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俺の枷共(パーティー)は煩わしい  作者: 湯気狐
二章 〜奴隷ビッチと成金坊ちゃん〜
13/45

怪しい女は艶かしい

 裏の世界より帰還した俺達。一言も会話を交えないまま宿へと引き返して来たところで、全員俺の部屋へ集結させた。


「ルティーナと申します。今後とも宜しくお願い致しますわ」


「ぐふふっ……。宜しゅう頼んます、エロボディお姉さん」


 まずは自己紹介と言う名の事情聴取ということで、試しに名乗らせてみたところ、第一印象はまずまずの淑女っぷりだった。


 格好はほぼ裸も同然で妖艶なものだが、態度は至って常人なもの。奴隷に悦楽を感じてるパターンの奴隷というわけでもなく、見た目以外は特にこれといって妙な特徴はなく、普通だ。


 しかし、それらはあくまで第一印象の話にしか過ぎない。どれだけ常識人を気取ったところで、俺はまだ信用するつもりはない。


 何せこの奴隷は、この整った容姿に完璧なプロポーションの持ち主でありながらも、競り落としコールが掛けられなかったいかがわしい奴隷なのだ。疑わない方がどうかしているだろう。


 それに、俺は確かに聞いたのだ。このルティーナとか言う奴隷を引き取った去り際に。


『なんて無謀な連中だ……』と、ヤグサ顔のおっさんが。『物好きな若者達だ……』と、貴族っぽいおっさんが。


 とにかく連中は、俺達を無知で無謀な若者達だとボヤいていた。


 それらの言葉が示す意味は、たった一つしかない。


 この奴隷には、他の奴隷にはない“不確定要素”があるということだ。


 何でもないただの奴隷、なんてことは百パーセントあり得ない。その何かしらの謎を解明しない限り、俺はこいつに対して警戒心を解かないつもりだ。


 化けの皮を剥がすためにも、今回は存分にこいつらを利用させてもらおう。ただの枷でしかない不要な奴らでも、話をさせるくらいにはまだ使えるだろう。


「ほら見てミルク、めっちゃ肌白いよ。しかも赤ちゃんみたいにツルツルしてるし。実に舐め応えのありそうな柔肌ですなぁ。ふひっ、ふひひっ……」


「素を出し過ぎですよピノさん。ルティーナさんが嫌がりますから、程々にしないと駄目ですよ」


「愚か者! 貴様は何も分かっていない! このエロボディちゃんは私達の奴隷なんだよ? つまり、ご主人様たる私達の命令には絶対服従が原則なのだよ!」


「私達の奴隷と言いましても、契約を交わしたのはビャクト様じゃないですか。ピノさんが命令したとしても、ルティーナさんの首輪の魔力は発動しませんよ?」


 その通り、実は奴隷というのは誰しもの命令を聞かなくてはいけないわけではない。


 司会ピエロから教えてもらった話によると、奴隷を得る際には必ず契約をというものを交わさなくてはいけない。


 この奴隷は今後この人に仕えますよ、というように、主従関係の盟約を交わすことで初めて奴隷は奴隷として成立する。


 その条件として、契約者の人数は奴隷一人につき一人だけ。つまり、唯一契約を交わした俺が命令しない限り、絶対服従の首輪の魔力は発動しないというわけだ。


 本来ならばピノに契約者の権利を差し出しているところだったが、そこは俺の良心が働いた。


 こんな奴の奴隷になれば、毎日いやらしい目に遭うことは目に見えている。そんな姿を思い浮かべると、未だに正体不明の奴隷とは言え、同情してしまったのだ。


