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結局最後に持っていくのは、若くて顔の良い女 again ②

「恐怖のあまり気が触れたか、小娘! だが、そう焦るな。直に女魔帝共々、冥府へ送ってやる!」


 メルカバは嬉々とした笑みでそう言うと、左手の剣をシャロに向かって突き出す。

 しかし、シャロは挑発に構うことなく、何やらぶつぶつと詠唱を始める。

 すると、その直後。

 メルカバは、引き摺り込まれるように落下し始める。


「なっ!? こ、これは一体どういうことだっ!?」


 そのまま為す術なく崩れ落ち、地にねじ伏せられたメルカバは、刮目してシャロの顔を見上げる。

 あまりに既視感のあるその光景に、俺とアバドは思わず、顔を見合わせた。


「そうか……。これも『至高』たる存在の真価なのだな……」


 そんな俺たちを尻目に、ラアトは合点がいったかのように、独りごちる。


「……ラアト。一体、何がどうなってんだよ?」


 俺がそう問いかけると、ラアトはゴクリと息を呑んだ後、口を開く。


「……『二柱(ふたはしら)の信の裁可』について、貴様にも以前話したであろう? 魔の祝福・エチェドの加護の双方を得たシェオル様は、人智を越えた崇高なる存在だ。『聖』と『邪』……。併せ持った異なる二つの性質は相殺され、あの御方の前では意味を為さない。そんな御方の放つ呪術は、もはや呪詛であって呪詛でない。魔族特有の耐性など塵芥に等しいのだろう……。加えて、我らに危害が及ばないところを見るに、対象を選び、発動できるようだ。なるほど……。元主(ネベーラ)たちがあれほどまでに危険視していた理由が、今になってようやく分かったわ」


 ラアトはそう言うと、再びシャロに釘付けになる。

 

 シャロの放った『停止』の念は、みるみる内にメルカバの身体を蝕み、遂には指先の一本すら動かすことが出来なくなっていた。

 メルカバが足元で完全に身動きが取れなくなったのを確認すると、シャロは詠唱を止め、額の汗を拭う。

 それに伴い、メルカバは小康状態となる。


「……ふぅ。ネベーラがサマリアにやってたのを真似してみたけど、コレ、結構疲れるんだね。今のあたしにはこれが限界、かな……。どう? メルカバ。こんな感覚、今まで味わったことないでしょ?」


 シャロは息を切らしながらも、すまし顔でそう問いかける。

 しかし、メルカバは僅かに顔を上げ、ギリリと口を歪ませたまま、微動だにしない。


「あのさ……、メルカバ。さっきお姉ちゃんから、聞いたよ。マジェル族のことも、()()()()()()()()()


 シャロは静かにそう切り出すが、メルカバは顔を強張らせた切り、なおも口を開かない。


「……ねぇ、一つだけ、教えて。何であたしに言わなかったの?」


「汝のような小娘には……、知る必要がないからだ」


 メルカバは、ただ一言そう答える。

 それを聞いた彼女は、不服そうに溜め息を吐く。


「まだ惚ける気? あたしに、罪悪感を植え付けたいんだったらさ。『蛮族の末裔』だなんて誤魔化さないで、ちゃんと言えばいいのに。妹のあたしなんて、真っ先に懐柔しなきゃじゃん。()()()()教育係になったんならさ!」


 シャロはいつになく、淀みなくそう溢す。

 そこには、かつてメルカバに抱いていた畏怖のようなものは感じられなかった。


「結局さ……。メルカバだって、後ろめたいって思ってたんでしょ? だから、あたしの教育係を買って出た。他の魔神官たちがあたしに余計なこと吹き込まないように、囲っておくためにさ! おかげで、あたしとお姉ちゃんは引き離されずに済んだ……。違う?」


 シャロはそう問いかけるが、メルカバは視線を逸らし、沈黙を貫く。


「あの頃のあたしは本当に何も知らなかった。……ううん。今でも何も知らない。でも、前のあたしよりも自分のことを知ってる……、とは思う。あたしは……、あたしに良くしてくれた皆の力になりたい。それだけは何となく分かるんだ」


 シャロのその言葉に、メルカバは大きく目を見開き、返す言葉を失う。


「その上で言うね。あたし、やっぱりあなたのこと許せない。だって、お姉ちゃんを苦しめたから」


「……で、あろうな」


「でも……、もし、あたしがあなたと同じ立場でも、同じことすると思う。結局さ……。みんな、守れるものしか守れないんだよ。あなたは自分の身内を精一杯守ろうとしただけ。お姉ちゃんも、魔王としてそうせざるを得なかった。魔族を守るために。あたしを守るために……。昔のことなんて、よく知らないけどさ。誰が悪いとかじゃないんだと思う。あなたも。もちろん、お姉ちゃんも」


「シェオル……」


 何かが吹っ切れたように話すシャロを見て、アバドは神妙な顔で静かに呟く。


「今度はね! あたしがお姉ちゃんを助けてあげるの。……いや、それもちょっと違うな。あたしもお姉ちゃんと同じものを背負いたい。だから、ごめん。これがあたし自身の……、魔王アバドの妹としてのけじめ」


 シャロは淡々とそう言いながら、再び両腕を前に突き出す。

 彼女の両手に灯った拳大の白色光は、徐々に肥大化していき、やがて人一人を丸々飲み込むほどまでに膨れ上がる。


「愚かの極み、だな……。やはり、あの姉にしてこの妹あり、か」


 メルカバは投げやりに微笑みつつ、そう呟く。


「小娘よ……。儂の負けだ。だが謝らんぞ」


 メルカバはどこか茶化すようにそう言って笑うと、静かに目を瞑る。


「うん。分かってる。それと……、ありがとう」


 シャロがそう言ったのを合図に、光は彼女の手元を離れ、ゆっくりとメルカバを包み込んでいく。

 因縁の相手によって召されていくメルカバのその表情は、傍から見ていても穏やかなものだった。

 そんな彼女たちの姿を、アバドは酷く痛ましげな目で見ていた。


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