◆63◆
「とっとと着替えて、ウォームアップを済ませな」
リコルドがそう言うと、ギィは、
「このままで構いません」
平然とした顔で返答する。
「あ?」
リコルドの顔付きが険しくなった。
「はっはっは。そうカリカリするでない。お前さんだって敵に襲われた時、いちいち着替えて準備体操してから反撃する訳でもなかろう」
センガ老人がフォローを入れる。
「ふん、常時臨戦態勢って訳か」
リコルドとギィが立ち合うと聞いて、他の門下生達はトレーニングを止め、壁際に寄った。
二人は稽古場の真ん中で、三メートル程離れて向き合い、互いに一礼する。
リコルドは体を相手に対して斜めに向けて立ち、あごの高さで左の拳を前、右の拳を後にして構えた。
「ギィ、コピーで少し遊んでやれ。せっかく本人とやるんじゃからの」
センガ老人がそう言うと、ギィも全く同じ様にして両の拳を構える。
「何の真似だ」
リコルドの問いにギィが反応する前に、
「やれば分かる。じゃが大体想像はつくじゃろ?」
センガがニヤニヤしながら答えた。
「さて、二人共用意はいいな? では、始め!」
センガの合図と共に、リコルドが前に出て、右の拳を短い間隔で数発、相手の顔面めがけて繰り出す。
ギィは首を傾けつつ上体を沈めてかわし、体勢を元に戻すと素早く右の拳で同様に反撃。リコルドはそれを左手で払って、右の拳で相手のボディを狙い、ギィはこれを左肘で払う。
その後の二人の動きは、攻撃、防御、ステップ、ほぼ全てにおいて似通っていた。
「どうじゃ、リコルド。まるで自分と戦ってる気分じゃろ? この七年間、お前の動きをじっくり観察した成果じゃ」
センガ老人の呼びかけにリコルドは答えず、一瞬、ちらとそちらの方を向いて、
「ああ、面白えよ」
目でそう告げた。
リコルドは自分の動きがギィに真似されている事に不快な様子は見せず、むしろ、楽しんでいる様子である。
拳対拳の攻防が三分程続き、お互いに決定打は与えられないものの、じわじわとギィの方が押されているのが明らかになっていく。やはり、コピー先はコピー元に敵わないらしい。
「よし、もういいぞ、ギィ」
センガが不意にそう言った瞬間、優勢な筈のリコルドが後に吹っ飛び、豪快に尻餅を突いた。
何が起こったのか分からないまま、ポカンとした表情でリコルドが見上げると、右足を前、左足を後に軽く開き、身を相手に対して斜めに低く構え、右手を開いて前に大きく突き出した状態のギィが目に入った。
「はっはっは、お前さんの動きを観察してコピーしたのは、あくまでも研究用じゃ。ワシらは本来こう動くのじゃよ」
センガ老人は軽く笑いながら、
「それに、ワシらはお前さんの技を良く知っておるが、お前さんはワシらの技を全く知らん。ズルいかも知れんがの、それがワシらの武芸じゃ」
「上等だぜ」
リコルドは勢い良く立ち上がり、両の拳を構えた。




