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役に立つ娘をやめて、愛されるために生まれてきました!~前世で私を使い捨てた公爵様、ご機嫌いかが?  作者: 扇風機と思ったらサーキュレーター


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アンナのいない夜

ラディアート王国とロベリア王国の戦争終結から十一年。

昨年の十周年記念式典ほど盛大ではないが、今年も外交交渉のために使節団がラディアート王国へ赴くことになった。


勝利国であるラディアート王国に、敗戦国のロベリア王国の者が足を運ぶのだ。

その一員に、カシウス侯爵が選ばれた。


優秀なカシウス・アルヴェイン侯爵は外交においても有用な意見を述べたりしているので、この人選はおかしなものではない。

ただ往復に2か月程度かかるため、家族愛の強いカシウス侯爵にとってあまり嬉しくはない。


「それにラディアート王国の連中が嫌な奴らなんだ」

「自分たちが勝利したからと言って、こっちを下に見てくる」

「特に筆頭公爵のダモン・タッカー。あいつの顔を思い出すだけで腹が立つ」

「そう言えば、ミラがダモン・タッカー公爵について聞いてきたことがあったが、あれは何だったんだろう?」


カシウス侯爵がそんなことを考えながら命令書を読んでいると、最後に「家族同伴のこと」という一文を見つけた。

これでカシウス侯爵の表情はぱあっと明るくなったが、今までこのようなことはなかった。

一昨年はエドガー侯爵が使節に選ばれたのだが、『ローズと離れたくない!』と言って泣いていたのだ。


その次の休日、カシウス侯爵一家はエドガー侯爵家を訪れていた。

エドガー侯爵やその妻ヴィオレット、そしてローズがカシウス侯爵家を訪れることが多いが、もちろんその反対もある。

エドガー侯爵領の方が少し交通の便が悪い場所にあるため、カシウス侯爵の家に遊びに来ることが多いのだ。


そこで、カシウス侯爵は『しばらくラディアート王国に行くことになる』ということを告げた。


「何で家族同伴!?私は懇願しても許されなかったのに!」


エドガー侯爵が、情けない声を上げる。

「懇願していたのか……」と皆が思う。


次にローズが叫ぶ。


「じゃあ、ミーちゃんと二か月も会えないの!?」


「……うん」


とミラが小さくうなずく。


「嫌よ、私もついていきたい!」


言葉には出していないが、その言葉の中にはノエルと会えなくなる寂しさもあった。


「駄目に決まってるだろう!」


即座にエドガー侯爵が口を出す。一昨年も二か月家族と会えなくて寂しかったのに、なぜ自分が使節でもないのにそんな悲劇を繰り返さなくてはいけないのか。

そして、ヴィオレットもローズに語り掛ける。


「ローズ、ミラちゃんと一緒に行ったら、パパやママとも二か月会えないのよ?」


「パパとママも一緒に……行かないの?」


「パパやママはここでのお仕事があるからね。勝手について行ったりできないのよ」


ローズはミラのことが大好きだが、パパもママも大好きなのだ。

どっちも欲しいのにどちらかを諦めなくてはいけない、そんな状況に、ローズは口をとがらせる。

ちらりとノエルの方を見ても、自分には関係ないという顔だ。


それから、大人たちは難しい外交についての話を始めた。

ノエルは、顔なじみの使用人と話している。


そこで、ローズはミラの手を引いて自分の部屋に連れて行った。


カシウス一家にはお泊り用の部屋が与えられているが、ローズはミラを自分の部屋に泊まらせるつもりだ。

この前のミラの誕生日の夜に、ミラの部屋で三人で夜を明かしたのがとても楽しかったのだろう。


「そう言えば、今日はアンナは?」


本当は最初から気になっていたのに、今気づいたかのようにローズが言った。


「あまり大人数でお邪魔したら悪いかなって……それに、たまにはお父さんのところに帰ってあげて欲しいし……」


歯切れ悪くミラが言った。

本当の理由は他にあったのだが、それはローズにすぐに言い当てられた。


「アンナは、ラディアート王国に一緒に行くんでしょう?」


「……うん」


「もしかして、私がアンナに焼きもちを焼くかもしれないと思って連れてこなかったの?


その笑顔はとても大人びていて、杞憂だったかとミラは思った。


「ごめん、あのね、でもお父さんとしばらく会ってないのも本当でね……」

「あの子をギッタギタのボッタボタにすれば多少は気が晴れたでしょうに……!!」


ローズの表情が一変して、瞳に炎が宿った。

やっぱり連れてこなくて良かった、とミラは心の底から思った。


「でも、おかげで今日は久しぶりにミーちゃんと二人きりで過ごせるわね!」


コロコロと表情を変えるローズは、本心から嬉しそうにそう言った。


「二か月会えないことを考えると寂しくなるけど、二か月なんてすぐよね!」


寂しそうな表情の後、前向きな表情を見せるローズ。

ローちゃんのこの素直さが好きなんだ、とミラは思った。


「ねえ、もう前世の記憶は全然出てこないの?」


「うん、本当にあれで終わりみたい。だから、もう大丈夫だよ」


「そっか、良かった。あ、でもラディアート王国に行ったらあいつに会っちゃうんじゃないの?」


「ダモン・タッカー公爵……か。どうだろうね。顔を合わせずに済めばいいんだけど」


「もし会っちゃうとしたら、その時はアンナはいないのよね?もう、役に立たないんだから!」


「役に立たないことはないけど……でも顔を合わせるとしたら公式の場だから、アンナはいないでしょうね」


「嫌なことがあったら手紙を書いてね。体力ではアンナに敵わないけど、心では私の方がミーちゃんに寄り添えるはずよ」


「ありがとう、ローちゃん」


「そう言えば、アンナは竹馬には乗れるのかしら」


ローズが突然話を変える。


「たけ……うま……?」


「一昨日、パパが領内の視察に行く時について行ったの」


アンナと知り合ったせいか、好奇心旺盛なローズは自分と違う身分の者に興味を持ったらしい。


「そこで竹馬って言って、長い棒に足を乗せるところをつけた奴で遊んでる子供たちを見たの」


そこに声をかけて、それは何かと聞いたのだ。

相手は貴族様に声をかけられて恐縮していたが、興味津々なローズはそれを借りて同じようにやってみた。……そして、盛大に転んだ。


周りの者は青くなったが、ローズは起き上がって竹馬に足をかける。

膝を擦りむいても一生懸命竹馬に足をかけるローズに子供たちが声をかけ、コツを教える。

そうして、4歩だけ進むことができたのだ。


「ありがとう!」


笑顔で子供たちに声をかけるローズの姿は、領民の好感度を高めた。

そして次の日、子供たちは「ローズ様に」と竹馬を贈ってくれた。


「アンナが乗れないなら笑ってやるけど、多分乗れるでしょうね。だからアンナに教えてもらって、『乗れるようになったわよ』ってあの子たちにお礼を言いたいの」


そう言って瞳を輝かせるローズのことを、ミラはもっと好きになった。


「ローちゃん、私にも明日、竹馬教えてね!」


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