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「思えば不思議な時代になったものじゃ。どこにいるとも知れぬ、直接顔を合わせた事もない人間とさえ、すぐ意志の疎通が出来るんじゃからのう」
そう言って、センガ老人は懐から携帯電話を取り出し、画面を確認した。
「ふむ、メールは来ておらんようじゃ」
「仙人修行者のやる事ではありませんね」
百歳を超えた老人が、器用に携帯を使いこなしている様子を見ながら、ギィ青年は少し笑う。
「ああ、こんな小さな機械一つで、人里離れた山奥にいる意味がなくなってしまう。電源を切ればいいとか、そういう問題では無い。『距離』というもので、人を分かつ事が出来なくなってしまったんじゃ」
センガは携帯を再び懐に入れ、遠くの山々に目を向けた。
ギィはその一つを指差し、
「でも、『距離』の存在は大きいですよ。例えば、あの山で遭難したとして、こちらに連絡は出来ても、すぐには救助に駆け付けられません」
「確かにそうじゃがの。それでも、上手く誘導出来れば、その実質的な『距離』も小さくなる。世界は十三年前より確実に縮まっておる」
「お酒のネット通販がよほど気に入った様ですね」
「はっはっは。下戸のお前に酒は関係ないが、他の事で色々と恩恵を受ける事もあろう」
「とりあえず携帯の位置情報は、徘徊するお年寄りを持つ家族にとって、非常にありがたい機能です」
「何か複雑な気分じゃ」
センガは少し悲しげな顔になる。




