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「息子夫婦が、『一緒に住まないか』、と言ってくれているんですが。やはり、住み慣れた村を出たくないという気持ちもありまして」
フート・チマーが自宅の応接間で、テーブルを挟んで向かい合ったセンガ老人に言う。
「難しい所じゃのう。お前さんも、もうすぐ七十歳。色々と不安の多くなる頃合いじゃな」
センガは持参した「必須知人」と書かれた徳利から、フートの杯に酒を注ぐ。
「センガさんにそう言われると、何だか妙な気分です。とても百を過ぎているとは思えませんねえ。実に羨ましい」
「はっはっは、門下生共には『死神に見放された』とか言われとるよ。門下生と言えば、ここに下宿しとるリコルドは、お前さん達が引っ越すとなると、寮に迎え入れてやらなけりゃならんのう」
「彼がいるので家は非常に助かってます。色々と手伝ってくれますし。老夫婦だけだと、何かと難しい事もありますから」
「ガラは悪いが心根の優しい男じゃ。まあ、寮にいつでも受け入れる準備は出来ておるから、あやつには何も気を遣う必要はない。あくまでも自分達がどうしたいかを良く考えた上で、結論を出せば良い」
ところがそれから数日後、リコルドは道場をやめて故郷へ戻ると言い出した。
「老夫婦に気兼ねしとるのか? 寮へはいつだって入れるぞ」
センガの問いに、リコルドは、
「いや、そんなんじゃねえ。ただ、同居云々の話を聞いたら、俺の両親も結構な歳だと気付いただけだ」
「なるほど。まあそれでも、ワシより四十歳は年下じゃろうがの」
「じいさんは人類の範疇に入らねえよ。一緒にしないでくれ」
「言いたい事は分かるが、もっとオブラートに包まんかい」
「じゃあ、妖怪変化」
「オブラートを苦くしてどうする」
そもそも最近の若者は、オブラートに包んで苦い粉薬を飲む機会がほとんど無い。




