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「はは、リコルドがいなくなってから、この家もすっかり静かになってしまいましたよ」
ツンデレ武芸者が村を去ってしばらく経ったある日、チマー家の応接間で、フート・チマーはセンガ老人にしみじみとそう言った。
「若い者がいるといないとでは、家の雰囲気が随分変わるからのう」
センガは持参した「心自閑」と書かれた徳利から、フートの杯に酒を注ぎ、
「道場と寮の方は相変わらずじゃよ。一人や二人抜けた位では何も変わらん」
自分の杯にも注いで、くい、とあおる。
「いざ、いなくなってみると、この老夫婦がどれだけ彼に頼っていたのかが、良く分かります」
「それはお互い様じゃな。あやつもあんた方に世話になってきた訳じゃし。しかし、何か不自由があれば、相談してくだされ。いつでも道場の若い者を手伝いに寄こすからの」
「ありがとうございます。ですが、私達夫婦も少し反省しました。そうやってすぐ頼ってばかりいると、自分達の老化に却って拍車がかかると」
「ふむ、殊勝な心がけじゃ。使わない機能はすぐ衰えるからの。しかし、年寄りの冷や水と言う事もある。くれぐれも無理をせん様にのう」
「センガさんがそれを言いますか。先日、道場の若者達を相手に試合して、圧勝したそうじゃありませんか」
「はっはっは、そりゃワシの方があやつらより、長い年月修行しとるからの。昨日より今日、今日より明日。ワシはいつだって『今』が最盛期じゃ」
「センガさんと話していると、何だかこちらまで気力が湧いて来ます」
フートは杯に口を付け、少しため息をついてから、
「息子夫婦の所へ招かれている件については、もう少し待ってもらう事にしました。健康な内は、何とかこの村でやっていこうと思います」
「そうか。お前さん達がそう決めたなら、それがいい。頼らずに何とか出来るならば、それに越した事はない」
それから三時間後、かなり酔いが回ったセンガは、迎えに来たギィ青年に背負われてチマー家を出た。
帰る道すがら、センガは、
「人には偉そうな事を言っておいて、自分はこのザマじゃ。ワシはお前に頼りっぱなしじゃのう、ギィ」
「私に頼るのは構いませんが、お酒に頼り過ぎるのは控えて下さい。お体に障りますから」
センガは寝た振りをして、ギィに返事をしなかった。




