6.魔獣部隊、第二騎士団
ラッセルとの婚約の条件の一つである、『家族』にいつでも会える権利を行使して、アデラは第二騎士団の訓練場へと足を踏み入れた。
「まあまあ! 皆、元気にしていた?」
アデラが訓練場に入る前からソワソワとしていた魔獣たちが、一斉に駆け出した。
そのことに騎士たちは驚きを隠せない。
それもその筈、魔獣たちは第二騎士団の面々には懐いていなかったからだ。
魔獣が第二騎士団に導入されたのは五年前。その間、誰が担当になろうと絶対に懐かなかった。
懐いているのは、契約者の伯爵家当主しか見たことがない。
魔獣を奴属として契約しているのはアデラの父である伯爵家当主であり、いくら伯爵家の血を引く娘といえども、ここまで懐いているとは想像していなかった。
「一週間前にも会っただろう」
ここでラッセルが呆れたように声を上げた。
その物言いに、五頭の魔獣たちが鋭くラッセルを睨む。
魔獣特有の紫の瞳に、剣呑な光が宿った。
それを気にした様子もなく、アデラが軽快に返した。
「一週間も会っていなかったのだから、感動の再会になるのは当然ですわ」
アデラを伴って入って来たラッセルもまた、魔獣たちの懐きように目を瞠る。
魔獣といっても元は馬だったり猫だったりと、普通の動物であったものたちだ。アデラの家で飼われていた動物なので懐いているのは当然かと思い直す。
それに一月に一度、伯爵家に帰省もする。家族だと豪語していたのは誇張でも何でもなかったのだと、ラッセルは改めて認識した。
だが、それも束の間、ラッセルは脱力する。
「まあまあ、ルルム、相変わらず可愛いでちゅね〜」
一番に駆け寄って来た栗毛の牡馬の魔獣であるルルムを、アデラが撫で回す。
特に胸の辺りを。
ぐふぐふといつもの卑下た嗤いをしながら、隆起した馬の胸筋を上へ下へと忙しなく手を動かした。
「おいおい、筋肉なら馬でもいいのかよ」
完全に引いているのはラッセルだけでなく、第二騎士団の面々も何ともいえない表情を見せていた。
第一騎士団から齎されていたあの話は本当だったのかと、誰もが思ったに違いない。
そして、触られているルルムも、若干及び腰になっていた。
とそこで、大きな声が上がる。
「やめてください! 嫌がってるでしょう!」
バッと前に出て来たのは、小柄な女性騎士だった。
そして強引にアデラの手を掴み、引き剥がした。
深窓の令嬢であるアデラは、その勢いに負けて、後ろに倒れそうになる。
それを咄嗟に支えたたのは、真っ白な猫の魔獣だ。
それと同時に、狼の魔獣が女性騎士の足元に容赦なく風の魔法を打ち込んだ。
「きゃっ」
騎士にしては可愛らしい悲鳴を上げて、尻もちをつく。
五頭の魔獣の目が紅く染まり、女性騎士を睨み上げた。
「ひっ」
その紅い瞳は強い怒気を含むときによく見られる光景だった。
そこにいた騎士たちが総毛立つ。
一度こうなると、激しく暴れることを知っていた騎士たちは臨戦態勢に入った。
だが⋯⋯。
「だめよ、みんな」
優しく嗜めたアデラの声に、一瞬にして魔獣たち瞳の色が元に戻る。
そればかりか、ばつが悪そうに頭を下げて項垂れた。
そのことに、第二騎士団の面々が目を瞠る。
「えっと、そちらの方は新人さんかしら? ルルムは嫌がってなんていないわよ。喜んでいたわ。それが分からないなんて、まだまだね」
いや、確実に嫌がっていただろうと、ラッセルと騎士たちは思ったが、口を噤んだ。
ルルムでさえ困惑気味だが、それでもアデラの言葉を肯定しようと、頭を擦り付ける。
「まー、よちよち」
満面の笑みで鼻を撫でるアデラに、魔獣に気を遣わせるなんてと、騎士たちは何ともいえない表情をした。
「マロルもありがとう」
