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純情可憐な変態令嬢  作者: 空青藍青


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4.婚約式と飛び交う噂話


 数日後、アデラのもとに、ラッセルから夜会への誘いの手紙が届いた。


 王家主催の夜会で、王女の婚約発表が行われると聞いていたアデラは、自分たちの婚約式の時のことを思い出す。


 王命での婚約、と言う割には急ごしらえの、侯爵家としては物凄く小ぢんまりとした婚約式だった。

 実際、集まったのは両家の親兄弟のみで、ドレスもデビュタント用に作らせたものを手直ししただけのものだった。


 そして何故ここまで小ぢんまりとしてしまったのか、その理由は、ラッセルの家族のせいである。


 所謂、仮面夫婦を地でいく侯爵夫妻は、両家を交えての挨拶で、身内になるオルコット家に包み隠さず、夫婦仲の悪さ、そして家族仲の悪さを暴露した。

 息子の婚約にも興味はなく、婚約式をやる必要があるのかと問いかける始末であった。


 だがオルコット家からすれば、可愛い一人娘を嫁がせるのに、手順を踏まないなどという選択肢はなく、強引に婚約式を決行することに決めたのだが、それを良く思わなかった侯爵夫人はあの夜会からたった一月後に婚約式を行う旨の連絡をよこした。

 当の女主人がやる気がないため、侯爵家側の親族に手紙を書くわけもなく、アデラ側も一月後という余りにも早すぎる式の開催に親族を呼ぶ事が叶わなかった。

 結果としてこの上なく小ぢんまりとした婚約式になってしまったのだ。


 

 


 夜会当日、馬車から降りたアデラは、ラッセルのエスコートで会場入りする。

その際、ラッセルと腕を組んだアデラは、忙しなく手を動かした。


 さわさわさわさわさわさわ⋯。 

 ラッセルの逞しい腕を、上へ下へと撫で回す。


「ぐふふ⋯⋯」

「おい、顔、顔を隠せ。顔を。扇はどうした、扇は」


 身長差ゆえに、上から見下ろす形でもアデラのだらしなく脂下がった目元を見て、ラッセルが呆れたように言う。

 慌てて扇を取り出し顔を隠すも、さわさわさと手は動きを止めない。


「んはあ〜⋯⋯すごい筋肉⋯⋯」


 うっとりと口にしながら耳を真っ赤にさせるアデラに、ラッセルは堪らず唸る。


「⋯⋯いや、本当、変態のくせして純情とか、詐欺もいいところだろ⋯⋯」


 そんなやり取りも、会場の大扉の前までだ。

 名を呼ばれ入場する頃には、しっかりと淑女の仮面をアデラは被る。

 それに感心しながら、ラッセルも姿勢を正した。


 ラッセルと共にアデラが会場に入ると、否応なしに視線が集まる。

 王命での婚約。

 その背景には許されざる恋の末、ラッセルが武功を立て勝ち取った褒賞だと、ここにいる者たちには認識されていた。

 ラッセルのやらかしは綺麗に隠され、本当のことを知っているのはラッセルの家族と王家のみだ。

 ラッセルの為に頭を下げに来た宰相も、アデラの家族も知らない。

 前回の夜会でアデラとラッセルを繋いだテレンスにも、『仲の悪い両親を見て、筋肉好きならばそうならないだろう。だから公の場でオルコット嬢に求婚すれば、婚約まで持っていけるはず」と言っただけだった。

