◆86◆
穏やかに晴れたその日、センガ老人とギィ青年、それにリーガとアリッサは一緒に山の中を散歩していた。
道場を出てしばらくの間は元気の良かったセンガが、なぜか徐々に足取りが重くなり、ついに息を切らし始める様になる。
「顔色が悪いです。大丈夫ですか?」
ギィがセンガの様子を見て気遣う。
「そうじゃな。どうも調子が良くない。ちょうどすぐそこにワシの墓があることじゃし、少し休憩していこう」
四人は、見晴らしの良い場所にある、センガの生前墓までやって来た。
ギィはセンガをそこに座らせ、持参していた水筒から麦茶を注いだカップを差し出す。
センガはそれを一口飲んで、
「ふう、少しは落ち着いたようじゃ。やはり、この墓をベンチ型にしたのは正解じゃった」
センガは自分の墓を、愛おしそうにぽんぽんと叩いた。
「無理はしないで下さい。もしこのまま体調が戻らないのであれば、道場まで私が背負って行きます」
ギィは、センガからカップを受け取りながら、心配そうに言う。
「そうじゃな。そうさせてもらうか。まあ、ともかく、お前達も座れ」
リーガ、アリッサ、センガ、ギィの並びで、四人は墓に腰掛ける。
「良い眺めじゃろ。十三年前に初めてこの山に来た時、ワシはこの景色がえらく気に入ってのう」
遠くの山々を見ながら、センガは思い出話を始めた。
「その頃、まだリーガは一歳の赤ん坊か。アリッサに至っては影も形も無いのう。第一、ヴォーンとクリスはまだ結婚しておらん」
横を向くと、十四歳のリーガと十歳のアリッサが、心配そうな顔で老人を見つめていた。
「二人とも大きくなったのう。ワシも年を取る訳じゃ」
十三年前と現在で、ほとんど見た目が変わらない老人がしみじみと言う。
「育ち盛りじゃから、これからもまだまだ大きくなるじゃろう。じゃが」
言葉を切って、優しく微笑んでから、
「ワシはその姿を見られん様じゃ。いよいよ、お別れの時が来たらしい」
「そんなことない。センガおじいさんは、きっとまだまだ長生きします」
アリッサはセンガの袖をつかみ、不安そうな表情で訴える様に言う。
「そうです。今は少し疲れているだけです。何でしたら、持っている携帯で医者に連絡して、ここまで来てもらいましょう」
そう言って、リーガは立ち上がり、老人の前まで来た。
「はっはっは、二人共落ち着け。まだ早いわ。それに武芸者たる者、何事が起こっても、決して慌てふためいてはならん。常に心を静かに保つのじゃ。ギィを見るがいい。ワシがこんな不吉な事を言っても、眉一つ動かしておらんじゃろ?」
そう言ってセンガが振り向くと、ギィは不安と焦燥の入り混じった表情で、自分の携帯を取り出して、医者に連絡を取ろうとしていた。
「やめんか。お前まで慌てふためいてどうする。『常に心を静かに保て』は、ワシらの流派の基本中の基本じゃろうが」
「しかし」
抗弁しようとするギィを制して、センガは話を続ける。




