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逃げ足道場 外伝 ~昔々、山奥の道場で~  作者: 真宵 駆
◆第一章◆ 仙人の眠る場所

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79/634

◆78◆

 センガ老人とギィ青年が、道場の縁側に腰掛けて、熊男レットとハンター娘ゲルンの恋の行方について話をしている。


「お互いを好いている以上、最悪の事態は避けられそうじゃ。しかし、まだ大きな問題が一つある」


 センガはそう言って、茶を一口啜る。


「武芸を取るか、ゲルンさんを取るか。レットさんにとっては、辛い選択を迫られる訳ですね」


 ギィが心配そうに言うと、センガは笑って、


「はっはっは、今の熊なら、迷わず惚れた娘を取る。そこまで恋の病は進行しておるんじゃよ」


 それを聞いてギィは、ほっとした表情になり、


「ならば、何も問題ないでしょう。優れた武芸者がまた一人いなくなるのは残念ですが、ご本人が幸せなのですから、部外者があれこれ言う筋合いはありません」


「武芸を捨てる事は出来る。が、武芸を捨てたらレットには何も残らん。そんな空っぽの状態では恋など出来ん。自分に自信が持てないからじゃ」


「そういうものですか」


「『自分はこの人に相応しくない』と思い詰めてしまうと、今度は『潔く身を退こう。それがこの人の幸せの為だ』と、後向きな方向へ暴走する。今も少し、その傾向があるようじゃがの」


「何か武芸に代わるものがあれば良いのですが」


 脳裏に一瞬、サーカスで芸をする本物の熊の映像がよぎったが、真面目なギィはすぐにそれを打ち消した。


 武芸を熊芸に代えてどうする。


「そんなに大きなものでなくていい。堅気として何とかやっていけると言う、ささやかな自信さえあればいいんじゃ」


 センガはそう言ってから、不意に笑い出し、


「はっはっは、いっそサーカスで雇ってもらえんかのう。熊の役で」


 師弟で全く同じ事を考えていた。

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