誕生日の戦場
ミラは9歳になった。
父であるダモン・タッカー公爵に従って戦場に赴き、言われるがままに魔法を使う。
その魔法によって、タッカー公爵家の戦は連戦連勝だった。
その戦功は、ラディアート王国を有利にした。
タッカー公爵家は、その戦功によって大きく発展した。
だが、ミラへの褒美は父ダモン・タッカー公爵の笑顔と、食事の際に義母や義兄姉に罵倒されないというだけのものだった。
それでもミラは、少しずつ受け入れられているのではないかと思った。
その年のリカルドの誕生日、ミラは隅で小さくなっていた。
だが、家族と仲良くなりたいという気持ちは強くなっていた。
だから、父が近くを通った時に袖を掴み「私も来週が誕生日なの」と言ってみた。
ミラの脳裏には、母と過ごした楽しかった誕生日の記憶が蘇っていた。
その言葉を聞いたダモン・タッカー公爵は、大きな声で 「そうか、来週が誕生日か!それじゃあお祝いをしないとなあ!」 と言ってくれた。
「……本当に?」 ミラは、涙ぐみながらそう言った。
「もちろんだとも!」 父は、そう言ってくれた。
母が亡くなってから、初めて誕生日を祝ってもらえる!
その喜びはミラの胸をいっぱいにした。
公爵家令息のリカルドの誕生日には、賓客もたくさんいる。
だから、その場ではマリアンヌもリカルドもローズも何も言えなかった。
だが、あとでマリアンヌは夫に真意を問いただした。
「あなた、私はあの平民の娘を家族だと認めないと言いましたよね!?」
「もちろんだ。私がお前を蔑ろにするわけがないだろう?ただ、最後の働きをしてもらう前にやる気を高めることも大事だと思ってな」
「……最後の働き?」
「10歳にもなれば我々に恨みを抱いてもおかしくないだろう?今までの仕打ちを思えば。だから、次の戦で死んでもらうのさ」
「それは名案!私たちもあの魔法力で攻撃されたら一たまりもありませんから、ずっと息を潜めていたんですのよ」
「まあその分我が公爵家は戦功を上げ、以前よりもはるかな隆盛を手に入れることができたのだ。もう戦も終局を迎えている。奴の役目は終わりだ」
こうして、不穏な夜は更けていった。
***
その次の週、ミラの誕生日。
「パパ!今日帰ったらお誕生日パーティーだよね!」
ミラが無邪気に笑う。ずっとダモンのことはお父様呼びだったのに、初めてパパと呼んだ。
生みの親のエリーをずっとママと呼んでいたミラにとって、パパという言葉は特別なものだった。
だが、その気持ちはダモン・タッカー公爵には届かなかった。
それに気づきもせずに「ああ、帰ったら豪華なパーティーをしよう」と氷のような笑顔で言った。
心の中では「帰って来れたらな」と思いながら。
そうして戦が始まる。
その日の戦は単なる捨て戦だったが、10歳の誕生日を迎えたばかりのミラにわかるはずもない。
ミラはいつものように父の指示通りに攻撃魔法を放つ。
だが、いつもよりも敵がしぶとい。
敵からの攻撃が届き始める。
ミラの顔に恐怖が浮かぶ。
その時、ダモン公爵が「よし、撤退だ!」という声を上げた。
それをキッカケに、全軍がミラを置いて撤退を始める。
ミラは、呆然とするしかなかった。
魔法を放ち続けているミラは、馬になど乗っていない。
そして、それを囲む大人たちは馬に乗っていた。
「え、何で?私も連れて行って!」
ミラは必死でその後を追うが、全力で撤退する騎馬隊に追いつけるはずもない。
ミラの周りに弓矢や火球が落ちる。
「やだ、怖いよう、パパ、待って!!!!」
ミラの右脚に火球が命中する。
「痛い、痛いよう……」
ミラは、涙を流した。
どれだけ虐められても、どれだけ戦で酷使されても耐えていた涙を。
マリアンヌに「辛気臭い顔を見せるな!」と言われてから、必死で言いつけを守っていたのだ。
「嫌だあ、帰って誕生日パーティーしてもらうの……みんなで……パパ……!ママ……」
***
次にミラが目を覚ました時、周りには死体や重傷の兵が置かれていた。
ミラも虫の息だが、隣の若い男が苦しげな息を吐いている。
ミラは、反射的にその男に手をかざし、「レストア」と唱える。
男の呼吸が整い、やがて眼を開けた。
「あれ、俺は一体……」
そう呟きながら横を見る。
そして、隣で治癒魔法を施してくれている少女に声をかける。
「君が、僕を……?」
そして男はミラの様子を窺う。
「君も怪我をしてるじゃないか!」
男がミラを抱きかかえる。
「僕はもういいから、早く自分に治癒魔法を!」
ミラは心の中で思う。
「自分に治癒魔法かけたら、死んじゃうんだよ……。治癒魔法を使える人は少ないから……知らないのかな……」
そして、ミラの手から緑色の光が消える。
それは、魔力が尽きた証だった。
ミラを抱きかかえたまま男はミラに語り掛ける。
「……君の名前は?」
「ミ…ラ……」
「ミラ、ありがとう……」
男は、泣きながらミラを抱き締める力を強める。
「『ありがとう』……そんな言葉、初めて言ってもらったな……優しくて…温かいんだ……」
そして、ミラの魂は天に昇った。
***
ミラによって九死に一生を得た男は、ミラの父ダモン・タッカー公爵が属するラディアート王国と戦っている、ロベリア王国の貴族だった。
男の名は、カシウス・アルヴェイン侯爵。
その妻クラリスは、カシウス侯爵の帰りを泣いて喜んだ。
そのすぐ後に、戦争は終わった。
その後2人は子供を授かり、クラリスのお腹にミラの魂が入った。
1年後、2人の間に娘が生まれる。
クラリスは言った。
「名前はどうする?」
カシウス侯爵は、躊躇しながら答える。
「……ミラ。僕を救ってくれた少女の名前をつけたいと思う」
その少女が幸せだったのかどうかはわからない。
治癒魔法を自分に使わず赤の他人の自分に使ったあの少女がどんな人生を送ったのか、どうしても良くない想像が浮かんでくる。
そもそも戦場にあんな少女がいたことがおかしい。
だが、その少女の分までこの娘を幸せにしてあげたい、とカシウス侯爵は思った。
その気持ちは、妻のクラリスにも伝わっていた。
そして、何の迷いもなく言った。
「いいわね。ミラ、これからよろしくね」
クラリスは、腕の中で眠っているミラに微笑みかけた。
前世で実母のエリーに抱かれていた時と同じ笑顔を、ミラは母親に向けた。
新連載、いかがだったでしょうか。
ぜひ星やリアクション、感想などをいただきたく思います。
明日は3話更新します。10時頃、13時頃、16時頃の予定です。
よろしくお願いいたします。




