ミラの気持ち
「ミーちゃんはどう思うの?」
婚約の口実はローズが考えた。
銀鉱を抑えるためにアルヴェイン侯爵家と結びつく、恐らく国王はそれを許すだろう。
だが、ローズにとって一番大事なのはミラの気持ちだった。
ミラが嫌がるなら絶対にこの話を進めさせない。
だが、ローズはレオニス王子もきっとミラが嫌がったなら無理強いはしないだろうと思った。
レオニス王子を信頼したからこそ、銀鉱の話を明かしたのだ。
婚約、という言葉を聞いてから、ミラは夢の中を漂っているような気持だった。
自分のことを話されているとは思えないような、他人事のような感覚。
だって、まだ結婚なんて考えたこともないのに。
いや、貴族の間では子供のうちに許嫁が決まることは珍しくはない。
だが、ミラはようやく前世の記憶から解き放たれたところなのだ。
ローズやアンナに、今の家族に愛されている今がとても幸せで、ずっとこのままでいたいとさえ思っていた。
しかし、そうはいかなかった。
前世で自分を使い捨てた男が、ここでも立ちはだかった。
負けたくないと思いながらも、気を失わずにいるのが精一杯だった。
そんな自分のために、みんなが色々なことを考えてくれている。
私をダモンに渡さないために。
それも私を利用するためじゃなく、私を悲しませないために。
ミラは、胸が震えるほど嬉しかった。
みんなが自分のことを考えてくれている。
そして、ミラは思った。
「私は、甘えてばかりだなあ」
私は、ローちゃんのために、アンナのために、家族のために、そしてレオニス王子のために、何かをしてあげただろうか。
今のままではいけない、もっとみんなの役に立ちたい、そう思った。
前世では利用され、使い捨てられたけれど、今世では役に立っても捨てられはしない。
信用できる人たち、愛すべき人たち。
レオニス王子のことも信頼できると思ったから、前世のことを話した。
その信頼に応えるように、ダモンからの申し出を妨害することを考えてくれた。
ローちゃんは絶対的に信頼できる親友だ。
その親友が、この婚約を前進させるための知恵をくれた。
ローちゃんはこの婚約に賛成してくれたのだろう。
だったら……。
「レオニス殿下、婚約のお申し入れ、喜んでお受けいたします」
そう言った時、ミラの胸は温かさでいっぱいになった。
好きかどうかは分からない。
間違いなくローズやアンナの方が好きだ。
だが、胸がドキドキするのだ。
アンナが言ったように、『悲しい顔をさせたくない』という王子の言葉で。
「私は、レオニス王子を支えられる存在でありたい」
ミラは、自然とそう思った。
だって、このまま婚約が認められて何も起きなかったら、自分はレオニス王子と結婚をするのだから。
それにレオニス王子は第二王子だ。もし結婚しても王妃になるわけではない。
さすがに王妃になれと言われたら尻込みをするが、レオニス王子に恥をかかせない程度の人間にはなりたい。
ミラは、強い意志のこもった瞳で王子からの婚約の申し入れを受け入れた。
***
ミラは、父のカシウス侯爵にレオニス王子からの申し入れを伝えた。
もちろん正式な申し入れは王子が国王の許可をもらってからのことになるが、それまで黙っているわけにもいかない。
何より、ミラは早くみんなに認めて欲しかった。
「王子の婚約者とするか……」
ダモンの申し入れを断るのに、それは有効な方法だろう。
「しかし国王がそれを認めてくれるのか……」
という当然の問いに対して、ミラはローズが言っていた銀鉱の話をする。
「おい、エドガー。それはまだ秘密だと言っただろう」
「はっはっは!済まない済まない。でも愛娘に聞かれたら隠すことも出来なくてねえ!それに良いタイミングだと思うよ。銀鉱脈狙いの貴族からの煩わしいすり寄りから逃れられるし」
「だが、まだ銀鉱脈があると確定したわけでは……」
「それはそれで構わないだろうと殿下は仰いました。私をダモンに渡さないことが一番大切だと」
カシウス侯爵は、ハッと我に返る。
「そうだ、銀鉱の話に気を取られている場合じゃない。ミラは本当にそれでいいのか?レオニス王子と結婚することになるかもしれないんだぞ?」
父に伝えるまでに、たくさんたくさん考えたことだ。
レオニス王子の妻となった姿を何度も想像した。
喧嘩もするだろう。考え方の違いに悩むかもしれない。
でも、あの人は真っすぐ向き合ってくれる。
力づくで自分の意見を通そうとしない。
好きなのかどうかは、まだ答えが出ない。
だが、ミラには確信していることがある。
「私は、レオニス王子となら幸せになれると思います」
その晴れやかな笑顔は、カシウス侯爵を安心させた。
そして、カシウス侯爵はレオニス王子への忠誠を誓った。




