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俺の枷共(パーティー)は煩わしい  作者: 湯気狐
二章 〜奴隷ビッチと成金坊ちゃん〜
12/45

そのエロボディは貰ったぁ!

 他愛もない話をしながらゆっくり歩いている内に、辺りはすっかり真っ暗になっていた。


 しかし大都市な街と言うだけあって、夜中になっても人の群れは一向に減る気配がない。


 むしろ、昼間の時よりも増えているようにすら見える。きっと仕事帰りの人が多いんだろう。


 ただ心無しか、堅気が住み着いている区域から離れた場所に向かっているせいなのか、辺りに見える人達が段々と人相の悪い人ばかりに満ちてきた。ここらが表と裏の世界の境目なのかもしれない。


「ん~、確かこの辺りにあったはずなんだけど……。久し振り過ぎて忘れちゃったなぁ」


 またしばらく歩いたところで、先頭を歩いていたピノが足を止めた。ここまで来て忘れただなんて許さんぞ。


「ここら辺に地下へ続く階段があったはずなんだよね。場所は大体合ってるから、皆で手分けして探してみよ」


「仕方無ぇな……。じゃあ俺はあっちを探す」


 ピノとは反対の方へと歩き出す。


 ぐいっと、ミルクに右腕を引っ張られた。


「私もビャクト様に付いて行きます。嫌と言っても無駄ですからね」


「ならせめて右腕を離せ。さっきからずっと腕にしがみ付いて来やがって、歩き辛くてイライラすんだよ」


「無理です駄目です怖いです。死んでも離しませんからね」


 余程奴隷商人の存在が恐ろしいのか、貧弱なはずの手の力が異様に強い気がする。今だけこいつの腕力ステータスがプラスになっていたりして。


「じゃあ私はこっち」と、ピノはピノで反対方向に走って行った。


 それからまたしばらく階段探しに時間を要していると、呑気に手を振りながらピノが戻って来るのが見えた。


「へ~い、こっちにあったから付いて来て」


「うぅ、いよいよですね……。気を付けてくださいビャクト様。気付けば私がいなくなっている可能性がありますから、すぐ異変に気付いたら私の存在の確認をお願いします」


「あーはいはい、分かった分かった」


「絶対聞き流してるパターンですよねそれ? 真面目にお願いしますよ!」


 耳障りな奴だ。入った瞬間に攫われてしまえばいいのに。


 いや、むしろ俺から奴隷商人に売り渡すのも手かもしれんな。それならうるさい奴が一人減って、俺もそれなりの金が貰えるはず。皆幸せ、皆ハッピーでめでたしめでたしでは……?


「絶対に悪巧みは考えないでくださいよ?」


 ……エスパーかこいつは。


 黙ってピノの後に付いていくと、現代で言う地下鉄に行くための地下階段が見えた。思っていたより堂々と入って行ける場所なようだ。


「こんな分かり易い場所にあるのに、よくもまぁギルドの監視を免れてるもんだな」


「別に免れてるわけじゃないよ。勿論ここもギルド総本部の監視下にあるんだけど、それでも尚ここは閉鎖されてないってだけ」


「はぁ? 奴隷オークションなんてことしてるんだし、普通なら一発アウトだろ。何だってスルーされてんだ?」


「それは実際に行けば分かるよ」


「……?」


 あの臆病者のライノンのことだ。もしかしたら、怖い連中ばかりで満ち溢れたこの場所に介入するのが怖くて、知っててわざと目を逸らしているのかもしれん。


 もしそうだとしたらあの野郎、今度会ったらまた喝を入れてやる。


 いくつも設置されてあるランタンの明かりだが、火が弱くて奥が薄暗くてよく見えない。転ばないように慎重に下って行かないと。


「秘儀! 壁飛び下り!」


 ピノは壁ジャンプで左右に俊敏に動いて、アクロバティックに階段を下りて行った。やけにテンション高くなってるなあいつ。


「危ないことはしないでいいですからね? ゆっくり下りればいいですからね?」


「んなこと分かっとるわ」


 真横のクソ女神の煩わしい存在感にイライラしながら、遅くも速くもない足取りで階段を下りて行く。


 結構深いのか、地下鉄よりかは距離がある。むしろ一向に底が見えないくらいだ。どこまで続いてるんだこれ?


