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それから数カ月間、センガ老人は病気一つせず、酒を飲み、村人達とお喋りをし、たまに門下生達に稽古を付け、ヘリでノイン家を訪れてハーフェン翁と飲み明かし、レットの運転するトラックで門下生達と街に繰り出し、羽目を外し過ぎてギィ青年に説教を食らい、と、いつもの日常を送っていた。
「一日寝込んだと聞いた時は心配しましたが、今はお元気そうで何よりです」
政府の命を受けてヴォーンの元を訪れていた情報屋ヴァルゴが、センガ老人とその生前墓に並んで腰掛け、話をしている。
「はっはっは、ワシとて体調の悪い時位ある。むしろこの歳になればそれが普通じゃ。村で年寄りが集まると、決まって持病の話になるぞ。『どこが悪い』とか、『どこが痛む』とか。ワシはいつも仲間はずれじゃが」
「そんな壮健なご老人を前にしてお恥ずかしい話ですが、私はそろそろ現役を引退しようと思っています」
「情報屋にも定年があるのか?」
「定年はありませんが、本人が引退すると関係者に通知すればそれまでです。仕事の性質上、しばらくは後を引きますが、やがてぱったりと客が途絶えます」
「ではここにもあまり来なくなるのか。寂しい話じゃのう」
「残念ですが、ここは中央から遠すぎます。政府の仕事でもなければ、そう滅多に来る機会も無いでしょう」
そう言って、ヴァルゴは遠くの景色に目を向ける。ちなみに、首都はその方角ではない。
「政府は結局、ヴォーンの奴を中央に呼び戻す事は出来なかった様じゃな」
「はい。しかし、ヴォーンの推薦したミディ・フェロンが大統領になってから、この国は急速に復興しましたから、結果的に彼の提案は正しかったのでしょう」
「とぼけた顔をしてとんだ策士じゃよ、あのヴォーンと言う奴は。武芸者としても、あやつにだけは勝てる気がせん」
センガは頭を掻きながら、
「ヴォーンは例えるなら竜じゃな。獣なら罠で、鳥なら矢で、魚なら釣り針で捕らえる事が出来る。じゃが、竜となるとお手上げじゃ。百年以上生きておるが、あんな得体の知れん男は今まで見た事がない」
「確かに不思議な人です。色々な意味で、こちらの理解の範疇を遥かに超えています」
「ああいう男と同じ時代に生きる事が出来たのは、幸運じゃったかもしれん」
センガは懐から自分の携帯を取り出し、
「この携帯電話に象徴される様に、現代は『距離』によって人を分かつ事が出来なくなっておる。じゃが、どんなに文明が進歩しようと『時間』だけは超えられん。『時間』は絶対的に人を分かつからのう」
「なるほど。確かに、私なども同じ『時間』に生きているからこそ、こうしてセンガさんとお話する事が出来る訳です」
「はっはっは。その通りじゃ。長生きすると言う事は、多くの人間と同じ『時間』を共有する事に他ならん。その『時間』の中で、多くの出会いがあり」
センガは少し声の調子を落とし、
「多くの別れもある」
そこでしばらく黙りこんだ後、また声の調子を上げ、
「ま、どんなに長生きしても、頭がボケたら意味は無いがのう」
そう言って、さも愉快そうに笑った。
「お前さんも引退したら気を付けた方がいいぞ。やる事が無くなった途端、急にボケが始まる事も多いからのう」
百歳を超えた老人に認知症の心配をされる、六十六歳のヴァルゴだった。




