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負けた時の言い訳の余地も甲斐性のうち

「……随分と荒れているようだが、気に障ったか?」


 メルカバは立ち上がることなくそう言いながら、挑発的にほくそ笑む。

 

「あぁ、悪い悪い……。びっくりして、ついつい手が出ちまったよ。まさか、お前の口からそんな話が飛び出してくるとは思わなかったからな。ホラ! お前さん、どうやら()()()()()()()からハブられてるみたいだしな!」


「であれば、聞き流せばよい。取るに足らん末端の戯言を、一々気に留めていては身が持たんぞ」


 メルカバは、俺の煽りなどどこ吹く風とばかりにそう言って、パンパンと砂埃を払いながら、ゆっくりと起き上がる。


「ご忠告どうも……。まぁ言うて、お前らが俺のことを嗅ぎ回ってるって知った時点で、薄々察してはいたがな。つーか、端から隠してるつもりもねぇっつーの!」


 俺はそういった直後、立ち上がったばかりのメルカバに追撃する。

 ……が、寸前で腰に備えられた短剣を投げつけられ、俺は反射的に背後に飛び避ける。

 敵は、それを見逃さなかった。

 メルカバの渾身の二撃は俺の腹部を掠め、鎧と剣が擦れる甲高い金属音が鳴り響く。

 たらりと、額から汗が滴り落ち、路上の砂を薄黒く染める。


「どうした? 金稼ぎに感けて、鍛錬を怠っているのではないか?」


「良く言うぜ。散々、自分に有利な条件整えといてよ。これで負けたら赤っ恥だぞ。一流ってのはな……、負けた時の言い訳の余地くらい残しておくもんだぜ」

 

「『一流』、か……。体裁ばかりにこだわるのも、勇者の悲しい性か」


 メルカバは半笑いでそう言いながら、再度太刀を浴びせてくる。


「……よく分かってんじゃねぇか。あぁ、そうだよ! むしろ、それが全てと言ってもいい! 政治も、経済も、戦争も……。『体裁』一つにこだわり続けて、雁字搦めになるのが世の常ってモンだ! お前らだってそうだろ? だからそうやって、アバドを目の敵にするんだろうが!」


 俺はそう言いつつ、メルカバの双剣を払いのけ、再び攻勢に打って出る。

 懐に入り込み、喉元近くまで迫るが、やはり右手の剣で遮られ、後退を余儀なくされる。

 やはり単純な肉弾戦ではこちらの部が悪い、か……。


「ふっ。居直りも甚だしいな。が、言い得て妙だ。もっとも……、その挙げ句に魔王と謀り、人族に不義理を働く様は滑稽ではあるがな! 全く以て、本末転倒極まりない話だ!」


 メルカバはそう言いながらも、攻撃の手を緩めない。

 俺は剣を前方に構え、それに抗う。

 敵の双剣と俺の青銅剣が交わった時、再び膠着が訪れた。

 ただでさえ安価で粗悪な青銅剣も、ここ最近の酷使が祟り、ところどころ刃こぼれも目立つ。

 否が応でも、()()()()()()()が近付きつつあることを自覚する。


「かもな……。でもそれは飽くまで、途中経過の話だろ? なんせ表面上は、まだ何も終わってないんだからな。最後の最後に辻褄が合ってりゃ、オールオッケーなんだよ!」


「ふん。それこそ居直りというものだ。このような輩を勇者として引き上げた事実は、長きに渡る皇国の歴史の汚点と言えよう」


「……さっきから偉そうなことばっか言いやがって。そういうお前も、傍から見りゃ滑稽だよ。 お前、一応魔族軍の幹部だよな? 虚しくねぇのか? そんなパシリみたいなポジで。何だ? よっぽど、良い餌でも撒かれたのか? まさかソレが『俺の首』だとか、つまらんこと言わんよな? 結局、お前は何がしたいんだよ」


「そう自分を下げるな……。軍の一翼を担う者として言わせてもらうが、『人類最強』と謳われる汝と戦うことには、それだけの価値がある。汝の首を土産に持ち帰れば、それなりの()()にあずかることも出来よう。まぁ儂にはそんなもの、毛ほどの興味もないが。歯車は歯車らしく、与えられた己の役割に徹すれば良い」


