


 一発避けては胸を揉み、二発避けては尻を撫で、三発避けては胸を二度揉む。


 避ければ避ける程に、ピノのセクハラの手数が増していく。


「さて、そろそろフィナーレだね。最後は良い声上げてもらおうじゃないか」


 ピノはニヤリと笑うと、瞳を怪しく光らせる。


 その直後、ピノの姿がまた一瞬だけ霞んで見えた。


「ど、何処に!?」


 目の前から姿を消したように見えたらしいシアンは、慌てて周囲を確認する。


 だが一番最初に確認するべき方向は、真後ろであるべきだった。


「んんんっ~~!?」


 恐らく“ハイド”を使っていたであろうピノは、真後ろからシアンの身体に両手を回すと、乳首を摘むような形で胸を思い切り鷲掴んだ。


 シアンは異様にいやらしい喘ぎ声を上げて、びくんびくんと身体を痙攣させる。


 その後、ピノが“ある物”を奪い取り、シアンから離れた。


「な、なんてことを――いやぁぁぁ!?」


 シアンの悲鳴と共に、観客による大歓声が上がりに上がった。


 シアンの胸を隠していたブラのような衣装の後ろ紐が解かれて、ピノに強奪されてしまったからだ。


 胸を隠す物が無くなったシアンは腕を使って慌てて隠すと、その場にしゃがみ込んで動けなくなってしまう。


 そんな姿を見るピノの顔は、ゲスそのものだった。


「フハハハハッ! そんなやらしい格好をしてるからこういう目に遭うのだ! 返して欲しいか? 今すぐにでも返して欲しいか~?」


「か、返して! 今すぐに返してよ!」


「返して? おやおや、その上から目線な態度は一体なんだね? どうやら踊り子ちゃんは、今の自分の置かれている状況を理解できてないようだねぇ~?」


 ニヤニヤとゲスな笑みを浮かべるピノ。


 後ろ腰に備えてある短刀を引き抜くと、衣装を摘むように持ち替えて、後ろ紐の部分につんつんと刃を当てる素振りを見せ付ける。


「そんな生意気な態度取ってると、今ここでこの紐を切っちゃいますよぉ? そしたら踊り子ちゃんの胸は隠すことができなくなり、こんな大勢の人達がいる場でたわわなおっぱいが大公開。わぁ~、それはとっても恥ずかしいでちゅねぇ~?」