 それに、こいつを競り落とす際に使われた資金は理不尽にも、競り落とすことを望んでいなかった俺のもの。故に、俺が契約者になるのが道理というものだろう。


「今回のビャクトはガチでズルいッスわ! 今後一生このエロボディを好きなようにできるんだよ!? 童貞の身としては国宝級の家宝でしょ!」


「馬鹿か、俺は奴隷になんざ興味ねぇよ。即席の人員になればそれで十分だ」


「はははっ、チキってやがるぜこいつ。流石は童貞」


 条件反射でピノの顔面に拳を叩き込む。


 みしっ、と鈍い音が鳴り、鼻が血で真っ赤に染まった。


「ピノさん。ビャクト様に対する言葉は選んだ方が良いですよ。只でさえつい先程に半殺しにされているんですから」


「へっ、おしおきが怖くてエロリストを語れるかってんでぃ! 三度の飯より女の尻ってな!」


「じゃあもう勝手にしてください……」


 こいつの性癖の狂いっぷりは死んでも治らないものなんだろう。救い様の無い奴って惨めなものだ。


「ピノさんのどうでもいい与太話はともかくとして、私はルティーナさんのお話を聞いてみたいです」


「ふふっ、宜しいですよ。何でも何なりと受け答え致しますわ」


 にっこりと人懐っこい笑みを浮かべる奴隷。


 桜の花びらように美しい笑顔だが、逆に不気味に見えてるのはきっと俺だけだろう。


「うーん、どうしましょうか。話を聞きたいと言ってみたものの、何から聞けばいいのか思い付きませんね」


「はいはーい、だったら私からしつもーん! ズバリ、そのお胸は何カップ?」


「デリカシーを持ってくださいよ少しは!」


 遠慮無しのセクハラな問い。しかし奴隷は嫌な顔一つせず、キッパリと答えた。


「Fですわ」


「…………」


 阿鼻叫喚すると思っていたピノだったが、何故か哀れみの眼差しをミルクに向けて、慈愛の微笑みを浮かべていた。


「元気出してミルク。巨乳キャラ枠は強奪されたけど、Dでも十分に需要はあるからさ」


「そんなキャラの自覚を持ったことはありませんから! それよりなんで私の胸のサイズ知ってるんですか!?」


 クソ女神のくせにDもあるとか、宝の持ち腐れも良いところだ。


「役立たずの胸を膨らませても猫に小判だろ。その無駄な脂肪は心から必要としている奴に差し出しておいた方が良いぞ。その方がよっぽど世のためになる」


「またそうやって辛辣なことを! 私もこの胸を必要としている者の一人ですよ! これが無かったら私の長所なんて何一つ無いんですから!」


「……何かすまん」


「なんでそういう時だけ同情するんですか! そこは『そんなことないよ』ってフォローしてくださいよ!」


 長所がほとんど無いことを認知した上に認めているだなんて、虚しいというか潔いというか……。


「自分に自信を持ってくださいませミルク様。胸の大きさしか長所が無いだなんて、そんなことはありませんわ。貴女にも良いところは沢山あるはずです」


「ル、ルティーナさん……!」


 人の良い奴隷の言葉に、ミルクは心打たれて感激の涙を流す。


「例えばどういうところが私の長所でしょうか!? 是非教えてください!」


 出会ったばかりで少し話をしただけの相手なのに、また無茶振りな質問をする。黙秘されるパターンだろこれ。


「そうですわね……。ミルク様の憎めない元気ぶりは、皆様にとって良きムードメーカーになれているのではないでしょうか? 言い方を変えれば、愛嬌があると言えばいいのでしょうか」


