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俺の枷共(パーティー)は煩わしい  作者: 湯気狐
二章 〜奴隷ビッチと成金坊ちゃん〜
14/45

意気込む彼女はブラシを掲げる

 謎多き奴隷、ルティーナを人員に加えた日より二日が経過した。


 約束通り俺達は、夜中になったところでギルドの方に訪れた。


「やぁやぁ貧困民諸君。気高き貴族である僕を三十分も待たせるとはテラワロス!」


 ギルドへ到着すると、案の定例のワロス貴族が既に待ち受けていた。


 この前会った時は見るからに裕福そうな衣装だったが、今日は冒険者らしく立派な鎧に身を包んでいた。


 取り巻きの女達も、ローブに杖という典型的な魔法使いのような格好になっている奴もいれば、ルティーナよりは際どいものではない露出度の踊り子みたいな姿になっている奴もいる。きっとこの姿がこいつらの本来の姿なんだろう。


「ふむ、どうやら奇跡的に人員を確保できたようだね。しかし顔を見せないどころか、その首に付いているのは奴隷の首輪かね?」


「うっせーな。お前にゃ関係ないだろ」


 奴隷オークションからの帰り道もそうだったのだが、何の思惑があってなのか、ルティーナは外を出歩く時は必ずローブのフードを被っていて、際どい露出狂な姿もローブで隠すようにしていた。


「やっぱり寒いんですか?」とミルクは聞いていたが、ルティーナは「関わりの薄い方々に見られるのは抵抗がありまして」と苦笑いしていた。


 奴隷オークションであれだけの人間に見られていたというのに、苦しい言い訳だ。本人の勝手だからうるさく口を出すようなことはしていないが。


「まともな人員が確保できないために、まさか奴隷に手を出すとは! 貧困民より下級の存在である愚物に何ができる? その浅ましい知恵袋にテラワロス!」


「「「テラワロス!」」」


「おほほほ」と声を揃えて笑う金の亡者達。そんな余裕こいていられるのもいつまで続くことやら。


「そうやって他者を見下していられるのも今日までです! 存分に反省してもらうためにも、私達は負けませんよ!」


「威勢が良いな貧困民。だったらこの勝負、ただ決着を付けるだけではなく、一つ条件を付けて勝敗を決しはしないか?」


「条件……ですか?」


「あぁ。既に勝敗の未来は見えているに等しいが、仮に僕達が勝った暁には、君達全員には僕の奴隷となってもらおう。気高き貴族である僕の奴隷になれるんだ。むしろ褒美と言っても良いのかもしれないな」


 最終的にただの勝負事になるとは思っていなかったが、やはり決闘というのはそういう条件が付き物だろう。俺もやるからには徹底的にやるべきだと思う。


「ど、どうしましょうビャクト様。負けたら私達の人生が終わりみたいなものなんですが……」


「そこは普通にビビるのかよ。さっきまでの威勢の良さはどこいったんだよ」


「負けてもペナルティーが無かったから強がっていられたんです! 条件が付いたら話は違います!」


「はははっ、ミルクはチキンだなぁ」


 全くだ。こうなった原因は全部こいつのせいなのに、今になって無責任な態度か。元女神が聞いて呆れる。


「僕は財布も人柄も懐の広い人間だ。乗るか乗らないかは君達に決めさせてあげようではないか」


「あっ、強制じゃないんですね。でしたら――」


「上等じゃないか成金貴族。受けてやるぜその勝負!」


「ちょっとピノさん!? 何勝手に宣言してるんですか!?」


 自分のことを棚に上げるクソ女神。


『これで良いんでしょ?』とピノが目で訴えて来ていた。ここまで来たらもう乗りかかった船だ。


「じゃあこっちが勝った暁には、ドスケベで淫乱な可愛い女の子を十人ほど提供したまえ。戦士、武闘家、魔法使い、聖職者とのように、一人一人特徴を持ち合わせている巨乳な女の子に限ります」


