↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
逃げ足道場 外伝 ~昔々、山奥の道場で~  作者: 真宵 駆
◆第一章◆ 仙人の眠る場所

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
56/634

◆55◆

「『もうやる事もないし、ちょいと仙人にでもなって来る』、そう言ってワシは故郷の道場を飛び出した。ギィを連れてな」


 酔っ払ったセンガ老人が、嘘とも本当ともつかない話を、ヴァルゴに語り出した。


「知っての通り、ギィはワシらの流派の次期総帥候補じゃ。今はギィの親父、つまりワシの孫が総帥をやっておる。ギィを連れて行くに当たっては、あまり乗り気ではなかったかも知れんが、一族の長老格であるワシには誰も逆らえん。『次期当主を、ワシ自ら鍛え直してやる』と、武芸者っぽい大義名分も付けた」


 センガは徳利から自分の湯呑茶碗に酒を注ぎ、


「早い話が、思いっきりわがままを通した結果、この国でこうしていると言う訳じゃ」


 ぐっと飲み干して、満足げに笑う。


「ギィは、小さい頃から次期当主として厳しく育てられておった。そしてそれに応えるだけの素質も才能もあった。ならば何の問題も無い? いやいや」


 センガは、ヴァルゴの方に徳利を向け、ヴァルゴは湯呑茶碗を空にしてから、それを受けた。


「ワシには、一族でよってたかってギィを壊している様にしか見えんかった。いっそ、『こんな事やってられっか』とグレる位の性根があれば良かったのじゃが、あやつはワシの血が薄まったのか、どうにも真面目過ぎてのう。親を筆頭とする周囲の者達によって、自分達には出来なかった理想が、どんどんあの子に押し付けられておった」


 センガは、また自分の湯呑茶碗に酒を注ぎ、


「『なぜ、自分は理想通り出来なかったのか』を突きつめて考えれば、『理想は理想であって、物事は上手く行かなくて当たり前なのだ』と言う真理に気付くものじゃ。ところが諦めの悪い奴は『自分は失敗したが、この経験を活かせば、次は理想通りに上手く行く』と考える。いや、失敗を活かして理想に向かうのは決して悪くない」


 注いだ酒をあおり、大きく息を吐いて、


「問題はその理想を自分がするのではなく、他人にやらせようとする事じゃ」


 湯呑茶碗を、テーブルに叩きつける様に置く。


 ちょうどその時、ギィが厨房からフカヒレのスープ二皿を持ってやって来て、


「すみません、ヴァルゴさん。この老人は酔っ払うと意味不明な事を口走るので、適当に聞き流して下さい。ここの門下生達は皆そうしてます」


 そう言って、前の料理の皿を下げて戻って行った。


 その背中を見送りながらセンガは、


「あんな恩知らずは、連れて来ない方が良かったかのう」


 苦笑交じりにそう言った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。