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タッカー公爵家

ダモン・タッカー公爵とその家族は、ロベリア王国へ向かう馬車の中にいた。

その空気はとても重く、軽口を叩くものもいない。

一家の主たるダモンの失態を詫びに行くのだから、それも無理のないことだろう。


ダモンの息子であるリカルドは、特に苦い顔をしていた。

リカルドは、そもそも自分の嫡男のロイドをロベリア王国の侯爵の娘などと結婚させたくはなかったのだ。

家格も合わないうえに、いつ敵になるかもしれない国と結んでどうするのかと。


それでも、当主である父の言うことに逆らうことはできなかった。

ところが、それを相手から断られるとロイドを勝手に連れ出して家名に泥を塗るようなことをしでかした。

(父上にはタッカー公爵家の当主たる資格がないのではないか)などとリカルドは思い始めていた。


ロベリア王国との戦で功を上げていた時の父を尊敬していたリカルドだが、最近は失敗続きだ。

傲慢な性格であまり好かれていないのに、家柄に靡いてくるだけの者を信じ込んでいる。

(父上に任せていたらタッカー公爵家が没落してしまうかもしれない)

表には出せないが、リカルドはそんな心配を抱いていた。


妻のマリアンヌも、ダモンをあまり高く評価していない。

そもそもマリアンヌは、公爵家への降嫁をあまり快く思っていなかった。

本当は、他国の王子に嫁いで王妃になりたかったのだ。


だが、マリアンヌの父(現国王の弟)がそのわがままな性格を懸念してダモンに嫁がせた。

マリアンヌを他国に出したら、かえって問題を起こしかねないと思ったのだ。


それでもダモンは王族の娘としてマリアンヌを敬う姿勢を見せていたので、一応は満足していた。

そんな時にダモンは平民と浮気をし、ミラが生まれたのだ。

その怒りはすさまじかったし、ミラにも憎しみが向いた。


ただロベリア王国との戦で功を上げると同時にミラも死んでしまったので、それからは機嫌よく過ごしていた。

筆頭公爵の妻として、周りからも持ち上げられていたから。


そんな日々が、反乱軍の鎮圧に失敗したことで変わっていった。

外交でも失敗し、さらに今回の失態だ。


(先の戦争での大功も平民の娘の魔法によるもの。つまらない男に嫁いでしまった)


今では、マリアンヌはダモンに蔑みの気持ちを抱いている。


なお、ダモンの娘のローズは他家に嫁いでいるが、実家の失態のせいで肩身の狭い思いをしているようだ。


当のダモンは、このままではまずいと思っている。

何とかして功を上げないと、筆頭公爵の座から滑り落ちてしまう。


ダモンも、自分に政敵が多いことは理解している。

その最先鋒がロジャー・ウェストン公爵だが、その政敵に反乱軍鎮圧の際、手柄を取られてしまった。


ロジャー・ウェストン公爵はダモンの前の筆頭公爵だったが、ダモンの功があまりに大きかったのでその座を奪われた。

特に落ち度があったわけではなかったので、その時は周りも「仕方がない」という空気だった。


だが、今筆頭公爵を降ろされたとしたらそれは失態によるものだ。

それは、大きな恥辱となるだろう。

それを避けるために、何か功を上げたい。


相手の落ち度を見つけて外交を有利にすることができれば……いや、こちらからスパイを送り込んでかく乱するか……などと考えている。

さらには、ミラを手中にするのを諦めることもできていない。


だが、とりあえずはロベリア王国に謝罪をしなくてはいけない。

それを思うと、ダモンは憂鬱な気持ちになった。


「なぜわしがあんな小娘のために……」


ダモンは自分の行いを省みず、ミラに恨みを抱いた。

その恨みが、ダモンを突き動かす。


「小娘の父親が謀反を企んでいる、という筋書きも面白いかもしれんな」


これがうまくいけば、ミラは謀反人の娘ということになる。

そうすれば、王子との婚約は当然破棄されるだろう。


アルヴェイン侯爵家の当主が謀反で捕まるとなると、家中もごたごたするに違いない。

そのどさくさの中でミラをさらうこともできるのではないか、とダモンは考えた。


***


急遽婚約披露パーティーが決まったので、ミラたちはしばらく王都に留まることになった。

一刻も早く強くなりたいローズは、じっとしていられなくて格闘の先生をレオニス王子に紹介してもらい、鍛錬をしている。

ミラと王子は、パーティーでの作法や準備に忙しい。

アンナも使用人として忙しく働いている。


だが、最近アンナに少し元気がない。

夜になるとミラの部屋にやってくるアンナだが、口数も少なく塞ぎ込むことが多くなった。


「どうしたの、アンナ?」


とミラが聞いても、時々訪れるローズがからかっても、反応が鈍い。


そんなアンナをミラはずっと心配していたが、二人きりの夜にアンナが思い切ったように口を開いた。


「私は、足手まといではないでしょうか……」


ミラは、突然何を言い出すのかと困惑してしまった。


「何言ってるの、そんなわけないでしょう」


「ですが私が捕まったことでご迷惑を……そもそも私が気を抜いていたからローズ様も危ない目に遭わせてしまって……」


「王都であんな狼藉を働くダモンが悪いのよ!まあ今後は子供だけで行動せず大人の目の届く場所にいた方がいいとは思うけど、それも今回のことがあったからだし。アンナが悪いわけじゃないわ」


「でも、私なんて何の取柄もない平民です。ローズ様はこれから強くなるでしょうし、ミラ様は魔法の才能をお持ちですけど、私は何もできません……」


「魔法なんてたまたま生まれつき使えただけだよ。私の手柄じゃない。アンナは私より体力があるし出来ることもたくさんある。足手まといなんかじゃないわ」


「でも……」


「アンナ、それを言うなら私だってあなたの主の資格があるか、と考えることがあるわ」


アンナは、心底驚いた顔で反論した。


「そんな!ミラ様は私なんかにはもったいない方です」


「主にはあなたを守る責務がある。それなのに、あなたを危険な目に遭わせてしまった。ダモンと相対した時も、レオニス王子に助けてもらわなければ何もできなかった。私の方こそ、見限られても仕方がないわ」


「そんなこと仰らないでください。ミラ様は、私の大事なご主人さまです」


「それなら、アンナもそんなこと言わないで。アンナは、私の大事な友達よ」


そして、ミラは続ける。


「友達に足手まといなんてない。能力も必要ない。一緒にいて欲しいから、友達なのよ」


「ミラ様……」


次の夜、ミラの部屋にやってきたローズと舌戦を交わすアンナは、いつものアンナに戻っていた。

ミラはそんな二人を見ながら、安堵の笑みを浮かべた。


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