 クズだ。正真正銘のクズ野郎がいる。なんて鬼畜な所業に手を染めるんだあの変態。


「踊り子ちゃんの選択肢は二つに一つ。今後一生私に対して従順になることを誓い、潔く負けを認めるか。そしてもう一つは……分かりますよねぇ?」


「くぅぅぅ……っ!」


 涙目になってピノを睨み付けるシアン。


 ごめんなさい、後で俺がキツくお灸を据えておきますので、どうか今だけは己のプライドを最優先にへし折ってください。


「わ……私の……負け……です……」


「えぇ~? なんだって~? よく聞こえないですなぁ~? もっと大きな声で、はっきりと、高らかに宣言してくれないとねぇ~?」


「わ……私の負けですぅ!!」


 ゴングの音が数回鳴って「勝者、ピノ!」と司会ピエロが宣言する。こうして第二回戦は後味の悪さだけを残して幕を閉じた。


「ほ、ほら! 試合は終わったんだから早く返してよ!」


「はぁ~? 何言っちゃってるんですかねぇ~? 私は負けを認めろとは言ったけど、負けを認めたら衣服を返すとは一言も言ってぶぁっ!?」


 客席から飛び降りてピノの後頭部に飛び蹴りを放つ。


 ピノの手元から離れた衣装が宙を舞い、即座にキャッチしてシアンの手元に受け渡した。


「ウチの馬鹿が本っ当にすいませんでした。周りに見えないように俺が盾になるので、すぐにそれ身に付けてください」


「あ、ありがとうございます……」


 しくしくと泣きべそを掻いているシアンの前に回って、上を見上げながらシアンの身体を覆う。


 シアンはその隙にいそいそと衣装を身に付けて、ようやく元の姿に戻った。


「あの……貧困民とか言ってすみませんでした。貴方は優しい人なんですね」


「別に俺は気にしてねぇよ。ほら、早く主人のところに帰りな」


 元々人柄の良い性格だったようで、シアンは律儀に頭を下げた後でワロスの元に戻って行った。


「おい、起きろクソパンツ。意識が無いとは言わせねぇぞ」


 うつ伏せに倒れているピノの脇腹を足のつま先で小突く。


 ぐるりと転がって仰向けになり、ピノの顔が地面で擦った影響で真っ赤になっていた。


「好きなようにやって良いって言ったのビャクトじゃん。話が違いますぜ我らが大将」


「喧しいわ。流石に限度ってものがあるだろうが。どうせ次もまたセクハラするんだろうが、少しは真面目にセクハラしろ」


「……何言ってんのビャクト?」


「……俺も自分で言ってて謎に思ったわ」


 真面目にセクハラしろってなんだ。逆にどんなセクハラなのかこっちが聞きたいわ。ついに俺もこいつに毒されてきたか……?


「と、とにかくだな。次はもう少しスタイリッシュに勝負に勝て。お前の腕ならそれくらい十分可能なはずだろ」


「スタイリッシュか……。オーケー、任せときな相棒ブラザー


「誰が相棒だ」


 本当に理解したのか信じ難いが、取り敢えず部外者の俺は客席の方へと引き返した。


「貴様……。よくも僕の愛するパーティーメンバーに心の傷を負わせてくれたな? この借りは高くつくぞ貧困民」


 何故か恨みの対象が俺一人に。俺は何もしていないのに理不尽だ。


 でも被害に遭った当の本人は理解してくれてるみたいで、俺に敵対心の眼差しを向けて来るようなことはなかった。


 むしろ、別の意味を感じさせるような目で見つめてきているような……?


「しょうがないわね。シアンの敵討ちをするためにも、次は私に行かせてワロス様」


 次なるピノの犠牲者に名乗り出たのは、紫色のローブに魔女帽子を被った魔法使いの女。お淑やかそうな見た目と違って、随分と勝ち気勝りな性格のようだ。


「そうだな。コレッタの魔法であれば、如何に素早い奴とて手も足も出ないだろう。ならば二番手はお前に引き受けてもらうぞ。必ずやシアンの敵を討ち取るのだ!」


「敵討ちって……。私生きてるからね? 死んでませんからねワロス様?」


「勿論よワロス様。シアンが向こうでも笑っていられるように、この私が勝利の花をシアンに添えてあげるわ」


「花を添えるって何!? だから私生きてるってば! いない者として扱わないでよ!」


「冗談よ。そんなムキにならないで故人」


「あくまでも死人扱い!? 私に何か恨みでも!?」


 向こうは向こうで愉快なコントを繰り広げているワロス一行。こっちの馬鹿共とあいつらって、実は仲良くなれるのでは……?


