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ギィ青年の構えが変わった。
何かを押し止めるとも掴むともとれる様な形で、両手を軽く前に出し、膝を軽く曲げ、両足を少し前後に開いて立っている。
リコルドが軽く跳ねながらギィの回りを動く度に、ギィは機械仕掛けの人形の様に、上体を崩さず相手の方に向きを変えていく。
リコルドが相手の顔面めがけて放つ右の拳を、ギィはしゃがんでかわすと同時に、相手の左足首を内側から蹴った。
派手に引っくり返るリコルド。ギィは深追いせず、立ち上がって、少し離れた所で構え直す。
リコルドはすぐに起き上がり、拳を構えてギィに近付いて行く。ギィは構えたまま微動だにしない。
再び右の拳を放つ、と見せかけて、右の回し蹴りを放つリコルド。ギィは素早く前に踏み込んで、その蹴り足の膝から先を両手で受け止めて外側へ捻り、リコルドを床に勢い良く転がした。
ここでもギィは深追いせず、リコルドが忌々しそうに立ちあがるのを、少し離れた所から黙って眺めている。
「トドメを刺すまでもないってか。あぁ?」
リコルドがそう言って拳を構えると、
「それを言うなら、さっきの打ち合いの時、リコルドさんだってトドメを刺しに来なかったでしょう」
ギィが反論する。
「ああ、アレか。面白い趣向だったんで、つい遊んじまったからな。だが、最初に言ったろう。遠慮はいらねえ、と」
「では」
そう言った次の瞬間、ギィが真っ向から飛び込んで来る。その顔面を狙って右の拳を放つリコルド。ギィはそれを左手で払い落とすと同時に、右の掌で相手のあごを強打する。
よろめいて数歩後退したリコルドの上体に、さらに勢い良く肩からぶつかって行くギィ。
仰向けに引っくり返るリコルドの上に跨って、右の拳を相手の顔面に素早く繰り出し、当てる直前でピタリと止めた。
「これでトドメです」
ギィが淡々と言う。
「……参った」
リコルドが無念さをこらえつつそう言うと、ギィはリコルドから離れ、敢えて手を貸そうとはせず、相手が自分で立ち上がるのを待った。
再び、稽古場の真ん中に戻り、お互い一礼した後、
「七年間、俺達をよくも騙しやがったな。いつだったか、『元より皆さんの相手が出来るような腕ではないですから』、とか抜かしやがったろ?」
リコルドがギィに不機嫌そうに言う。
「よく覚えてますね」
「その実、腹ん中じゃ、俺達の事を見下して笑ってたって訳か」
ギィは少し困った顔になり、
「ああ言ったのは言葉の綾です。あの時、本当に思っていたのは、『皆さんの相手が出来るかどうか、それは実際にやってみないと分からない』、です。今の試合にしたって同じです」
その返答に、リコルドは思わず吹き出した。
「この優等生が」
二人が歩み寄って握手をすると、他の門下生達が拍手を贈った。
と、その時、センガ老人がギィに声を掛ける。
「おーい、ギィ。試合の直後で悪いが、この熊、じゃなくてレットが、お前とどうしても勝負したいそうじゃ。連続で悪いが、相手をしてやってくれんかの?」
センガの横で、場の空気を読まない熊が目を輝かせて待機していた。
僕も戦いたいクマ。




