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役に立つ娘をやめて、愛されるために生まれてきました!~前世で私を使い捨てた公爵様、ご機嫌いかが?  作者: 扇風機と思ったらサーキュレーター


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前世の記憶

行列に並ぶ魂たちに、神は淡々と問いを投げかけていた。


「ダモン・タッカー及びエリー・タッカーの娘、ミラ・タッカー。次はどのような生を望む?」


公爵家の人間からは家族と認められなかったが、神から見ればミラはダモンとエリーの娘でしかない。


ミラは少し考えてから、小さく答えた。


「……『よくやった』じゃなくて、『ありがとう』って言ってもらえるところがいい」

(最期に聞いたあの言葉、すごく温かかったんだ……)


神は決して万能ではなく、勤勉ですらない。希望を聞いておきながらまったく考慮しないことも珍しくない。

そもそも、考慮したくても未来予知ができるわけでもない。


だが、ミラ・タッカーの願いはかなりの割合で叶えられたと言っていいだろう。

前世で「役に立つ娘」でしかなかったミラの魂は、カシウス・アルヴェイン侯爵とその妻クラリスの娘として生まれ変わった


***。


その家庭には、2歳年上の兄、ノエルがいた。

子育ては簡単なことではないが、アルヴェイン夫妻は深い愛情で2人を平等に愛した。


下の子が生まれた途端に、上の子が蔑ろにされたと感じることは少なくない。

生まれたばかりの子供はかわいいうえに弱いので、どうしても手をかけたくなる。

だが、上の子は寂しい。

そもそも、上の子だってまだまだ守られるべき存在なのだ。


アルヴェイン夫妻は、その機微を自然と理解していた。

妻がミラの相手をしている時は、父がノエルの遊び相手となる。

父カシウス侯爵が仕事に行っている時は、妻のクラリスがノエルを抱きながらミラを「可愛いねえ」と一緒にあやす。


だから、ノエルはミラに嫉妬心を抱くことなく妹を可愛いと思えた。

ノエルは両親と同じ目線でミラを「守らなくちゃ」と思い、ミラと同じ目線で両親に甘えた。


そうして愛情を注いでくれる両親と兄に、ミラも当然のこととして懐いていった。

ミラは深く愛され、幸せな日々を過ごしていた。……前世で母エリーと二人で暮らしていた頃のように。


***


子育ての難しさの一つは、親が思っている以上に子供もものを考えているということだろう。


ある時、父のカシウス・アルヴェイン侯爵がお土産にお菓子を買ってきた。

だがそのお菓子は保存状態が良くなかったのか、本来のものより硬くなってしまっていた。


大人たちは、「あまり美味しくないねえ……」などと言ってそのお土産を放置していた。

だが、3歳のノエルはその硬いお菓子をくちゃくちゃと口の中で噛み続けている。


それを見た大人たちは、「ノエルはお父様が買ってきてくれたお土産を大事に思ってるんだねえ」と微笑ましく思っていた。


だが、しばらくするとノエルは口からそのお菓子を取り出し、そこにいる大人たちに差し出した。

それを見た大人たちは「何やってるの、ばっちいでしょ」「汚いことはやめなさい」とノエルをしかりつけた。


ノエルは少し悲しそうな顔をしたが、母のクラリスは「ありがとう」と言ってそれを食べた。

周りの大人たちは唖然としたが、クラリスは息子の優しさを誇らしく思っていた。


この時代、硬い食べ物を両親や祖父母が噛んで柔らかくして子供に与える「口移し」「噛み与え」は普通のことだった。

現代の常識では大人の唾液を介して赤ちゃんの口に虫歯菌や病原体が感染することが分かっているが、この時代にそのような知識はない。


だから、もちろんクラリスもカシウスもノエルに硬い食べ物を噛み与えしている。

ノエルは、自分がしてもらっているそれを、大人たちにしてあげたかったのだ。


大人の常識で言えば、自分の口から出したものを他人に食べさせることは失礼だし汚いと感じる。

だが、3歳のノエルにはそんな常識はない。自分はそれをしてもらっているのだから。


ノエルは、いつも自分がしてもらっていることを一生懸命他者にしてあげようと思ったのだ。

自分たちもそんな時期があったはずなのに、大人たちがそれを理解するのは難しい。

だが、クラリスはそれを理解し、ノエルの気持ちを汲んだ。

そして、その夫のカシウスもそれを理解して、クラリスに微笑んだ。


そんな愛情を受けているノエルは、妹に嫉妬することなくミラを可愛がった。

ミラも、自分に愛情を向けてくれるノエルに懐いた。


***


そうして月日が過ぎ、ノエルは6歳になった。

その歳になるとそれなりに成長してきて、出来ることも増えていく。

両親から「お兄ちゃんだから我慢しなさい!」などという理不尽を言われたこともないため、妹に対しても可愛らしい庇護欲しか持っていない。


6歳になったから教育係に文字や算術などを教わることになったが、兄が大好きなミラはずっとノエルから離れない。

ノエルが「今から勉強だからあっちで遊んでろ」と言っても、ミラはキラキラした笑顔でノエルを見つめている。


仕方がないのでそのまま勉強をすることになるが、ミラも同じ授業を受けているので文字や算術を覚えていく。

気を抜くと、ミラの方が教わったことを覚えていたりするのだ。


それはさすがにみっともないと、ノエルは勉強に集中する。

そんな兄を見て、ミラも楽しく勉強をする。

この兄妹は、将来有望なほどに勉強熱心に日々を過ごした。


そしてミラの5歳の誕生日をみんなで盛大に祝う。

ミラは、とても幸せそうな笑顔を見せていた。


***


しかし、それから数か月が経った時、ミラに異変が起こった。

ミラは母親にしがみつき、離れなくなった。

そうして、狂ったように泣きわめいた。


「ママ!死んじゃやだ!ママってば!一人にしないでぇ!」


そう言って抱きついてくるミラに、クラリスは愛情を感じながら困惑の感情も抱いた。

それは、ミラの言葉があまりに真剣だったからだ。


「はいはい、ママは死にませんよ」


となだめても、ミラは落ち着かない。

それは到底いたずらや演技ではない。ひきつけを起こすほど、本気で泣きわめいているのだ。


そして、前世での実の母、エリーの命日。

ミラは、家族に対しておどおどした態度を見せるようになった。


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