 コレッタとか言う魔法使いがドームの下へと降りて行き、ヒールドリンクを飲んで顔の傷を完治させたピノも位置に着く。そうしてお互いの準備が整った。


「まさかの混戦に正直私も驚いていますが、続けて参りたいと思います! それでは、第三回戦! 泥愛の狩猟者ピノvs魔法使いコレッタ! 試合開始ぃ!!」


 第三回戦のゴングが鳴り響き、ピノもコレッタも相手の出方の様子見をするためか、同時に後ろに飛び退いて距離を取った。


「下がったわね? その判断は貴女の致命的なミスよ!」


 先手を打ったのはコレッタ。手に持っていた杖を構えて、先の部分を思い切り地面に突き刺した。


「“ガスタートプラント”!」


 コレッタの足元に幾何学模様の緑色の魔方陣が展開されると、周囲に同じ魔方陣が複数展開されて光り輝く。


「わわっ!? なんですかあれ!?」


 数多の魔方陣から何かが出現したと思いきや、それはにょろにょろと動きながら伸び続ける根っこだった。プラントという単語からして、やはり植物系の魔法だったか。


「さぁ、根の猛攻に踊り狂いなさい!」


 伸び切った根っこの先が巨大な針のように鋭利になり、一斉にピノ目掛けて放たれる。


 ピノは冷静に後ろ腰の短刀を引き抜くと、腰を低くして構えの姿勢を取った。


 数本の根っこがピノを襲うが、ピノは身体に突き刺さるギリギリのところまで引き付けたところで、上に跳躍して回避する。


 そのまま根っこの上に着地して、コレッタと一気に距離を縮めようと駆け出した。


「見え透いているわね。その手は食わないわ!」


「おぉっ?」


 根っこの上を駆けていた途中、周囲の根っこがピノを襲う。


 更に緑色の魔方陣も増殖し、駄目押しとばかりに根っこから根っこが生えるという現象も巻き起こった。


 流石にピノと言えども避けるだけでは手に余り、回避しながら短刀を振るって根っこを切断する。


 何とか傷一つ負わずに捌けてはいるが、やはり向こうの手数の方が一枚も二枚も上手(うわて)だ。


「まずいですわね。あのままではピノ様の体力が底を尽いてしまいますわ」


「どどどどうしましょうビャクト様!? このままじゃピノさんが負けちゃいますよ!」


「狼狽えるなクソ女神。いいから黙って見てろ」


 客観的に見れば、明らかにピノの方が形勢不利に見えるであろう戦いだ。


 しかし、あいつが負けるという可能性はゼロだ。


 病的な性癖の持ち主であるあいつだが、仮にも勇者や俺を翻弄した手練れの一人。その辺によくいそうな魔法使いを相手に、遅れを取るとは思えない。


 それに、この程度の猛攻から逃れることができないのであれば、あいつはとっくの昔に捕まっていたはずだ。


「ん~、こりゃ近付くのは無理そうだね。こんな大勢の人達がいる場だからあんまり使いたくないんだけど、しゃーないかなぁ」


 乱射してくる根っこの猛撃を避けながら、ピノがポケットに手を突っ込む。


 そこから取り出したのは、やけに赤みを帯びた女物の下着だった。


「あっ、あれはもしかして!」


「……でも前と少し違くねぇか?」


「そう言われると……。この前のパンツは黄色がかっていたのに、今回のは赤くなってます」


 前のはカラシがついたヒリヒリパンツだったが、今度は一体何を付けたんだあいつ? しかもいつの間に新しいパンツを新調して――いや、恐らくあの三万に当てていたな?


