真っ向から金を無心しないだけいくらかマシ
「マジ、何なんっ!? あのメタボジジィ! 偉そうなことばっか言って! とどのつまり、テルア殿下を利用して、自分が成り上がりたいだけじゃんっ!」
何かに気付いているような素振りを見せたラモンだったが、あの場はお得意の詭弁とテルア殿下の一喝によって、何とか事なきを得た。
しかし、こうなってしまったからには、もはや一刻の猶予もない。
借金はもちろんだが、早いところ黒幕を見つけ出し、事態の沈静化を図る必要がある。
さもなければ、ラモンが俺の背信行為を錦の御旗にして、エルサ陛下の弾劾に動く可能性がある。
……それはそれとして、あの場において王族を前に事実を隠蔽し、詭弁で言い包めようとしたのは間違いなく俺の方である。
こちらとしては、例のごとくお小言の一つも頂戴するものだと覚悟していたが、ラムラの怒りは思わぬ方へ向いていたようだ。
謁見の間へ向かう道すがら、彼女は地団駄を踏み、行き場のない憤りをぶつける。
「まぁ……、少なくとも、王族を駒としか見ていないのは確かだろうな」
「てか、あのオッサン。サマリアが、カルト立ち上げたこと知ってんのか?」
ナザレは珍しく神妙な顔つきでそう聞いてくる。
「ソレなんだよな……。もし、そうなら生かしちゃおけねぇんだが」
「……アンタの場合、言葉通りの意味なんだから、こんな場所で迂闊に言うんじゃないわよ」
ラムラはそう言うが、実際のところもはや冗談で済む段階ではなくなりつつある。
それは彼女自身も、薄々感じていることだろう。
「……兎にも角にも、まずはどれだけラモンが俺たちの動きを把握しているか、だな。三大魔神官との関係も含めて、ヤツの情報源を炙り出すぞ」
「そうね……。あの様子じゃあ、シャロに関しては多かれ少なかれ知られてるみたいだしね」
ラムラがそう言うと、シャロは物思わしげに俯く。
こんなきな臭い時こそ、底抜けに呑気な彼女の出番なのだが……。
「……そういや、マーレのヤツはどうした? 王宮入るなり、トイレに直行したみたいだが」
「あぁ、なんか『昨日食べたオークソルジャーの生レバーが今になって……』とか言ってたわね。腸活の一環だとか何とかって。てか、あんましそういうの聞かない方が良いわよ」
「……察しろってか。難しい時代だな。つーか、誰がそんなワイルドなチャレンジしてるだなんて思うかよ」
「まぁ、ホラ……。あの娘、仕事は出来るけど、基本アレだし」
ラムラにそう言われ、妙に納得してしまった。
悪気のない好奇心の餌食となった彼女の消化器官を憂いつつ、俺たちは謁見の間へと急いだ。
◇ ◇ ◇ ◇
その後。
程なくして俺たちは謁見の間に辿り着くが、未だマーレが戻って来る気配はない。
念話で呼びかけみても、うんともすんとも反応はなかった。
ここまで来ると、流石に心配が勝る。
……それにしても、居心地が悪い。
この場所に来る度に、息が詰まりそうになる。
大理石の床に敷かれた、仰々しいほどに光沢のある赤色の絨毯。
少しでも声を発すれば反響してしまう、無駄に高い天井。
両サイドには、聖女と思しき肖像が彫刻されたステンドガラスが張り巡らされ、その厳かな雰囲気に拍車を掛けている。
何でもココ最近、大規模な城の改修工事を行ったそうなのだが、『財政難』などと喧伝するわりには、随分と羽振りが良いものだ。
無論、こんなものはエルサ陛下の方針であるはずがない。
十中八九、民衆からのヘイトを陛下へ向けるためにラモンが仕組んだのだろう。
つくづく抜け目がないというか、小癪な男だ。
玉座の前で跪きながら、そんなことを考えていると、奥の間から陛下が姿を現す。
主君の降臨に、俺、ラムラ、ナザレ、シャロの4人は、一層深々と頭を垂れる。
のそり、のそりと。
供回りの一人も連れずに、悠然とした足取りで玉座の前に辿り着くと、陛下はゆっくりと腰を下ろす。
「……勇者サマリア。ご無沙汰しております。息災でありましたか?」
荘厳な出で立ちにそぐわない、優しげな声でエルサ陛下は語りかけてくる。
やはりこうして改めて見ると、皇国の名に恥じぬ風格がある。
重厚な純白の法衣を身を包み、王族由来の神々しいまでの金色の髪も健在だ。
エチェド教徒の人心を掌握するための装いも、その堂々たる立ち振る舞いからか嫌味がない。
「はい。陛下におかれましても、ご機嫌うるわしゅうございます」
俺がそう言うと、陛下は何故か呆れるように大きく溜め息を吐く。
「随分と堅苦しいですねぇ……。何ですか? その取って付けたような挨拶は。そなたがそのような形式ばったものを良しとしないことは、存じておりますよ。良くも悪くも、本質以外には興味のない人ですからね」
「……じゃあどうしろってんだよ」
「そう、ソレ! 王族さえも足蹴にするその尊大さこそ、そなたの強み! よって、私の前ではつまらぬ気遣いは無用です。というより……、そなたにそのような高尚な振る舞いを求めること自体、酷でしょう」
陛下はそう言うと、ウンウンと頷きつつ、得意げに微笑む。
……相変わらず、この御方と話していると調子が狂う。
まるで俺の思考の端から端まで、一言一句読み取っているかのようだ。
だからこそ、この御方を欺くには生半可な覚悟では罷りならない。
しかし、ラモンたちの暗躍により少しは憔悴しているものかと思っていたが。
平常運転で、一先ずは安心と言ったところか。
「しかし、そなたは目的遂行のためなら手段を選ばない性分ですからねぇ。独りで突っ走り、仲間たちを振り回してしまうこともあったのでは? 仕事熱心なのは結構ですが、時には周囲を顧みなければ人心は離れていきますよ。ねぇ? ラムラ」
「はい、全く以て」
話を振られたラムラは、ジロリと俺を見ながら間髪入れずにそう返した。
返事を聞いた陛下は、クスクスと輪を掛けてほくそ笑む。
確信犯、だろうか……。
普段通りと言えば普段通りのお節介振りだが、敢えて俺を泳がせている可能性も否定出来ないので、内心ヒヤヒヤである。
「はてさて! ハバド並びにトルドスの件、誠に大義でありました。なるほど……。三大魔神官、ですか。ますます以て、厄介な事態になりましたね」
「はい。それゆえ、魔王討伐の拠点となるべく地を、陛下の名のもとに拝領したく、こうして罷り越しました」
「要は混乱に乗じて逃亡した領主に代わり、その地を統治したい、と。それは分かりましたが……、今現在サソフ領はどうなっているのですか?」
「東国の領主・プロソフ氏に、臨時で領主代行を依頼しています」
「そう、ですか……。しかし困りましたね。事情が事情とは言え、魔族との戦いを見据えた世界協定がある以上、我が国とトルドスは飽くまで『友好国』。さしたる大義もなく、一方的に割譲を迫るのは、やはり現実的とは言えません。これは我が国とトルドス、二ヶ国間だけの問題ではないのです」
「はい。それは重々承知しております。ですから交渉にあたり、長期的かつ戦略的な返還条項付きの開発計画を提示したいと考えています」
「ほう……。開発計画、ですか」
陛下は玉座から身を乗り出し、前のめりになる。
俺はその求めに応じ、その場に立ち上がった。




