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逃げ足道場 外伝 ~昔々、山奥の道場で~  作者: 真宵 駆
◆第一章◆ 仙人の眠る場所

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62/634

◆61◆

「息子夫婦が、『一緒に住まないか』、と言ってくれているんですが。やはり、住み慣れた村を出たくないという気持ちもありまして」


 フート・チマーが自宅の応接間で、テーブルを挟んで向かい合ったセンガ老人に言う。


「難しい所じゃのう。お前さんも、もうすぐ七十歳。色々と不安の多くなる頃合いじゃな」


 センガは持参した「必須知人」と書かれた徳利から、フートの杯に酒を注ぐ。 


「センガさんにそう言われると、何だか妙な気分です。とても百を過ぎているとは思えませんねえ。実に羨ましい」


「はっはっは、門下生共には『死神に見放された』とか言われとるよ。門下生と言えば、ここに下宿しとるリコルドは、お前さん達が引っ越すとなると、寮に迎え入れてやらなけりゃならんのう」


「彼がいるので家は非常に助かってます。色々と手伝ってくれますし。老夫婦だけだと、何かと難しい事もありますから」


「ガラは悪いが心根の優しい男じゃ。まあ、寮にいつでも受け入れる準備は出来ておるから、あやつには何も気を遣う必要はない。あくまでも自分達がどうしたいかを良く考えた上で、結論を出せば良い」


 ところがそれから数日後、リコルドは道場をやめて故郷へ戻ると言い出した。


「老夫婦に気兼ねしとるのか? 寮へはいつだって入れるぞ」


 センガの問いに、リコルドは、


「いや、そんなんじゃねえ。ただ、同居云々の話を聞いたら、俺の両親も結構な歳だと気付いただけだ」


「なるほど。まあそれでも、ワシより四十歳は年下じゃろうがの」


「じいさんは人類の範疇に入らねえよ。一緒にしないでくれ」


「言いたい事は分かるが、もっとオブラートに包まんかい」


「じゃあ、妖怪変化」


「オブラートを苦くしてどうする」


 そもそも最近の若者は、オブラートに包んで苦い粉薬を飲む機会がほとんど無い。

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