ダモンとカシウス
「アルベルト先生が言っていた『ずば抜けた魔法の才能を持ったダモンの娘』がお前だったとはな……」
レオニス王子は、しげしげとミラを見つめた。
ミラはその視線を恥ずかしく思ったが、アンナは「私のミラ様なら当然です!」とばかりにふんぞり返った。
「ところでミラ」
それまで少し拗ねていたレオニス王子は、表情を改めて言った。
「我が国では魔法使いを隠匿することはかなりの重罪だ。場合によっては反乱を疑われても仕方がない。それくらい、高位の魔法使いの戦力は大きいのだ」
ミラは、何を言われているのかわからない。
「魔法を使える者がいたら、すぐに軍に所属させる。それが我が国の決まりだ。その者が活躍すれば、出身の家にも栄誉が与えられる。しかし……」
レオニス王子は、記憶とすり合わせながら言葉を選ぶ。
アルベルト先生の言葉……。
「ダモン・タッカーは、お前の存在を国に報告せずに自分のために働かせたのだな」
ミラは、まだ何を言われているのかわからない。
「確か、アルベルト先生はラディアート王国においても魔法使いの隠匿は罪だと仰られた。だからこそダモン・タッカーに怒り、嫌っていたのだ」
あまりピンと来ていないミラに代わって、アンナが質問をする。
「つまり、ダモン・タッカー公爵がミラ様を自分のために働かせたことは、やってはいけないことだったということですか?」
「そうだ。魔法使いは一貴族のために働かせて良い存在ではない。国軍に所属させ、力を発揮させるものだ。そうしないと、強い魔法使いが生まれた家が国を牛耳ってしまいかねない」
「秩序が乱れるのですね」
「そうだ、アンナは勘が良いな」
王子に褒められて、アンナは照れ笑いをする。
「そんなことが起きないように、活躍した魔法使いを出した家には破格の褒美が出されるのだが……公爵家ともなるとそれでは満足できんのだろうな」
前世において、父の言うがままに魔法を使ってきたミラは、そんなことを知る由もなかった。
アルベルト先生が「ダモンの隠ぺいに加担してしまったことが申し訳ない」と言っていたことの意味がようやく分かった。
「それではそのことを告発すればダモン侯爵を引きずりおろせるのでは」
アンナが、思わず口を挟む。
それを咎めることもなく、王子が答える。
「だが、証拠がない」
秩序を大事にしなければいけない王家において、平民と普通に言葉を交わす王子の存在はどんな未来をもたらすのだろう。
ミラは、自分のことを話されているのを忘れて考えた。
「それが幸せなものでありますように」とミラは願った。
「おい、ミラ。聞いてるのか?」
「ミラ様?」
ミラが思いにふけっていると、二人が声をかけてきた。
つい、別の世界に行ってしまった。
「やっぱりダモンは討ち滅ぼしたい」
「え、殺すんですか?」
「前世のミラは殺されたんだぞ」
「あ、そうですね。でもやっぱり殺すのは怖いなあ。生かして長々と責め苦を味わわせた方が……」
「お前、怖いな」
「王子様の方が怖いです」
アンナとレオニス王子は、そんな会話を続けている。
「仲良くなったなあ」などと、つい目を細めるミラである。
「アルベルト先生という方は、ミラ様の前世をご存じなのですよね?その方に告発していただくのは?」
アンナが言った。
「先生はラディアート王国から出奔されたからなあ。ずっとあの国にいて魔法使いの重鎮としての位を保持していたらその発言は重んじられただろう。でも今、先生が証言をしてもラディアート王国の和を乱そうとしているだけだと思われる」
「え……っと、難しいですねえ」
そこで二人は、ミラに嚙みついた。
「何で他人事みたいに俺たちを眺めてるんだ!」
「ミラ様ももっと怒って下さいよ!」
ローズよりも少し意地っ張りで、でも王家としての立場や思慮深さを持っているレオニス王子。
この人に前世のことを打ち明けて良かった、とミラは思った。
***
次の日、ダモン・タッカー公爵がカシウス侯爵に面会を申し入れた。
ミラの前世を知っている侯爵はダモンに良い印象を持っていないが、断るのは失礼にあたる。
「お初にお目にかかる、カシウス侯爵。いや戦場では顔を合わせたことがあるやもしれませんな。侯爵の勇名はわが国でも鳴り響いておりますぞ」
「恐縮です、ダモン・タッカー筆頭公爵。若い頃は少々無分別でした。お恥ずかしい限りです。今は、戦のない世が一番だと思っております」
ダモンは、カシウス侯爵の言葉に何の興味も示さず本題に入った。
「カシウス侯爵の娘、ミラ様と仰ったかな。あの方と先日お会いしまして」
お前のせいで娘が倒れたんだろうが、と心の中で湧いた怒りを鎮めながらカシウス侯爵は返答する。
「左様でございますか。公爵のお目汚し、申し訳ございません」
「いやいや、利発そうな娘さんじゃ。侯爵令嬢という身分で王子に取り入っているのも、親孝行というもの」
私の娘が利益を求めて王子の寵愛を得ようとしているというのか!カシウス侯爵の拳に力が入る。
だが、ここで問題を起こすわけにはいかない。
外交相手の筆頭公爵に害を加えるなど、首を切られても仕方ないほどの重罪だ。
しかし、その言葉は決して嫌味や相手を激高させるためのものではなかった。
ダモン・タッカー公爵にとって、それは自然な処世術だったのだ。
自分の発言が失礼だという自覚もないまま、ダモンは本題に入る。
「先日私が会ったカシウス侯爵の娘さんは、魔法が使えるのではないですか?」