「…………あっ、見えて来ましたね」


 一分か二分間くらいはずっと下っていたか、ようやく先に光が見えて来た。


 急かさずにゆっくりと下って行き、裏の世界の入り口へと到着した。


「遅いよ二人共、もう少し遅かったら私の欲求が爆発してたよ」


「……うわぁ」


 その露骨過ぎる景色を見て、素直にドン引きしてしまった。


 まるで異世界感を感じさせない、見渡す限りの桃色の街頭や電光板。


 いかがわしい店の名前が書かれた看板しか見受けられない風俗店の数々。


 基本露出度の高い服を着た大人の女性か、顔や身体に傷を負った強面の男ばかりがうろついている。


 実際の場所をこの目で見たことはないけれど、きっと昔の吉原はこういう雰囲気に似た場所だったんだろう。通りでピノのテンションが高くなってるはずだ。


「まさかとは思うが、ギルドの監視が見て見ぬフリしてる理由って……」


「エッチな店が多いから、こんな天国みたいな場を無くすのは勿体無いって私は聞いてるよ」


 今すぐギルドの人間を全員女性にシフトチェンジするべきでは?


 俺自身も含まれてしまうが、男って本当にしょうもない生き物だ。


「完全に場違いですね私達……。私達のような若い人が来る場所じゃないですよここ」


「ババァが何言ってんだ。年齢三桁いってる奴が若作りしてんじゃねぇよ」


「二十歳ですよこう見えても! それに身体は大人でも、中身はまだまだ子供なんです!」


「へぇ、ミルクって私と同じ歳だったんだね。以外っちゃ以外だね」


 ……また嘘吐いてやがるこいつ。


「あっ、今嘘吐いてるって思ったっしょビャクト? 残念ながらこれは本当だよ。こう見えてお酒も飲める年頃なんだぜ」


 嘘だろ……? こんなチビな体型なのに、俺より二つも上だったってのか?


