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逃げ足道場 外伝 ~昔々、山奥の道場で~  作者: 真宵 駆
◆第一章◆ 仙人の眠る場所

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◆90◆

 山を下りきる前に涙を拭い、いつもの穏やかな顔に戻ったギィ青年は、山道入口の手前に大型トラックが駐車しているのに気付く。


 近付くと、運転席からレットが出て来て、ギィの方にのっしのっしと歩いて来た。


「仕事が終わった時、ちょうどメールが届いたので、ここに来て待っていた。急な事でまだ実感が湧かないが、お悔やみ申し上げる」


 熊は、少し困惑した様な面持ちでギィに話し掛け、その背に負われているセンガ老人を見る。


 ギィは少し体を斜めにし、センガの顔が相手に良く見える様にして、


「大往生です。最後は全く苦しまずに、眠る様に逝ってしまいました。見て下さい。いい顔をしているでしょう?」


「ああ、まるで楽しい夢を見ながら寝ている様だ」


「このまま寮まで運びます。早くちゃんと寝かせてあげたいので」


「送ろう。座席の後に空きスペースがあるから、そこにご老人の遺体を乗せてくれ」


「ありがとうございます。でも、すぐですから、コンテナでいいです。扉を開けてくれませんか?」


 熊がトラック後部のコンテナの扉を開け、ギィはセンガを背負ったまま、そこに、ひらり、と飛び乗った。


「そう言えば、この村に初めて来た時も、トラックの荷台に乗ってましたね」


 ギィは背中のセンガに、懐かしそうに語り掛ける。


 人気の無い田舎道を、熊の運転するトラックが三分程走り、寮の前に到着する。


 そこには既に、急を聞いて駆け付けた村人達と葬儀社のスタッフで、総勢三十人程が集まっていた。


「びっくりしたわ、ギィ君。センガさん、昨日まであんなに元気だったのに」

「本当に、大変だったねえ。さ、おじいさんを早く中に」


 ギィは、寮の管理人室にセンガを運び、葬儀社のスタッフが用意したマットの上に遺体を横たえる。


 葬儀社の代表の男が、お悔やみの言葉を述べた後、


「もう、センガさんとは全て話を付けてありますから、後は我々に任せて下さい」


 一時間後、センガ老人は、体を拭き清められた後、死装束に着替えさせられ、白木の棺にきちんと横たえられていた。


「棺の中のドライアイスに気を付けて下さい。明日、また交換に参ります」


 それからギィと代表の男とで話し合いが行われ、「葬儀は四日後に村民会館で行う」、事が決定される。


 ギィはすぐに老人の携帯から、その旨を「最終メール通知先」のグループ名に一斉通知した。


「我々も長い事、この仕事に携わって来ましたが、ここまでスムーズに事が運ぶのは今回が初めてです。人がお亡くなりになると、何かしらごたついてしまうものですが、このご老人は生前、ご自分で全ての段取りを決めてしまわれていたのですから」


 代表の男はそう言い、もう一度、棺の中の老人を見て感心した様に、


「聞けば武芸の達人でいらっしゃったとか。武芸の達人は人生の達人でもあるのですねえ」


 しみじみと感慨を述べた。


 ギィは、少し微笑んで、ただ一言、


「そうかも知れません」


 お酒が入ると、ただの手に負えない酔っ払いでしたが。


 そんな事も思ったが、口にはしなかった。

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