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逃げ足道場 外伝 ~昔々、山奥の道場で~  作者: 真宵 駆
◆第一章◆ 仙人の眠る場所

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◆84◆

 センガ老人は横になったまま、話を続ける。


「葬儀はワシの死後、三日以上は間を空けてくれ。遠方から来る人の為に、少し余裕を持たせる為じゃ。何しろここは辺鄙な場所じゃからの。お前が昨日言った通り、連絡は瞬時に行えても、人はすぐに駆け付けられる訳ではない」


 ギィ青年は神妙な面持ちで、センガの言葉に黙って耳を傾けていた。


「別にワシが死んだ後、誰が来ようが来まいが知った事ではないがのう。じゃが、ワシの死によって、普段滅多に顔を合わせる事もない人々が、一堂に集まる機会が出来る。人間関係が希薄になって来た現代でも、葬儀と言うのは一大イベントじゃからな。懐かしい顔ぶれが揃えば、自然と話も弾むじゃろ。ちょっとしたサプライズパーティーじゃ」


 センガは力なく、くっく、と笑い、


「しめっぽい葬儀はご免こうむりたい。もう百年以上生きたんじゃ。大往生もいい所じゃろ。悲しむ事など何も無い。最期は、明るく、楽しく、笑顔で送って欲しい。葬儀などはただの名目じゃ。皆に楽しい一時を提供してやれればそれでいい」


 ギィの顔がどんどん曇っていくのに気付き、少しおどけた様に微笑んで、


「ま、今の偽らざる本音を言えば、『死にたくない』の一言じゃ。百を過ぎても、まだこのザマなんじゃからのう。不思議な心持ちじゃ」


 目を閉じ、そのまま静かに寝入ってしまった。


 そして、その翌朝。


 センガは元気溌剌とした状態で寝床から起き上がり、食堂に顔を出した。


「なんだ、じいさん全然元気じゃねえかよ!」

「驚かせやがって。昨日のは一体何だったんだ」

「人騒がせなじいさんだな。そういう事ばっかりやってると、本当に死んだ時、誰も信じねえぞ」


 ほっとした門下生達が、老人を取り巻いて、一斉に声を掛ける。


「はっはっは。安心せい、ワシはそう簡単にはくたばらん。一日休んだので、体調がいつもより良い位じゃ。よって今日は一つ、お前達に稽古を付けてやるとするかの」


 その日、センガ老人の不敗記録が更新された。

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