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役に立つ娘をやめて、愛されるために生まれてきました!~前世で私を使い捨てた公爵様、ご機嫌いかが?  作者: 扇風機と思ったらサーキュレーター


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女の友情

ミラの父カシウス・アルヴェイン侯爵の親友、エドガー・ヴァレンティス侯爵は、数日後にまた遊びに来た。

仕事で何年も会えなかったからか、会いたくて仕方ないのだろう。


お互いの妻同士も仲が良く、さらに前回の訪問でローズとミラ、ノエルも仲良くなっている。

家族ぐるみの付き合いを強化させるべく、エドガーは嬉々としてやってきた。


ローズも、ノエルには異性として、ミラには同性の友だちとして会いに来ている。

ただ、この日のノエルは算術の授業があったので、ミラとローズが2人で遊ぶことになったのだが、ミラはまた複雑になっていた。


この数日でも、自分をいじめる「ローズ」の記憶が重なっているのだ。

もちろん前世のローズと目の前のローズは見た目が違う。

それでも、ミラはつい委縮してしまう。


ローズは当たり前のようにミラに親しげに振る舞うのだが、ミラの反応が薄い。

怯えたような態度を見せるミラに、ローズは少し苛立ちを覚えた。

ローズの両親はきちんとしつけを行ってはいるものの(ミラの両親よりは甘いが)、わがままな貴族令嬢なのは生まれつきなのだ。


「ミラ、四つん這いになりなさい!」


ローズは、ミラに命令した。

ミラは前世での記憶と重ね合わせながら、自分は命令を聞く立場だと思って素直に従った。

ローズはミラの背中にまたがり、「進めペガサス!」と言葉を発した。


ミラは、言われるがままに四つん這いのままローズを乗せて進み始めた。


しばらくすると、ローズは、「またがっているのも疲れるわね。次はおんぶをしなさい」と命令した。

ミラは、言われるがままにローズをおぶって歩き始めた。


ミラの息が上がってきた頃を見計らって、ローズは「ここでいいわ」と言っておんぶから降りた。

そして「ここに座りましょう」と言ってミラを座らせた。


行儀よく座ったミラの膝に、ローズは頭を乗せて膝枕をさせた。

気持ち良さそうなローズの顔を見ると、ミラは少し安心した。

「これなら怒られないだろう」と。


そんなミラに、ローズは話しかける。


「ねえ、あたしのことが怖いの?」


ミラは、答えに窮した。

ローズという名前の姉にいじめられた記憶が、ここ数日もずっとミラを苛んでいる。

だが、前に会ったときのローズが「私とあなたはお友達よ!」と言ってくれたことも嬉しい記憶として残っているのだ。


それでも、ノエルに怒鳴られた記憶も消せない。

自分の中に湧いてくるわけのわからない記憶の話をするのは怖かった。


「あたしが嫌いならそれでもいいけどさ」


そう言って、ローズが横を向く。

その横顔を見ると、ミラの心が痛んだ。


「私、いじめられてたの……」


ミラは、思わず言葉を漏らした。


それを聞いたローズはガバリと起き上がり、


「誰に!?」


と大声を上げた。


「お兄さまやお姉さま、お母さまにも。お父さまはそんな私を放ったらかしで……」


それを聞いてローズは顔をしかめた。


「ノエルが?それにカシウス侯爵もあなたを大事にしてそうだったのに……?それに、お姉さまって誰?」


ミラは慌てて訂正する。


「ううん、違うの。別のお父さまとお母さまと……」


「何それ?どういうこと?それは誰なのよ?」


ミラ自身も、それが前世の記憶だとは理解していない。

だから、うまく説明はできない。


「お兄さまの名前はリカルド。お姉さまは……」


そこまで言って、ミラは口をつぐんだ。

目の前にいる「友達」は、ローズが自分をいじめていたなどと言われたら気を悪くするのではないか。


「あまりよく思い出せないし、その人たちがどこにいるのかもわからない……」


「頭の中にある想像の話ってこと?」


ミラ自身もよく分かっていない。なぜか毎日記憶が蘇ってくるのだ。

だから、何も言えなくなってしまった。

ミラは、何を言えば怒られないかを考えていた。


それは、そんなに短い時間ではなかっただろう。

ミラは、ふと我に返った。

相手の問いかけに対してこんなに長い間黙っていたら、どれだけ罵られただろう。

いや、ほんの数秒言い淀んだだけで水をかけられたこともある。


ミラは、恐怖を感じながらローズの顔を見た。

だが、ローズは何も言わずにミラの答えを待っていた。

その瞳には、温かささえ感じられた。


いや本当のローズはわがままなところもある貴族娘だが、ここは簡単に答えが返ってくる問題ではないと理解していたのだ。

それに、ローズはミラのことを気に入っている。

その顔を見ると、ミラは答えずにはいられなかった。


「お姉さまの名前が、ローズだったの」


おずおずとミラは呟いた。今度こそ怒られるかもしれないと思いながらも、ずっと答えを待ってくれているローズに嘘はつけなかった。


「そっかあ、それは仕方ないかもね」


ミラの心配をよそに、ローズはあっけらかんと答えた。

歴史上の暴君や犯罪者と同じ名前の人に少し嫌な感じを持つことは、ローズにもあるのだ。


「でもね、その人と私は同じ顔なの?」


ローズはミラに顔を近づけて言う。


「ううん、全然違う」


ミラがそう言うと、


「じゃあ、この顔はミラの味方だって覚えておいて。そして、その……リカルドとローズだっけ?そいつらが本当にいたら私がギッタギタにとっちめてやるから!」


貴族らしからぬ言葉遣いに、ミラは目を丸くした。


「ギッタギタ?」


「そうよ、ミラをいじめる奴はギッタギッタのボッタボタよ!」


「ボッタボタは何か違うような……」


そう言って少し笑顔になったミラに、ローズは再び顔を近づけた。


「もう一回言うわよ!この顔は、ローズだけどあなたの味方!あなたの頭の中のローズとは違うの!ローズって名前が怖かったらローちゃんでもロイピーでも好きに呼びなさい!」


そうして、ローズは四つん這いになった。


「さっきはごめんなさいね、今度はあなたが私に乗る番よ」


ミラが意味が分からず立ち尽くしていると、


「今度は私がペガサスよ、ほら乗りなさい」


笑顔で言ってくれるローズにミラも笑いながらまたがる。

酷くのろい進み方の後、ローズはさらに


「次はおんぶよ」


と息を上げながら言った。


「大丈夫?」


とミラが気遣うが、ローズはおんぶの姿勢を崩さない。

そこで恐る恐るミラが乗り、二、三歩進んだところでローズは倒れた。

貴族令嬢様は体力がないのだ。


「きゃあっ!」という声と共にベシャッと崩れて寝転がった二人は、自然に笑い声を上げていた。

こんなに笑ったのは初めてじゃないか、と思えるほどミラには楽しい時間だった。

そして、自然と声が出ていた。


「ローちゃん、大好き!」


両親やノエルからは、言ってもらったことがある。

だけど、自分から言うのは怖かった。

拒絶されるのではないか、という恐れがあったのだ。


でも、ローズに対してミラはその言葉を口にすることができた。

ローズも、それを当然のように受け止める。


「私も大好きだよ、ミラ!」


2人は手を繋いで笑いあった。


そこに、算術の授業を終えたノエルがやってきた。


「楽しそうだな、僕も混ぜてよ」


「女の子同士の友情を邪魔するんじゃありませんわ!男は少し待ってなさい!」


わがまま令嬢のその言葉で、ノエルは少しの間待ちぼうけを食わされるのだった。


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