「ムードメーカー! 聞きましたかビャクト様!? 実は皆さんが気付いていないところで、私もお役に立てていたんですよ! 決して役立たずじゃなかったわけです!」


 変態以外の誰からも褒められたことがなかったからか、大袈裟に歓喜の反応を示して諸手を上げるミルク。


「いや、そこまで重要じゃないだろそのポジション。ぶっちゃけ居ても居なくても変わらん」


「頑なですねビャクト様も!? いい加減私の有益な部分に目を通して注目してくださいよ! たまには否定することばかりじゃなくて、肯定することも学んでください!」


 能無しに「学べ」と言われてイラっとくる。ノックをすることすら一向に学ぶ気配のないこいつにだけは、絶対に言われたくない台詞だ。


「長所に悩んでるようだけど、ミルクの長所なんていっぱいあるじゃん。脱いだら凄いとか」


「ピノさんはピノさんでそっち方面の褒め言葉から離れてください!」


「いやでも本当のことじゃん。この前に私の短刀で全裸に引ん剝いた時があったけど、それはもう子沢山そうな良い下半身を――」


「いやぁぁぁ!!」


 一発バチンッとビンタの良い音が鳴る。


 但し、鳴ったのは俺の頬だが。


「あぁぁ!? ち、違いますビャクト様! 今のは条件反射と言いますか、異性であるビャクト様に聞かれるのは恥ずかしいという気持ちが――」


「言い訳はあの世でしろ」


 ミルクの背後に回り込み、首に腕を回してアームロックを仕掛ける。


 思い切り首を締め上げると、色白な肌が真っ赤に染まっていく。


「自分で蒔いた種だよミルク。せめて安らかに成仏できるよう、黙祷しておいてあげるよ」


「他人事で傍観してんじゃねぇよクソパンツ」


 ミルクの首を締め上げたまま全身を使って回転し、その勢いを利用してミルクをピノに向けて投げ放った。


 ミルクの頭がピノの顔面に炸裂して、二人は仲良く一時的に息を引き取った。


「皆様は大変仲が宜しいのですわね。少し羨ましいですわ」


「何も仲なんて良くねぇよ。それより、今度は俺の質問に答えてもらおうか」


「えぇ、勿論構いませんわ」


 威嚇するつもりで声のトーンを低くしてみたが、やはり奴隷は笑顔で受け応える。これくらいじゃ怯むような奴ではないようだ。


「まず一つ目。お前が過去に仕えた主人は何人くらいだ?」


「……どうしてそう思いまして?」


 薄っすらとだが、奴隷は一瞬だけ意味深な笑みを浮かべていた。


 当然なことだろうが、案の定予想通りだ。奴隷になったのはつい最近ってわけじゃないらしい。


「お前が最後の目玉商品の奴隷として公開されていた時、他の連中は一切お前を競り落とそうとしていなかった。それはお前に何らかの不確定要素が備わっていることを連中は事前に“知っていた”ってことだ。つまり、お前は過去にもあの奴隷オークションに売り出されていた可能性が高いってことになる。違うか?」


「えぇ、その通りですわ。貴方様が仰られる通り、私は過去にも同じ奴隷オークションで売り出されていましたの」


「そうか……。でもそれはおかしくはないか? 奴隷は奴隷になった瞬間から、一生を賭けて主人に尽くさないといけなくなるはずだ。お前の前の主人は今何処で何してるんだよ?」


「別におかしな話ではありませんわ。何故なら、私が今まで仕えた主人の方々は皆、既に死んでいるということなのですから」


「死んでいるだと……?」


 まさかこの話がこいつがいぶかしまれていた原因なのか?


 だとしたら、なんてタチの悪い貧乏くじを引いてしまったんだ。勝手に引いたのはピノだけど。


「その詳細を詳しく教えろ。死んでいるってどういうことだ?」


「説明も何も、深い理由なんてありませんわ。ただ私が仕えていた方々は、不慮な事故によって亡くなっていますの。そういった不幸が偶然何度も重なり、今に至るということですわ」


「つまりお前が好ましく思われていなかったのは、その死神要素な体質が災いしていたからってことか?」


「詳しいことは何も聞いても聞かされてもいないのですが、恐らくそういうことだと思われますわ」


 それはまた恐ろしいというか……。めっちゃ怪しいんですけどこの人。


 不幸な事故が偶然にも重なっただと? そもそも偶然というのは、そう易々と起こらないから偶然と言うんだ。それが何度も重なっていただなんて、そんな言い分を馬鹿正直に鵜呑みにできるわけがない。