「煩悩全開ですか! もっと他に有益な条件を提供させてもらいましょうよ!」


「それもそうだね。聖職者ポジの巨乳はミルクが既にいるんだし、被らないようにしないと」


「そういう意味で言ったわけじゃありませんから!」


「しょうがないなぁ。だったら逆にミルクは何が良いのさ?」


「私ですか? そうですね……」


 ミルクは顎に手を当てて少し考え込んだところで、横に視線を逸らして遠慮がちに呟いた。


「…………お金を――」


 ミルクの脳天に拳骨を放つ。


「あいたぁ!?」という声と共に、ぷっくりとした美味しそうなタンコブが膨らんだ。


「お前にはプライドというものがないのか。こんな自惚れた貴族共から施しを受けて、それでお前は満足か?」


「だって私達が最も必要としている物じゃないですか! ピノさんのせいで一気に五十万も失ってしまったんですよ!? この前稼いだ百万という資金も底を尽きそうなんですし、背に腹は変えられないじゃないですか!」


「生きることに必死過ぎだろお前……」


 しかし、ミルクの言い分も強ち間違いではない。だからと言って、自惚れ貴族から莫大な資産を貰って施しを受けるというのも違う。


 となると、無難に間を取った条件で妥協するのがベストか。


「じゃあ俺達が勝ったら、この奴隷に使った五十万を寄越せ。それで手を打ってやるよ」


「フッ、良いだろう。交渉成立だ」


 不敵に笑う貴族に手を差し出し、交渉成立の握手を交わす。


 これで俺達が負けることは絶対に許されなくなった。何が何でも勝たなくちゃいけないわけだ。


「ビャクトって意外とケチな性格してるよね。みみっちいとか身内に言われたりしてなかった?」


「お前後で絶対三万返せよ」


 こいつには今後一生資金を施さん。少しの恩情も抱かない奴に出す金は無い。


「では、早速移動するとしようではないか。高貴な僕に付いて来るがいい」


 ワロス貴族は取り巻きの女達と共にギルドを出て行き、俺達もその後に続く。


 どうせ金持ちのことだ。何処か決闘に相応しい場でも用意しているんだろう。


「おいワロス。事前に聞いていなかったが、結局決闘の内容って何なんだ」


「それは着いてからのお楽しみだ。それと気安く僕の名前を呼ばないでくれるかい? 貧民臭が移り兼ねないのでね」


「あぁそうですか……」


 皮肉の意味を込めたあだ名のつもりだったのに、まさかの本名だったんですけど。


「ワロスとか、何その名前? どんなネーミングセンスしてんだっつの。マジウケるんですけど」


「駄目ですよピノさん。人の名前を馬鹿にするような発言は宜しくないですよ。……ぷっ」


 煽るピノに加えて更に煽るミルク。


 冷静な素振りで「テラワロス!」とほざくワロスだが、その後ろ姿は見るからに苛立って見えた。


 こいつらに苛立つ気持ちがよく分かるからこそ、心の中で同情してしまう。


「ワロス……一度耳にしたことのある名ですわ。貴族でありながらも有名な冒険者であり、その実力はギルド総本部の折り紙付きだと聞いていますわ」


「はぁ? いかにも咬ませ犬っぽい貴族のあいつがか?」


「えぇ。お金の力で戦闘方面の講師を雇い、主に剣術の腕を磨き上げているようですわ。全て聞いた話ですが、その剣捌きはまるで疾風のようだと言われていますわ」


 疾風……それは是非ともこの目で拝んでみたいものだ。


 その名の通りの剣術使いなのか、それとも名ばかりの坊ちゃん剣士なのか。もし後者だとしたら、俺ならその異名の恥ずかしさに剣を置いてるところだ。


「相手が疾風だろうと関係無いですよ。何と言ってもこちらには、ハイスピードのHの称号を持っていたピノさんがいるんですから」


「いやぁ、照れるなぁ。でも褒めなくていいから、その代わりにお尻触らせて」


「いい加減折りますよその腕」


 冷静に考えると、その異名もまた恥ずかしい名前だと思う。異名そのものが羞恥を晒しているようにしか思えない。俺も“天性の殺し屋”なんて言われていたけど、内心恥ずかしく思ってたし。


