◆96◆
その晩、チマー夫妻とリコルドとルーチェは、レットの家に泊まった。
「はは、リコルドさんと一緒に、この家に住んでいた時の事を思い出しますよ。つい昨日の事の様です」
フートが応接間に落ち着き、懐かしそうに部屋を見回して言う。
「随分と長い事、お世話になりました。なあ、ルーチェ。俺はこの家から、ヴォーンの道場に通ってたんだぜ」
リコルドが、その隣に座っている未来の嫁に説明する。
「寮には入らなかったの?」
ルーチェが無邪気な笑顔で問う。
「俺が来た時、まだあの寮は無かった。だから、たまたま親戚のツテがあった、フートさんの家に下宿させてもらってたんだ。センガじいさんが寮を建てる前、そこの熊なんか山に野宿してたんだぜ」
そう言って、リコルドは熊の方を向き、
「レット、お前、じいさんから借金してこの家を買ったんだろ? じいさんが死んでも借金は残るのか」
「ああ、債権はもうヴォーンに移っている。実質的には、道場の運営管理費の口座に振り込む形だが」
現家主の熊が答える。
「借金の残りは結婚すればチャラになるって取り決めは、まだ有効なのか?」
「契約内容はそのままだ」
「じゃ、早く嫁さんもらえよ。聞いたぞ、郵便局の」
「いや、それは、その、関係ない」
熊は慌てて、その話題から逃げようと試みる。
「はは、レットさん。この家を買ったのも、ご結婚を見越しての事でしょう。どうか頑張って下さい。応援してますよ」
フートが逃げようとする熊を引き戻す。
かくしてこのヘタレ熊は、老夫婦と新婚夫婦に包囲され、結婚に踏み切れないでいる現状について、長々と糾弾される形になった。
独り者は色々な意味で辛いクマ。