「ちなみに、その不慮の事故の死因ってのは何なんだ?」


「確か、心臓発作による窒息死でしたわ。私を奴隷として引き取った方々は高齢者ばかりでしたから、寿命だったのかもしれませんわね」


 心臓発作による窒息死……ね。いくらでも隠蔽(いんぺい)できそうな死因だ。


「その時のお前は何処で何をしていたんだ?」


「基本的に別の場所で寝かされていましたわ。物置に放り出されていたこともあれば、立派なお部屋で眠らせてくれたこともありましたわ」


 奴隷ってのは主人と常に付かず離れずの場所に置いとかれるものだと思っていたが、どうやらそれは俺の偏見に過ぎなかったらしい。


「…………ふふっ」


 何を思ってか、奴隷は口に手を当ててほくそ笑んだ。


「なんだ、何がおかしい?」


「いえ、特に深い意味はないですわ。ただ、貴方様のその口振りを聞いていると、まるでその死因に私が大きく関わっているのではないかと疑われているように聞こえまして」


「……そりゃお前の勝手な思い違いだろ」


「えぇ、そうですわね。何せ、仮に私が犯行に及ぼうとしたところで、それは不可能だったということを立証できますもの」


「何……?」


「どういうことだ」と聞こうとする前に、奴隷は自らその理由を語り出した。


「今まで私が仕えた方々は、全員が大富豪の方でしたわ。ただ、そういう人達はあまり世間では良く思われていない方々のようでして、日頃から自分の身を軽んじることがないよう、常に周囲を警戒しておりました」


 莫大な財産を持っているからこそ、その餌に付け入ろうと狼藉者が湧いて出てくる。フリーダムな異界なだけあって、欲望に忠実で犯罪に手を染めようとする連中は少なくないらしい。


「日中は付きっ切りで護衛の方が付いていましたし、食事も毒味をされた物だけを食していましたわ。一番無防備になる睡眠時間は見張りを付けた上に、絶対魔防壁の壁、床、ドア、窓の部屋に守られていましたわ。更には特殊な魔道具で施錠もされていましたし、たかが一般奴隷の私などでは犯行など不可能ですわ」


「どんだけ襲撃者を恐れてたんだよそいつら……」


 とは言え、確かにそれだけガードを固められると、少なくともこいつ一人では犯行不可能に思える。


 ただ、こいつのプロポーションからして、色気を駆使して協力を仰いだ可能性も無きにしも非ず。疑いが晴れたわけではない。


 しかしどんな手段を使ったのか、まるで見当が付かない。一番有力候補なのは魔法という便利パワーなんだろうけど、どんな魔法があるのか良く分かってないからな俺。


「これで私の疑いは晴れたのでしょうか?」


「だから別に疑ってるわけじゃないっつったろ。あくまで興味本位で聞いてただけだ」


「ふふっ、ならばそういうことにしておきますわ」


 最後まで本性は見せず、くすくすと笑顔を浮かべて笑う。


 腹の底が見えない食えない女だ。女ってのは大抵が腹黒い奴ばかりだと思ってるが、まさにこいつはそういう女の鏡だ。


「ご無礼を承知でお尋ね致しますが、私からも貴方様に質問をしても宜しいでしょうか?」


 奴隷という身分でありながらも図々しいことを言ってくる。俺の素性でも勘繰るつもりか?


