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センガ老人とギィ青年が、道場の縁側に腰掛けて、熊男レットとハンター娘ゲルンの恋の行方について話をしている。
「お互いを好いている以上、最悪の事態は避けられそうじゃ。しかし、まだ大きな問題が一つある」
センガはそう言って、茶を一口啜る。
「武芸を取るか、ゲルンさんを取るか。レットさんにとっては、辛い選択を迫られる訳ですね」
ギィが心配そうに言うと、センガは笑って、
「はっはっは、今の熊なら、迷わず惚れた娘を取る。そこまで恋の病は進行しておるんじゃよ」
それを聞いてギィは、ほっとした表情になり、
「ならば、何も問題ないでしょう。優れた武芸者がまた一人いなくなるのは残念ですが、ご本人が幸せなのですから、部外者があれこれ言う筋合いはありません」
「武芸を捨てる事は出来る。が、武芸を捨てたらレットには何も残らん。そんな空っぽの状態では恋など出来ん。自分に自信が持てないからじゃ」
「そういうものですか」
「『自分はこの人に相応しくない』と思い詰めてしまうと、今度は『潔く身を退こう。それがこの人の幸せの為だ』と、後向きな方向へ暴走する。今も少し、その傾向があるようじゃがの」
「何か武芸に代わるものがあれば良いのですが」
脳裏に一瞬、サーカスで芸をする本物の熊の映像がよぎったが、真面目なギィはすぐにそれを打ち消した。
武芸を熊芸に代えてどうする。
「そんなに大きなものでなくていい。堅気として何とかやっていけると言う、ささやかな自信さえあればいいんじゃ」
センガはそう言ってから、不意に笑い出し、
「はっはっは、いっそサーカスで雇ってもらえんかのう。熊の役で」
師弟で全く同じ事を考えていた。




