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いつもの様にレットがのっしのっしと郵便局に入って来る。
いつもの様に窓口に行き、いつもの様にゲルンに元気な笑顔で迎えられ、
「こんにちは、レットさん。はい、今日の分です。お願いしますね」
いつもの様に道場宛ての郵便物の束をカウンター越しに手渡される。
いつもの様にゲルンの柔らかい指が、いつもの様にレットのごつごつした指に触れ、いつもの様にレットは表情を険しくして照れを隠す。
しかしここから先は、いつもと様子が違っていた。
「確かに預かりました。ですが、その」
「はい、何でしょう?」
「実は、昨日で道場をやめたのです」
「そうなんですか。じゃあ、もう、レットさんにお願い出来なくなるんですね。寂しいなあ」
「いえ、別に私など」
「今までありがとうございました。本当に助かっていたんです。ヴォーンさんの道場は遠いですから」
「いえ、私にとっては、たいした距離ではありません」
「これからは、道場宛ての郵便物は、ギィさんにお願いする事にします」
「ギィに? いや、その、それはまずい」
「え、ギィさんにお願いすると、何かあるんですか?」
「その、ギィは、何です。あれと毎日指を、じゃなくて。私が届けますから」
「レットさん、道場をやめたんじゃないんですか?」
「やめましたが、郵便物は今まで通り、道場に届けます」
「ありがとうございます。じゃ、これからもよろしくお願いしますね」
レットがそそくさと郵便局を出て行くと、待合スペースで、二人のやりとりを知らん振りをしながら聞き耳を立てていた村人達が、一斉に笑いだした。
「あーおかしかった。ちょっと、ゲルンちゃん。ひどいんじゃないの。あんな純情な熊さんをこき使い続けるなんて」
「ギィ君の名前が出たら、すごく焦ってたわね。分かり易いったら、もう」
「悪女ね。悪女」
「むしろ熊使いと熊よ。着々と調教が進んでるわね」
「え、私何かひどい事しました?」
すっとぼけるゲルン。再び笑う村人達。
「これこれ、お前さん方。若い二人の事に介入してはならんと言ったろう」
同じく待合スペースにいたセンガ老人が、笑いながら村人達を窘めた。
「そう言うセンガさんが、一番介入してるじゃないの」
村人達は、もうセンガから事情を聞いて全て知っていた。当然、ゲルンも知っている。
「ワシはただ、あの熊の病気を少し治してやっただけじゃ。全治には程遠いがのう」
そう言って、ゲルンの方に向き直り、
「じゃがの、ゲルン。あやつは近々、大型車の免許を取得する為、この村をしばらく離れねばならん。その間は、ワシが道場宛ての郵便物を届けてやるからの」
「ありがとうございます、おじいさん。別にギィさんでもいいですよ?」
「はっはっは、わざと熊を不安にさせて、その反応を楽しむのはやめてやれ。若い娘の悪い癖じゃな。そんな事ばかりしておると、婚期がどんどん遅れるぞ」
この予言も後に大当たりする事になるが、それはまた別の話。




