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「覚えていますか。初めてここに来た時の事を」
ギィ青年は山道を下りながら、背負っているセンガ老人の遺体に向かって話し掛けた。
「本当に何も無い状態でしたね。全て一から出発でした。この山道にしても、こんなに整備されていませんでしたし」
十三年前の、樹木の根があちこちにむき出しになった、でこぼこな斜面を踏みしめて行く感覚が、ギィの脳裏に蘇る。
「少しずつ道に手を入れて、その上を多くの人が歩いて踏み固めていった結果、今ではちょっとしたハイキングコースです」
それからギィは、この村に来てから起こった数々の事を、一つ一つ順を追って、センガに語り出した。
どれもが懐かしく、一つ語る毎にその時々の光景が、時を超えてはっきりと目に浮かんで来る。
「この道を多くの人が来て、多くの人が去って行きました。そしてついに、私達もここを去る時が来た様です。いえ」
そこで一瞬言葉を切り、
「『私も』ですね。行きは二人でしたが、帰りは一人ですから」
ギィの頬を一筋の涙が伝い、滴となって地面に落ちた。
「笑って見送れ、との事でしたが、私には無理です」
ギィは少し言葉を詰まらせる。
「出来の悪い弟子で、申し訳ありません。今だけは、泣く事を許して下さい」
その言葉は、やがて啜り泣きへと変わっていく。
「やれやれ、仕方がない奴じゃのう」
もの言わぬ身となった老人に、ギィはそんな事を言われた様な気がした。
「どうでもいいが、足下に良く気を付けて歩けよ。ワシはもう受け身を取れんのじゃからの」
こういう時は運ばれている方がハラハラするものである。




