表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

46/48

結局最後に持っていくのは、若くて顔の良い女 again ①

「ば、ばかなっ! 術式の反転効果は、未だ健在のはず!」


 俄には信じがたいとでも言いたげだった。

 ホクホク顔で成果を報告するアバドを前に、メルカバは俺との戦闘そっちのけで目を見開く。

 

「あぁ。確かにその通りだ。俺がこうしてお前ごときに手こずっているのが、その証拠だよ。だから、『キュアオール』は使えない。ただな……」


「フッフッフッ! どうやらお主の呪詛は、プロソフたちの身体に回り切っていないようだったからのう。()()()()()があって助かったわ! この者らがお主の完全な眷属と化し、耐性をつけてしまった後では、こうはいくまい! しかしまぁ……、これほど上手い具合にキマると面白いのう! お主の()()が役に立ったわ!」


 アバドはそう言うと、意気揚々と懐から『覆滅のカーネリアン』を取り出し、メルカバに見せつける。


「ま、まさか……。儂の『恭順』の念を上書きしたというのか!?」


 メルカバはそう言うと、説明しろと言わんばかりに俺を凝視する。


「お前の口ぶりからすると、どうやらアバドがネベーラの眷属を引き抜いて、呪詛を習得したことは知らされていなかったみたいだな。あぁ、お前の言いたいことは分かるぜ? 『どうしてボブル族のアバドが……』、だよな?」


 俺がそう問いかけると、メルカバは目を見開いたまま、返す言葉を失う。


 ボブル族の源流にあたるエルフは、そもそも呪詛によって絶滅一歩手前まで追いやられた種族であり、その貴重な血筋を残すために呪詛の抗体のある魔族と交配した、という背景がある。

 そのためボブル族には、伝統的に呪詛を忌避する風土が根付いており、アバドとてその例外ではないと、メルカバは踏んでいたのだろう。


「……俺も触り程度の知識しかないから詳しいことは知らんが、お前のその反応は至極真っ当だよ。そりゃあ、まともな神経してたら、アバドが呪詛を使うだなんて思わねぇよな。ただな……。お前は、アバドを過大評価している。知ってるか? ソイツ、ネベーラの部下から()()()()で呪詛を教わったらしいぞ?」


「なにっ!?」


 するとメルカバは勢いよく、アバドの方に視線を向ける。


「あぁもう! 一言目には、『魔王としての矜持』だの何だの一丁前なことほざいておきながら、とんだ口だけ野郎だよ! オマケに重度のシスコンときたもんだ。そりゃあ妹を守るためなら、古巣の禁忌の一つや二つ、平気で犯すだろうよ」


「ぞ、俗物め……」


 メルカバは一言そう溢すと、驚愕とも軽蔑とも取れるような表情を浮かべる。


「のう、メルカバよ。お主はさも、己が呪詛の玄人のように振る舞っておるが、本来マジェル族は霊峰・ホヴニル山脈に本拠を置く高貴な血族。呪詛の発動を著しく阻害する霊気を日常的に浴びている影響で、元来呪術の類とはすこぶる相性の悪い民族だ。混血とは言え、その血を引くお主も例外ではあるまい。加えて、この『覆滅のカーネリアン』だ! 我が、お主ごときの呪詛を上書きするくらい造作もないことは、いくら()()()お主でも理解出来よう?」


 アバドは意趣返しとばかりに、ニヤリと不敵な笑みを浮かべて言う。

 そんな彼女を前に、メルカバは一層その目を丸くさせる。


「……あぁ、そうだな。確かにお前の言う通り、アバドは俗物そのものだよ。じゃなかったら、こうして俺に従ってねぇだろ。結局コイツは、『ボブル族』や『魔王』である以前に、一人の『姉』なんだよ」


 俺がそう言うと、アバドは何故かバツが悪そうに視線をそらす。

 やはり彼女は不本意ながら、魔王としての道を歩まざるを得なかったのだろうか。

 であれば、シャロに頑なに出自を明かさなかった理由も、そこにあるのかもしれない。


「メルカバ……。余裕ブッこいて、むざむざ敵に塩を送るような真似をしたのが運の尽きだったな。おかげでお前のつくった即席魔族軍は、才色兼備・清浄潔白の女君主を支える()()()ガチ恋集団に生まれ変わった。間抜けもここまでいくと笑えねぇよ」