「別に構わねぇが、答えたくない質問には答えねぇぞ」


「ありがとうございますわ。ですが質問と言いましても、大したことでは御座いません。ただ、どうして貴方様が私を競り落としたのかを知りたいだけですわ」


「あぁ……そのことな」


 隠すことでもないので、正直に話すことにする。


「そもそも、俺はお前を競り落とすつもりは無かったんだ。そこで倒れてる変態のチビが単独でコールを上げて、勝手にお前を競り落としやがったってわけだ」


「まぁ、そうだったのですか。それで、今後私はどのように扱われることになるのでしょうか?」


 今後……か。折角五十万も払って得た人材だから、丁重に扱いたいところなのだが……。


「実は俺達が奴隷オークションにやって来ていたのは、たった一人の人材を確保するためだ。今日から二日後にある喧嘩――もとい決闘に備えるためにな」


「決闘ですか。それはまた、穏やかな話じゃありませんわね」


「他人事のように話してるが、結果的にお前という人員を確保したんだ。急なことで戸惑うだろうが、お前にもその決闘に参加してもらうぞ。ちなみに聞いておくが、お前は何か魔法が扱えたりするのか?」


「ご期待に添えたいところですが、生憎私は荒事とは無縁ですの。人並み外れた身体能力も無ければ、何か特別な魔法を扱えたりすることもありませんわ」


「…………」


 要はミルクと同じ役立たずってことじゃないか。五十万も払ったのに、とんだ無駄金だ。


「だったらお前にはどんな奴隷の価値があるんだよ……」


「それは一目見れば分かることですわ」


「あぁ……うん……もう大体察したわ」


 そういや奴隷は女限定だったか。つまりは“そういうこと”ってわけだ。


「貴方様は“お楽しみ”になるつもりはないのですか?」


「生憎そんなことのために奴隷に目を付けたわけじゃないんでな。持て余していないと言えば嘘になるが、昨日今日会っただけの女に“そういうこと”をするつもりはねぇよ」


「ふふっ、見た目や口調とは裏腹に、貴方様は純粋(ピュア)な方なのですわね」


「当たり前の常識を語ってるだけだ。子供扱いするような発言は慎め」


 大抵の男ならこいつのエロい魅力に陥落し、その高ぶった欲情に身を任せて犯しに掛かるところだろう。男ではないが、ピノのような奴がまさにそうだ。


 だが、俺の場合は違う。


 何せ、俺の家柄は全員が殺し屋だ。その中には当然、色仕掛けを利用して相手を暗殺するような手練れもいた。


 そういう奴をこの目で何度も目撃しているせいで、いつしか俺は女という生き物に対して抵抗を持つようになってしまったのだ。


 特に、この奴隷のようなビッチ臭丸出しな奴が一番生理的に受け付けられない。


 あくまで偏見だから口に出して言うことはないが、こういう奴は大抵自分の身体を安く見ているような淫乱女だ。その軽い考え方が個人的にもう駄目だ。


 いかにも童貞的な考え方だと自覚はあるが、無理はものは無理だから仕方ない。


 女はやっぱり清純系が一番だ。見た目的に外れないし、人として付き合い安いし。


「失礼承知で申し上げますが、もしや貴方様は経験の無いお方なのでしょうか?」


「それディスってる意味で言ってんならぶっ飛ばすぞ」


「いえ、そういうわけではありませんわ。ただ、もしご興味があると言うのであれば、奴隷であるこの私めがご助力させて頂くことができますとお伝えしたいだけですわ」


 そう言うと奴隷は立ち上がり、ベットに腰掛けている俺のすぐ隣にゆったりとした動きで座って来た。


「十秒やる。その時間内に離れなかったら、その顔面の骨を握り砕く」


「そんな照れなくても構いませんわ。見たところ貴方様はまだお若そうですし、経験が無くてもおかしなことではありませんわ」


 肩の上に頭を乗せてきて、至近距離から上目遣いで見つめて来る。


 その目使いは恐ろしいくらいに妖艶なもの。スラリとした手で顎を撫でるようにも触れてきて、撫で方が異様にいやらしい。