 高位貴族との婚姻に制限があったことを改めて知ったテレンスに、「こうでもしないと婚約できなかったのだな」と妙に同情されて、二人は居心地の悪い思いをしたのだ。

 だがそのお陰か、未だ疑わしかったアデラの変態行為も『皆の恋の為』という免罪符に大きく傾き、評判は上々だ。


「まあ、豪華絢爛ですわね」


 自分たちの婚約式とは雲泥の差だと、アデラはため息をつく。


「まあ、王族の婚約式なんて、豪華にしないわけにはいかないだろうしな」


 特に気にした様子もなく返された言葉に、アデラはモヤモヤとした気持ちになった。

 強引に王命を取り付けた割には、あまりにもお粗末な婚約式、そしてそれを気にもしない婚約者。

 本当に貧乏くじを引かされたと、アデラは恨みがましくラッセルを見遣った。


 そんな中、本日の主役ある王女が二人の前にやって来た。

 着いて早々、当主でもない侯爵家子息のためにわざわざ向こうからやってくるなどあまりないことだと、アデラは面食らう。

 それも婚約者を連れずに一人でやって来たのだ。


「よく来てくださいました」

「ユリアーナ、婚約、おめでとう」


 ラッセルの祝いの言葉にあわせ、アデラがスッと腰を折る。それを見届けてから王女ユリアーナが言葉を返した。


「ありがとう、ラッセルお兄様」


 ラッセルとユリアーナは従兄妹にあたる。

 アデラは、王女と面と向かって顔を合わせるのは、これが初めてだ。

 ラッセルに届いた招待状に、同伴者として参加している。

 オルコット伯爵家として招かれている当主夫妻とは別で、ラッセルの婚約者としての参加だ。

 しかも仲の悪いラッセルの両親の名代でもある。

 このために婚約式を早めたのかと、アデラは思わず納得してしまった。

 姪の婚約式さえも一緒に出席するのを拒む程に仲が悪いとは、この先のことを考えると頭が痛いと、アデラはうんざりとした気分になる。


 そんなことを考えながら、ラッセルとユリアーナのやり取りに、こちらは仲が良さそうだと、アデラは知らず詰めていた息を吐き出した。

 そんなアデラに、ユリアーナが微笑みを向ける。

 そして意味ありげに、ラッセルに目を向けた。

 暫しの沈黙。

 本来であれば、ここで初対面の王女とアデラの紹介をラッセルが行う場面だ。

 その筈なのだが、ラッセルはニコニコと笑顔を見せるだけで何も行動を起こさない。

 焦ったのはユリアーナだ。

 もう一度アデラに視線を移し、物言いたげにチラチラとラッセルに目で訴えかける。

 それに首を傾げたラッセルに、ユリアーナは深い溜め息を吐き出した。


「お二人も婚約式を済ませたと聞きました。しかも、かなり小規模に。叔母様と叔父様は、相変わらずなのですね」


 言外に、自分が婚約式に出席していないと告げてみるも、ラッセルは気づかない。

 そのことに眉を下げたユリアーナは、またアデラへと視線を向けた。

 アデラは薄く笑んでみせ、流石に不憫に思いラッセルに目配せする。

 だがしかし、ラッセルは気づかない。

 そんなふうにヤキモキしているユリアーナとは対照的に、やらかしたラッセルは、にこやかにユリアーナに返事をした。


「まあ、最初はやらないとか言い出してな。何とか出来て良かったよ」

「⋯⋯それはまた、大変でしたね。遅ればせながら、ご婚約、おめでとうございます」

「ああ、ありがとう」


 諦めたように目を伏せたユリアーナに、アデラは顔を引きつらせ、またゆっくりと腰を折った。

 それを見届けた後、ユリアーナがその場を立ち去ると、アデラは姿勢を戻す。

 終始無言だったアデラに、ラッセルが斜め上の発言をした。


「何だ? 王族相手に緊張でもしたのか?」

「王女殿下とは初対面ですので」

「へえ、そうっだったのか」

「⋯⋯ですので、紹介をされない限り、私が口を開くことはできません」


 ハッとしたラッセルは、バツが悪そうに手で顔を覆った。