「……随分と卑屈だな。組織人としては立派なのかもしれないが。でもよ……。だったら真っ先にアバドに従うべきなんじゃないか? お前が今、誰の指示に従って動いてるのかは知らんけどな。筋を通すべき相手が間違ってんだろ!」


「我らの長年に及ぶ根回しをふいにし、今更女魔帝に従えと? 笑わせるなっ! 彼奴こそ、蛮族の回し者ではないか? 口を開けば、『魔族としての誇り』だの、何だのと……。全く、片腹痛くてたまらんわ! 何故、外様の女子(おなご)にそのようなことを説かれなければならぬのだ!? 劣等民族は劣等民族らしく、()()に甘んじておればよい!」


 メルカバは語気を荒げながら、双剣を力一杯振るってくる。

 そのあまりの剣幕に、俺は僅かながらに後退してしまう。


「……アバドの出自なんて知ったこっちゃねぇよ。だがな……。ソレを言ったらお前だって、マジェル族との混血じゃねぇか! ナニ、自分棚に上げてアバドやシャロのこと、ディスってんだよ!? 外様だの何だの、お前が言えた義理か! お前のその理屈なら、テメェこそ『外道』だろうが!」


 俺はそう返答するが、メルカバはただひたすら侮蔑するような視線を浴びせてくる。


「大体な……。そんな()()()()のアバドが魔王になれる土壌があったから、お前も魔神官になれたんだろうが。何が不満なんだよ? 素直にベンチャー精神溢れる、風通しの良い職場環境に感謝しろよ。それともアレか? 自分の出自に、後ろめたさでも感じているのか?」


「だ、黙れっ! 汝などに何が分かるというのだっ!」


 メルカバは凄まじい形相でそう叫ぶと、荒々しく双剣を振り回し、俺の身体を後方へ吹き飛ばす。

 敢えて、挑発的な物言いをした自覚はあるがメルカバは思いの外、取り乱しているようだ。

 やはり、ココがヤツの()()か。


「そう宣う汝こそ、どうなのだ!? 妹を()()()にして、眺めておるその景色は絶景か!? ……分かるであろう? 本来、汝はソコにおってはならぬ存在なのだ」


「……分かってんよ。ンなこと」


「皇国の勇者よ……。ゆめゆめ、勘違いいたすな。やはり汝も女魔帝も何も分かってはおらぬ。儂が、個人的な恨みや興味で汝らに執着しているなど、思い上がりも甚だしい。そもそも儂には、そのような私情を挟む余地すら与えられていないのだ……」


「ここに来て被害者ヅラか……。まぁ、マジェル族の()()()()の話は、教養程度には知っているけどな。『聖炎のアレキサンドライト』のアレだろ?」


「ふん。つまらぬことを……。別段、おかしな話ではない。当然のことだ。我ら少数民族はいつの世も、そうして生き残りを図ってきた。その上で、女魔帝らは()()()()を誤った。ただ、それだけのことよ」


「……お前のその理屈だと、アバドは『ボブル族』出身だってことになるんだがな」


 俺がそう問いかけるが、メルカバはどことなくバツが悪そうな顔を浮かべた切り、何も答えなかった。


 ボブル族。

 かつて、ホヴニル山脈の麓のカプストの森一帯を治めていた、エルフと魔族の混血の少数民族だ。

 おおよそ百年前、魔族軍の侵攻により滅んだとされているが、実際のところ不可解な点も多い。

 そもそもボブル族と魔族は遠戚であり、両者は敵対関係にはなかった。

 当然、人族側としても寝耳に水の話だったが、その後改めて魔族側からある声明が発布される。

 ()()()()()()()が『聖炎のアレキサンドライト』を隠し持ち、人族側に加担しようとしている。今回の侵攻はそれを未然に防ぐためである、と。


 確かにその話が事実であれば、魔族としては由々しき事態である。

 周知の通り、人族の潜在能力を最大限に引き出すと伝えられている『聖炎のアレキサンドライト』は、魔族にとって極めて危険な代物だ。

 しかし周知の通り、今の今までその存在は確認されていない。

 無論、ボブル族がそれを秘密裏に所持していたなどといった話も根拠に乏しく、事実カプストの森陥落後も見つからなかったらしい。

 

