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逃げ足道場 外伝 ~昔々、山奥の道場で~  作者: 真宵 駆
◆第一章◆ 仙人の眠る場所

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◆57◆

「入門したもののヴォーンに放置され、ホームレス同然の姿でいる門下生達を見て、少し哀れと思ったのもあるし、人里離れた閑静な山奥で、隠居所に使える場所があるといい、と思ったのもある」


 テーブルに片肘を突いて頭を支え、ヴァルゴに話しているというより、好き勝手に独り言を呟いている様な状態で、センガ老人は話を続けた。


「じゃが、道場を建てた一番の理由は、ワシが元々道場をやっておったからじゃろうな。職業病と言う奴じゃ。仙人修行をするつもりが、気が付いたら道場経営をやっておった。やはり、虎の縞は洗っても落ちんもんじゃのう」


 まぶたが少しずつ重くなって来た様子で、


「実家の道場は時代と共に居心地が悪くなって来たが、ここは快適そのものじゃ。あそこにいると、ワシは不世出の達人とか無批判に崇められ、薄気味が悪くて敵わん。ああいう環境は人間を駄目にする。その点、ここならワシはただの酔っ払いジジイじゃ。何かおかしな事をすれば門下生共が遠慮なく、『しょうがねえな、このじいさんは』と、呆れた様に言ってくれる」


 両目を閉じ、


「期せずして、遠い異国に理想の道場が出来てしまった。ここはワシにとっての桃源郷じゃよ」


 そのまま少し黙りこんでいたが、ゆっくりと前のめりになり、


「ワシが、眠る、場所は、ここじゃ」


 とうとうテーブルに突っ伏して、いびきをかき始めた。


 そこへ、タイミングを見計らった様にギィ青年がやって来る。慣れた手つきで、ひょい、と寝ているセンガを背負い、ヴァルゴに向かって、


「すみませんが、この老人を部屋に運んで来ますので、しばらくそのままでお待ち下さい。その後で、ヴァルゴさんをお部屋にご案内させて頂きます」

 

 良く働く曾孫だった。


 センガが旅の連れにギィを選んだのも、実はその理由の方が大きいのかも知れない。


 ヴァルゴは、これまでの良い話を台無しにする仮説の可能性を冷静に吟味していた。

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