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継術物語  作者: 夜光 明
第一章
9/10

警報

イストが店から出るとレイチャルがいた。


「あれ、レイちゃん。どうしたの?こんなところで」

「あのね、イスト君のこと追いかけてきてたの」

「そっか、ありがとう」

「イスト君、ハンターになるの?」


ハンター。それはこの国にある職業の一つだ。町役場に寄せられた依頼をこなして褒賞を得たり、害獣や魔物を討伐して金を稼ぐ職業だ。


平和なこの国にも魔物や獣という脅威が存在する。獣とは野生に存在する人間以外の生物のうち、雄と雌が存在し、交尾をして繁殖する生物を指す。一方で魔物には性はなく、どこからともなく自然に発生したり、分裂をする生物を一般的には指す。また、魔物は魔力を内包しており、魔術を行使する個体をいる。そしてさらに、魔獣と呼ばれるものも稀に発見される。魔獣とはその名の通り魔物と獣の性質を併せ持った存在で、獣が何らかの要因によって進化したものと考えられている。


レイチャルはイストが武具店から出てくるところを見た。この国で武器を所持するのはハンターと衛兵くらいのものである。だからレイチャルはイストがハンターになろうとしてるのかなと考えたのである。


「え?いや、ちが…」


ここでイストは気づく。自分はハンターになるために武器を整備したのではないが、ハンター以外で武器を持つのはおかしい。つまり、ここは…


「そ、そうなんだ。レイちゃん、このことはまだ内緒にしててよ。レイちゃんの家でもう少し稼がせてもらってからの話だからね。まだ先だよ」

「ふーん。そうなんだ。ねえ、イスト君。リリィ姉と仲直りして早く帰って来なさいってお父さんが言ってた」

「…そうだね。そうしようかな。どうせリリィはあそこいってるんだろう」


イストとレイチャルの2人はリリィのいる町役場まで向かった。道中、イストはレイチャルに強請られて揚げ芋やちょっとした小物を買わされたのだが、実はこれ、レイチャルの可愛い抵抗であったりする。先ほどイストがもう少し稼いだら出て行くと言ったため、イストに少しでも使わせようとしたのだ。レイチャルはイストに出て行って欲しくなかった。


二人が町役場のに到着した時、それは起こった。


『ビーーーーーー!!!ビーーーーーー!!!緊急事態発生。緊急事態発生。ただいま、南方約20キロ地点に複数の魔獣、及び魔物の群れを確認。町の方向へ向かっている模様。その数、推定五千。ハンター及び戦う意志のあるものは至急南門へ集まってください。繰り返し放送します。ただ…』



 その放送を聞いてリリーは一瞬迷った後、すぐに塔を飛び出した。階段で降りるのももどかしく、自身に≪身体強化レインフォース≫をかけ、屋根伝いに南門へと向かった。短い期間とはいえ自分の住む町を魔獣ごときに壊されるわけにはいかなかった。


 リリーが飛び出していく様子をイストは下から見ていた。すぐにイストはリリーが戦いに行くつもりだと分かった。


「イスト君・・・今のってリリー姉・・・だよね?」

「うん・・・。あれは、リリーだったと思う。」

「イスト君も行くの?」

「え?」

「だって、イスト君、ハンターになるって言ってたし・・・行くのかなって」


イストは迷っていた。イストはリリーが飛び出していくのを見ても、どこか他人事のように見てしまっていた。今まで、戦闘訓練は受けてきたものの、実際に魔物や魔獣と戦ったことなんてない。さっきの放送を聞いても、やばいとは思ったものの、戦うのは自分の役割ではないと動こうとはしなかった。だが、よく考えれば、もしイストがリリーに付いていくとしたら、今後少なからず戦うことになることはたやすく想定できた。そのためにイストは短剣を整備しに行ったのだから。


「イスト君・・・私はイスト君が行かなくてもいいと思うよ。イスト君が戦わなくても誰かがやってくれるよ。私と一緒にお家に帰ろ?」

「レイちゃん・・・」

「私、イスト君に死んでほしくないもん。魔獣って強いんだよ。じぃじ言ってたもん」


イストは・・・


「そうだね・・・お家に帰ろっか」


踏み出せなかった。その足を。イストは戦いから逃げた。



どこか罪悪感を抱えながら、イストはウェスト亭へと帰った。その頃ウェスト亭では・・・


「お父さん止めて!お父さんの体じゃ魔獣となんて戦えないよ!」

「ええい!うるさい!俺はこの町を守らなきゃいけないんだ!ハンターとしての誇りがあるんだ!」

「お父さんはもうハンターじゃないでしょ!?ほかの人がやってくれるから大丈夫よ!お願い!行かないで!お父さん・・・」

「・・・イーラ。俺はな、魔獣どものせいで大事なものを失うのはもう嫌なんだ。ここでじっとなんてしてられねえ、この手で魔獣は叩きのめす。待っててくれや」


マンチェルは娘の反対を押し切り、倉庫で埃をかぶっていた装備を身につけ、南門へと駆けていったのだった・・・



イストとレイチャルが店に戻ると店の前でイーラが座り込んでいた。


「イーラさん!どうしたんですか!?」

「お母さん!」


二人はイーラのもとへ駆け寄った。二人を見上げるイーラの顔は涙で濡れていた。


「レイ、イスト君・・・私どうしよう。お父さんが、お父さんが」

「???マンチャルさんがどうかしたんですか?」

「お父さんが魔獣を倒してくるって・・・南門に走って行っちゃって・・・。どうしよう、もしこれでお父さんもあの人と同じように・・・」


イーラの言うあの人というのはイーラの夫であり、レイチャルの父であるユーゼルというもののことだ。十年前、この町、フィラントロピアには大規模な魔獣の襲撃があった。そのとき、ハンターをやっていたユーゼルは魔獣の脅威を退けるべく、戦いに臨んだ。三日にわたる戦いの末、フィラントロピアのハンターたちは魔獣の襲撃を何とか退けることができた。しかし、ユーゼルは・・・


「私がもしお父さんが死んじゃったらもう耐えられない・・・」

「お母さん、泣かないで」


イストは何も言えなかった。イーラの気持ちを考えると心がひどく傷んだ。だから、イストは決断した。


「イーラさん、僕、マンチャルさんのとこに行ってきます。マンチャルさんを止めてきます」

「イスト君・・・うん、お願い、お父さんを止めて」


戦いたくはない。でも、イーラさんのために出来ることはしてあげたい。それに、今すぐ行けばもしかしたら、門から出ていく前にマンチャルさんを止められるかもしれない。そんな思いからイストは暗殺者となるべく鍛え上げられた敏捷力を生かして、南門へと急ぐのだった。

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