 そして。

 肝心なのは、ここからだ。

 というのも、魔族から疑いの目を向けられていた『少数民族』は、何もボブル族だけではない。

 ボブル族同様、ホヴニル山脈にそのルーツを持ち、人族とも昵懇の関係にある部族がもう一つあった。

 それこそが、レヴァ峡谷の半鳥人・マジェル族だった。


「……当時レヴァ峡谷では数百年に一度の飢饉に見舞われ、マジェル族単独で魔族と対峙できるような情勢ではなかった。その中でいらぬ疑いを掛けられ、目を付けられれば一族の存亡に関わる。であれば、一族の血を引くものとして……。自ずから、取るべき道など一つしかあるまい」


 メルカバは交えた双剣越しにそう言って、自虐的な笑みを浮かべる。


「……要は、テメェんとこの古巣が槍玉にあげられないよう、お前が先陣切ってネガキャン張って、カプスト侵攻の機運を高めてたってワケか。そんでもって、それを機に魔族内でのアバドの立場も一気に悪くなった、と。俺が言えた義理じゃないが酷ぇ話だな」


 俺がそう言うと、メルカバはその不敵な笑みを加速させる。


「それだけではない! 儂自らが軍を編成し、彼らを滅ぼした! 儂はその功を認められ、魔神官へと引き上げられたというわけだ。……分かるか? あの女魔帝は自分の古巣を滅ぼした仇に、魔族界における最高峰の名誉を与えたのだ。儂に叙任する折の女魔帝の口惜しそうなあの面……。今思い出すだけで、笑いが止まらんわ! ハッハッハッ!」


「道化もそこまでいくと笑えんな。それとも、ただの構ってちゃんか?」


 俺はそう皮肉を垂れるも、メルカバは不気味にほくそ笑んだまま、微動だにしない。


「……のう、皇国の勇者よ。よくよく理解したか? 汝と儂は似たもの同士だ。性質は違えど、多大な犠牲の上にその身を置く、業の深い存在。そのような汝が世に義を説くなど、おこがましいことこの上ない。もう勇者としての責務など捨て、楽になったらどうだ? 『居直り』は、汝の得意分野であろう?」


「……お前こそ勘違いすんな。誰がンなこと言ったよ? いいか!? よく聞け! 『取繕わなくなったら終わり』、それが俺の座右の銘だ! 借金だって絶対に返してやるからな!」


「また、それか……。威勢が良いのは結構だが、汝も(じき)に分かる。勇者の汝と言えど、世の時流には逆らえぬのだ」


「何のことかは知らんが、一応心に留めておく。……なぁ、メルカバ。今からでも遅くない。アバドに忠誠を誓え。そうすりゃ、後のことはマルっと全部、俺が面倒見てやる」


「断る! 儂はこれまで、散々女魔帝を貶めてきた。それはこの先も変わらぬ。儂は……、儂は最期の最期まで、ボブル族を否定せねばならぬのだっ! でなければ辻褄が合わぬわ……」


 メルカバは妙に窶れた笑みでそう言った。

 恐らく、これがメルカバなりのけじめなのだろう。


「そうかよ……。そこは筋を通すってワケか。じゃあ、そんなお前さんに冥土の土産にステキなことを教えてやる。メルカバ。お前は致命的なミスを犯した」


「この期に及んで戯言を……。勝てぬと見て、気が触れたか?」


「まさか。一つ言っておく。お前は、あの姉妹を見誤っている。後ろ、見てみろ」


「なに……」


 メルカバは俺が指示するままに、後ろを振り向く。


「勇者サマリアよ! こちらは無事に片付いたぞ!」


 その時。

 鍔迫り合いを続ける俺たちを嘲笑うかのように、アバドの勝ち誇った声が響く。

 声のする方へ目を凝らすと、プロソフたちを()()()()したアバドが、これみよがしに得意げな笑みを浮かべていた。


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