 初対面の場合、誰かの紹介がなければ挨拶もできない。貴族の常識である。しかも相手は王族だ。おいそれと話しかけるのも憚れた。


「⋯⋯言ってくれよ」


 弱り切った声を出したラッセルに、アデラは前々から思っていたことを心の中だけで呟く。

 この男、ポンコツなのでは、と。

 第二騎士団の団長として、聞こえてくる噂はどれも『英雄』『剣豪』『最強』など、良いものばかりだ。

 しかも侯爵家の嫡男であり、母親は王妹。周りからの信頼も厚い。


だが⋯⋯。


「あら? 頭脳明晰や優秀とか、策略家とかは聞かないわね」


 その言葉こそが全てだと、アデラはたった今気がついた。

 侯爵家嫡男で、第二騎士団の団長、右に出る者がいないほどに最強、そんなラッセルに婚約者がいなかったのは、家族仲が悪いせいなのかと先日の婚約式を経てそう思っていたのだが、違う要因が垣間見えて思わず溜め息を零したアデラだった。



◆ ◆ ◆



 夜会の翌日、王女であるユリアーナが、ラッセルのもとに突撃してきた。

 その知らせと共に、アデラがバチュラー侯爵家へと呼ばれ、応接間へと案内される。

 

 応接間に入ると、それはもう悲惨な状態だった。


「ええっと⋯⋯流石にこれは⋯⋯」


 王女であるユリアーナが、縄でグルグル巻きにされ、床に転がされていた。

 しかも口には布が突っ込まれている。


 応接間の壁には穴があき、三人掛けのソファーは無惨に切り裂かれていた。

調度品も酷い有様で、相当に暴れたのが伺える。

 そういえば、王女は雷魔法が得意だったなと、遠い目をしながらアデラは思い出した。

 ラッセルはといえば、疲れた表情で一人掛けのソファーに沈んでいた。

 

 うーうーと唸るユリアーナに、アデラはどう言葉をかけるべきか悩んだ。

 だがここで、まだ紹介をされていないことに思い至り、ラッセルへと声をかける。


「ラッセル様、王女殿下に私のことを紹介してください」


 この状況で紹介をと言うアデラに、信じられないという態度で、ラッセルが目を瞠る。


「⋯⋯ああ」


 渋々立ち上がったラッセルに、ユリアーナが恨みがましい目を向けた。


「あー、婚約者のアデラ・オルコット嬢だ」

「いえいえ、待って、待ってください。縄を解いて、身なりを整えてからでしょう」


 額に手をあて、頭痛を堪えるようにアデラが首を振った。


「おいおい、この惨状を見てよくそんなことが言えるな」

「あなたこそ、どうしてこうなっているのか理解しているのかしら? 正直、なるべくして成ったようなものでしょうに」

「はあ?」


 全く解っていない様子のラッセルに、ユリアーナがうーうー抗議の声を上げる。

 昨日の夜会での出来事を思い出し、アデラはユリアーナに同情した。


 王女が自分たちに声をかけた後、それはもうあちこちで、噂話に花が咲いていた。

 王家とオルコット家の確執。

 王妹とバチュラー家との確執。

 そして今回新たに、バチュラー家と王家との確執が追加され、それはもう話題には事欠かない。

 そんな状態での、王女の婚約発表だ。

 ユリアーナの心情を思えば、王家に恨みがあるアデラでさえ、居た堪れなさを感じるほどだった。


 そうなった原因は、紛れもなくラッセルにある。

 有りもしない恋愛話をでっち上げ、国王と宰相を騙し、アデラとの婚約を王命という形で取り付けた。


 それにより、取り返しのつかない状況に追い込まれ、やむなく情報操作をする羽目になった王家は、被害者だ。


「そうですね。一から説明しないと理解出来ないようなので、ちゃんと聞いてくださいね」


 そう言いながら、アデラは王女の縄に手をかけた。


「まず、我がオルコット家は、五年程前に、家族同然である魔獣⋯⋯といっても、元は家の馬だったり、飼っていた猫だったりするのですが、その家族を差し出せと王命を受けました。それも魔物退治の為にです。そんな危険なところに家族を送り出すなどと、それはもう抗議いたしました」


