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継術物語  作者: 夜光 明
第一章
10/10

黄金の騎士

イストは走った。敏捷力をフルに生かして全力で南門を目指す。道中、町の人たちは建物の中に皆入っているようで殆どいなかった。


南門には5分ほどで着いた。南門周辺はハンターらしき武装した人々が多くいて、大体五百人程度は集まってた。既に一部は出発しているらしく、後に続くようにどんどん南門を出て行った。


イストはその中からマンチャルを探す。だが、一向に見つかる気配がなかった。


「くそ、もう出ちゃったかな・・・」


イストが探している間にも次々に門から外へハンター達は出て行っており、既に残っているのは数十人程度だった。


「・・・行くしかないか」


 マンチャルを探すためにイストは覚悟を決めて南門を飛び出した。


 南門を出て約三十分、かなりの数のハンターたちを追い抜かしてきたが、マンチャルの姿は見られなかった。マンチャルがどれほどの実力を持っているか全く把握はしていないが、イーラさんの話からしてマンチャルさんは重戦士系であろうし、間違いなく追い抜かせているはずだった。


「くそ・・・どこに行っちゃったんだよ・・・」


 道中、前線を抜けてきた魔獣、魔物をいくらかはみかけたものの、どれも複数のハンターたちに袋叩きにされ、その姿を死体に変えていた。それでも、ある程度ケガする人はいるようで、所々で治療を受けているものも見られた。もしもマンチャルを追い抜かしているとしても死に直結するようなけがはまずしていないだろうと思われた。


 イストの前方、約五百メートル先あたりが最前線らしく、激しく砂埃が舞っているが、その最前線から漏れてくる敵は全く見られなかった。いくら強いハンターたちが戦ったとしても、五千もの敵を完全に食い止めることは出来まい。それに、実際に後方には抜けてきた敵も先ほどまでは絶対にいたのだ。それなのに、一体も漏れてくる気配はない。それは非常に奇妙なことだった。


 イストは悩んだ。このまま先に進んで最前線に向かうか、引き返して改めてマンチャルをさがすか。


 結局イストはこのまま先に進んでみることにした。恐らくマンチャルは無事であるだろうし、まあ大丈夫だろうと判断した。そしてなによりもリリーのことが気になったのだ。リリーは間違いなくイストよりも強い。明らかにイストよりも先に戦場へ向かったリリーが最前線にいることは間違いないだろう。リリーは無事なのか、それに今最前線では何が起こっているのか。それが気になってイストは最前線へと駆けだした。







時は十分前に遡る。最前線では既に激しい戦闘が繰り広げられていた。


「《炎鞭フレイムウィップ》《炎鞭》《炎鞭》!!!」


リリーは押し寄せる膨大なゴブリンと相対していた。


「《炎鞭》!もう!キリがない!」

「嬢ちゃん!いっぺん後ろに下がれ!さっきから魔術使いっぱなしだろ!?回復しな!」


(・・・そんなわけにもいかないですよ)


「《炎鞭》!私は大丈夫です!」


リリーの魔力にはまだ余裕はある。だが、魔術を使うための精神力がキツくなってきており、一旦下がって呼吸を整えたいところだ。だが、ここでリリーが抜けてしまえば戦線が崩壊しかねなかった。それだけリリーの力は大きかった。



「フレイムウィ・・・」「グオオオオアアアアオア!」


ドガッッッ!


そのとき、再び魔術を使おうとしたリリーを一体の魔物が吹き飛ばす。


「くはっ!・・・ハァ、ハァ、ハァ、オー、ガですか。痛い、痛いです」


リリーを吹き飛ばしたのはゴブリンの上位互換であるオーガだった。リリーが戦線を見渡すと先ほどまではいなかったはずのオーガがあちこちに見られた。オーガはゴブリンと比べて力は強いものの素早さは遅いため今追いついてきたのだろう。ただ、オーガの出現によって戦線は明らかに乱れ始めていた。


リリーもまた自分を吹き飛ばしたオーガと対峙していた。そしてその隙にゴブリン達はドンドン後ろに通って行ってしまう。


「このままじゃ・・・もう!こっち来るんじゃないです!《炎鞭フレイムウィップ》!」


オーガという魔物はゴブリンの上位互換とはいえ、かなりゴブリンとは違っている。ゴブリンの敏捷性はないが代わりに高い耐久性と攻撃力を持っている。故にリリーの攻撃はなかなかダメージが通らないし、一発の攻撃がかなり重いためリリーは回避を優先して行わなければならなかった。


どうにかリリーが一体目のオーガを倒したものの、遂に戦線の一部が崩壊してしまった。


崩壊した場所から一気に流れ込んで来る魔物と魔獣。その勢いにハンター達も対処することができなかった。


( ああ、これ、終わったかも・・・)


戦っているもの達の心が折れそうになったその時、彼は現れた。


「《天雷フォルゴレ》」


ズダアアアアァァンンン!!!!!!