「ハイスピードのH……。もしや貴女様が(くだん)の噂の怪盗Hなのですか?」


「そうだよ。でも色々あって怪盗だった私は世間では死んだことになってるから、他言無用でシクヨロ」


「それはそれは……。となると、貴女様がおられる限りはこの勝負事も問題ありませんわね」


「あらまぁ、エロボディ姉ちゃんまで過大評価しちゃって~。でも褒めなくて良いから、その代わりにおっぱい吸わせて」


「ふふっ、ご遠慮させて頂きますわ」


 奴隷ですら怪盗Hの名を知っているとは、こいつ本当に有名人だったんだな。決して誇れるような器ではないけども。


「ここを下っていくぞ。せいぜい転ばないように気を付けることだ」


「あれ? ここって……」


 無駄話に花を咲かせている内に、気付けば見知った場所にやって来ていた。


 そこは最近訪れたばかりの、例の裏の世界に通じる地下階段だった。


「またあの場所に行かなくちゃいけないだなんて……。あの場所だけはもう懲り懲りですよ……」


 口ではそう言うが、さりげなく俺の腕にしがみ付いて来ている辺り、嫌々でも行く気は満々なようだ。少しは逞しくなったってことなんだろうか。


 底が見えず、ランタンの光だけの仄暗い階段を下っていく。


 階段を降り切って裏の世界にやって来たところで、ワロスは迷うことなく“あの場所”へと続く道を歩き出す。


 あいつが何処に向かおうとしていて、一体どんな決闘をするつもりなのか、現時点で大体察した。


 もしこの予想が的中していたとしたら、正直この決闘は俺達にとって不利かもしれない。


「なぬっ? 新人の子を追加しただと? しかも飛び切りの美人な上に、初回に限り六十分間の延長も可能……」


「そうなんですよ。女性でも大歓迎ですし、ちょっと寄っていきませんか?」


 少し目を離した隙にこれだ。とある風俗店に目を付けたピノがいつになく真面目な表情になって、コースの詳細が事細かく書かれた看板を凝視している。


「ビャクト。今だけ二名様なら半額にしてくれるらしいから、ちょっと気持ち良くなって来ようぜ」


 親指を立てて風俗店に指を差し、ニヤニヤと笑いながらお誘いしてくるクソパンツ。


 俺は何も聞かなかったことにして素通りした。


「現役女鍛冶師によるSMプレイ!? おいおい、一体何処を鍛え上げようってんだよ~? 股間に打ち込むのはアレだけで十分だっつの。ねぇビャクトもそう思うっしょ?」


 その後も懲りずに店に立ち寄ろうとするピノをシカトし続け、そうこうしている内にドームの前に到着した。


「ここが僕達の決闘の舞台だ。わざわざこの日のために、この高貴な貴族である僕が自ら金を出して貸し切ったのだ。貧困民相手に壮大な決闘の場を提供する僕の器量にテラワロス!」


 税金を無駄遣いする政治家かこいつは。


「なんて贅沢なお金の使い方……。貴族って案外くだらない方々なんですね」


「ミルクって温厚に見えて実は毒舌だよね。ただ思ったことを口に出して言ってるだけなんだろうけど」


「だって……こんなことのためにお金を使わなくても、もっと有効な使い道があるじゃないですか。私達は一円の価値にすら重みを感じている身分なのに、物凄く腹が立ちますよ」


