親友への相談
目を覚ましたミラは、憎しみと悲しみに包まれそうになった。
だが、今のミラは多くの人に愛されている。
その筆頭が、今自分の手を握ってくれているローズとアンナだ。
いがみ合っているように見えて本当は仲が良いとしか思えない二人に、自分はどれだけ助けられただろう。
前世の記憶には一切出てこなかった、友達という存在。
ミラは、二人の手を握り返した。
その時、二人は示し合わせたように目を覚ます。
「ミーちゃん……?大丈夫?」
「……ミラ様……私はここにいます」
寝ぼけまなこの二人に、ミラは謝罪をする。
「さっきはごめんなさい。ちょっと気分が悪くて」
アンナはそれを聞いてさらに心配するが、ローズは前から聞いている「あれ」かもしれないと思った。
頭の中にある想像の話——でもそれは、想像とは思えないほどミラに影響を与えている。
最初のうちは、こんなに優しい自分のことも怖がっていたのだ!
「アンナ、ちょっと席を外してもらえるかしら?」
ローズは、少し誇らしげに言った。
「なぜですか?ローズ様がミラ様に粗相をするかもしれませんから、離れるわけにはいきません」
「何で私がミーちゃんに粗相をするのよ!?」
「だってローズ様は結構がさつなところがありますから」
「私ががさつならあなただってがさつでしょ!あなたは力仕事ばかりしてきたんだから」
「私がローズ様みたいに子供の頃からダンスとか作法とかを習ってたら、絶対ローズ様より繊細なお姫さまでしたよ!」
「習ったからってできるもんじゃないわよ!あなただって絶対私と同じ側なんだから!」
すぐに言い合いを始める二人におろおろしながら、ミラは申し訳なさそうに言った。
「ごめんね、アンナ。少し込み入った話になるからちょっとだけ席を外して欲しいの。後でちゃんと整理して話すから」
そう言われてアンナは少し傷ついた顔になったが、後で話してくれると聞いて機嫌が直った。
「絶対ですよ、ミラ様。のけ者は嫌ですよ?」
前世の記憶の中でずっとのけ者にされてきたミラは、その言葉を重く受け止めた。
あの時の自分と同じ思いをアンナにはさせたくない。
「うん、約束する。だから、ごめんね」
これ以上主人を困らせるわけにもいかないので、アンナは部屋から出て行った。
「やっぱり頭の中にある想像みたいな話が、ミーちゃんを困らせてるの?」
ローズは、心配そうに言った。
「ローちゃん、私、気づいちゃったの。多分、あれは私の前世なんだ」
「え!?」
生まれ変わりと言う概念がないわけではない。
そして、前世の記憶を持っていると吹聴する者もたまにいる。
だが、目の前の親友がそれだとは思いもしなかった。
「どういうことなの?」
「私はいじめられてたって言ったでしょ?その時の父親が、あの式典に出てきたダモン・タッカー公爵だったの」
「え、頭の中に出てきた人が現実にいたの?」
「うん、他のお義母さんやリカルド兄さんや……ローズ姉さんは分からないけど、父親はあの人だった」
ローズの名前を口にしたのは、ある程度の甘えだと言っていい。
「私と違ってミーちゃんの敵のローズね」
ローズがそう言ってくれることが、ミラは嬉しいのだ。
ローズが味方だと感じることができるから。
甘えられるローちゃんの存在は、ミラに勇気を与えていた。
だから、ここでもローズに話を聞いて欲しくなったのだ。
だが、この先の話をしようとした時にミラは怯んでしまった。
自分は殺された、戦場に置き去りにされて。
それを言う時、自分が戦場で何をしたのかを言わなくてはいけない。
それを知られても、ローちゃんは自分を今までと同じように見てくれるだろうか。
ミラは、言葉が続かなかった。
細かく震えながら、目を逸らした。
——私は、嬉々として人を殺していたんだ。あの父に褒められるからって……。
ミラは、顔を上げることができなかった。
息が荒くなる。
その時、ローズがミラの手を握ってきた。
何も言わず、ただ優しく。がさつと言われた少女とは思えない繊細さで。
勇気を出してローズの顔を見ると、温かい微笑みが浮かんでいる。
黙っていてもずっと待っていてくれる、安心できる親友の顔。
その顔が、ミラに勇気を与えた。
「前世での私は、父の言いつけで戦場に出ていたの。そして、魔法で……」
それでもつい言い淀んだミラに、ローズは言った。
「父親の命令で魔法を撃ったのね。私は魔法を使えないけど、もし使えたとして戦争でパパに命令されたら、同じことをするでしょうね」
ローズは、ミラが一番欲しい言葉を与えた。
自分は酷いことをしたという罪悪感を、ローズは共有してくれた。
ミラの瞳には、涙が滲んだ。
「私が魔法を使っていると、父やその周りの人たちがみんな退却していったの。私を置いて。みんなは馬に乗っていたのに、私は徒歩で。必死に逃げたけど、攻撃が当たって」
「何それ……酷い……」
「その日がね、前世での私の誕生日だったの。帰ったら誕生日パーティーをしようって言われてて、私はそれをとても楽しみにしていたの。ずっといじめられていたから、家族として認めてもらえるんだと思って。それなのに……」
「何なのそれ!?酷い!許せない!」
ローズがあまりに大きな声を出したものだから、扉の外にいたアンナが血相を変えて入ってきた。
「ミラ様、お怪我はありませんか!?」
「ごめん、アンナ。何でもないから」
「何かあったら必ず呼んでくださいね!」
そう言って、忠実な使用人は出て行った。
「あの子、本当にあなたのことを大事に思ってるのね」
「前世ではローちゃんみたいな友だちも、アンナみたいに慕ってくれる人もいなかったから、今は幸せなんだ」
「でも、ミーちゃんをそんな目に遭わせた奴は許せない!」
「ありがとうローちゃん、でも前世の私はもう死んでしまったから、これからは変な記憶が流れ込んできて不安定になることはないと思う」
「ミーちゃん……そんな記憶が流れ込んだんなら、倒れても仕方ないよね」
「うん、それでね。父親がダモン・タッカー公爵ってことは、当然戦った相手はロベリア王国なわけで……」
「あ、そうなるわね」
「私が、パパに大怪我をさせちゃったんじゃないかなって……」
「……そこ?」
ミラのローズへの相談は、まだ続くのだった。




