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裏で動く者たち

ダモン・タッカー公爵率いるラディアート王国の使節が、ロベリア王国王都に到着した。

11年前の敗戦後、事務レベルの役人の往来はあっても、このような大物が公式にロベリア王国を訪れることはなかった。

何かがあったら呼びつけられる、という関係だったのだ。


だからこそ、ロベリア王国の面々は溜飲が下がる思いだった。

反対に、ダモン・タッカー公爵を始めとしたラディアート王国の面々は、苦虫を嚙み潰したような顔をしている。


しかもこの屈辱の原因であるダモンの失態は、政敵のロジャー・ウェストン公爵が陰に陽に触れ回っているので、誰もが知るところとなっている。

さすがに筆頭公爵を面と向かって非難する者はロジャー公爵くらいだが、周りの冷たい視線はダモンを苦しめていた。


この逆境を乗り越えるためにダモンが選ぶ方法は、やはり陰謀だった。

ダモンは、決して自分を無能だとは思っていない。

ただ、軍事にはあまり興味が持てなかった。


陰謀で相手を叩き落とすことが、何よりも気持ち良かった。

そんなダモンが筆頭公爵になったのは、軍功を認められてのことだったのが皮肉ではあるが。


今ダモンが考えているのは、ミラを傷物にして王子との婚約を破棄させること。

従者を盗人に仕立て上げることは、レオニス王子の働きで失敗した。

そこで今度は、父のカシウス侯爵の評判を落とそうとした。


そのための密偵をロベリア王国の王都に放ったのだが、結果は芳しくない。

謀反の噂を流そうにも、カシウス侯爵の忠義は知れ渡り過ぎていて付け入るスキがない。

下手に言い募ると

「そんなはずがないだろう。お前怪しいな、何者だ!」

となってしまうという報告があった。


「ロベリアの奴らは馬鹿なのか。そんな忠義に厚い人間は物語の中にしかいないのに」


先の戦で功を立てた時、人はみな自分に忠誠を誓い媚びへつらって来た。

しかし、失敗続きで旗色が悪くなるとそれらの連中が自分を見る目は一変した。


それ以前から、ダモンは「この世に信頼できる人間などおらぬ」と思っている。

ダモンはそれを、自分に人望がないからだとは考えなかった。

王家に準ずる高貴な血を持っている自分に人望がないなどという考え自体、ダモンの中にはなかった。


「何か妙案はないものか」


ダモンは考え続ける。そして、おもむろに筆を取り出して手紙を書き始めた。


「先の取り決めの通り挙兵を」


宛名はカシウス侯爵。差出人は、まだある程度自分に靡いている伯爵の名を勝手に使った。

その短い手紙を厳重に封に入れ、密偵に「カシウス侯爵が落としたと思えるようなところに置け」と命令した。

曖昧な文章にすることで、疑心暗鬼を募らせるのだ。


単純な方法ではあるが、古来より暗愚な君主はこの策に引っかかって忠臣を排除し、没落してきた。

ダモンは、歴史に明るい自分だから思いつく陰謀だ、と自画自賛していた。


***


ダモンの妻マリアンヌは、現国王の従妹である。

その血筋と美貌を誇っているマリアンヌは、鬱々とした日々を送っていた。


血筋に誇りを持っているからこそ、平民の娘だったミラが憎らしかった。

平民と浮気をしたダモンにも腹が立ったが、勝手に離婚をするわけにもいかない。

その鬱屈とした感情が、より一層ミラへの当たりを強くした。


その平民の娘であるミラに魔法の才能があると知った時、どれだけマリアンヌは腹が立っただろうか。

それでもその平民の娘の力で夫が出世し、その力を利用し尽くしたところで戦場に置き去りにして殺した。


それを聞いた時は、マリアンヌは夫のダモンを「思ったよりやるじゃない」と見直した。

目障りな平民の娘がいなくなり、自分は筆頭公爵の妻として尊敬の眼差しを受ける。

しばらくの間は、不満のない日々が続いた。


だが、ダモンの失態によってマリアンヌも屈辱を味わうことが多くなった。

「なぜ王家の血筋たる私が蔑まれねばならないのか」


蔑まれるようになった夫の失態の一因に、あの平民の娘が関わっていると言う。

いや、あの娘は死んだのだから他人の空似だ。魔法力も似ていると言われても、自分の夫は何を言っているのかと少し呆れた。


ただ、その娘を手に入れれば夫は以前のような軍功を上げることができるのだろう。

そうでなくとも、ロベリアにそのような脅威的な力を持った者がいることは好ましくない。


マリアンヌは、夫に何も言わずに行動を起こした。

タッカー公爵家の密偵を呼び出し「カシウス侯爵の娘のミラという者をさらってきなさい」と命令した。

下働きなどしたことのないマリアンヌは、自分が命じたことは全て実現すると思い込んでいる。


***


「それっ!」


レオニス王子が、アルベルトを相手に組み手をしている。

組み手と言っても火球を使ってのものなので、下手をすると命の危険がある。

だから、ミラはすぐに火を消せるように用意したバケツの横でハラハラしていた。


しかし、アルベルト先生は年齢を感じさせない動きでレオニス王子の攻撃をかわしている。

さらに先生は、小さな火球を作り出してレオニス王子に攻撃までしている。

もちろん両者とも火傷をしないように燃えにくい素材の服を着ているし、手加減もしている。


それでも、アルベルト先生の攻撃はすさまじいものだった。

最初は先生の心配をしていたミラも、今はレオニス王子が怪我をしないかと気をもんでいる。


王子は防戦一方だが、アルベルトの手筋を見て学んでいる。

そして、触れた瞬間に火球を出す呼吸を掴んだ。


「ほう、こちらの上達は早いのう。守りたい人がいるからかのう?」


からかうようにアルベルトが王子に言葉をかける。

確かに大きな火球を作り出すことはまだできないが、小さい火球を瞬時に作り出すことはかなり上達している。


レオニス王子は顔を赤くしながら


「余計なことは言わなくていい。それより、俺はある程度は戦えるようになっているのか?」


と聞いた。そこにミラが駆け寄って来て、


「魔法を使った接近戦を模索していたのって、もしかして先生なのでは?」


と聞いた。アルベルトは、豪快に笑いながら


「平民のわしが軍の中で地位を高めていく子を妬む者も少なくなかったからのう。まあそれもかなり昔のことじゃから、少し腕がなまっておるわ」


「なまってこれかよ。俺もまだまだだな」


そういう王子に向かって、アルベルトは言った。


「いや、もう王子は普通の成人男子の5人や10人くらいならうまく戦えば撃退できる力を持っておられる。自分の服が燃えているという恐怖は、戦闘意欲を失わせる。顔の近くで火が燃えたら息が出来ぬ。この技は、簡単に相手を戦闘から離脱させることができるのじゃ」


そして続ける。


「殿下は、ミラ様を守れる力を手に入れたのですぞ」


「そういうことを言うなって」


レオニス王子は、顔を赤くした。

ミラも、同じように赤い顔を王子に見られないように背けた。


ダモンの妻マリアンヌさんの記述が不明瞭でした。正確には前国王の弟の娘、現国王の従妹です。

他にも何か気になった点やおかしな点、もちろん感想も気軽に書いて下さると嬉しいです。

お気に入りとかリアクションとかもいただけると非常に嬉しいです。よろしくお願いします。

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