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道場初期からの古参であるリコルドの離脱は、他の門下生達にも少なからずショックを与えた。
もちろん全ての門下生に、いつか道場を去る日はやって来る。武芸者として、もしくは、かつて武芸者を夢見た者として。
リコルドは前者になるだろうと、周囲で期待していたのに、当の本人が、親が心配なので堅気になる、と決めてしまったのだ。
稽古場でリコルドはセンガ老人に、さらにその辺の事情を詳しく説明した。
「普通の年寄りってのは、脆いんだよ。ちょっと転んだだけで大事に至る。俺が下宿してる所のフートさんも、ちょっとした段差につまづいて、危うく骨折する所だった」
「年寄りは骨が脆くなってるからのう」
「じいさんは妖怪だからあまり関係ねえかも知れねえが」
「誰が妖怪じゃ」
「もっとも、じいさんはギィがちゃんと介護してるからな」
「ワシャ介護されとらんわ。失敬な」
「じいさんは恵まれてるんだぜ。百歳を過ぎて、元気に二足歩行が出来るだけでも奇跡だってのに、ボケもせず、頭もはっきりしてる。その上、若者がほぼ付きっきりで、長時間一人になる事がない。話相手は村にも寮にも道場にもたくさんいる。おまけに、いざ何か起こっても十分対処出来るだけの金がある。ところが、普通の老人ってのは、もっと問題だらけなんだ」
「ああ、年寄りなんてのは心細いもんじゃ」
「七年前に家を飛び出してから、ずっと武芸修行して来たが、ここらが潮時だ。親の身に何かあってからじゃ遅え。武芸は向こうでも趣味で続ける。今はどこにだって道場がある時代だ」
エディリア共和国では内戦後、武芸ブームが起き、各地で様々な道場が乱立していた。
「そこまで考えての事なら大丈夫じゃろ。お前さんなら、どこでもやっていける」
頷くセンガに向かって、リコルドは、
「心残りが無いと言えば嘘になるけどな。例えば、ギィの奴と一度勝負してみたかったとか。どうも、七年前から、俺はあいつに騙されている様な気がしてならねえ」
「はっはっは。残念ながら、他流試合は禁止しておるからの」
「本人から聞いたよ」
「じゃが、最後位良かろう。思えば最初にこの村に来た時、お前さんには色々世話になったからの。おい、ギィ」
センガは少し離れた所に立っているギィ青年を呼んだ。
「ワシが許可するから、餞別代わりにリコルドと勝負してやれ。二度と武芸者になろうなんて思えなくなる位にぶちのめせ」
ギィは困惑した表情でやって来て、
「私に言われの無い怨恨が向けられる様な言い方はやめてください」
「ああ、悪かったな。じゃあ、適当に手加減して軽くあしらってやれ」
「さらにひどくなってます」
二人のやりとりに、リコルドは凶暴な笑みを浮かべる。
「面白え。俺に遠慮はいらねえぞ、ギィ」
早速、言われの無い怨恨がギィに向けられていた。




