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役に立つ娘をやめて、愛されるために生まれてきました!~前世で私を使い捨てた公爵様、ご機嫌いかが?  作者: 扇風機と思ったらサーキュレーター


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仲良くケンカしな

アンナは、ミラの専属の使用人のようになった。

いや、使用人と言うのもあまり相応しくない。

一緒に教育を受け、ほとんど常に一緒にいるようになったのだ。


急に塞ぎ込んだり式典で倒れたりするミラを心配していたカシウス侯爵は、ミラを一人にしたくはなかった。

だから、アンナを雇ったのだ。


その狙いは悪くはないが、アンナはミラの近くを離れない。

まずノエルが不満を漏らした。


「ミラと二人で遊びたい時もあるのに、少しは遠慮しろ」と。


ノエルも別にアンナが嫌いではないし、3人で遊ぶのが楽しい時もある。

ただ、ミラをかわいがりたい時はアンナが邪魔なのだ。


前世での家族から冷たくされた記憶が辛いミラは、アンナを諭した。


「アンナ、ごめんなさい。時々は席を外してもらえるかしら」


そう言うと、アンナは叱られた子犬のようにしょぼんとしてしまった。


「いや、3人で遊んで楽しい時もあるから。アンナが嫌いなわけじゃないから」


ミラよりも先に、ノエルが取り繕った。

年上の男性として、女の子を悲しませたくなかったのだろう。

そして、アンナも周囲の男の子とは性別関係なくがさつに遊び回っていたが、貴族の少年には気後れするところもあった。


「申し訳ございません。仰っていただければ、席を外します」


そう言って、アンナはノエルの言葉を受け入れた。


***


明日はエドガー侯爵が遊びに来る。

つまり、ローズが来るのだ。


ミラの一番の心配は、これだった。

年上で男性のノエルでも焼きもちを焼くくらいだ、同い年で同性のローズはどうなるか。


そして、いつもどおりローズはミラに抱きついてきた。

ローズはノエルも誘いたそうだったが、今日もノエルは教育係につきっきりだ。

11歳の次期当主は、学ぶべきことも多い。


だからローズはミラを遊びに誘ったのだが、いつもとは違って一人の少女がついてくる。

「あなた、誰?」

「私はミラ様専属の使用人でございます」


2人の方がいいのにと思いながらも、ミラは「まあ見守ってるだけでしょ」と思っていた。


そうして、ミラとローズは草原でそり遊びを始めた。

斜面になった草原を二人乗りのそりで滑って下る遊びは、二人のお気に入りだった。


だが、それを見ていてアンナは気が気ではなかった。

体勢が危なっかしく、実際にミラが足をひねりそうにもなっている。

アンナは、口を挟まずにはいられなかった。


「それでは怪我をしてしまいます!」


そう言って、アンナはミラを後ろに乗せてそりを使う。

さっきまでのふらふらとした動きとは違い、綺麗な軌道と体勢で安全に下まで滑り降りた。

何より、スピードが段違いだ。

この遊びはアンナも子供の頃からミラたちよりも頻繁にやっていたからうまい。


そのうえ、農民の子供たちは毎日体を鍛えているようなものだから、身体能力が優れている。

ミラもローズも勉強の時間が多く、身体を動かすのはダンスの授業の時くらいなので、どうしても身体能力はアンナより劣ってしまうのだ。


そんなアンナの運転で安全に、しかもすごいスピードで走ったミラは感激した声を上げた。


「アンナ、すごーい!こんなに上手に滑れるんだね!」


それを見ていたローズは面白くない。


「ふん、何よその程度のことで。私の方がミラと仲良しなんだから」


「いえ、私の方がミラ様をお慕い申し上げております。実際、私の方がミラ様をお守りできるかと」


そう言われて、ミラは真っ赤になった。


「それじゃあ勝負よ!ミラをおんぶしてどっちが速く走れるか勝負しなさい!」


「いいですよ!私の方が危険からミラ様を遠ざけることができると証明してみせます」


そこでミラが口を挟む。


「私は一人しかいないんですけど……。競争は無理よ」


二人とも少し顔を赤くした後、アンナが言った。


「私がミラ様をおぶりましょう。ローズ様より速く走ってみせます」