 縄を解かれながら、その話を聞いていた王女が、じっとりとした目をアデラに向ける。


「結局のところ、紆余曲折あって今に至りますが、王家と我が家には大きな確執が出来たことは間違いありません」

「おい、ずいぶん端折ったな。一から話すんじゃなかったのかよ」


 気持ちよく話していたところで邪魔をされて、アデラはチラリとラッセルを一瞥した。

 だが何も言わずに話しを続ける。


「というわけで、オルコット家と王家が仲が悪いのは、殆どの貴族家は知っているわけです」 

「無視かよ!」


 そんなラッセルを他所に、アデラは懸命にユリアーナの縄を解く。

 だが、余程長い縄で巻いたのか、解いても解いても先が見えない縄に、次第にユリアーナへの扱いが雑になってくる。


「高位貴族との婚姻を拒んだのも我が家です。家族を差し出す条件に盛り込みました。万が一この国を出る際に、高位貴族と婚姻していると面倒なことが多いので」


 ユリアーナが、またうーうー唸る。

 口に詰め込まれている布を取って欲しそうにしていたが、途中で口を挟まれるのを嫌い、アデラはユリアーナの身体をコロコロと転がした。

 壁まで行ったら、付いてきていた侍女、マーサに頼み、向きを変えるのを手伝ってもらう。


「この条件を利用し、『これ以上伯爵家に力をつけさせないため、高位貴族との婚姻を許さない』と、王家が取り決めた。そう広めたのは我が家です」


 そのアデラの言葉に、ユリアーナが苦々しい表情をした。


「そこへきて、あなたが王命で私との婚約を願った。私の父は激怒し、陛下に抗議した。それを多くの方が見ています」

「あー⋯⋯」

「しかも、私たちの婚約式には王族の誰一人として参加していない。あなたの母親は王妹なのに。そして、この前の王女殿下の婚約式では、私はひと言も話さなかった。その行動は、オルコット家が王家を許していないのだと印象付けたことでしょう」


 実際、王家に恨みをもっているアデラは、今回のことを特に気にかけていない。


 それでも、引き裂かれた恋物語のような話はそれなりに広まり、支持は得ていた。


 高位貴族との婚姻を認めていないオルコット家の令嬢との婚約を成すため、ラッセルが武功を上げた。

 密かに想い合う二人を引き裂いていたのは、王家が最も嫌う権力集中への懸念であったため、そうせざるを得なかったラッセルの胸中を思い、声高に噂が飛びかってしまった。


 そして王女が自ら挨拶に来たにも関わらず、アデラが終始無言だったという事実も影響した。


 だが、それを作り話だと思っている者も多くいる。

 それほどまでに、アデラとラッセルの接点は皆無だったからだ。

 そして、オルコット伯爵の王命に対しての激怒。

 ただの褒賞としての王命に、ここまで過剰に反応を示すのも何か別の要因があるのではないかと、囁かれていた。


 床に散らばった破片の上を、王女が転がる。切り裂かれたソファーの足まで辿り着いた時にようやく縄が完全に解けた。

 王女は涙目である。

 そうしてユリアーナは、口に詰め込まれた布を自ら外し、ラッセルへと怨嗟を撒き散らした。


「お兄様のせいで、王家がなんと言われているか知っているの!」

「え? いや⋯⋯」

「国の恩人に唾棄をし、オルコット家の利益を自分たちのものにしようと企んでいる、そう言われているのよ!」

「はあ? 何故そうなる?」

「お兄様が大嘘をついて、王命でオルコット様と婚約したからに決まっているでしょう!」

「だからなんで、それが原因になるんだよ?」


 苛立たしげに言葉を吐いたラッセルに、ユリアーナは大きく息を吸って吐き出した。

 自分の心を落ち着かせるために。


「ねえ、どうして彼女なの? オルコット嬢でなければ、ここまで王家が悪者になることもなかったのに⋯⋯」

「あー⋯⋯まあ⋯⋯」

「それに⋯⋯」


 チラリとアデラを見て、ユリアーナは言葉を飲み込む。

 そして、ぎりりと奥歯を噛み締めた。


 アデラの語った、オルコット家が魔獣を差し出したという話は、表向きの話だ。

 