アデラを咄嗟に支えた猫の魔獣に礼を言うと、嬉しそうにアデラの胸に飛び込んだ。
終始宙に浮いている猫の魔獣は、大型犬並の大きさなのだが、重さを感じさせないかのように、アデラの両腕に抱えられている。
よしよしと背を撫でれば、気持ち良さそうに目を細めた。それを羨ましそうに見ていた狼の魔獣が、そっとアデラの足に擦り寄る。
「モモルも怒ってくれてありがとう。マロルが護ってくれたから大丈夫よ」
優しく頭を撫でながら言う。
今度は大蛇の魔獣がアデラの胴から首にかけて巻き付くと、騎士たちの間から息を呑む気配が上がった。
腕を広げ、胴体に巻き付きやすくするその仕草に、普段からそうしているのだろうとうかがえる。
最後にアデラの頭の上にとまった鷹が静かに目を閉じた。
「うわぁ、あれ、痛くないのか?」
頭皮に爪が食い込まないのかと副団長が呟けば、騎士たちは思わず頷いてしまう。
伯爵家の当主にも見せない魔獣の甘え方に、普段の自分たちへの態度との乖離も相まって、苦い感情が込み上げた。
「はあ〜、こっちがどんなに頑張っても懐かないのに、こんな光景を見せられちゃあ、やる気も削がれるってもんだな」
「確かにな。当主の言っていた言葉は正しかったってことだろう」
「あー⋯⋯五年前、魔獣を騎士団で預かるって話のときの⋯⋯」
「ああ。騎士団では手に余るだろうと言っていた。まあ、五年前に限らず、しょっちゅう言ってるけどな」
「ああ、言ってるなあ〜」
和気あいあいとしているアデラと魔獣とは対照的に、騎士団の面々は鬱々とした空気を醸し出す。
そんな中、新人たちは女性騎士を囲んで何やら騒がしくしていた。
それをじっと見遣り、ラッセルと副団長は溜息を吐く。
「学生気分が抜けねぇなぁ」
その新人たちの遣り取りを、アデラもまたじっとりと見つめていた。
他の男性騎士たちが彼女に群がり、手を貸して立ち上げさせたり、怪我はないかと心配している。
端からみて、ちやほやしているように見えてしまうのは、自身の羨ましいという感情からくるものではないと、断じて違うとアデラは否定しながら、眉を寄せた。
「筋肉に囲まれて⋯⋯羨ましいとか、思ってませんわ⋯⋯」
「何を口走っているだ⋯⋯」
呆れたように言うラッセルに、恨みがましい目を向ける。
「もっと触らせてくださってもいいのですよ」
「いや、お前⋯⋯この前、鼻血垂らしてただろ」
「はうっ」
痛いところをつかれたと、思わずアデラは目を逸らした。
だが、意趣返しはする。
「未だに女性騎士を入団させているのですね。あなたも父親同様、あの方を愛人にされるのですか?」
「はあ?」
五年前、魔獣たちを騎士団に取られた年に、当時第二騎士団の団長を務めていたラッセルの父親が、女性騎士と浮気をしていたことが問題になった。
それなのに、まだ女性騎士を入団させているのかと、未だ犬猿の仲の侯爵夫妻を思い浮かべ、アデラは苦い表情を浮かべる。
「あなたの父親は、騎士団に所属していた女性と浮気をして、夫人にあそこまで嫌われてしまったのでしょう?」
「は?⋯⋯何言ってんだ?」
「何って、血は争えないという話ですが?」
「ん? 血は争えないって、親子揃って騎士団長を就任したってことか?」
「いえ、今は浮気の話をしています」
「いや、浮気はしてない」
「ラッセル様ではなく、侯爵様の話です」
「だから、浮気はしてないって」
どうにも会話が噛み合わないことに、お互いにきょとんとしてしまう。
「あの⋯⋯夫婦仲が悪いのは、侯爵様が浮気をしたのが原因ですよね?」
「いや、違うが」
「でも今現在、愛人と暮らしていると聞きましたよ? それに、第二騎士団長を降ろされたのも浮気のせいだと」
「はあ? 誰にだよ」