「価値観なんて人それぞれだからねぇ。ならその怒りをこの決闘で全部ぶつければ良いよ。怒りのパワーは無限大ってね」


「はい! 何だか今の私なら何でもできそうな気がしてきました! 頑張りましょうね皆さん!」


「ふふっ、ピノ様は前向きな方ですわね。ピノ様が頑張られる時は、私も心から応援させて頂きますわ」


「ありがとうございますルティーナさん!」


 今のは皮肉か、それとも本音かは分からないが、頭パーであるこいつは、素直に褒め言葉として受け取っていた。自覚はないんだろうが図太い奴だ。


「では、参ろうではないか。雌雄を決する時だ、貧困民諸君。この僕が勝利の美を飾り、君達がいかに愚かで浅ましい愚物であるということを知らしめてやろう! 既に定められた勝利にテラワロス!」


「「「テラワロス!」」」


 高らかに笑う貴族組は、ドームの扉をくぐって奥へと消えて行った。


「ビャクト様! 私達も今一度を気合を入れるために、円陣を組みましょう!」


「そういう暑苦しいノリ嫌いなんでパス」


「いやそこは空気を読んでくださいよ! もし良かったらお二人も集まってください!」


 誘われるがままにピノとルティーナも茶番に巻き込まれて、二人はそれぞれミルクの左右から肩を組んだ。


「ほら、ビャクト様も早く! それとピノさん、次お尻撫でたら張り倒しますよ」


「……そいつらと触れ合いたくないんだけど」


 特に奴隷の方。何されるか分かったもんじゃない。


「警戒し過ぎだってビャクト。仲間は信頼し合うからこそ、仲間と呼べるんだよ?」


「そもそも仲間と思ってないんで。枷としか思ってないんで」


「酷い言い様だなぁ。しゃーない、私達だけで気合入れよミルク」


「ぶぅ……仕方ないですね」


 納得いってない様子で口を尖らせるミルクだったが、ピノの後押しを受けて三人だけで円陣を組んだ。


「…………こういう時って何を叫べばいいんでしょうか?」


「そうですわね……。ミルク様があの方々に対する思いを叫べば宜しいかと思いますわ」


「なるほど。分かりました、やってみます」


 ルティーナの助言を受けて、ミルクは大きく息を吸い込んだ。


 そして吐き出すように、


「ぶっ殺してやりましょおぉぉ!!」


 と、ストレートな思いの丈をカミングアウトした。


「物騒だねミルク。ぶっちゃけ引いたわ」


「引いたってまた酷い言い様ですね!? というか、お二人も同じように意気込んでくださいよ!」


「公然の場で大声を叫ぶのは恥ずかしいですわ」


「恥ずかしいというか、むしろ痛いよね。叫ぶのは性交で絶頂する時だけで十分でしょ」


「ルティーナさんはともかくとして、ピノさんはよくそんなこと言えますね!? ウンターガングに来た時に町の人達に向かって思いっ切り大声出してたじゃないですか!」


「それはそれ、これはこれ。そもそも今の私は怪盗じゃないし」


「裏切り者ぉ~!!」


 付き合ってられんので、一人先にドームの中に入って行く。


 短い廊下を抜けると、相変わらず馬鹿広く客席が広がる場に出る。だがあの時の奴隷オークションとは違って客席の殆どが人で埋まっていて、耳障りなくらいに周囲がざわついていた。