いくらなんでも人一人おぶって自分より速く走るなどと言われると、ローズも屈辱を感じた。


「馬鹿にしないでちょうだい!その次は私がミラをおぶってアナタより速く走るわ!」


しかし、ミラをおぶったアンナはとても速かった。

さすがにローズより速いということはないが、ほぼ同じ速度で走ったのだ。


足元が不安定な草原では、むしろアンナの方が先に行くこともあった。

これでは、ローズがミラをおぶって勝負をしてみるまでもない。


「頭も良くないとミラを守れないわよ!あなた、掛け算はご存じ?」


ローズは、何とか勝てるものを絞り出そうとした。


「7かける6はいくつかわかります?」


アンナの顔色を見て、勝てると思い余裕をもってローズは問いかける。

その横から、ミラが助け舟を出す。


「7個リンゴが入った籠が6つあるの。リンゴはいくつ?」


「それなら42です」


「アンナ、それが掛け算よ」


「ああ、昨日の授業でやってたのはこういうことだったんですか!」


教育を受けてはいないが、アンナは地頭は良いのだ。

それを見て、ローズはわなわなと震えている。


ミラもそれに気づいて何とかフォローを、と思ったのだが、生理現象がそれを妨げた。


「ごめんなさい、ちょっとお手洗いに……」


この二人を置いて行くのは不安だが、どうしようもない。


***


そして、二人きりになった時にアンナは青くなった。

ミラがいたからついいつもの調子になってしまったが、我に返るとローズも貴族様のご令嬢だ。

ミラやカシウス侯爵は優しいが、目の前にいる貴族は自分をどう扱うだろうか。


「も、申し訳ございま……」


と言いかけた時、ローズがアンナに話しかけた。


「なぜミラの専属使用人になったの?」


「命を、救っていただいたのです」


「私だって怪我を治してもらったのよ」


「ミラ様は……とても優しい方です。私は、あの方に報いたいのです」


「そうね。それでいてまったく恩に着せようともしない。あの子は本当に優しい子」


アンナは、ローズのことも優しい人だと思った。

身分を理由に排除することなど簡単なのに、自分の話を聞いてくれる。


ローズも、ミラの影響なのかそれはしたくなかった。

身分の違いで排除することは、身分以外でミラへの愛が負けている気がしたのだ。

そして、ローズはさっきからうずうずしている気持ちをアンナに告げた。


「ねえ、私もそりに乗せてよ!すごいスピードだったじゃない」


「はい、あれにはコツがあるんですよ。前に乗る人の重心とか傾きで変わってくるんです」


そうして二人はそりに乗り、ローズもさっきのミラと同じように今まで味わったことのないスピードと安心感に酔いしれた。


「あなた、なかなかやるじゃない!」


「ありがとうございます」


貴族令嬢の自分に少し恐れをなしながら返事をするアンナに、ローズは言った。


「ミラはね、この前のラディアート王国との国交回復10周年記念式典で倒れたの」


アンナには縁のない世界だ。ただ、その帰り道で自分を助けてもらえたので、その式典のこと自体は知っている。


「色々複雑みたいで詳細はまだ分からないんだけど、あなたはそこにいられないでしょう?」


「はい、そんな大層な式典に出ることなど……」


想像しただけで、農民のアンナは膝が震える。


「そこでは私がミラを守るわ。だから、普段はあなたが守ってあげて」


自分を、貴族様が対等に見てくれている……?

やっぱりミラ様の周りの人はこんな優しい人ばかり……


と思った途端に、ローズが言った。


「あなたは守るだけよ!ミラを一番大事に思っているのは私だから!」


「ミラ様を大事に思っているのは私です!それは譲れません!」


そうして二人が取っ組み合いをしているところに、ミラが帰ってきた。


「ちょっと、二人とも何してるの……」


青くなって仲裁しようとするミラには、取っ組み合いをしている二人が笑顔なのに気づく余裕はなかった。


「ミラ、私はこの子嫌いじゃないわよ」


「ミラ様、私がご一緒できない時はきっとローズ様が守って下さいますよ」


取っ組み合いをしながらそんなことを言う2人を、ミラは不思議そうに見つめていた。


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