「多くの方々に仕えて来ただけあって、私は色々と経験豊富ですの。貴方様がお望みとあらば、気持ち良くして差し上げますわよ……?」


 頬に手を添えて来て首を動かされ、無理矢理目と目を合わせられる。


 奴隷は陶酔したようにうっとりとした表情になって目を瞑り、俺の唇を吸い込むように自分の唇へ吸い寄せて、俺の後頭部に手を回して来た。


 俺と奴隷の距離は目と鼻の先。そこで俺は、


「タイムアップ」


 と告げた。


 接吻される直前のところで奴隷を顔を一握り。本気で頭蓋を砕くつもりで力を注ぎ込む。


「あら、もう少しのところでしたのに。最後の最後で恥ずかしくなってしまわれたのですか?」


 ミルクならば泣き叫んでいるであろう痛みを与えているはずなのに、奴隷は変わらず澄まし顔。まるで痛みを感じていないかのように振舞っている。


「やっぱお前只者じゃないだろ。素性隠してないで本性曝け出せや」


「本性も何も、これが私の素ですわ。身体付きも中身も淫乱な、極々一般的な奴隷。それが私という奴隷ですわ」


「あくまでシラ切るつもりかこの野郎……。言っておくが、お前の色仕掛けは俺には通じねぇぞ。俺はビッチ女がこの世で最も嫌いなんだ」


「それは残念ですわ。私は貴方様という殿方に段々と興味が沸いてきましたのに」


 少しだけ艶めかしさを残してくすくすと笑う奴隷。


 いけ好かねぇクソビッチだ。百歩譲ってこいつよりかは、裏表のないクソ女神と話していた方が気が楽に思えてしまう。


「ちっ……空気読めよ童貞……。そこはディープキスから濃厚な交わりの流れに持ってくところだろうが……」


 気付くと、いつの間にか二人が目を覚ましていた。若干約一名が密かに舌打ちしていたが、何処からどう見てもモロバレだ。


「はわわわっ……。ルティーナさんって大胆な方なのですね……」


 さっきまでの一部始終を見物していたのか、ミルクは顔を真っ赤にさせて両頬に手を当てていた。


 認めたくはないが、やっぱこいつらと関わっていた方がマシだ。


「お前らな……起きてたなら止めに入れよ。もう少しでこの奴隷に洗脳紛いの仕打ちを受けるところだっただろうが」


「いや、そうなったらそうなったで面白そうだと思って」


「お前後で路地裏に来いや」


 前言撤回。やっぱこいつはこいつで受け付けられません。


「す、すみませんビャクト様……。こういう時にお邪魔するのは無粋だと思いまして……」


 そういう気遣いを日頃で活かせないのは何故なのか。


「まぁ、安心しときなビャクト。奴隷の首輪はその奴隷の魔力を封じるようにもできてるから、仮にエロボディお姉さんがどんな魔法を扱えたとしても、首輪がついた状態じゃ何もできないよ」


「それを先に言っとけやクソパンツが」


「いや、知らないなら知らないで面白そうだと思って」


 ピノの顔面に蹴りを一発。壁に首から上がずっぽりと埋まった。


「あの、ルティーナさんも今後は気を付けた方が宜しいですよ。ビャクト様はご覧の通り、相手が異性であろうと容赦することがありませんから。下手なことをすればルティーナさんもシバかれてしまいますよ」


「お気遣いありがとうございますわミルク様。ですが私はこの通り奴隷の身ですから、暴力や誹謗中傷といったことに関しても手慣れておりますの」


「……ビャクト様。私やピノさんはどうなっても良いので、どうかルティーナさんにだけは優しく接してあげてください!」


「お前は奴隷に丸め込まれてるんじゃねぇよ!」


 ミルクのこの馬鹿正直さに付け込まれて、利用される可能性も出て来た。


 でもこの奴隷をこうして俺達の傍に置いておくのも、事が全て済むまでの短い間だけだ。それまでは常に用心深くしておかねば……。


 その後も奴隷を交えた与太話は続き、俺は奴隷の本性を暴こうとあれこれ話し掛けてみたが、一向にその裏の顔を探り取ることはできなかった。

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