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逃げ足道場 外伝 ~昔々、山奥の道場で~  作者: 真宵 駆
◆第一章◆ 仙人の眠る場所

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72/634

◆71◆

 空振りに終わった捨て身の戦法の代償として、レットは体の前面にほぼくまなく打撲傷を負ったが、痛そうな素振りは全く見せず、稽古場の中央に戻ってセンガ老人と互いに一礼した。


 でも本当は、ものすごく痛いクマ。


「ご指導ありがとうございました。とても百歳を越えた老人の技とは思えません」


 痛みをこらえながら、熊は平静を装う。


「痛そうじゃな。あんな戦い方してたら、いくら熊でも身が持たんぞ」


 しかし、センガには見抜かれていた。


 熊は少し赤面して、すごすごと元いた場所に戻って行く。


「さてと」


 そう言って、センガは回りをゆっくりと眺め渡してから、 


「もののついでじゃ。希望者には稽古をつけてやるぞ。誰かやる奴はおらんか?」


「俺がやる」


 他の門下生達が反応する前に、リコルドが素早く稽古場の中央に飛び出して来た。


「よし、一礼は抜きじゃ。そのままかかって来い」


「おう」


 リコルドはいきなりセンガに対し、左右の拳を連続して繰り出して来た。


 センガは、まるで攻撃がどこに来るのかを予知していたかの様に、両手を使ってそれらを受け、相手の拳の軌道を巧みに逸らし続ける。


 必死の形相のリコルドに対し、センガは全く焦らず、余裕の笑みすら浮かべている。


 約一分間の攻防が続いた後、センガは突然リコルドの右手首を左手で掴み、それを後ろに引くと同時に、右肘を相手の左脇腹にぶち当てた。


 連打の動きが止まり、リコルドは膝から倒れる。


「これがワシのお前さんに対する、最初で最後の稽古じゃ。故郷に戻っても達者で暮らすんじゃぞ」


 センガが言うと、リコルドは脇腹を押さえながら、


「へっ、ギィと言い、じいさんと言い、人が悪いにも程があらあ。こんなにすげえ実力をずっと隠してるなんてよ。素直じゃねえな」


「はっはっは、お前に言われたくないわ。このツンデレ武芸者が」


「だ、誰がツンデレ武芸者だっ!」


 試合を見ていた門下生一同が、「お前だよ」と心の中で一斉に突っ込みを入れた。

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