◆72◆
ツンデレ武芸者の烙印を押されたリコルドが、不本意そうにブツブツ呟きつつ元の場所に戻って行く。
門下生達はその姿を見ながら脳内で、「か、勘違いしないでよねっ!」と勝手にアフレコして面白がっていた。
「さて次は誰じゃな?」
センガ老人が続きを促す。
「よっしゃ、俺だ」
そう言って門下生の一人が中央に進み出て、センガの下半身に猛然とタックルを仕掛けて来た。
しかしセンガはその攻撃を待ち構えていたかの様に大きく跳躍し、空を掴んだ相手の後頭部に右のかかとを落とす。門下生はそのままひしゃげる様に倒れて終了。
「次」
門下生の一人がセンガの背後から近付き、自分の右腕を相手の右腕に絡ませて、背後で「く」の字に固めて、そのまま老人を前屈みにさせる様に抑えつけた。
前屈みになったセンガが、ひょい、と上半身を起こすと、固めた側が逆に伸ばした右腕を固められる格好になり、仕掛けた門下生は悲鳴を上げ、左手で老人をタップして終了。
「次」
門下生の一人が、センガが着ている服の左の襟元と右肘の辺りをがっちり掴み、自分の右足で相手の右足を払いながら投げようとする。
が、投げられない。センガは地に根が生えた様にビクともしない。センガは右手で相手の左肘を掴み、左腕を相手の股ぐらに差し入れて持ち上げ、逆に仕掛けた門下生の方が前方に、ぽい、と転がされる。上から右の拳の突きを顔面に寸止めされて終了。
「次」
その後も突き、蹴り、投げ、絞め、固め、その他様々な技を使って、入れ替わり立ち替わり、五十人近い門下生達が向かって来たが、センガはそれら全てを軽くあしらい、いずれも一分以内でケリを付けた。
「もう終わりかの?」
約一時間後、一通り門下生達の相手を終えた所で、息も切らしていないままのセンガがそう言うと、
「お願いします」
八歳のリーガが小走りでやって来た。
「はっはっは、先輩達が終えるのをちゃんと待っておったか。よし来い」
「いざ」
そう言ってリーガが一歩前に出ると同時に、センガはその出足を払って転倒させた。そのまま払うのに使った足のかかとを、倒れたリーガの喉元に、ぴたり、と当てる。
「参りましたっ」
瞬殺だった。
「どんな奴でも足元を崩されると脆い。良く研究する事じゃ」
「はい、ありがとうございまし」
「おねがいしまーす。いざ!」
リーガの返答が終わる前に、四歳のアリッサが元気良く乱入して来た。
「はっはっは、リーガのする事は何でもしたがるのう。ほれ」
アリッサが繰り出す小さな右の拳の突きを、センガは手首を掴んで止め、そのままアリッサの回りをぐるぐる回り出した。
「そーれ、まわーる、まわーる」
そう言いながら二十周ほどアリッサを回転させた後、センガは、ぱっと手を離す。
ふらふらになって、二、三歩ほど歩いた後、ぽて、と仰向けに倒れるアリッサ。
「まいーりーまーしたー」
むしろ、目が回りました。
この日はそれで終わったが、これをきっかけに、その後もセンガとギィはたまに稽古に参加する様になる。
「本当はいけないんじゃがの。実家に知れたら二人して怒られるから、ここで稽古を付けた事は内緒じゃぞ」
そう言って、センガはいたずらっぽく笑った。
そんな事情もあって、元門下生に、
「ヴォーンがいた頃の道場で、一番強かった武芸者は誰か?」
と聞くと、
「ヴォーンは別格として」
と前置きをしてから、次の様な答えが返って来る。
「センガじいさんだ。あの百歳を越えた老人に、俺達は最後まで誰も勝つ事が出来なかった」
では、二番目は?
「熊」
三番目は?
「俺」
武芸者はどうやら自負心が強い傾向があるらしい。




