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役に立つ娘をやめて、愛されるために生まれてきました!~前世で私を使い捨てた公爵様、ご機嫌いかが?  作者: 扇風機と思ったらサーキュレーター


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ダモンなんか大嫌い!

いきなり自分に抱きついてきた少女に、老人は困惑した。


「ミラ様……どうなさいました?」


「アルベルト先生!!……私です!ミラ……です。魔法を教えていただいた……」


ミラ・タッカーと言いかけて口ごもった。

あの男の名前は言いたくなかった。自分を殺した男の名前は。

だが、それでアルベルトには通じた。


「本当に、あのミラ様ですか?」


「なぜかは分かりませんが、私には前世の記憶があります。そして、この力も」


そう言って、ミラは手の平の上に大きな火球を起こして見せた。

アルベルトの指導と……実戦経験によって初めての時よりもっと大きくなった火球を。


「この魔法の気は、確かにミラ様のもの」


その言葉を聞いたミラは、起こした火球を収めた。


「随分火球の扱いが上手になられた……」


アルベルトも、感慨深げに言葉を漏らした。


「先生、王子から聞いたのですがラディアート王国を出られたのは……」


「王子から何を聞かれたのかは存じませんが、そりの合わない人間の権力が強くなったら居づらくなるものなのですよ」


そして、アルベルトは続ける。


「ミラ様のせいではございません。ただ、ミラ様への仕打ちを許せなく思っているのは確かです」


「……先生……!」


「ミラ様、何でも仰って下さいませ。前世でお力になれなかった分まで、このアルベルトは尽くしたいと思っております」


それから、ミラは前世での出来事を語った。

治癒魔法を覚えてからアルベルトはミラと離されたので、その後のことは知らない。

ただ、戦功のためにミラの存在を隠すよう言われていたので、かなり酷使されたのだろうとは予想していた。


だが、実態はそれ以上だった。

英雄として称えられるべきミラが、誕生日のお祝いさえしてもらえない。

治癒魔法を自分に使ってはいけないと嘘を教えられる。


今のミラにはローズもアンナもいる。今はとても幸せだ。

前世の記憶が戻ってくることもない。

それでも、前世のことを話していると涙が溢れてくる。


そして、ミラが涙ながらに途切れ途切れ話した最後の日の出来事……それを聞いた時、アルベルトも涙を流していた。


「申し訳ありませんでした、ミラ様。私がもっと……」


「先生は悪くないよ!むしろ私なんかのために……ぼう、めい……?したのだとしたら申し訳ないなって」


覚えたての「亡命」という言葉は、まだミラの口になじまない。


「先ほども申し上げた通り、気の合わない人間が権力を持った以上、そこには居づらいものなのです。ですから、お気遣いは無用です。いえ、こうしてミラ様に会えたのですから、この国に来て良かったと心から思っておりますよ」


「……先生……」


また湿っぽくなりそうな空気を、アルベルトが打ち払った。


「ミラ様、久しぶりに魔法の修練をしましょうか」


「!!」


ミラは、弾けるような笑顔を見せた。

そして、さっきよりも気合を入れて火球を膨らませる。


「……本当に、これは素晴らしい才能だ」


アルベルトが感嘆すると、ミラは照れ臭そうに嬉しそうに、そして挑戦するように言った。


「先生のも見せて」


もしかするともう自分は先生を越えたのでは、と子供の自尊心を見せるミラを微笑ましく思いながら、アルベルトは気を込めた。


すると、そこにはミラのものよりもさらに大きな火球が現れた。


「!!すごーい!!!」


「まだまだ教え子に負けはせぬよ。ただ、ミラ様はこれからもっと成長していかれる。そして、私は衰えるばかりじゃて」


「本当に衰えるの?前世で先生と最後に会ったのは治癒魔法を覚えた後だから、確か7歳……14年位前だよ!先生、いくつなの!?」


「ほっほっほ。謎が多い方が神秘的じゃろう?」


「それを自分で言っちゃう時点で俗物っぽいんだけどなあ」


前世では見たことのないような自然な笑顔を見せるミラに目を細めながら、アルベルトは言った。


「今のミラ様は幸せなのじゃな?」


この問いに、ミラは躊躇なく答える。


「はい!お母さまもお父さまもお兄さまも大好きです!それにお父さまのお友達の娘さんにローちゃ……ローズさんという方がおられるのですが、この子は私の親友です。そのうえ、アンナという子も私を慕ってくれているんです。私が病気を治してあげたんですよ!そうしたら、専属使用人になってくれたんです」


「そうかい、それは良かった。心にわだかまりがないのなら、もう前世のことは忘れて今の幸せを大事にするといい」


そう言われて、ミラは少し考えた。

本当に、このまま忘れていいのだろうか。


忘れた方がいいだろうことは分かっている。

恨みを持って生きていても苦しいだけかもしれない。


それでもローちゃんが、アンナが、自分のことのように怒ってくれた時、とても嬉しかった。

前世のことを思い出すと、今でも心がざわつくことがある。


「先生は……ダモン・タッカー公爵を恨んでないの?ラディアート王国から出て行くことになったのに?」


「ミラ様は、恨んでおられるのか?」


「そりゃあ、悔しい気持ちはあるよ。でも、今は友好国の筆頭公爵だから、仲良くしないとお父さまが困るから……。先生は、どう思っておられるのですか?」


「そうじゃなあ、ミラ様があのまま生きていて下されれば、花嫁姿を見れたかもしれんという思いはありますなあ。私はミラ様を娘のように思っておりましたでな……」


「今世でも見れるでしょ!そんなに元気なのに」


「分かりませんぞ?年寄というものは、どれだけ魔法が使えても先のことは見えませんのじゃ」


「……え?嫌だよ?いなくならないでよ?」


「はっはっは!まあそれについては努力いたしましょう」


そう言った後、アルベルトは高らかに宣言する。


「わしは、ダモンが大嫌いじゃ!」


「……え?」


アルベルトは自分のことをずっと『私』と言っていたのに、一人称が自然と変わるほどに本心が込められているのだろう。


「今は友好国ゆえ表立ったことはできませぬが、あ奴への恨みなどいくらでもある。私だけではなく、私の他の教え子たちにも横柄な態度で無理難題を申し付けてくれましたからなあ」


ミラが唖然としていると、アルベルトは高らかに言った。


「私は魔法の才能はそれなりに優れていると言われているし自負してもいるが、人柄まで優れているとは言われておらんよ」


悪戯っぽく笑ってアルベルトは続ける。


「ミラ様は、ダモンを恨んでおられないのか?」


ミラは、嬉しさや楽しさや喜びや悔しさや悲しさや憤りや、色々な感情が混ざった涙を噛み締めながら叫んだ。


「私も、ダモンなんか大っ嫌い!!」


それを聞いたアルベルトは心から楽しそうに笑い、ミラの頭を撫でて言った。


「この年寄は、ダモンの足を引っ張ることとミラ様の花嫁姿を見ることを目標に生きていくとしますかな!」


そう語るアルベルトは、初めて会った時より若々しく見えた。


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