 真実は異なる。

 

 実際は、オルコット伯爵が国王に頭を下げて頼み込んだのだ。

 国軍で魔獣たちを預かってほしいと。


 当時、国軍での魔物討伐は限界を迎えていた。

 そこに来て、戦況をひっくり返す魔獣の誕生に、国中が沸いた。

 だが、魔獣たちの主は騎士でもなんでもない、オルコット伯爵だ。

 当然のことながら、主であるオルコット伯爵が魔獣を率いて前線に立つことになる。

 しかも伯爵夫人と子どもたち二人、イーサンとアデラも一緒にだ。

 当時の二人はまだ十一歳と十歳。

 伯爵がどんなに止めても無駄だった。

 それは偏に『家族』が魔獣にされる瞬間を、見ていたからに他ならない。

 元は飼い猫たちである魔獣たちを、魔物討伐に駆り出すことが心配でならなかった三人は、前線でも魔獣たちの前に立ち、怪我を負うことも少なくなかったという。

 それに耐えられなくなった伯爵が、頭を下げて国王にに頼み込んだのだ。

 このことを知っているのは、王家とバチュラー侯爵、そして息子であるラッセルだけで、侯爵夫人である王妹は知らない。


 そんな経緯もあり、ユリアーナからしてみれば、オルコット伯爵の意向を汲んでの魔獣預かりなのに、恨みを買っていること自体が不本意なのだ。

 それに加えて自身の婚約式で悪評が広がったことに、不満しかない。

 その最たる原因を作ったのが、ラッセルなのだから、痛い目をみるのも当然であると、ユリアーナは思っていた。


 二人のやり取りに、静かにアデラが割って入った。


「正直、私も、疑問に思っております。私でなくてもよかったのでは、と」


 だが、そのアデラの言葉に、ユリアーナがぎょっとする。

 そして、哀れみを込めた目でラッセルを見た。


「本当に、お兄様のことを何とも思っていないのね」

「はい。むしろ今からでも婚約を解消したいくらいですわ」

「「えっ!」」


 ラッセルとユリアーナが同時に声をあげた。

 ラッセルからしてみれば、筋肉愛ゆえとはいえ、他人の身体に触るのだ。それなりに好意はあるのだろうと思っていた。

 ユリアーナにしても、侯爵令息に加え、国軍最強と謳われているラッセルに請われ、まんざらでもないのではと思っていたので尚更だ。


「何故、驚いているのです?」

「いや、おまえ、あれだけのことをしておいて⋯⋯」

「! あ、あれだけのことって! 何? え? もう、あんなことやそんなことを!」


 真っ赤になって叫ぶように言ったユリアーナに、アデラが冷たい視線を向ける。


「ラッセル様の言い方に悪意を感じますわ」

「いや、まあ、確かに⋯⋯」

「⋯⋯え? 違いますの?」


 妙に残念そうに呟いたユリアーナに、アデラの瞳は益々冷気を帯びる。

 その視線に、ユリアーナはバツが悪そうに目を伏せた。


「ふう〜⋯⋯オルコット様、今度私の主催するお茶会に参加してくださいませんか?」


 アデラがラッセルに懸想していない事実に、思わず溜飲を下げたユリアーナは、ひとつ息を吐き出すと、提案をする。


「ご冗談を。ここまで迷惑を被っている私が、なぜ尻ぬぐいをしなければなりませんの?」

「⋯⋯う⋯⋯それは⋯⋯」


 眉を下げ、泣きそうなユリアーナに、アデラは尚も言い募る。


「泣きつくのであれば、赤の他人の私ではなく、王妹である侯爵夫人になさいませ」


 ニッコリと笑顔で告げたアデラに、絶望の表情を浮かべたユリアーナは、キッとラッセルを睨みつけた。

 怒りの矛先は、どうしたってやらかしたラッセルへと向く。


 ひときわ大きな雷を落とし、「お兄様のバカー!」と言いながらユリアーナは屋敷を後にしたのだった。


お読み頂き、ありがとうございます。

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