 既にワロスはドームの下の方でスタンバイしている。更には、例の司会ピエロもワロスの傍に立っていた。


「わっ!? 凄い人の数ですね!? 奴隷オークションの時の比じゃないじゃないですか! あの時ですら大勢の人達がいたのに!」


「きっとあの方が集めていたのでしょう。お祭り事というのは、観客が多ければ多い程に盛り上がるものですから」


「それだけ私達の醜態を大勢の人に晒したいってことなんだろうね。良い性格してるわ~、あいつ」


 醜態を晒すと言っても、晒すのは俺達に確定してるわけじゃないが。


 自分で注いだ油の火で火傷する可能性も考慮しておけば良いものを、本当の愚物は一体どちらか。


「皆様ご覧ください! 今夜の挑戦者の方々がご入場されました! どうぞ、拍手で迎えてあげてください!」


 マイクを片手に司会ピエロが喋り出し、会場内に拍手の音が飛び交う。


 しかしその歓迎は観客の見た目と表情からして、悪意の意味が込められたものであった。


 いつまでも響く拍手の音が騒々しいと思いながら、階段を下りてドームの下に降り立つ。


 ワロス達が横に並んで中央の方に立ち並び、俺達も向かい合うように横並びで立ち合う。


 司会ピエロは俺達の間に入るように佇み、リアクションを取りながらまたマイクに向かって喋り出した。


「我らがエンターテイナー、ワロス様に挑戦するのはこの方々! 貧困民代表であるビャクト様ご一行でございます! 現在は冒険者(仮)として活動中だそうで、生活費を稼ぐのに活気強く生きておられるようです! その雑草のような根強さは我々も見習うところがあるのではないでしょうか!?」


 ゲラゲラと笑う観客達。本人達の許可も取らずに無断で素性明かしやがって、現代だったら法律違反でサツにしょっぴかれてるところだ。


 それにしても、俺達が今夜の挑戦者ってことは、この決闘は何も初めて行われるものではないらしい。


 恐らく、今までもこうやってワロスの野郎が主催者となって、見知らぬ誰かさん達に決闘を申し入れていたんだろう。


 俺達に難癖付けて来ていたのは、こうやって俺達を“餌”にするためだったというわけだ。


 ピノの言う通り、良い性格してやがる。エンターテイナーとはよく言ったものだ。


「それではルールを説明したいところですが、それは例の如く、ワロス様直々にお願いしたいと思います! ワロス様、お願い致します!」


「うむ」


 偉そうな佇まいで司会ピエロからマイクを受け取り、キザったらしい顔でマイクの音量を確認する。


 些細な仕草ですらあんなにうざいものだと感じさせてくるので、最早あれはステータスとしか思えない。


「皆の者、いかがお過ごしだろうか? もし退屈していると言うのであれば、今夜もこの余興で楽しんでいってもらえることを願っておこう。ではルールの説明だが、内容は今までと全て同一だ。これより私達は、武器を使うも魔法を使うも何でも有りである、四対四の勝ち抜き戦を行う。先に四人全滅した方が負けとなる、至って単純な決闘だ」


「えぇ!? 何となく気付いていましたけど、やっぱり決闘内容は武力行使なんですか!?」


「当然だろう。君達も(仮)の身分とはいえ、冒険者の端くれなんだ。戦える力を持たない限り、正式な冒険者になれたところで犬死することは目に見えている。少しは冒険者たる自覚を持ってくれたまえよ、聖職者の貧困民君」