 しかも地味にミルクまでもが俺より年上だし、つくづく異界クオリティは俺の癪に障りやがる。


 右腕の引っ付き虫を振り払い、即座に数歩距離を取った。


「ちょっとぉ!? 私を一人にしないでください!」


「ヒヨってないで年上の威厳を見せて下さいよ女神様。所詮僕は年下なので、貴女様のナイトになるには力及ばずでしてね」


「人を守るのに年上年下関係ないでしょう!?」


 死に物狂いになってまた俺の腕に絡みついて来ようとするが、華麗な回避スキルでひょいひょい躱す。いくらなんでも必死過ぎだ。


「怖い怖い怖い! 一人は嫌です一人は嫌です!」


「しつこいわ! 俺じゃなくてピノに守ってもらえ!」


「私は構わんよ。ほら、こっちにおいでミルクちゃんや……」


 怪しい手招きでミルクを自分側にいざなう変態。本性も隠さずに堂々と薄気味悪く笑っていて、それでこいつが近付くはずもない。


「ご覧の通り、ピノさんはセクハラする気満々なので嫌です!」


「だったら俺も次お前が引っ付いてきたらセクハラすんぞ。その胸を形変わるくらいに揉みし抱く」


「ピノさんよりはまだマシです!」


「どんだけ嫌なんだよそいつの痴漢プレイ!?」


 ミルクの執念が俺の執念を勝ったのか、油断している隙を突かれて右腕に抱き付かれた。


 どれだけ振り解こうとしても接着剤で引っ付いたかのように固定されているかのようで、離すことは不可能だった。


「ひゅーひゅー、お熱いねぇお二人さん? 今夜はホテルでレッツパーリ―ですかな?」


「お前らいつか覚えてろよ……」


 大分時間を無駄にしたが、こうなった以上は割り切るしかない。


 蛹化したミルクを引き摺りながら歩いていき、再びピノの後に続いていく。


「あら、こんなところに可愛いお兄さんが。どう? お姉さんと遊んでいかない?」


「今より六十分間タイムセールでーす! 好きな女の子とヤりたい放題ですよー!」


「おい坊主、暇ならちょいと寄ってかねぇか? 可愛い女の子盛り沢山だぜ?」


 なんでここの連中は俺一人ばかりに目を付けやがるのか。しかも隣に女を連れてるってのに、まるで誰もいないかのように扱って来る。


 現代じゃ呼び込み禁止されてるのに、とことんフリーダムな異界だ。


「タイムセール!? しかも女の子でも大歓迎だと!? こいつぁ私の血が滾って仕方ないぜ! お母さん、追加料金の小遣い前借りさせて!」


「誰がお母さんだ。既に三万やったんだから、これ以上は譲歩しねぇよ」


「くっそぉぉぉ……。何故私はここで遊ぶ金を貯金しておかなかったんだぁぁぁ……」


 心の底からショックを受けているようで、変態が呼び込みに囲まれながら地に跪き、血涙の水溜りを作っていた。


 あいつはもう二度とここに連れて来ないことを誓っておこう。性知識に無垢であるミルクに悪影響でしかない。


「さっさと歩けこの愚図め! のろのろと歩きおって、また餌を抜かれたいのか!」


「も、申し訳ありませんご主人様……」


 目障りな呼び込み共の勧誘を切り抜けると、すぐ近くの方でこれまた異様な光景が見えた。


 あの暇人貴族と同じような服装のデブい男が、薄い布切れ一枚姿の四つん這いになった若い女の上に馬乗りしている。


 女は男の重圧に辛そうに表情を歪ませて、よたよたと覚束無い動きで這い回っていた。


 よく見ると、女の首には鎖のついた首輪が嵌められているのが見える。あれが正真正銘の奴隷ってやつか……。


「な、なんて過激な……。怖い怖い怖い……」


 ミルクが真冬に素っ裸でいるような震え方で委縮する。怯え方が尋常じゃない。


「……よく見ろミルク。あれはお前が思っているようなものじゃないぞ」


「え?」


 見るに堪えない二人に指を差し示してやり、ミルクは恐る恐る顔を上げてまたあの二人を見た。


「進めと言っているのだこの愚図! これ以上傷を増やしたくないのならさっさと進まぬか!」


「ご、ご勘弁をご主人様……」


 一見、台詞を聞くだけなら惨たらしい光景が目に浮かぶシチュエーション。しかし、実際にこの目で見ているからこそ実態が分かる。


「お、お止めくださいご主人様」


「黙れこの愚物が!」


「あぁっ!?」


 満面の笑みで尻をぶっ叩かれている奴隷の女。本来ならば苦渋を飲むような反応を見せるところだが、涎を垂れ流しながら現状を満喫していた。控えめに言ってもドン引きだ。


「SMか~、私のタイプじゃないなぁ。女の子を弄ぶってのは、恥じらう女の子をゆっくりと脱がしていって、じっくり堪能するのが王道ってもんでしょう?」


「性癖を語りたきゃ酒の席にでも行ってろ」


 逞しいというか、むしろ俺はあの奴隷の女の方が怖い。


 何故あんな目に遭っておきながら悦楽を感じられているのか、正気の沙汰とは思えない。あんな人間にだけは堕ちたくないものだ。


「早く会場の方に行きましょうよ! こんなところにずっといたら気がおかしくなりそうです!」


「珍しく気が合ったなミルク。俺も同意見だ」


