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「ギィ、とにかくその携帯はしまえ。良いか、お前達。確かに平常心を保つのは難しい。特に酒が入ると無理じゃ。ワシはそれで何度も失敗しておる」
センガの言葉に、ギィ、リーガ、アリッサの三人は深く頷く。特に最後の一言に。
「しかし、大事を前にして、慌てふためいてしまっては、己の能力に重い枷を付けてしまう様なものじゃ。百の力で立ち向かってなお苦戦する相手に、三十の力しか出せなかったら、当然やられてしまうじゃろ?
「慌てる、だけではない。怒る、怯える、悲しむ、妬む、自棄になる、などと負の感情に囚われた状態は非常に危険じゃ。理性が死ぬ。理性が死ねばボケ老人と変わらん。いや、そこでワシをしげしげと見るでない。
「逆に、落ち着く、笑う、安心する、楽しむ、謙虚になる、冷静になる、などの正の感情は、心と体の働きを自在にする。最適解を瞬時に見つけ、そこに向かって正確に行動する事が出来る様になる。
「生きているというのは、それだけで厄介事だらけじゃ。一手間違えば大事に至る事もある。じゃからこそ、平常心を保て。その時々で考え得る最高の一手を打つ為にの。
「じゃから、ワシが今ここで死んでも泣くなよ。冷淡になれ、と言っておるのではない。笑って見送る事が出来る位の、心の余裕を持て、と言いたいのじゃ。
「それに、ワシは今日この日まで、やりたい事をやって生きて来た。もう何もやり残した事は無いんじゃからの。後の事も全てギィに指示してある。
「さて、年寄りの話はそろそろおしまいじゃ。お前達の人生はまだ始まったばかり。願わくば、出来るだけ幸せに生きておくれ。
「本音を言えば、まだ死にたくないんじゃが――」
センガ老人はそこで、微かな笑みを浮かべて下を向き、そのままゆっくり目を閉じた。
「さっきからばあさんが、ワシを呼んで、おる、のじゃ」
言葉が終わると同時に、山の中を穏やかな風が吹き抜けて行った。
四人はしばらくの間、その風に包まれる。
ようやく風が止んだ時、センガ老人は自分の墓に座ったまま、眠る様に息を引き取っていた。
実に百八歳の大往生。
死因は老衰によるものだった。