リリーは何が起こったのかわからなかった。突然後ろからとんでもない魔力を感じたと思ったら激しい音ともに視界が真っ白になった。あまりの眩しさにリリーは思わず目を閉じた。そして目を開いたリリーの眼前には信じられない光景が広がっていた。


「な、な、な・・・」


目の前にいたはずの三千にも及ぶ敵の軍勢が魔石を残して綺麗さっぱり消えていた。あたり一面に広がっていた草原は燃え尽き、荒れ果てていた。


「何なんです?今のは・・・」

「はは、少々やり過ぎてしまったようですね」

「っ!!!?」


突然リリーの背後に男は現れ、肩に手を置いた。思わず振りほどき、後ろを振り返るとそこにいたのは黄金の鎧に身を包んだ金髪の男だった。


「おやおや、元気なお嬢さんだ」

「だ、誰です!?もしかしてあなたがこれをやったんです?」

「ん?そうですよ?少しやりすぎちゃいましたかね」


そう言って男は笑った。信じられなかった。この男の魔術によりリリーの眼前の光景が一変した。三千の敵と草原が瞬きする間に焼け野原に変わっていた。その威力に恐れを抱いたのか魔術を受けずに済んだ敵は動かずにいた。


「久しぶりにフィラントロピアに来ようと思ったらこれだもの。たまったもんじゃないよ」


この男は一体何者なのだろうか。明らかに他のハンター達とは一線を画していた。


「あ、あ、あなたは!あの《黄金の騎士ゴールドナイト》!ローラン・オーロ!」

「うーん。その二つ名格好悪いから嫌なんだよねー。本当にさ、ね?そう思うでしょ?」

「いや、あ、はい。そうです、ね・・・」

(じゃあその格好やめればいいでしょ!)


その時、焼け野原の先からさらに大きな気配を感じた。


「っ!?」

「おー?いいねー。あれはキュクロープスかな?さっきよりはマシな相手じゃないか」


そう言って男は前進む。


「お嬢ちゃん、僕よりも後ろにいるんだよ?」

「え?」


男は徐にその腰にさした剣を抜いた。その瞬間眩しい光と威圧感が溢れ出した。


「さあ、やろうか」






最前線に追いついたイストは眼前の光景に愕然とした。


「な、なんだこれ・・・」


激しく舞う砂埃の中で輝く一つの大きな光。その光に引き寄せられていくように集まる魔物達。異様だった。


「あれ・・・イスト君?」


名前を呼ばれイストは振り返る


「リ、リー。よかった、無事だったんだね」

「・・・うん。イスト君、来たんだ、ね。来ないと思ってたよ」

「いや、まあ、うん。あ!そうだ!マンチャルさん見てない!?」

「マンチャルさん?マンチャルさんなら確か・・・」


リリーは自分が門についた頃のことを思い出す。あの時、リリーはマンチャルにあっていた。だがしかし・・・


「確かぎっくり腰でどっかに運ばれていったと思う・・・」

「・・・そうか。まあ、よかっ」


ズシィィィインンン!!


戦場に大きな音が響いた。冒険者の一人は叫んだ。


「ま、まさか。あれは、タイ、タンか?嘘だろおい。逃げろ!タイタンだ!死ぬぞ!」


タイタンはその巨大な体で足元の魔物、魔獣を蹴散らしながら進んでくる。それにしてもあんな巨大な魔物がどこに隠れていたというのか。


「ははは、そういうことか。あれは地下で眠っていたやつだね」


いつの間にか金色の男ローランはイストとリリーのそばに来ていた。少しローランに苦手意識があるリリーはさっとイストの陰に隠れる。


「はは。お嬢さん、つれないなー」

「それでどういうことなんです?」

「せっかちだなー。あれはこの近辺の地下で深くで封印されてた奴なんだよ。十年前、あいつがフィラントロピアに迫って来てね。一人の男が命をかけて封印したのさ。ま、どうも封印が弱くて解けてしまったようだけど」


実は今回の魔物大発生の原因もこのタイタンが原因だった。タイタンはゴブリンやオーガ、キュクロープスの上位種に当たる。また、タイタンは自分の下位種を従える能力を持つ。そのため、タイタンの出現を感じ取った魔物達が集まって来たのだ。それに加え、タイタンの魔力に充てられ、付近の獣も魔獣化してしまったのだ。


「そういうわけで倒すとしますか。友の尻拭いは私がしっかりやるということで」


そう言うと再びローランは敵の元へ帰っていた。


「ねえ、リリー。今の人、誰?」

「えっと、さっきまであっちで光りながらながら戦ってた人だよ」

「ふーん」

「「・・・・・」」


((なんでわざわざここまで来た!?))


取り敢えず解説ありがとうとでも言っておくべきだろうか。


それはともかく、ローランの戦いは圧巻の一言であった。


タイタンの強烈な攻撃をを左手の盾を使っていなしながら右手の剣で一撃ずつ確実に攻撃を加えていく。タイタンが大技を使おうとするとその予備動作を見て魔術を当てて技の発動を防いでいく。見た目に反して派手な戦い方はせず、堅実な戦いかで確実に攻め落としていった。次元の違う戦いにイストとリリーの二人は付近の魔物を倒しつつ、ただ圧倒されていた。地味な戦い方ではあったが、イストとリリーの目にはその姿は非常に格好良く映った。


一時間近くに及ぶ戦闘の末、タイタンはその活動を停止した。遂にローランは一人でタイタンを倒し切ったのだ。それがわかった瞬間戦場はハンター達の歓声に包まれた。タイタンの敗北を受け、一心に町の方は向かっていた敵も散って行き、残った敵はローランの勝利を喜ぶハンター達に瞬く間に殲滅された。


危機は去ったのだった。

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