「私は別に冒険者を目指してるわけではないんですけど……」


 やはり俺の予感が的中していた。


 まずいな、こっちのメンバーは四人と言っても形だけだ。まともに戦えるのは俺とピノの二人しかいない。


 ただ、完全に不利というわけでもない。勝負の方法は勝ち抜き戦らしいから、最悪俺かピノが連勝すれば勝てる望みはある。凄い疲れそうだから全部ピノに任せたいところだが。


「どどどどうしましょうビャクト様!? 私まともに戦うことなんてできませんよ!」


「今の私なら何でもできそうですって、ついさっき意気込んでたばかりだろうが。一度くらいは有言実行してみせろよ」


「そんなこと言われましても……。向こうの人達は現役の冒険者なんですよ? オールマイナスステータスの私では勝ち目ゼロとしか思えないんですが……」


「だとしても、やる前から諦めてどうすんだ。それにこの決闘はお前が受け入れたことだろうが。勝率0.001パーセントの勝率という可能性を信じて、責任持って戦え」


「私の勝率一割にも満たないんですか!? 本当のことでしょうから言い返せませんけど!」


 マイナスステータスな上に、特に魔法を使えるわけでもない。戦闘経験なんて皆無だろうし、そんな役立たずに一体何ができるのか。


 ……いや、何もできないよね実際。


「じゃあ最初は消化試合ってことで、ミルクにトップバッターの役目を務めてもらおっか」


「頑張ってくださいませミルク様。私は応援していますわ」


「お二人まで私に戦わせる気満々なんですか!? しかも一番最初に出させる気ですと!?」


 満場一致。こっちの最初の手札はミルクで確定した。


「そちらの一人目は決まったようだな。では頼んだぞ、シアン」


「はい。お任せくださいませ、ワロス様」


 向こうの一人目は、踊り子のような恰好をした女のようだ。


 向こうのメンバーの中では、比較的一番安全そうな奴だ。これはもしかしたらもしかするかもしれない。


「確か武器有りだって言ってたよね。ミルク何も持ってないけど、どうやって戦うつもり?」


「……全く考えていません」


 だろうな。こいつに戦闘なんて無縁なんだし。


「しょうがねぇな。だったら俺が武器を貸してやるよ。実は昨日の夜に一人で街に出て、お前の武器も揃えておいたんだ」


「え? そうなんですか?」


「あぁ。お前に背負わせてるリュックの中に入ってるから、取り出してみろ」


「わ、分かりました」


 俺の言われるがままにミルクはリュックサックを下ろしてジッパーを開き、中に手を突っ込んだ。


「……なんですかこれ」


 中に入っていたブツを取り出して手に取り、ミルクは目を点にして呟く。


「折り畳み式のブラシだ。この前ピノを捕まえようとしていた時だったか、お前ってブラシを装備しようとしてたろ? だから俺の金で買っといた」


「チョイスがおかしいですよ! なんで寄りにもよってブラシなんですか!? んなもん役に立つわけないだろって、ビャクト様も前に言っていたじゃないですか!」


「覚えてないなそんなこと」


「うわっ、なんて都合の良い記憶力!」


 剣や槍を与えたところで扱えるわけがないと思ったので、敢えて掃除用具をチョイスしてみたのだが、贅沢にもご本人は不服そうだ。折角買っておいてやったのに薄情な奴だ。


「なるほど。これで相手を綺麗さっぱり一掃してしまえってことなんだね? ブラシなだけに」


「そういうことだ」


「そういうことだ、じゃないですよ! 全然上手くないし、面白くも何ともないですよ!」


 俺の洒落を全否定するミルクだが、気付けばルティーナが俺達に背を向けていて、口に手を当てながら密かに肩を震わせていた。ツボ浅いのかこいつ。


「ミルク様らしい可愛い武器ですわね。頑張ってくださいませ、ミルク様」


「褒め言葉になってませんよルティーナさん!」


「しつこいぞミルク。為せば成る、だぞ」


「成りませんよ! 無茶振りですよ!」


「じゃあ諦めて私におっぱい差し出す?」


「ピノさんは黙っててください!」


 いつも以上に激しく捲くし立てるミルクだったが、息切れを起こしたところで急に大人しくなり、折り畳まれているブラシを渋々とした様子で組み立てた。


「ピノさん。一本だけで良いので、ヒールドリンク譲ってくれませんか……?」


「うん、良いよ」


 ようやく戦う決心がついたのか、飲めば骨折も即座に治る特効薬をピノから受け取り、スカートのポケットの中に入れた。


「分かりました。どこまでやれるか分かりませんが、やるだけやってみます。でも負けても怒らないでくださいね?」


「安心しろ。俺もお前が勝てるとは思ってないから」


「右に同じく」


「せめて応援だけでもしてくださいね!?」


 これから戦うミルクと踊り子だけを取り残して、部外者は客席の方へと撥ね退ける。


 そうして戦う二人の準備が完了したところで、司会ピエロは高台の方へと移動した。


「それでは、第一回戦! 聖職者ミルクvs踊り子シアン! 試合開始ぃ!!」


 何処からかゴングの音が鳴り響き、ついに決闘の幕が開かれた。


「行きますよ! てりゃあぁぁぁ!!」

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