 何にせよこの勝負、ピノがあの魔法を使った時点で勝負ありだ。


「今回はイリュージョン宣言無しっと。(イー)……(アール)……(サン)!」


 中国語のタイムカウントが唱えられ、ピノが空中を舞った瞬間に“ディンスワップ”が発動する。


 赤みがかったパンツは光と共に消失し、白と黄色のしましまパンツに変化した。


「ギャァァァ!?」


 直後、さっきまでうねり動いていた根っこがピタリと止まり、コレッタの断末魔がドーム内に響き渡った。


「痛い痛い痛い痛い!! 何これ何これ!? どうなってんのよ!?」


 どうやらあのパンツが原因なようで、コレッタは下半身に尋常じゃないような痛みを感じると、立つことすらままならなくなって千鳥足になった。


 ピノはその隙を逃さまいと空中で根っこに両足を付けて、思い切り踏み込んで飛翔する。


 弾丸の如くコレッタの元へと接近すると、右手に携えている短刀を構えた。


「スタイリッシュ……」


 ネイティヴな発言と共に目にも止まらぬ速度で短刀を振るい、コレッタの横を通り過ぎる。


「…………フッ」


 パチンとピノが指パッチンを鳴らした刹那、コレッタのローブが細切れになって弾け飛んだ。


「いやぁぁぁ!?」


 中に着ていたインナーまで引き裂かれてしまったようで、コレッタは公然の場で生まれたてのあられもない姿に。


 ここにまた、シアンの二の舞となった犠牲者が現れてしまった。


「イェアアア!! スタイリーーーッシュ!!」


 両腕を掲げるピノに釣られて、再び会場内が大歓声に包まれる。


 さっきの説教は全くの無意味なものだったようで、あの変態は何も学んではいなかった。


「痛い……痛い……もう最悪……」


「どれどれ~? 一体何処が痛いんでちゅか~?」


「や、止めて! 近寄らないで! 降参! 降参するから!」


「あれだけ威勢が良かったのに降参ですと? それはないんじゃないかなぁ~? どっかの誰かさんの仇を取るとか言っておいて、結局は口だけですかぁ~?」


「くっ……このっ!」


 大事な部分を見えないように手と腕で隠すと、コレッタは羞恥で顔を真っ赤にしながらも立ち上がった。


「じょ……上等よ! このまま試合続行してやろうじゃないの!」


「あれ? 続けるの? 続けちゃうの? そんな素っ裸な格好で私とまだヤり合っちゃうの? それはそれはなんとまぁ、勇ましいお方ですなぁ~?」


 最早どっちが悪役なのか分からなくなってきた。もうあいつがラスボスでよくね?


「ビャクト様。いい加減止めないとピノさんが何するか分かったものじゃないですよ」


「……いや。ここは一つ、あいつを痛い目に遭わせておいた方が良い」


 俺は客席を移動してコレッタの近くの方までやって来たところで、手すりから身を乗り出して口に手を添える。


「コレッタ! あの根っこ魔法で自分の身体に根っこ巻いとけ! それなら一時的に身体を隠しながら戦えるだろ!」


「……ビャクト君? 何故ユーは敵の味方をしているのかな?」


 俺の助言を受けてハッとなったコレッタは、すぐに植物魔法を発動して自分の身体を根っこで覆った。


 奇想天外な格好ではあるが、裸よりは幾分もマシだろう。


「助言感謝するわ触角君!」


「いや触角君ってなんだ。アホ毛か? アホ毛のことを言ってんのか?」


 悪意があるのか無いのか判断し難いあだ名を呼ぶコレッタは、杖を握る手に力を注いて目を瞑り、ぼそぼそと詠唱を唱え始めた。


「シアンだけでなく、私の醜態まで晒すだなんて良い度胸してるじゃない。これ使ったらしばらくは動けなくなるけど、貴女をボコれるというのなら迷いはないわ!」


 長ったらしい詠唱が終わった瞬間、戦いの場の地面全体が幾何学模様の魔方陣によって包まれた。


「すっげぇ魔力。おっぱいは小さいのに、魔力の器はでかいんだ」


「ブッ殺す!!」


 超巨大な魔方陣から巨大な根っこ――もとい大樹が出現した。


 目と口が付いた化け物のような大樹は、枝を密集させて形取った豪腕なる腕をにょきりと生やす。


「骨も残さずに爆ぜてろ変態! “ビックバンツリー”!!」


 ギラリと大樹の目が怪しく光ると、重量感のある腕を上に大きく振り上げる。


「待って待って。そんなのまともに受けたらいくらなんでも死――」


 変態に貸す耳などなく、怒りの鉄槌が無慈悲に振り下ろされる。


 ピノごと地面に叩き込まれた一撃は地面に大きな亀裂を生じさせ、強大なる衝撃音を天高く響かせた。


 魔方陣ごと大樹が消え入るように消失し、コレッタは力無くパタリとうつ伏せに倒れた。


 魔力が底を尽いてしまったのか、身体に巻き付かせていた根っこも消滅してしまっている。そのせいでぷりっとしたお尻が丸出しだ。


 大樹の一撃を喰らっていたピノは、大の字になってうつ伏せに倒れていて、人型が残るように地面の奥底に埋もれていた。多分死んでるなあれ。


「えっと……。りょ、両者引き分けです……」


 後が締まらないまま第三回戦が終了し、この戦いを見ていた者達は、忘れてはならないたった一つの記憶を脳に刻み込むこととなった。


 おっぱいが小さかったあの魔法使いは、とても良い尻の形をしていた……と。

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