「……だから、どうしたというのだ? 端から貧弱な人族どもなど、当てにしておらんわ」


 メルカバはそう言って、再び俺に向き直り、双剣を構える。


「お手本のような負け惜しみは、結構なんだけどよ。お前、何か大事なことを忘れてないか?」


「……何?」


「『何』じゃねぇよ。さっき、自分で言ってただろうが。『術式の反転効果は続いている』って。シャロがこうしてピンピンしていることの意味を考えてみろ。お前だって、見たよな? プロソフたちが『キュアオール』で悶えてる姿を」


 俺がそこまで言うと、メルカバの顔面はみるみるうちに青ざめ、眉間からはジワジワと汗が滲んでいく。

 メルカバは、それを隠すように顔を下に向ける。

 勝負は決まった、か。


「なぁ、メルカバ。一つ、確認させてくれ。お前に与えられた本当の役割は、トルドスを()()()()()()()()統一させ、国家の意思統一を図ることだった……。違うか?」


「……であれば、何だというのだ?」


「それは肯定ってことでいいのか? なら、その前提で続けるぞ。……そもそもお前の()()()()()は、少なくとも現時点でアバドと敵対するつもりはなかった。実際、お前自身もその前提で事を進めていて、万が一プロソフに()()()()()があれば切り捨てるつもりでいた。だが……、上の方で何かしらの『方針転換』があったんだろう。だから、お前は突貫工事で策を拵える必要があった」


 俺はそう投げかけるが、メルカバは俯いたまま、何も応えない。

 『方針転換』とは言ったものの、密偵がラアトやアバドの呪詛について()()報告しなかったのは、意図的だった可能性が高い。

 概ね、メルカバが計画の障害になり得ると判断し、俺が討伐に動くように仕向けたのだろう。


「……具体的にはこんな感じか? まずお前がこうして俺を引きつけている間に、()()()()()プロソフたちにアバドとシャロを片付けさせる。その後は、残りの公爵家を嗾け、トルドス全土を平定させる。誰でもいい。首都を抑えるウンスドルフ辺りか? ソイツを担ぎ上げて、本格的な王政へ移行させれば、一応は本来の役割を果たせる」


 プロソフ共々、メルカバが捨て石になることは既定路線だった。

 そう考えれば、ここまで俺たちが誘導されてきた道程も腑に落ちる。

 そして、それは……。

 メルカバの口振りから察するに、本人も気付いているのだろう。


「……プロソフたちがアバドに降り、シャロも健在の今、お前の目論見は完全に外れた。なんせ、お前が俺に勝つためには、テメェの得意な条件を整えた上で、タイマン勝負に持ち込む必要があったんだからな。お前のこの策略……、端から短期決戦であることが大前提だったんだよ」


 メルカバは、なおも俯いたまま、口を噤む。

 だがしばらくの後、不意に顔を上げ、ニヤリと不敵に口角を上げる。


「皇国の勇者よ……。よもや、勝ったと錯覚しているのではあるまいな? 汝こそ重大なことを忘れておるわ。出来得ることなら、この手は使いたくなかったが致し方あるまい」


 メルカバはそう言うと、突として立ち上がり、翼を広げ浮遊する。


「むっ!? や、やめよっ! メルカバ!! 血迷うでないっ!!」


 アバドは懇願するように制止するが、メルカバはそれを振り切り、天高く舞い上がり、左手に持った剣を掲げる。

 すると鍔部分に埋め込まれた『冥濛のスピネル』が、怪しく藍色に光る。

 

紺碧(こんぺき)を統べる深淵の竜よ……。今ここに。奔流(ほんりゅう)を糧に顕現せよ!」

 

 メルカバの詠唱に応じるように、四方から轟音を立てながら、水流が押し寄せる。

 濁流は、メルカバが天高く掲げた剣を目指して進み、やがて『冥濛のスピネル』に吸収されていく。


「……『冥濛のスピネル』は周囲の河川の水を吸収し、干上がらせる術式が付与されている。しかし知っての通り、汝の放った術式により、むしろ宝玉内の放出圧力は飛躍的に高まっている。そのような中、力任せに水流を取り込もうとすればどうなるか……。ここまで申せば、分かるであろう? のう、皇国の勇者よ!」


 メルカバは不気味にほくそ笑みながら、滔々とそう語る。


 万事休すかと思われた、その時。

 アバドにぴたりと掴まっていたシャロは腰に回していた手を離し、すとんと下馬する。

 そのままつかつかと無警戒に歩み出し、メルカバのちょうど真下あたりで立ち止まると、その小さな両腕を掲げる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