かわいそうな幼き子
魔法使いのアルベルトが「ミラには魔法の才能がある」といった瞬間、マリアンヌ、リカルド、ローズは一斉に異を唱えた。
「平民にそんな力があるなんて私は認めません!」
「こいつは平民の出ですよ!」
「たかが平民のくせに、そんなはずはないでしょう!」
しかし、アルベルトは静かな宣言でその声を封じ込めた。
「私も平民の出です」
その言葉を聞いた瞬間、公爵家の人間はみな自分の失言を恥じた。
しかし、それは国に多大な貢献をしているアルベルトにであって、自分たちより一方的に下の存在であるミラに対する意識の変化ではなかった。
「ミラにはどのくらいの力があるのでしょうか」
ダモン・タッカー公爵が尋ねる。
その瞬間、ミラを貶めたいマリアンヌとリカルドとローズは息を吹き返した。
「どうせ大した力ではないのでしょう」
「そよ風と同じ程度の力しかないに決まってる」
「魔法を使えても、私の方がミラより強いわよ」
しかし、それらの雑言もアルベルトは一蹴した。
「かなり大きな力を持っておられます。私より強いかもしれない」
そう言って、アルベルトは公爵家の面々に侮蔑の念を一瞬だけ表した。
しかし、それを隠してアルベルトは落ち着いた言葉を続けた。
「私は老いぼれですので、見間違いもあるかもしれませんが」
しかし、ダモン・タッカー公爵は真実を知りたがった。
「魔法使い殿、ミラの能力を確かめてくだされ」
そう言われ、アルベルトはミラに優しく囁いた。
「両手に意識を集中して『ファイラム』と唱えてごらん」
「……ファイラム」
その瞬間、ミラの手の上に50㎝ほどの火球が現れた。
「何これ、怖いよ……」
ミラは、顔を背けながら泣きそうな声を出す。
そこにアルベルトが声をかける
「それをあそこの池に向けて飛ばしてごらん」
「どうやって?」
「飛んでいく様子をイメージしながら両手を上に上げて、振り下ろすんだ」
アルベルトの言うとおりにミラが手を振り下ろすと、火球は100mほど先の池に正確に着地し、水柱が上がった。
「これでいいの?」
とミラがおどおどした表情でアルベルトに尋ねる。
そのアルベルトは、驚愕の表情でミラを見ていた。
「あそこまで飛ばせば威力はなくなるはずと思っていたのですが……」
そしてアルベルトは言った。
「ミラ様は、類稀なる魔法の才能をお持ちです」
今まで虐げていた人間が国にとって有用な能力を持っていることを知って、マリアンヌとその子供たちは震えていたが、ダモン・タッカー公爵は落ち着いていた。
そして、満足げに
「もしよろしければこの子に魔法を教えてやってくれないだろうか」
と頼んだ。その顔は、非常に満足そうだった。
「もちろんです」
アルベルトは、やりがいのある仕事を見つけた喜びを感じていた。
そして、父親のダモン・タッカー公爵はミラをちゃんと愛しているのだろうと思った。
だが、次の言葉でアルベルトの中に疑念が生じた。
「それと、この子が魔法を使えることは内密にお願いします」
「……理由をお聞きしても?」
「タッカー家の戦線で役に立ってもらった方が、我が家の功績が上がるでしょう?」
国軍でこの魔法力を発揮すれば、ミラは間違いなく出世して大事にされ幸せになれるだろうし、国として戦争も有利になる。
それなのに、この男はミラを自分の欲望のためだけに利用しようとしている。
国の利益より自分の利益、ミラの利益より自分の利益……見下げ果てた奴め。
それでも、アルベルトは拒むことができなかった。
ここは公爵家の敷地内であり、ここにいるのも公爵家の人間ばかり。
自分がここで殺されても、証言者は公爵家の味方だけなのだ。
ありもしない罪をなすりつけられ、公爵家の人間は無傷で終わるだろう。
そう考えると、アルベルトはその申し出を受け入れるしかなかった。
「承知いたしました」
アルベルトは「せめてこの幼き子の力だけは確かなものにしてあげたい」と思うのだった。