「しょうがないな、これだから純粋無垢な若者達は……。これは宿の方に帰ったら、私が直々に大人の世界の勉強を施したようが宜しい感じか?」


「いらん気遣いは結構だ。寄り道してねぇでさっさと案内しろ」


「足止めてたのはそっちも同じなのに~」


「いいから早よ進めや」


 仕方が無いと言うように、ぶつくさ文句を垂れながら再び前へと歩き出す。


 少ししてから、小さいドームのような建物が見えて来た。見るからに奴隷オークションを開いていそうな場所だ。


「一応着いたけど……。さて、やってるかな?」


 やはりここが会場だったようで、ピノはステップを踏みながら入口のドアを開いた。


「レディース&ジェントルメン! 皆様長らくお待たせ致しました! これより、奴隷オークションの開会宣言と致します!」


 俺達も後に続いて中に入ると、大音量のマイクの声が聞こえて来た。


 どうやら都合良く奴隷オークションを開催している上に、来たタイミング的にもドンピシャだったようだ。日頃の行いの成果だ。


「おぉ、運良いね私達。席は腐るほど空いてるだろうから、早く行こうよ」


「うぅぅ……。何だかお腹が痛くなってきました……」


「大丈夫だって、別にミルクが売られるわけじゃないんだからさ」


 短い廊下を抜けると、円状のドームに数え切れない客席が設置されてあり、既に大勢の客人がスタンバイしていた。


 中央にはピエロのような恰好をした男が高台に立っていて、マイクを片手にオークションを始める前の前座をペラペラと語っていた。


 小粋なジョークを挟んだりもしているが、笑っているのはいかにも金持ちそうな男達だけだ。


「目がチカチカする場所ですね。どうにかならないんでしょうかあの照明」


 ドームの天井には、カラフルな光を発するライトがいくつも設置されていた。ステージ上を照らして動いていて、ずっと見ていると目が悪くなりそうだ。


 にしても、凄い人の数だ。ざっと千人以上はいるんじゃないだろうか。


 それだけこのオークションを楽しみにして来ている奴が多いってことなのか。どいつもこいつも良い趣味してやがる。


 ピノの言う通りだったかもしれない。こんなに大勢の金持ち共が集まってる時点で、俺達の予算で競り落とせるとは思えない。


「今回人多いなぁ~。席は空いてるけど、こりゃ競り落とすのは無理そうだね」


「そうかもしれんが、一応来たんだから最後まで見物するぞ。万が一という可能性も捨て切れないからな」


「ビャクト様、そんなに虐げられる奴隷を見たいんですか? いつからそんな趣味を楽しむような人に……」


「仮に俺がそんな趣味を持っていたとしたら、誰よりも先にお前を虐げてるところだろ。誤解を生むような発言は慎め腰抜け女神」


 空いている席に並んで座ったところで、司会の長い前座が終わった。


 ぶっちゃけ何を話していたのかすら覚えてない。校長の朝礼話と同等なくらいに無駄な時間だった。


「それでは早速参りましょう! まずは軽いジャブから! とある食堂にて働いていた三十代の女性です!」


 司会ピエロが両手を広げると、ステージの中央部分に四角い穴が開いた。


 その穴の下から小さな牢屋が出現し、中に一人の女性が閉じ込められていた。無論、その首にはしっかりと首輪が嵌められている。


「ビャ……ビャクト様ビャクト様!」


「うるせぇな、何だかんだでお前が一番テンション上がってんじゃねぇか」


「そういうわけじゃなくて、あの人を見てください! ほら、あの時の店長さんですよ!」


「店長ってお前……」


 目を澄まして牢屋の中をよく確認してみる。


「……嘘だろおい」


 牢屋の中にいたのは、俺達が最近働いていた食堂でよくしてくれていた、あの店長さんだった。


 まさか、各地に散らばっているとか言われている奴隷商人に捕まったのか?


「おい、あれは流石に洒落になってねぇだろ。あの人には旦那がいるんだぞ? 助けないと後味が悪――」


「なんと、この方は自ら奴隷になってくれることを申し出てくれた女性です! それに人妻という属性を備えているという、人妻好きには溜まらない物件です! 本人もそういう方に仕えたいと申していました!」


「ドメスティックバイオレンス上等! 誰か私を拾ってくださ~い!」


「「…………」」


 この一瞬の間に、助けたいという立派な正義感が霧散した。


 俺だけではなく、ミルクまでもがあの人を見る目を変えていた。


 まるで虚無を見るかのような、力のない眼差し。きっと俺もこんな感じになっているに違いない。


「隠れ属性だったか……。やるね、あの奥さん店長」


 一人感心して二ヤついている変態。


 知らぬが仏とはまさにこのこと。俺の貴重な良心キャラの一人が失われたことで、人が良いキャラに対する信憑性が弱まった気がした。


「では、原価五十万ゴールドよりどうぞ!」


 司会ピエロの合図と共に、「五百万!!」「八百万!!」とコールが飛び交う。


 いきなりぶっ飛んだ額に騒然とする俺とミルク。人妻の人気高過ぎじゃね?


