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「『もうやる事もないし、ちょいと仙人にでもなって来る』、そう言ってワシは故郷の道場を飛び出した。ギィを連れてな」
酔っ払ったセンガ老人が、嘘とも本当ともつかない話を、ヴァルゴに語り出した。
「知っての通り、ギィはワシらの流派の次期総帥候補じゃ。今はギィの親父、つまりワシの孫が総帥をやっておる。ギィを連れて行くに当たっては、あまり乗り気ではなかったかも知れんが、一族の長老格であるワシには誰も逆らえん。『次期当主を、ワシ自ら鍛え直してやる』と、武芸者っぽい大義名分も付けた」
センガは徳利から自分の湯呑茶碗に酒を注ぎ、
「早い話が、思いっきりわがままを通した結果、この国でこうしていると言う訳じゃ」
ぐっと飲み干して、満足げに笑う。
「ギィは、小さい頃から次期当主として厳しく育てられておった。そしてそれに応えるだけの素質も才能もあった。ならば何の問題も無い? いやいや」
センガは、ヴァルゴの方に徳利を向け、ヴァルゴは湯呑茶碗を空にしてから、それを受けた。
「ワシには、一族でよってたかってギィを壊している様にしか見えんかった。いっそ、『こんな事やってられっか』とグレる位の性根があれば良かったのじゃが、あやつはワシの血が薄まったのか、どうにも真面目過ぎてのう。親を筆頭とする周囲の者達によって、自分達には出来なかった理想が、どんどんあの子に押し付けられておった」
センガは、また自分の湯呑茶碗に酒を注ぎ、
「『なぜ、自分は理想通り出来なかったのか』を突きつめて考えれば、『理想は理想であって、物事は上手く行かなくて当たり前なのだ』と言う真理に気付くものじゃ。ところが諦めの悪い奴は『自分は失敗したが、この経験を活かせば、次は理想通りに上手く行く』と考える。いや、失敗を活かして理想に向かうのは決して悪くない」
注いだ酒をあおり、大きく息を吐いて、
「問題はその理想を自分がするのではなく、他人にやらせようとする事じゃ」
湯呑茶碗を、テーブルに叩きつける様に置く。
ちょうどその時、ギィが厨房からフカヒレのスープ二皿を持ってやって来て、
「すみません、ヴァルゴさん。この老人は酔っ払うと意味不明な事を口走るので、適当に聞き流して下さい。ここの門下生達は皆そうしてます」
そう言って、前の料理の皿を下げて戻って行った。
その背中を見送りながらセンガは、
「あんな恩知らずは、連れて来ない方が良かったかのう」
苦笑交じりにそう言った。




