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罪人

捕縛されたジルは、ダモンの企みで偽手紙を置こうとしたことを白状した。

あまりにもあっさり白状したことで、ロベリアの役人も拍子抜けしたほどだ。


「イヴン様の命令なら、白状することはなかったでしょう。いや、イヴン様ならそもそも捕まらないように考えてくださっていたでしょうね」


このジルの言葉により、ダモンが部下からも慕われていないことがロベリアの役人にも伝わった。


マリアンヌが雇った10人の密偵も、主人に対する忠義など持っていなかった。

ミラ、レオニス、アルベルトという魔法使い3人に囲まれ、大人しく縄についた。


こちらの取り調べでも、あっさりとマリアンヌの名前を白状した。

婚約披露パーティーに招待した公爵がこのような問題を起こしたのだ。

ただで済むはずがない。


とは言っても他国の筆頭公爵を牢に入れるわけにもいかず、とりあえず2人は別々の部屋で軟禁されることとなった。

待遇はそれなりだが、勝手に部屋を出ることは許されず、常に監視の者が付いている。

自分の家の者に会うことも許されない。


「くっ、なぜわしがこんな屈辱を……」


ダモンは、部屋で一人唇を噛んだ。

ジルのような老いぼれを使ったからだ。もっと若くて優秀な密偵を使えばよかった。

自分の陰謀が読まれていたことなど露も考えず、ただ捕まったジルの責任だと思った。


他国の筆頭公爵だから牢に入れられてこそいないが、かなりの屈辱を味わわされている。

こんな姿を他人に見られたくない。

今まで蔑んでいたロベリアの人間と顔を合わせようものなら、どれだけ見下されるか分からない。

だから、ダモンはできるだけ部屋から出ないようにして過ごした。


その反対に、マリアンヌは事あるごとに部屋を出た。

ラディアート王国の王族たる自分に何を憚ることがあろうか。

自分に何も恥じることはないと言わんばかりに監視を連れて歩き回り、ロベリアの者に会えば見下すような発言をしていた。


そんな時、マリアンヌはミラとレオニス王子に出くわした。

冷静に考えれば11年前に死んだミラがここにいるわけはないのだが、以前とまったく同じ顔で王子と笑い合っている姿を見るとマリアンヌは逆上してしまった。


「平民の娘風情が我の前に立つとは何事か!」


その言葉を聞いたレオニス王子の目が冷たく光る。


「平民の娘とは、誰に向かって言っている?」


王子は、ミラの方を指し示しながら言った。


「この者はカシウス・アルヴェイン侯爵とマルダー伯爵家の令嬢クラリスの間に生まれたれっきとした貴族だ。いくら他国の侯爵家の細君といえど、我が国の貴族への侮辱は許さぬぞ!」


そして、マリアンヌの監視の者に言いつける。


「この者を牢に入れよ」


「なんだと!筆頭公爵の妻にしてラディアート王家の血を引く私を牢に入れるとは!礼儀を弁えよ!」


「先に礼を失したのはそちらであろう。礼を知らぬ畜生に礼をもって接するほど私は愚かではない」


監視の者がマリアンヌの両腕を掴んで歩き出す。


「放せ、無礼者!私を誰だと思っておる!」


どれだけ抵抗をしても女の腕で何ができるわけでもなく、その姿は遠ざかって行った。

「今に見ておれ!」という言葉と共に。


その姿を見送った後、レオニス王子はミラに向きなおった。


「済まない、ミラ。前世でのミラの母上を侮辱するつもりはないんだ。前世でミラは平民の娘だったかもしれない。そのことを蔑むあの女に腹が立った。だが、貴族間の決まり事であの女を罰するにはああ言うしかなかったんだ」


ミラは首を振って言った。


「気にしないでください、殿下。アンナに分け隔てなく接してくれている殿下が、私の前世での母を蔑んだりしないことは分かっています」


そう言って、ミラは王子に笑いかけた。

それから二人は、婚約披露パーティーの準備に向かった。


***


「父上も母上も何をやっているんだ!」


ダモンの息子のリカルドは、自分の両親に対して深い憤りと失望を感じていた。

今回は、ロベリア王国に対して謝罪のために訪れたはずだ。

それなのに、さらなる敵対行動を起こしたうえにそれが露顕するとは。


「父上も母上も、タッカー公爵家を潰すつもりか!」


リカルドがそう呟いたところに、牢にいるマリアンヌからの手紙が届いた。

それくらいのことは許しているが、中身は検閲されている。

マリアンヌは「礼儀を知らぬこの国の猿どもに礼儀を教えてやらねばならぬ。私を牢に入れたことを厳重に抗議し、私を解放するよう王家に伝えよ。何なら宣戦布告をしても良い」


この手紙を見たリカルドは、青くなった。

どれだけ考えなしなのだ。牢に入ったことなどないだろうから知らないのだろう。この中身をロベリアの役人に読まれていることを。

下手をすると、本当に戦争になりかねない。その時は、自分や両親も人質となるだろう。


そこに、レオニス王子からの使いも届いた。


「貴殿の母上が我が婚約者を侮辱したため、一時的に牢獄に閉じ込めている。申し開きや抗議は聞き入れる故、何かあれば面会を申し出よ」


リカルドは、ため息をついた。

宣戦布告をせよなどと言う者の解放を願えば、こちらにどんな腹があるか邪推されかねない。


リカルドは母からの手紙は黙殺し、レオニス王子には「申し開きも抗議もございません。我が王に事の次第を報告し、その沙汰が下るまで牢に入れておいてもらって結構です」と返事を出した。

マリアンヌは、息子からも罪人として扱われることとなった。


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