「はい、二千二百万ゴールド! ここで落札とさせて頂きます!」


「よーし! これで私の夢だった寝取られの念願が叶う!」


 淫乱店長は、とんでもドリームを抱いていた大富豪に引き取られた。物凄く嬉しそうな顔だ。


 ……ウンターガングに帰ったら、今度旦那の様子を見に行くとしよう。


「いきなりとんでもない奴隷さんから始まりましたね。それに私達じゃ手に負えない額があちらこちらと……」


「人妻だからね。世の男は人妻=経験豊富という先入観に捉われているから、人気高いんだよきっと」


 それは変態に限定した先入観だと思うが、話に突っ込むと絡まれそうだから黙っていよう。


「それでは次に参りましょう! 今度もまたレア物ですよ!」


 空になった牢屋が下に引っ込んで、少ししてから再びステージに上がって来た。今度は知り合いではないことを祈っておく。


「ま、まさかリィアさんとか出て来たリしませんよね? もしそんなことになったとしたら、人間不信になってしまいそうですよ私」


「馬鹿野郎、リィアさんは紛う事なき良人だぞ。それだけは絶対にありえねぇよ」


「はははっ、それフラグ発言だよビャクト。この流れだと、多分リィアちんだよあれ」


「黙れクソパンツ! リィアさんはそんな人じゃねぇ!」


 と、否定してみたものの、捨て切れない可能性に嫌な汗が滲み出て来た。


 落ち着け俺、そんなオチは絶対にない……はずだ。


「この方も先程の人妻さんと同様、同じ町の出身者でございます! その町では大勢の方から慕われていたようです!」


 滲み出ている汗の量が増量した。気付けば手足も震えている。


「ほ、ほらぁ! やっぱりリィアさんですよあの人!」


「そう言えばあの子って、ギルドで一番人気のある受付役らしいね。もしかしてその人気の理由は、隠れビッチだったから的な?」


「止めろお前ら! 俺の女神様を汚す発言をするんじゃねぇ!」


「あの、女神は私なんですけど……」


「なんちゃって女神なお前が、勝手にリィアさんと肩並べてんじゃねぇ!」


 違う、絶対違う、断じて違うと断言する! あの人は俺の人生の中で初めて出会えた良心の塊のようなお方なんだ! 奴隷という身分などに屈しなどしない!


 司会ピエロの手によって、牢屋の中身がオープンされる。


 俺は思わず目を閉じてしまうが、逃げるわけにはいかないと恐る恐る目を見開いた。


 …………中身は町長だった。


「いやお前かぁぁぁい!!」


 古典的なノリで思わずすっ転んでしまう。


 リィアさんじゃないのは心底安心したけど、あれはあれで凄い嫌なんだけど! つーかこの奴隷オークションって女限定じゃなかったのかよ!


「ジジィ推しな方のためにご用意しました、町の町長さんです! では、原価一ゴールドよりどうぞ!」


 しかもめっちゃ安い価値付けられてるし! 幼稚園児でも競り落とせるだろあれ!


 当然の如く、会場内は静寂に包まれていた。逆に開催側もなんであれをオークションに出そうと思ったのか。


「…………いないということなので、貴方は価値無しと見なされました。どうぞお帰りください」


「誰がジジィじゃクソピエロがぁ!」


 司会ピエロに退場を願われたところで、いつもの反応でピエロの頬を杖でぶっ叩いていた。


 その後、何処からともなくガードマンのような黒服の連中が現れ、町長を外へと運んで行った。何しに来てたんだあのジジィ……。


「流石の私もジジィは無いかな。うん、あれは無い」


「まさかのご登場でしたね……。何を考えてのチョイスだったんでしょうか?」


「俺が知るか! 知りたくもないわ!」


 最初のも含めて、今までのは見なかったことにしよう。うん、それが良い。


「では続きまして、本日の目玉の一つです!」


 再び牢屋に奴隷がセッティングされて、今度は会場全体に見えるように牢屋の扉が開けられて奴隷が公となる。


 光沢のある白い鎧に身を包み、綺麗な金髪の長髪を靡かせた凛々しい女。首に首輪を嵌めてはいるが、その姿は紛れもなく――


「……騎士かあれ?」


「そうみたいですね。でも今までの人とは違って、少し雰囲気が違いませんか?」


 見たところ、その表情からは感情を読み取ることはできなかった。奴隷という身分に悦楽せず、ただ無表情で佇んでいるからだ。


「うっひょ、あれは上玉だね。ああいうプライド高そうな人に限って、敏感なところ触ると可愛い声出すんだよ。うわぁ、この手でめっちゃセクハラしたいッスわぁ……」


 目玉商品と言うだけあって、ピノが過剰な反応を示していた。今の俺にとっては願ってもない人材なんだろうけど……。


「では、原価二千万ゴールドよりどうぞ!」


 原価の時点で、とても俺が手を出せるような額じゃない。あんな騎士が俺のパーティーに入ってくれていたら、どんなに助かることか。想像するだけで冒険者らしい俺達の姿が思い描ける。