「高位貴族の方から下位貴族の方。王宮勤めの文官の方や侍女、下働きの方と幅広く聞きましたが、みな一様にそう言っていました」
伯爵令嬢でありながら、とても顔の広いアデラは、とにかく聞きまくった。
『侯爵夫妻が不仲になった理由』を。それは裏を返せば、現在進行形で『不仲である』と皆に印象付ける行為でもあった。
ラッセルとアデラの婚約式が身内でのみ行われたことも、本来ならば広く知られる筈もないことだったが、アデラのこの行為のせいで思いの外広がってしまい、王女であるユリアーナが気を揉む結果になった要因にもなっていたのだが、ラッセルはたった今その事実を知る。
「あなたから父親は家に寄りつかないと聞いたとき、不思議に思ったのです。夫人は領地に下がっているのに、何故帰って来ないのかと。侯爵家当主がずっと邸を空けているのも不自然ですし。だから色々な方に聞いてみたのです。それはもう沢山、色々な方に」
「あー⋯⋯」
弱りきった声を上げたラッセルは、天を仰ぐ。
そして当時の誤解が払拭されぬまま、今に至る事実を知り、項垂れた。
「本当に違うと言うなら、何故こんなにも誰も彼もが同じことを言うのでしょう?」
「まあ正直、不仲なのは事実だからな。浮気云々は面倒だからそのままにしてたんだろう」
「最初から不仲だったということですか?」
「いやまあ、最初からというわけではないんだが⋯⋯切欠はこの第二騎士団に魔獣たちを導入したことだろうな」
「え?」
「当時、母は反対していたんだ。伯爵家が動物好きなのは知っていたし、飼っていた動物たちが魔獣にされて、どんな思いをしているか、そう考えたら、とてもじゃないが賛成できないと」
「⋯⋯そうなのですね」
「まあ、父も反対はしていたが、根っからの武人だ。王への忠誠も相まって、結局は賛成した」
「意見の対立から、不仲になったということですか?」
「まあ、それもある。第二騎士団の団長に就任後、家に帰れない日が続いたってのもあるがな」
当時はラッセルも騎士見習いとして第二騎士団で鍛錬を積んでいた。
騎士学校へ通いながらではあるが、父の背中を追いかけていたあの頃を思い出し、大変だったなと、遠い目をした。
「では、浮気はしていないと?」
「ああ、そんな暇もなかったしな」
魔獣たちは伯爵家を恋しがり、よく脱走をしていた。
伯爵が自ら連れて来ることはせず、迎えに行くことが日常茶飯事だった。
そのことを思い出したのだろう、アデラはふむ、と考え込む。
そして徐に大蛇の魔獣に目を向けた。
「サザル、その当時のことを覚えている?」
大蛇がチロチロと、ふたつに割れた舌を出した。そして小さく首を傾げる。
その様子に、アデラが壊れた。
「んもう、サザルったら! 可愛いんだからあ〜!」
大蛇の頬に自身の頬をグリグリと擦り寄せ、目がだらしなく下がる。
ゲヘゲヘと声を発するアデラはおよそ淑女とはかけ離れていた。
端から見ればかなり痛い光景ではあるが、大蛇は心なしか嬉しそうにしていた。
「おっさんかよ⋯⋯」
笑い方が変態じみていて、騎士たちが引いている。
ラッセルの呟きに、今度は騎士たちに憐憫の表情が浮かんだ。
アレが婚約者だという、ラッセルに向けて。
「言うな。何も言うな。普段は淑女の鑑だと言われているんだ。普段はちゃんとしているんだ」
弁明を述べるラッセルに、同情が寄せられたのは言うまでもない。
「コホン、失礼。では、サザル。当時の映像を出してもらえる?」
映像?と疑問を浮かべた騎士たちを他所に、サザルの躰が淡く光った。
そして何もないところに、光の輪が現れたかと思うと、その中心に何かが蠢く。
それが前第二騎士団長だと理解するのに時間はかからなかった。
『すまないな。家族に会いたい気持ちはわかるが、どうか耐えてくれ』
