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空振りに終わった捨て身の戦法の代償として、レットは体の前面にほぼくまなく打撲傷を負ったが、痛そうな素振りは全く見せず、稽古場の中央に戻ってセンガ老人と互いに一礼した。
でも本当は、ものすごく痛いクマ。
「ご指導ありがとうございました。とても百歳を越えた老人の技とは思えません」
痛みをこらえながら、熊は平静を装う。
「痛そうじゃな。あんな戦い方してたら、いくら熊でも身が持たんぞ」
しかし、センガには見抜かれていた。
熊は少し赤面して、すごすごと元いた場所に戻って行く。
「さてと」
そう言って、センガは回りをゆっくりと眺め渡してから、
「もののついでじゃ。希望者には稽古をつけてやるぞ。誰かやる奴はおらんか?」
「俺がやる」
他の門下生達が反応する前に、リコルドが素早く稽古場の中央に飛び出して来た。
「よし、一礼は抜きじゃ。そのままかかって来い」
「おう」
リコルドはいきなりセンガに対し、左右の拳を連続して繰り出して来た。
センガは、まるで攻撃がどこに来るのかを予知していたかの様に、両手を使ってそれらを受け、相手の拳の軌道を巧みに逸らし続ける。
必死の形相のリコルドに対し、センガは全く焦らず、余裕の笑みすら浮かべている。
約一分間の攻防が続いた後、センガは突然リコルドの右手首を左手で掴み、それを後ろに引くと同時に、右肘を相手の左脇腹にぶち当てた。
連打の動きが止まり、リコルドは膝から倒れる。
「これがワシのお前さんに対する、最初で最後の稽古じゃ。故郷に戻っても達者で暮らすんじゃぞ」
センガが言うと、リコルドは脇腹を押さえながら、
「へっ、ギィと言い、じいさんと言い、人が悪いにも程があらあ。こんなにすげえ実力をずっと隠してるなんてよ。素直じゃねえな」
「はっはっは、お前に言われたくないわ。このツンデレ武芸者が」
「だ、誰がツンデレ武芸者だっ!」
試合を見ていた門下生一同が、「お前だよ」と心の中で一斉に突っ込みを入れた。