 結局、美人騎士は八千万ゴールドという額で競り落とされた。


 原価の四倍とは、あの騎士も奴隷冥利に尽きる――とは限らないか。どう見ても故意で奴隷になっているわけじゃ無さそうだし。


 やはり奴隷の中にも、望んで奴隷になったわけじゃない人も紛れているらしい。


 そうして、しばらく胸糞悪い奴隷オークションが長々と続いた。


 あのジジィだけが例外だったようで、後に出されたのは若い女ばかりだった。


 普通の町娘もいれば、現役の冒険者だった聖職者もいて、しかしその大半が自ら奴隷を名乗り出た者ばかりだった。


 オークションが続いていくに連れて、俺は異界の人達の性癖に疑惑を抱くようになっていった。


 全ての人が変態というわけじゃないんだろうけど、この流れのせいで異界の連中の大半が変態なんじゃないかと思い始めるのは、決して不自然なことではないはずだ。


 早く終わって欲しいと心の中で願いながら傍観していると、ついにその時はやって来た。


「それでは、ついに次で最後となります! 最後の目玉奴隷、カモン!」


 ようやくラストとなった奴隷が上がって来て、奴隷が入っていた牢屋が爆発した。最後だからか演出がやたらと派手だ。


 ステージが白い煙に包まれて、司会ピエロともう一人の人影が浮かび上がる。


 そして、最後の目玉奴隷がその姿を現した。


「うぉおおお!?」


 一目見た瞬間、ピノが盛大に大声を張り上げる。


 その奴隷も例の如く、今までと同じ若い女だった。


 でも最後なだけあってか、その容姿が今までのレベルの範疇を大きく覆す程の魅力に満ち溢れていた。


 前髪で左目が隠れていて、腰の辺りまで伸びた癖の強い茶髪。とろんとした色気のある垂れ目に、高い鼻と柔らかそうな唇。出るとこ出たエロボディは、色白な肌を煌かせている。


 しかも恰好がまたアレなもので、まるで下着のような服(というか下着?)の上からフード付きの深緑色のローブを羽織っているだけという、限界まで露出度を極めたAV女優みたいな女だった。


 これにはピノも大歓喜で、鼻息を荒くさせて身を乗り出し、発情した犬のように唾液を垂れ流している。今まで見た中で頭一つ飛び抜けたキモさに吐き気を催しそうになる。


「ビャクト! 借金してでも競り落とそう! 一生借金抱えることになったとしても、彼女だけは何が何でも競り落とそう!」


「借金抱えるなら一人で勝手に抱えてろ。それに最後の大目玉奴隷なんだから、お前如きに競り落とせるわけないだろうが」


「嫌だ! 私は絶対に諦めんよ! 例え自分の臓器を売りに出すようなことになったとしても、彼女だけは私達の奴隷に引き入れてみせる! じゃないと今日は寝られませんよぉ!!」


 クソうぜぇ。何を言っても無駄そうなので、もう放っておくことにする。


「ビャクト様、何かおかしくありませんか?」


「何言ってんだ、むしろおかしくないところなんてないぞお前は。何もかもがキチガイの塊だ」


「そういう意味で言ったわけじゃないですって! ほら、周りをよく見てみてくださいよ」


 仕方なく、言われるがままに周りを見回してみる。


 ミルクの言う通り、確かに妙なことになっている。最後の大目玉が出て来たというのに、誰も彼もがあの奴隷を見ずに下に俯いてジッとしているのだ。


 見た感じ、誰一人として競り落とす気が無いように見える。大目玉の奴隷なのにどういうことだ?


「では、原価無料提供よりどうぞ!」


「……は?」


 ますますどういうことなのか分からない。この場にいる全員が誰よりも求めている奴隷のはずなのに、あのジジィよりも価値が下ってどういうことだ?


 あれだけの美貌の持ち主なのに、一向に競り落としコールが上がらない。しばらく時間が経過しても、司会ピエロもオークションを取り止めようとしない。


 いくらなんでも怪し過ぎる。故に、素人の目でも分かってしまう。


 あの奴隷は今までの奴隷とは違って、明らかに“曰くつき”であるということが。


「おいピノ、間違っても競り落とすような真似は――あり?」


 気付くと、隣の席にピノの姿が無かった。


 只ならぬ嫌な予感を感じ取り、真っ先にステージの方を凝視した。


「そのエロボディは貰ったぁ!!」


 案の定、ピノはステージ上にいた。


「た、大変ですよビャクト様! 早くピノさんを止めないと!」


「くそっ! あの野郎早まりやがって!」


 すぐに俺達もステージの方に駆け付けようとしたが、時既に遅し。


 ピノは大きく手を挙げて、高らかに宣言した。


「ん~、それじゃ五十万ゴールドで!」


「はい落札はいありがとうございます! 本日はこれにて終了でございます!」


「このクソパンツがぁぁぁ!!」


 無知無謀な変態と早口な司会ピエロの宣言により、怪しげ感満載なAV奴隷は俺達の手によって落札。しかも不幸に不幸が重なり、貴重な資金の大半以上が失われる羽目となった。


 無論、後にクソパンツは俺の手で半殺しに処した。

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