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役に立つ娘をやめて、愛されるために生まれてきました!~前世で私を使い捨てた公爵様、ご機嫌いかが?  作者: 扇風機と思ったらサーキュレーター


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ミラ様もローズ様もいない夜

「タッカー公爵、耄碌されましたかな?」


挑発的にそんな言葉を発するのは、ロジャー・ウェストン公爵。

40代前半のダモン・タッカーよりも年上だが、ロベリア王国との戦の功によって筆頭公爵の座を奪われてしまった男だ。


ただでさえそれを苦々しく思っていたところに、反乱軍の平定にダモンが手こずったせいで、手伝わされることになった。

それは嫌みの一つも言いたくなろうというものだ。


「タッカー公爵は魔法使いを隠していたのではないか、とも言われておりますぞ」


「な、何を根拠にそのようなことを!魔法使いは国の財産。それを隠すのは大逆ぞ」


「いや、タッカー公爵は単独だとめっぽう強かったのに、我々と共同戦線を張る時はほとんど活躍してくださりませんでしたからなあ」


ロジャー・ウェストン公爵がただの嫌味として放った言葉は、意外にも的を射ていた。

だが、その言葉を放った本人もその証拠を握っているわけでも本気で疑っているわけでもない。


「ウェストン公爵がおられるのに我らが出しゃばっては失礼かと思ったまで」


「ですが今回の反乱軍は、タッカー公爵単独で十分平定できると思いましたがなあ」


ラディアート王国内で起こった反乱を平定すべく、ダモン・タッカー公爵が出兵した。

しかし、兵力差は圧倒的に有利だったのに敵に裏をかかれて敗走し、近隣のウェストン公爵が援護を命じられたのだ。


「敵に裏をかかれましてな、面目ない」


「そなたには筆頭公爵の任は荷が重いのでは?」


本音を告げる時、ウェストン公爵は言葉遣いにも気を遣わなかった。

反乱軍平定において醜態をさらしたダモン・タッカー公爵は、言葉を返せず唇を噛んだ。

かつてダモンが便利な道具として扱った少女が、ロベリア王国からラディアートへ向かっていることなど知らずに。


***


ロベリア王国の外交使節、カシウス侯爵やミラ、レオニス王子等は準備を整え出発した。

王宮にいる時はミラが手紙を出して3~4日でローズに手紙が届いたが、これからはどんどん遠くなる。

アルベルトの件ですぐにローズに頼ってしまったミラは、少し心細く思った。


とは言っても、外交使節の進みは決して早くはない。

高位の貴族たち、ましてや王族までいるのだから、優雅に、腰など痛めないように進んでいくのだ。

平地ではその分距離を稼ぐが。


そんな馬車の旅は、アンナにとって初めてのものだった。


「うわあ、景色がきれいですねえ」

「結構な急こう配なのにこんなに楽ちんでいいんですか」

「ここは私が歩いたほうが早いですねえ」

「うわ、平地はすごく早い!怖い怖い!」


と騒がしい。

そんなアンナを見ているのが、ミラはとても楽しかった。


その日の夜は、宿場町の宿を利用した。

宿にはそんなに多くの部屋がないため、使用人はまとめて大部屋になる。

そこでは、11歳のアンナより年上の者がほとんどだったのでマスコット扱いだった。


もちろん若くして奉公に出る者もいるが、責任の重い外交使節への随行に選ばれることは少ない。

だから外交使節には自然に年季の入った使用人が多くなるのだが、ミラ専属使用人のアンナは外されるわけがない。


だから、夜になるとアンナは他の使用人のお姉さま方のおもちゃになった。


「ミラ様は私たちにもお優しいけれど、裏の顔はないの?」

「専属使用人って、お給金はいくら?」


など、取り囲まれて質問攻めに遭った。

たじたじしながら口ごもるアンナだったが、「ヴァレンティス侯爵の娘さんのローズさんはどんな方?」という問いには


「わがままな方です!」


と胸を張った。ローズとミラの取り合いをしているアンナにとってそれは本気の言葉だったが、無意識のうちに『ローズの魅力を他の人に知られたくない』という気持ちが芽生えていた。


ローズがちやほやされたら……アンナはなぜか寂しくなるだろうと感じる。

ここにいる使用人も、もとは爵位を持つ家の出身の者ばかりなのだ。

ただ雑談をしているだけなのに、平民は自分だけ、という負い目を感じる。


ミラ様は、そんな自分を分け隔てなく救ってくださり、王子に失礼を働いた時は「自分の分身」とまで言ってくださった。

だから、私はミラ様にこの命も捧げる。


そして……ローズ様と一緒にいる時も私は負い目を感じない。感じずにいられる。


使用人の間に入ってさえも感じる負い目を、侯爵家の娘のローズ様は感じさせずにいてくれる。


「あのわがまま腐れ貴族に会いたいなあ」


とアンナは思った。


***


侯爵家にいる時は「特別なベッド」で家族4人一緒に寝ていたが、施設としての準備をするために滞在していた王宮ではアンナがずっとミラと一緒にいた。

まだ11歳のアンナが疲労困憊するまで働いて、ミラの部屋に行って安心してベッドに横たわる。

そこに後からミラが潜り込み、慈しむようにアンナを抱き締めながら眠っている。


それを邪魔することが出来ようか。

それでも、カシウス・アルヴェイン侯爵とその家族はミラと一緒に寝たかった。


この宿で、そのチャンスが訪れたのだ。


ミラは、アンナを呼ぼうかどうしようか迷っていた。

ここに呼んだほうがアンナは気が休まるのではないか。


ただ、今後のことを考えると使用人仲間との関係を深めておいた方がいい。

自分は甘やかしすぎなのだろうか、などと考えていた。


その時、カシウス侯爵とその妻クラリス、兄のノエルがミラの部屋に入ってきた。


「ミラ、久しぶりに家族で寝ないか?」


お父さんが、お母さんが、お兄ちゃんが、私の部屋に入ってくる。

ミラは、笑顔が抑え切れなかった。


アンナといる時は少しお姉さんぶっているけれど、家族といる時は甘えん坊になれる。

今日のミラは、家族のマスコットとして幸せな時間を過ごした。



次の日の朝、ミラはアンナの様子を気にして探してみた。

アンナは、他の使用人に混ざって掃除をしている。

その様子を見ていると、アンナはみんなから「アンちゃん」と呼ばれてかわいがられているようだ。


アンナも私にべったりなだけじゃだめだと思っていたが、使用人の間でちゃんと関係を築けたっぽい。

ミラは、少し嬉しくなって声をかけた。


「アンナ!」


「ミラ様!」


そう答えるアンナの笑顔には、質問攻めにされた疲れが少し残っていた。


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