柵に寄りかかり、優しい声を紡ぐ前騎士団長に、誰もが息を呑む。
大蛇の魔獣が映像魔法を使えることは、騎士団でも共有されていた。
だが誰も使っているところは見たことがなかったし、魔物退治の参考にしたいから、見たことを映像魔法で再現してくれと頼んでも絶対に見せてはくれなかった。
それがアデラの一言で、簡単に映像魔法を行使したことに驚きを隠せなかった。
『団長、もう何日も家に帰っていないのでしょう? たまには家でのんびりしてください』
『そういうわけにはいかない。魔獣たちだって、帰りたくても帰れないんだ。それなのに、俺ばかりが家族のもとに帰るなど、許される筈がない』
場面は変わり、背を向けて話す姿が映る。
視点は大蛇の魔獣のものなので、定まらない。
『ああ、妻と娘がいるんだ。息子はほら、あれだ。似ているだろう? 良き騎士になってくれそうで安心している』
餌が目の前にあるせいか、前団長の顔ではなく、ネズミが全面に映し出され、女性騎士が悲鳴を上げる。
それに目も向けず、騎士たちは初めて観る映像魔法に釘付けだ。
『寂しい思いをさせてすまない。三日後には伯爵が来る。だから、楽しみにしていてくれ』
映像はそこで終わった。
「意外でした。大切にしてくださっていたのですね。ありがとうございます」
アデラが深々と頭を下げる。
「当然だ。オルコット家にとっては大切な家族なんだからな」
にこりとアデラが優しく笑う。
その可憐な笑顔は、騎士たちを魅了した。
だが、先程の卑下た嗤いを思い出し、我に返る。
「結局、浮気の件はわかりませんでしたね」
「いや、だから、してないって」
「では何故、騎士団長を降ろされたのですか?」
「降ろされたわけじゃない。西の砦に出征しているだけだ」
「西の砦⋯⋯七年前、『闇霧』(やみぎり)が発生した⋯⋯」
「ああ、魔獣と同等の戦力だからな」
「⋯⋯それはラッセル様もですよね?」
言外に、その当時の騎士団長ではなく、一兵卒であるラッセルが行けば良かったのではないかと疑問を投げかける。
「ああ、まあ⋯⋯一応、嫡男だからな⋯⋯王家からなるべく早く後継者を、と望まれている」
「⋯⋯それは確かに⋯⋯重責ですわね」
魔獣が誕生するまで、この国が保っていられたのはバチュラー侯爵家のお陰だ。
おおよそ人間とは思えないほどの魔力量と身体能力を有する一族の後継者は、この国にとっての命綱でもある。
高位貴族に全くと言っていいほど興味のなかったアデラは、ようやく気づく。
責任重大なのではと。
筋肉に釣られて婚約をしてしまったが、後継者をと考えたとき、自分に務まるのかと不安になった。
それは侯爵夫人然り、母親としての責任も然りだ。
ふむ、と考え込んでしまったアデラに、ラッセルが声をかけようとしたまさにその時、バッと黒い塊がアデラの前に転がり込む。
一瞬の出来事に、ビクリと身体を跳ねさせたアデラだったが、魔獣たちが特に反応を示していないので、すぐに落ち着きを取り戻した。
「ラット!」
女性騎士が慌てて飛び出して来るも、ラットと呼ばれた黒い塊は、ラッセル目掛けて走り出し、そのまま足から肩へと駆け上がった。
「あらあら、もしかしてそのリスって⋯⋯」
ラッセルの肩に乗り、魔獣とアデラを観察するようにじっと見つめる小動物は、一見するとただのリスのようだが、魔獣特有の紫の瞳に、躰に走る『闇に撫でられた痕』があった。
「ああ、魔導部隊の研究科の実験体だ」
「実験体」
何ともいえない言葉の響きに、アデラは思わず口にしてみた。
そして、その小動物を観察する。
五年前、国軍に魔獣を導入する際、研究機関も立ち上がった。
元々あった『闇に撫でられた者』が魔物になる現象と、その現象を引き起こす『闇霧』(やみぎり)を研究している機関が、新たにオルコット伯爵が創り出した『魔獣』を人工的に做るために立ち上げたものだ。
その結果が今、アデラの目の前にいるリスだった。
ラッセルの肩で大人しくしているリスは、全くといっていいほど、警戒していない。しっかりと信頼関係は築けているのだろうと、アデラは安堵した。
「ずいぶんと懐いていますね。良い結果が出た、ということでよろしいのでしょうか?」
「⋯⋯いや。ただ単に、一番強いやつの傍にいれば安全だと思っているらしい。実戦ではほぼ使い物にならない」
「⋯⋯そうですか⋯⋯」
道具のような言いように、一瞬、アデラは顔を顰めそうになった。
だが、そこはぐっと堪えて、質問を重ねる。
「魔法は使えるのですよね?」
「ああ、浄化魔法だ」
「浄化魔法! そんな高度な魔法を付与したのですか!」
浄化魔法は聖魔法と呼ばれる高位聖職者にしか使えない貴重な魔法だ。
それを惜しげもなく付与したことに、アデラは驚きを隠せない。
「まあ、使っているところは一度も見たことはない。魔導部隊も見たことはないと言っていた」
「え? それって、使えるかどうか、分からないということでしょうか?」
「理論上は使えるらしい。ただ、使っているところを見たことがないというだけだ」
「なるほど⋯⋯」
そこでアデラはちらりとサザルを見遣る。
意を汲んだようにサザルの躰が淡く光り出した。
光の輪の中で、先に鳴き声が聞こえてくる。
『チッ、チチッ』
『にゃう〜ん』
『チッ!』
そして、朧気に真っ黒なリスと真っ白な猫の姿が浮かんで来た。
『にゃうにゃう〜』
『チチッ』
リスと猫が向かい合い、何やら会話をしている様子に、アデラは頬を緩めて「かわいいでちゅね〜」などと上機嫌だった。
だが、次の瞬間⋯⋯。
『チッ!』
掛け声とともに、リスの躰が淡く光り、周りに幾つもの白い球が現れた。
映像を観ていた面々が首を傾げる。
「あれが⋯⋯浄化魔法ですか?」
「さあな。見たことがないから分からない」
ラッセルの方に目を向け問いかけたアデラは、眉を寄せる。
貴重な浄化魔法を見たことがないというのは至極当然のことなのだが、騎士団長として、また実験体とはいえ魔獣を預かっている立場の者が、それで良いのか、と不満げな顔をした。
「まあ恐らく、浄化魔法だろう。何にせよ、使えることが分かってひと安心だ」
腕を組んで息を吐き出したラッセルは、「これで魔導部隊に良い返事ができる」と、安堵の表情を見せる。
その言葉に、騎士たちも大きく頷いた。
「それにしても凄いな、サザル。アデラの意を汲んで、ここまで鮮明に映像魔法が使えるなんて。お陰で、色々と前進できそうだ。礼を言う」
「まあまあ、ラッセル様! 当然ではありませんか! 我が家のサザルは、それはもう、優秀なのですよ!」
胸を仰け反らせ、鼻高々のアデラに、思わずラッセルは吹き出した。
「あははは! 何だよ、お前の手柄じゃないだろう!」
「まあ、何をおっしゃいますの! サザルは私の弟なのですよ! 自慢したっていいじゃないですか!」
「おう、サザルは雄なのか、初めて知った」
「んなっ! うちの子に興味なさすぎでは!」
やいのやいのと言い合いをするラッセルとアデラに、騎士たちは思わず口々に言葉を零す。
「俺も婚約者が欲しい⋯⋯」
「俺も⋯⋯」
「あー、彼女に会いたい⋯⋯」
「くそっ、羨ましい⋯⋯」
そんな騎士たちを他所に、一人違う意味で歯噛みしている者がいた。
「何よ、ちょっと綺麗だからって良い気になって。⋯⋯そうだわ、あの変態ぶりをみんなに広めれば⋯。ふふ、見てなさい、大恥をかかせてあげるわ」
醜悪な笑みを浮かべる女性騎士を、サザルだけがじっと見つめていた。
お読み頂き、ありがとうございます。




